【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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あけましておめでとうございます。皆さんはどうお過ごしでしょうか?
自分はですねー、作中の提督のところの地の文のところに書いてあるので分かりますよ?元旦は忙しいんです。

では、


特別編  お正月

俺が起きたのは朝日が昇る前だった。

食堂に居るのは分かってはいたが、見回してみるとほぼ全員が寝ている。昨日は結局ここで雑魚寝したのかよと内心で反省していると、鼻腔をくすぐるいい匂いがした。

出汁の匂いだ。美味しそうな匂い。

俺はむくりと起き上がり、雑魚寝する艦娘たちを躱しながら食堂の厨房まで来た。そこでは、間宮がせっせと用意をしている。お重が大量に並び、今は間宮は鍋の面倒を見ていた。

 

「おはよう、間宮。」

 

「あら、おはようございます。提督。」

 

「悪いな......。皆ここで雑魚寝しちゃって。」

 

「いえ。斯く言う私も寝てましたからね。」

 

そう言うが間宮は目線を鍋から離さなかった。きっとそれは火加減を見ているのだろう。

 

「匂い的には......お雑煮ってところか?」

 

「そうですね。」

 

俺はいつも注文する窓口として使っているところから身を乗り出して見た。俺の予想は的中で、鍋の近くには餅が山積みになっている。アレを全部入れると言うのだ。

 

「はははっ......皆を起こしてくる。」

 

「お願いします。」

 

俺は窓口から身体を引っ込めると、辺りを見渡した。そうするとぽつぽつと起き始めていて、皆『あけましておめでとうございます』と言ってすぐに『少し自室に戻ります!』と言って部屋に走って行ってしまうものだから、手に持っていたアルミのトレーとスプーンをどう使うか迷っていると、一人だけ何時まで経っても起きない艦娘が居た。

加古だ。最初は古鷹に身体を揺すられていたのに、自室だと思い込んでいたのだろう。全然起きる気配が無いので、諦めて古鷹は自分の用意で戻ってしまっていた。俺は全員が戻ってくるのを待ち続け、最後まで起きなかった加古の頭上に立ち、トレーとスプーンをカンカンカンカンと打ち鳴らした。甲高い音が食堂に響き、俺は叫んだ。

 

「敵襲ぅーー!!敵襲だぁーー!!」

 

そんな俺を見て古鷹も参戦した。

 

「重巡はこれより迎撃に向かいますっ!!ついて来てくださいっ!」

 

それを見た他の艦娘も乗って叫び始めた。

 

「敵艦載機侵入っ!!」

 

「敵艦隊目視で確認っ!!」

 

「艦砲射撃を確認っ!!」

 

そう叫ぶ艦娘たちはどうやらレベリングの時に起きてこなかった加古に対しての仕返しのつもりらしい。赤城がすっごい悪い顔で叫んでる。

 

「機動部隊出ますっ!加賀さんっ!」

 

そういきなり言われた加賀はかなり動揺しているが、すぐに意味が判ったらしく切羽詰まった風に返事をした。

 

「分かりました。二航戦、五航戦は赤城さんの傘下にっ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

それを合図に何も叫ばなかった駆逐艦や軽巡の艦娘はドタドタと畳を走り出し、遂には長門も参戦してきた。

 

「古参組で連合艦隊を結成するっ!行くぞっ!!」

 

その瞬間、加古は飛び上がった。

 

「えっ!?何っ!?......あっ。」

 

そう言って起き上がった加古は俺のにんまりした表情を見て察した様だ。すぐに辺りを見渡しはじめ、へたりと座り込んでしまった。

 

「あっ、焦ったー!本当に来てるのかと思ったじゃん!!」

 

そう言ってくる加古に俺は言った。

 

「いやー、いつも起きない加古が悪いだろう?お灸を据えさせてもらった。」

 

そう言った俺の後ろで加古がレベリングでお世話になった古参の艦娘はピースをしている。他の艦娘たちもニヤニヤしている。

 

「新年早々酷いよぉ~!提督ぅ~。」

 

