【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第九十九話  提督の苦悩⑨

 

日が明けた朝、天見を連れて俺は滑走路に来ていた。

今日は、天見にF-15J改二とF-2改の模擬戦を見せる為に来た。

 

「あれが新型ですか?......あんまり変わりませんね。それにコクピットブロックが何故黒塗り何でしょうか?」

 

痛いところを天見は指摘してきた。あそこには搭乗する妖精がいるのだが、見せる訳にはいかないからだ。これは俺以外の人間なら誰でもそうで、話した途端に妖精は俺に黒塗りにする要請をしてきたのだ。

 

「それはまぁ、ここにある機体すべてに言えることだから気にしないでくれ。」

 

そう言って俺は飛び立とうとするF-15J改二とF-2改を見た。ちなみに2機小隊編成で、仮想敵は零戦21型だ。こっちは4機小隊だ。

すると轟音を立ててF-15J改二とF-2改は飛び立っていった。

 

「あっ、言い忘れていたがあの長ったらしい名前を呼ぶ代わりに愛称がついたんだったな。」

 

「言ってましたね。F-15J改二は『Ambush Eagle』でF-2改は......何でしたっけ?」

 

「『蒼梟(セイキョウ)』だ。」

 

俺はそう言ってこの様に呼ばれるようになった経緯を反芻する。

妖精たちと今日の模擬戦について話していると、ある搭乗妖精が言ったのだ。『長いんで愛称とかないんですかね?』と。その時、話している内容は全て打ち切られて皆で考えだしてしまったのだ。

F-15J改二はすぐに出たのだが、F-2改の方が出なかった。

そうすると近くを通った疾風の妖精が言ったのだ。

『F-2改が近づいたと分かった瞬間には既に時が遅いじゃないですか?なら梟と、サンプルとして搬入されたF-2が青色迷彩だったので青に梟、『蒼梟』なんてどうでしょうか?』と言ったのだ。結局保留にしたが、最後まで出なかったのでそういう風に呼ぶようになったのだ。

 

「仮想敵部隊はもう飛んでますけど、レシプロ機の相手でいいんですか?」

 

そう訊いてきた天見を尻目に俺はニヤけた。何故なら昨日、新瑞から受け取った書類の中に面白いものが紛れていたのだ。

 

「大丈夫だ。」

 

俺は空を仰いで飛び立ったアンブッシュイーグルを見上げた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

仮想敵との戦闘はすぐに終わった。接敵するやいなや仮想敵が2機撃墜判定が出て、そのあとに蒼梟が各個撃破した。何とも言えない速さだった。

 

「流石ですね。というかミサイルは積んでないんですか?」

 

「あぁ。こちらではまだ用意できないから機関砲だけだ。」

 

そう言って俺は空から目を離さない。深緑と白い腹を見せて飛ぶアンブッシュイーグルと蒼梟は主機の出力を抑えて巡航を始めた。そうすると、遠くから別のエンジン音が聞こえてきて、鎮守府の上空を2機小隊のF-15Jが飛びぬけて行った。

それを見た天見は驚き、遠くて見えないのに天見はその2機の所属を言った。

 

「航空教導団所属機じゃないですか!」

 

「新瑞さんがアグレッサーにあれを頼んだらしい。」

 

「はぁ?!あんなんに勝てる訳ないですよ!!!」

 

そう言って天見は俺に向かって言った。

 

「航空教導団は深海棲艦の領海侵入時に迎撃に出るエース中のエースですよ?!」

 

「どういう意味だ?」

 

俺がそう訊くと天見は説明してくれた。

 

「鎮守府が無い地方で深海棲艦を探知した際に迎撃に行く、艦娘以外で唯一戦っている部隊です。」

 

「地方って?」

 

「主に北海道ですかね?まだ制圧が完了してないので度々深海棲艦の偵察機やら攻撃機やらが飛んでくるんですよ。」

 

そう言われて俺は衝撃を受けた。確かに北方海域は制圧していない。それは置いておいて、深海棲艦が本土を偵察・攻撃に来ているだなんてここだけじゃなかったのだ。

 

「そうか。まぁいい。」

 

