【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第九十二話  提督の苦悩②

雷撃作戦が開始して1日目。

何時もと変わらない様子で俺は起き上がったが、部屋の様子は変わっていた。

 

「じー。」

 

「じー。」

 

「......。」

 

「......。」

 

「......(船漕いでる)。」

 

「じー。」

 

「......(船漕いでる)。」

 

番犬艦隊の連中が俺のベッドを囲んで見ていた。

その様子を見た瞬間、俺は毛布を頭まで被せた。

怖すぎる。起きた瞬間、見下ろされていると何かのホラー映画かと思ったのだ。

 

「提督、起きたのなら出てきて欲しいわ。」

 

そう言ってビスマルクが俺の身体を揺さぶった。

 

「いや......起きた瞬間、7人に見下ろされていたら怖いから!」

 

そう言うと俺の身体を揺らす手がもう1人分増えた。

 

「アトミラール。朝だぞ。」

 

今度はフェルトの様だ。

 

「いや今言ったよな?」

 

「ビスマルクは怖かったかもしれないが、私はそうじゃないだろう?」

 

そう言ったフェルトにビスマルクがツッコみを入れた様だ。

 

「ツェッペリンの顔が怖いのよ!だから提督が怖がったのはツェッペリンね!」

 

「それはないな。何故なら私は今、膝枕をしているからな。」

 

デデーンという効果音が聞こえたような気がするが俺は気にしないようにした。

いまフェルトは膝枕していると言ったな。そう思い頭の位置をずらしてみる。そうすると、一定の距離動いた頭が落ちた。どうやら段差に乗っていた様だ。そしてさっきまでの段差は暖かかった。

 

「あ。アトミラール。良いのか?」

 

「良いのかじゃない。何時の間に俺はフェルトの膝に頭を乗せた?」

 

そう言って俺は毛布から頭を出した。視界には皆の顔が映る。ちなみにユーと朝潮は寝ている様だ。立ちながら寝るとか器用だ。

 

「どうだろうな......。起こさなくてはいけないと思ってここに来てからすぐだったか?」

 

「勝手に乗せるな。」

 

後頭部に残る感触で少し慌ててしまった。フェルトはそのままベッドから出た。

 

「提督ー!起きて!」

 

遂にプリンツもしびれを切らして毛布を引っ張ってきた。

 

「分かったから......。手離して。」

 

俺はそう言ってむくりと起き上がると、さっきまで視界に入らなかった執務室とつながる入り口を目に捉えた。そこには扉全開で押しながら覗いている艦娘たち。

 

「......。」

 

「どうしたの?」

 

そう訊いてきたビスマルクを無視して入り口で押し合っている集団に声を掛けた。

 

「何をしている。」

 

「あっ......いや......その......。来たらこんな風になってまして......。」

 

そう言ったのは飛鷹だった。

 

「そうか。」

 

俺はそう言ってビスマルクたちを追い出して、着替えると執務室に入った。

 

「それで、何故鎮守府に残っている艦娘全員がここに集合している?」

 

執務室には俺がいつもの机にたどり着けないくらいの艦娘で溢れていた。

 

「『近衛艦隊』も居ませんし、『親衛艦隊』の幹部たちもいませんから......。チャンスだと思って......。」

 

そう伊勢が言った。

 

「何のチャンス?」

 

そう言うと全員が口を揃えて言った。

 

「「「「「「「「「「提督と仲良くなるチャンス。」」」」」」」」」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はなんとか残留艦娘をなだめると、通信室に来ていた。

ここは時雨の願いである無線機の新調。というか、性能向上を図った時に鎮守府に設置された艦隊と俺とを繋ぐ設備だ。

 

「定時報告せよ。」

 

俺がそう言うとあっちから返信が入った。

 

「護衛艦隊、台湾海軍保有の泊地にて停泊中。」

 

通信妖精だと言って通信機に張り付いている妖精がそう言った。ちなみにこの通信室は地下シェルターにある地下司令部にある一角だ。

 

「妖精、旗艦に繋いでくれ。」

 

「はい。」

 

そう言って指示を出すと、妖精は俺に電話の受話器の様なものを手渡してきた。

 

「提督だ。」

 

『霧島です。司令、どうされました?』

 

そう訊かれて俺は現状を聞いた。

 

「現状を教えてくれ。それと鎮守府を出てからあった事。」

 

『多分そちらでも報告があったと思いますが、現在、台湾海軍が保有する泊地にて停泊中です。台湾までは深海棲艦との遭遇戦が1回ありましたが、爆撃中隊による海上絨毯爆撃によって殲滅。今のところ損害無しです。爆撃を行った爆撃中隊はそのまま鎮守府に引き返したので今日中にはつくと思います。』

 

「分かった。ありがとう。」

 

『はい。』

 

俺はそう言って受話器を耳から話すと通信妖精に言った。

 

「赤城に繋げれるか?」

 

「はい。」

 