そう言った加古に反して、俺を含んだ皆が笑い出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

加古は大慌てで自室に戻って用意を済ませに行ったのでそれを待ち、皆でおせちを食べた。特段何があるわけでもないが、おせちだ。

皆でお重をつっつき、食べていく。

ふとそんな感じが懐かしく思え、辺りを俺は見渡した。皆笑顔で食べ、話し、楽しんでいた。そんな時、俺はある事を思い出していた。家だ。

俺の元いた世界での家の様子。両親と兄弟で食べるおせち。皆、昆布巻きが嫌いでウチのおせちには入ってなかったり、お雑煮は今俺の手の中にあるお椀みたいに色々な具材が入っている訳でない。餅菜と餅のシンプルなお雑煮。初詣に車で行って、昼に帰ってきて、余ったおせちを食べる。そしたら親戚が集まり、夜は親戚と騒ぎながらまたおせちを食べる。おせち食ってばっかで、正月が終わると友達と会って遊ぶ。そんな事を思い出していた。

脳裏に浮かぶ両親の顔、兄弟の顔、親戚の顔、友達の顔......。

 

「提督?」

 

俺は誰かに呼ばれた気がしてそっちを向くと、赤城がいた。

 

「何だ?」

 

そう返事を返すと、赤城が言った。

 

「どうして、どうして提督は泣いているのですか?」

 

俺は手の甲で目のあたりを拭うと、手の甲が湿った。俺は泣いている様だ。

 

「はははっ......何でもない。」

 

俺はそう言ってお雑煮を食べるが、どうしても視界がおぼつかない。

 

「何でもないんだ......。」

 

俺はそう赤城に言い続けて、お雑煮を食べた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

おせちを食べたら特段何かをする訳でもなく、艦娘たちは早々に開かれる酒保に言って羽子板を買って外で遊んだり、自室に戻って行ったりした。俺もその後者組で、私室に戻ってきていた。時計を見ると午前8時半。この時間、いつもなら初詣に出かけている。町中を走る車の中からいつもと風変わりしている街を眺めながら大きな神社に行き、お参りをする。

俺は何も言う訳でもなく布団に入り、窓から差し込む光を見た。

 

「『帰れない』か......。」

 

俺はここに来た時の事を思い出していた。

あの時長門に言われた事だ。

 

『ここで帰りたいというなら、帰る事が出来る。その代り、一生提督の居た世界には帰れないぞっ。深海棲艦との戦争の最中、死んでしまうかもしれない......。』

 

あの時帰っていたら、俺は今も変わらない生活をしていた筈だ。だが、俺はこの世界に残って戦うことを決心した。

この世界が俺の居た世界と何らかの干渉ができると考え、それを監視するつもりで残った。だがそんな必要はなかった。俺がこの世界に留まる事を決めたことで、世界のバランスが崩れた。『イレギュラー』だ。これによってこの世界の『艦隊これくしょん』としての世界は狂い始めたのかもしれない。

 

「今さら『帰りたい』なんて言えない......。」

 

俺はそう小声で言った。自分に言い聞かせるように、自分を『帰りたい』衝動から引き離すために。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

提督の様子がおかしかったので様子を見に来ました。食堂でいきなり泣き始めた提督は私がどうしたのかと聞いても『何でもない』の一点張りでしたが、絶対何かあります。

あんな提督はこれまで見たことが無いんです。これまで5ヵ月くらい近くで見てきましたが、提督は何事もうろたえずにこなしてきました。本当に文民だったのか、本当に戦争を知らない世界から来たのかと疑わされる程です。ですけど、私の目の間で提督が小さくなって葛藤している姿があるんです。私が入ってきたのにも気付かずに布団に丸まり、『帰れないか......。』とか、『今更帰りたいなんて言えない......。』と言っているんです。

本当は年相応で、18歳なんでしょう。これまで90人近い艦娘と、鎮守府で働く門兵さんや事務棟の方々、酒保の方々を引っ張ってきた人ですが、こんなにも弱い姿を見せています。もしかしたら何時も夜はこんな風になっているんでしょうか?