そう言って俺は平静を装い、始まろうとしている航空戦を見た。

アンブッシュイーグルは離脱していき、蒼梟が相手のF-15Jと混じった。その前にF-15Jはミサイルを撃ったようだが、蒼梟は全て交わした。

交差すると蒼梟は縦ロールし、回避行動をするF-15Jの斜め上を取った。この位置取りは有利だ。斜め降下すれば相手の被弾面積が広くなり、狙いやすくなる。だが相手も手練れだ。そんなこと分かっていたかのように急降下を始め、逃げ出した。それを追いかける蒼梟はエンジンの出力を上げたのか、蒼い炎を大きく出しながら飛ぶ。

すぐに追いついた蒼梟にF-151Jは急旋回し、格闘戦に持ち込んだ。だが、蒼梟を甘く見ていた様だ。蒼梟はF-15Jよりも遥かに狭い旋回半径でF-15Jの背後を取り、機関砲を撃った。

 

「えっ?航空教導団がっ......ほんの数分で......。」

 

天見が口をポカーンと開けているのを尻目に、帰還してきたアンブッシュイーグルと蒼梟は着陸して、格納庫にそのまま入って行った。

 

「司令。」

 

「なんだ?」

 

俺は返事を返すと、天見の方を見た。天見は酷く顔を青くしている。

 

「私にあんな化け物の教導をしろと言うんですか?」

 

「あぁ。見てわかったと思うが、ミサイルを運用しない戦術しかとれない。格闘戦術を利用したジェット戦闘機による迎撃任務をこなすにあたって、新瑞さんが天見少尉をここに連れてきた。」

 

「それは分かりますが、私は何を教えればいいんでしょうか?」

 

そう訊かれて俺は悩んだ。確かに、何を教えればいいんだろうか。それに相手をどうするかだ。妖精はわざわざ自らの姿を隠したと言うのに、どうやって教えるのか。

そう考えると、この天見は何のためにここに来たのか分からなくなる。

ただ、アンブッシュイーグルと蒼梟はミサイルを積んでいない。もし、ミサイルを積むことになった時に運用方法だけになるが......。

 

「ミサイルが配備された時、教導を頼む。」

 

「了解しましたっ!」

 

俺は天見と共に滑走路から離れて行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧は晴れ始めたのはリンガ泊地に戻ってきてから6時間程経った頃でした。赤城さんらが艦載機を偵察に出していた様で、霧が晴れてすぐに行動が出来ました。

今は欠けた先頭を私たち、水上打撃部隊が任を負っています。私は中央後方。旗艦という理由でこの配置です。

それと先ほどから機動部隊から艦載機が行ったり来たりしているのですが、どうやら周辺偵察の様です。霧を見つけたらすぐに知らせれるようにと。

 

「針路そのまま。」

 

私は航海妖精さんにそう言って前方に見えて来るであろうリランカ島を待った。

あそこに到着できればこの作戦は終了です。私たちが護衛任務が終了して撤退すると、特別任務がリンガ泊地に送られるそうですが、それはどういう意味なのか全く分かりません。

それとリランカ島には度々補給物資の運搬を大本営から命令されるそうですが、それは遠征艦隊が担う様なので私としては遠征艦隊の無事を祈る事しか出来ません。

 

「リランカ島が見えます。」

 

そう観測妖精さんから連絡が入り、私は水平線の彼方を見つめました。少しずつ見えてくる島影と、黒い斑点。リランカ島です。黒い斑点は先に到着していた第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部でしょうか。

岸に揚陸艦が接岸し、物資を下ろし終わり次第私たちは帰還です。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

リランカ島に揚陸艦が接岸すると、私は先に到着していた艦隊を見ました。

彼女たちの艤装には何らかの損傷を受けたような跡はないです。リンガ泊地では一度艦隊の補給と修理がありましたからね。ここまでの道中に戦闘をしなければ損傷をする筈がないんです。それはともかく、彼女たちが遭遇戦をしていないと分かっただけでも良かったです。

 

「霧島より神通さん。」

 

『はい。』

 

私は投錨すると通信妖精さんに神通さんに繋げてもらいました。

 

「霧の中での出来事、教えていただけませんか?」

 

そう私が訊くと、神通さんは話してくれました。私たちと通信が取れなくなった時の事、霧の中で何か見てないか、広範囲に索敵陣が敷かれていたのに、他の艦娘とは連絡を取り合えたのかという事。

聞いている限りでは、私たちと起きていた事は変わりませんでした。広範囲に広がっていたので霧を出るまでは肉眼では確認できなかったと言ってましたが、通信は僚艦とは取れたということです。霧の中では何も見ていないと、これも私たちと同じです。

 