やはり全艤装に換装したから繋がるようだ。すぐに受話器から返事があった。

 

『おはようございます、提督。』

 

「おはよう。」

 

『どうしたんですか?』

 

そう言った赤城に俺はビスマルクたちの事を言った。

 

「番犬艦隊など編成しなくても良かっただろう?どうして編成したんだ?」

 

『それは提督が心配だからです。私たち古参が鎮守府に居ない今、提督のいらっしゃる鎮守府を守れるのは番犬艦隊しかいませんよ。』

 

トーンを変えずに言った赤城に聞こえないように溜息を吐いた。

 

「それでも60人強も居るんだぞ?心配し過ぎだ。」

 

『そうでしょうか?提督の危険をいち早く察知できる金剛さんや鈴谷さんは作戦に参加してますし、適切な判断だと思いますが?』

 

「あぁもう、分かった。」

 

どうやら赤城は筋金入りの心配性らしい。

俺は話を変えた。

「それと、霧島から報告を受けた海上絨毯爆撃の事だが、爆弾を投下して帰路に付いた爆撃中隊は何個だ?」

 

『一個です。遭遇した深海棲艦が比較的弱い編成でしたので、この程度で済みました。』

 

「となると帰ってくるのは20機か.,.....。残ってるのは何機だ?」

 

『340機です。』

 

「分かった。気を抜くなよ。」

 

『ふふっ......分かってますよ。』

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝からバタバタしていた俺だが、結局はいつも通りだった。番犬艦隊が居る時は、番犬艦隊に秘書艦を任せて執務をこなし、昼前には暇になる。

ただ違うことは、鎮守府がとても静かだということだ。

と言いたかった。

 

「司令官っ!お茶会しましょ!!」

 

そう言って執務室の扉を思いっきり開けて入ってきたのは第六駆逐隊だ。これまで何度か執務室を訪れてはワーワーやり、秘書艦に追い出されていた彼女たちだが、今日も突撃してきた様だ。

 

「いいぞ。」

 

俺はいつものようにそう返事をして立ち上がるとだいたいこのタイミングで秘書艦が『提督は執務でお疲れなのでまた今度にして下さらない?』と誰もが言うのだ。それを渋々追い返されてきた彼女たちだが、今日の鎮守府の体勢はいつもと違う。今日こそはいけると思った様だ。

 

「そうか。なら私が準備をしよう。」

 

「私もご一緒していいですか?」

 

「私もー!」

 

「ボクもいいかな?」

 

「私も。」

 

「ユーも......。」

 

フェルトが立ち上がって準備に向かうと朝潮から全員が賛成の様だった。

 

「ビスマルクは?」

 

そう訊こうと思い執務室の中を見渡すと、既にビスマルクはソファーのところに座っていた。

 

「なっ、なによ。」

 

「......何でもない。」

 

「今の意味ありげな間は?」

 

「.............何でもない。」

 

俺はそういってソファーに座った。ちなみにビスマルクの反対側。そして続々とソファーに座っていった。

 

「皆は何を飲むのだ?」

 

そうフェルトが言うので各々飲みたいものを注文していく。

暁はミルクティー、響はストレート、雷もミルクティー、電はココアと言った。ビスマルクはブラック、プリンツはコーヒーだがミルクと砂糖、レーベとマックスもプリンツ同様、ユーもココアで俺はブラックを頼んだ。

 

「分かった。少し待っていてくれ。」

 

そう言って奥に行ってしまったフェルトを見送ると、暁たちは話を始めた。

 

「初めて成功したわね!」

 

「そうだね。いつも追い返されていたから。」

 

「フェルトさんは話が分かるわね!」

 

「やっとなのです!」

 

そう言い始め、それに興味を持ったのかビスマルクが訊いた。

 

「初めてってどういうこと?」

 

そう訊くと響が答えた。

 

「これまでは司令官のところにお茶の誘いに来ても秘書艦が門前払いをしていたんだ。今日から『番犬艦隊』が司令官の周りに付くから状況が変わると思ってね。」

 

「成る程ね。」

 

どうやら俺の考えていた通りだった様だ。

 

「それにしても司令官。秘書艦はどうしてるの?いないなら私がやってあげるわ!」

 

そう言ってくる雷に準備が終わってお盆を持ってきたフェルトが答えた。

 

「秘書艦なら私がしている。今しがた終わったところだがな。」

 

そう言ってフェルトはお盆を机に置いてそれぞれを配り始めた。

 

「茶菓子はあったものを勝手に出したが良かったか?」

 

「いいぞ。」

 

そう言ってフェルトはどうやらクッキーを出してきた様だ。

 

「「「「いただきまーす!」」」」

 

それぞれ飲み始め、程よくカップの中身が減ってきた頃、暁が俺のカップをガン見しているのに気が付いた。

 

「どうした?」

 

「レディーはブラックを飲むものかと思ってね......。ビスマルクさんだってブラック飲んでるし。」

 