私たちの希望を叶えて残った戦乱の世界で提督はその代償をこうやって払っているのでしょうか?家族や親戚、友人と引き離されて知らない世界で軍隊を指揮し、敵を殺せと......。

私は提督が今見せている姿を見る事を私たちは『見ては許されない』と感じました。こんな風にしたのは紛れもなく私たち、艦娘なのだと。

 

きっと提督も提督のいらした世界では若者に交じり、将来を期待され、私たちが知らない様な高度な事を学んでいたに違いありません。

私は秘書艦として提督の近くに居た時、提督の机に乗っていた本に興味を惹かれて見たことがありました。表紙には『数学Ⅲ』と書かれてあり、開いてみるとよく分からない数字の帯があり、私には何が書いてあるのか理解できませんでした。それを見ていた私に提督は『それはこの前テレビを買ったついでに買ってきた本だ。まぁ、本とは言わずに参考書って言うのが正しいんだけどな。』と仰ってました。

私は人間から見て20歳だと言われましたが、そんな私でさえも理解できない本を提督は見ていたんです。何に使うのか提督に訪ねても『将来、使うんだ。』とだけしか答えてくれませんでした。ですけどその後に提督はこう付け足したのです。『だが、もう必要ない。』と。

 

提督を呼び出した長門さんや、提督の危険をいち早く察知して姿を現す金剛さんがこの提督の姿に気付いているとは思いません。そして私が考え着いたのは今、一番提督にとって害であるのは紛れもない『私たち』なのだと言う事でした。

私はその場を静かに離れると、廊下を走って自分の部屋に戻りました。途中、加賀さんから『どうしたの赤城さん。そんなに走って。』と言われましたが、立ち止って話す気に等なれませんでしたので無視して、横を走り抜けました。

 

今、私は提督と同じように布団に入って丸まっています。私たちが求めたものは、本当は求めてはいけないものだったのだと気付き、罪悪感に押し潰されそうになっています。

ガタガタと身体が震えだし、脳裏に訊いた事ない声が木霊しています。奪った、ウバッタ、返して、カエシテ......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はこんなことをしていても仕方がないと思い、布団から這い出た。何故ならあの時、自分で決めたのだ。この世界に残る事を。こうなる事はあの時、想像できたはずだ。なのに俺はこの世界に残った。だったら俺に課せられた『責任』がある。この世界に残ったのならその責任を全うしなければならないのだ。たぶん......。

俺は這いだして立ち上がると、開けた覚えのない扉が開いていた。誰か来たのだろうか、それとも俺が閉め忘れたのか......。

 

「まぁ、独り言はそんな言ってないはずだからいいか。」

 

そう言って俺は執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

初詣がしたいと思い立ったが、鎮守府を出ても何処に神社があるかなんて知らないので俺は適当に鎮守府の中を歩き回った。

一応、ここに来た時とは違って敷地内の地図は覚えている。何処に何があるのかもだ。

適当に歩き回り、グラウンドで羽根打ちをしている吹雪たちを眺め、埠頭で要塞砲や停泊している艤装を見たりして時間を潰した。

案外あてもなく歩き回るのも乙なもので、それまで見たことなかったものも見れた。例えば、本部棟に妖精がどうやって入ってきているか、だ。主に工廠からの出入りなんかが多いが、どうやら俺たちが普段使っている入口の横に妖精専用の入り口があるようだ。とても小さい入口だ。

 

「寒かったー。」

 

そう言って執務室に戻ってきて、上着を掛けて座ると、誰も居ない閑散とした執務室を見渡した。普段なら秘書艦が居るが、今日はいない。今日は休みなのだ。だからだが、誰も居ないとなると、本当に寂しい。一応、グラウンドから吹雪たちの騒ぎ声が聞こえてくるが静かだ。

俺は思い立ったかのように立ち上がり、食堂に向かった。あそこならテレビがある。そこで正月特番でも見よう。そう思い立ったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局夕飯になるまでそこで正月特番を見ていたが、夕飯になる3時間前には結構な数の艦娘が話を聞きつけ見に来ていた。

何時もの様に離れた席から俺は眺めて、小型艦は前列で座って、大型艦は後列で立ってみていた。3時間も立ちっぱなしで疲れないかと聞くと、今度は畳が敷いてあるからと言って全員がその場で座り込んだ。この光景は何とも言えない、alwa......言いかけたが、そんな感じだ。

 

 




今回は普段とは少し違う感じを出してみました。それと、いきなり本編っぽいところがあります。そちらは本編に関係があるので、要チェックですね。特別編だけ見ずに本編見てる人は途中で置いてかれるかもしれませんね。重要なところですから。

それと、最近評価に低評価つけていただくのはとても見て反省になるのですが、何処が悪いとか教えていただけると嬉しいです。自分の作風を逸脱しない程度に直しますので。
理不尽に2とか3つけられても自分はなんだか不条理な気分になるだけですので......。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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