「取りあえず、無事でよかったです。荷下ろしを見届けたら帰路に着きます。」

 

『了解しました。』

 

私はそう言って通信を終わらせると通信妖精さんに受話器を渡して艦橋にある椅子に座りました。

ここまでくるのに溜め込んだ疲労が来たんです。精神面と体力面です。これまで高速艦隊として結成される艦隊は6隻だったのに対し、今回は24隻と4隻でした。こんな大艦隊の指揮を任せられ、どう導いていくか、私はこれまでにない大きな試練を同時に受けていたんです。

途中、ショートカットのつもりで霧に入ったのは大きな失敗で、作戦を遅らせてしまいましたが、裏を返せば『イレギュラー』を新たに発見することが出来ました。今回の作戦で私たちは本来の報酬以外にも大きなものを手に入れたんです。深海棲艦の高高度迎撃機の存在と謎の霧、これは間違いなくイレギュラーです。これを今発見できたことはとても良かったことです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

空の雲の上、下に白い絨毯の敷かれた景色を黒い斑点が列を成していた。

それは轟轟と音を立て、目的の為に動いている集団。誰に言われた訳でもない、ただ、目的の為に動いている。

雲の上に来る前、大きく移動する集団を見つけていた。これはチャンスだと言わんばかりに我々は雲の上に上がってきたのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今、俺の目の前に珍しい集団が来ていた。

 

「こんにちは、提督。」

 

「こんにちはだ、提督。」

 

「ごきげんよう、提督。」

 

「こんにちは、司令官さん。」

 

妙高型重巡姉妹だ。何故来ているのかというと、那智が言い出したことらしい。

何でも、俺の重巡のレベリング順序に不満があるとうのだ。

 

「......だから、私たちを起用すればより戦線を押し返せることがだな......。」

 

そう力説する那智だが、確かに妙高型を改二にまですればかなり強い。戦艦並みだ。それに戦艦よりも高速なのでより迅速な作戦行動ができる。

 

「分かった、分かったから!というか那智、今は作戦展開中だって忘れてないか?」

 

「む?リランカ島へ揚陸艦を送り届けたから帰還すると聞いたが?」

 

「ここまで無事に帰ってくるのが任務だっ!」

 

俺はそう言って頭を掻きながら言った。

 

「だが妙高型の優先度を上げるつもりはないぞ?」

 

「何でっ?!」

 

どうやら足柄も早クレベリンして欲しい組らしい。ちなみに妙高と羽黒は何時でもいいと言っている。

 

「現状侵攻作戦には大型の高雄型で十分間に合ってるし、今は遠征艦隊で頑張ってる軽巡の為に別の重巡を育成しなければいけないからな。」

 

そう言って俺が書類を置くと、少し不機嫌そうに那智は言った。

 

「衣笠か?」

 

「そうだな。」

 

俺は那智が名前を挙げてすぐに返事をした。

 

「その後はどうだ?」

 

そう言って胸を張って言う那智を妙高は一蹴した。

 

「それは無いですね。重巡でしたら次は最上型になりますから。」

 

そう妙高は苦笑いして言った。

 

「何よっ!!繰り上げてくれてもいいじゃない!!」

 

そう足柄が言ってくるが今度は羽黒が一蹴した。

 

「それも無いです。最上型と言えば航空巡洋艦に改装されることで有名ですから......。」

 

「えぇー......。」

 

俺はこの様子を見ていた思った。

 

(俺に言いに来なくても結局こんなんなんだろうな。)

 

少し妙高型姉妹のやり取りを見届けて丁度いいところで水を差した。

 

「まぁ、海域の解放が進めば重巡は重宝するし、近いうちにレベリング対象にはなるからそれで勘弁してくれ。」

 

俺はそう言って手を合わせた。

そんな様子を見てか、那智と足柄は納得してくれた。最後にお騒がせしたとだけ言って執務室を出て行ったが、それを見送ったフェルトの横に居たプリンツは俺を睨んだ。

 

「なっ、何だよ。」

 

「提督ぅ~!私はっ?!」

 

俺は取りあえず苦笑いで返し、適当に誤魔化した。

 





ジェット機に愛称を付けましたが結構無理やりでしたね(汗)
違和感があればお知らせください。

結局、任務は終わりましたが色々と謎を残したままですね。ですけどまだまだ続けれるので次回からもお楽しみに。
ちなみに天見は今後出る機会がほとんどありませんwww

ご意見ご感想お待ちしてます。

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