そう暁が言うと得意げなビスマルクは得意げな表情をした。

 

「そうね。でも、大人になっても飲めない人もいるのよ?」

 

そう言ったビスマルクの横でフェルトがジト目で見ていた。

少し変な雰囲気になったので俺は飲んでいたカップの飲み口をナプキンで拭くと、暁に手渡した。

 

「気になるなら飲んでみるといい。だけど、苦かったらすぐに電からココアを分けて貰え。」

 

「大丈夫だしっ!」

 

そう言って俺の手からカップを受け取った暁はブラックをぐびっと飲んだ。その刹那、暁の表情が歪む。

 

「にゃにこれ!苦すぎるっ!!」

 

そう言って電は苦笑いしながら自分のカップを暁に手渡した。

 

「ふーっ!ふーっ!苦すぎるわ!」

 

そう涙目になって言う暁を見て俺は思わず頭を撫でた。

 

「そのうち飲めるようになるさ。」

 

「なっ!お子様扱いしないでっ!!」

 

そう言って顔を真っ赤にして怒る暁だが、撫でるのは嫌がろうとしなかった。

その光景を見ていたビスマルクが自分のカップを置いて言った。

 

「お子様にはまだ早いわね。もう少し成長しないとね。」

 

そう得意げに言うビスマルクの肩にフェルトが手を置いた。

 

「と言うビスマルクはいつもスティックシュガーを3本入れないと飲まないんだがな。」

 

そうフェルトが言うとフェルトの反対側に居たプリンツが爆笑し始めた。

 

「あはははっ!!お腹痛いっ!!!」

 

「なっ!!ツェッペリン、貴女ねぇ!!」

 

「いつもは自分で淹れてから入れるのに、誰かと一緒の時だと決まって私に頼んでいたではないか。黙ってやってやったのだから礼くらい言ったらどうだ?」

 

そう言ってフェルトもくすくすと笑っている。一方、レーベとマックスは苦笑いしていてユーはどうやら猫舌の様で未だにふーふーと冷ましていた。

 

「そう言う訳で、現にここにも飲めないレディーがいるから飲めなくてもいいんだ。」

 

そう言って俺は暁の頭から手を離した。

 

「そうよね。ありがと、司令官。」

 

「おう。」

 

俺と第六駆逐隊で談笑している傍ら、ビスマルクとフェルトは変な言い争いを始めていた。ワーワーギャーギャーやってる様子を見ているとこれでも人間が見た年齢相応だなと感じた。

 

「アトミラール!助けてくれっ!」

 

「いやっ、ビスマルクが面白いからそのままで。」

 

「アトミラールッ!!」

 

そんな光景がとても楽しかった。

プリンツもアワアワしてるし、レーベとマックスは相変わらず、ユーはやっと飲める温度になったのか飲み始めていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺たちはカップが空いたのでお代わりをフェルトに頼んでいた。

待っている間、雷が俺に話しかけてきた。

 

「司令官。」

 

「何だ?」

 

「執務が忙しいときは私を頼ってね!書類、食事の用意、片づけ、何でもやるわ!私を頼ってもいいのよ?」

 

そうにこやかに言う雷に俺は答えた。

 

「忙しかったらな、その時は雷に頼むよ。」

 

「分かったわ!」

 

そんな話をしているとフェルトが机にお盆を置くと、俺の横に来た。

 

「それならば私がやろう。私に任せてくれ。」

 

なんだかこの光景はデジャヴだ。

俺はそう感じて、ビスマルクの方を見て言った。

 

「ビスマルクは大きい暁だな。」

 

そう言うとビスマルクと暁は同じタイミングで驚いた。

 

「「なっ、それはどういう意味よ!」」

 

そう言うとプリンツがまた笑い始めた。今後はお腹を抱えている。

それを見てすぐに俺はフェルトを見て言った。

 

「そうするとフェルトは大きい雷だな。」

 

「「そうなの(か)?」」

 

2人とも口を揃えてそう言ったが、どっちもそうだと俺は思った。

なぜなら雷は世話焼きな性格で、フェルトもまた同じ。なら大きい雷と言われても仕方ないような気もした。

 

「説明しなさい!提督っ!」

 

そう俺の前に来て言うビスマルクを押しのけてビスマルクの席のところにカップを置こうとするフェルトに俺は言った。

 

「ビスマルクが煩いからココアに変えてやれ。」

 

そう言うとフェルトはニヤッと笑った。

 

「アトミラール。既に変えてある。」

 

「でかした。」

 

こうしてまたビスマルクとフェルトが言い争いを始めた。

暖かい部屋で、皆でこういうのも悪くないと俺は思い、これからもやろうと心に誓った時だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「うぅー。提督ぅ~。」

 

妖精があちこちに指示を出している艦橋で私はそんな事を呟いた。

 

「提督とティータイムしたいデース......。」

 

昨日からこんな事ばかり私は言ってます。

 





さて、本作でのグラーフ・ツェッペリンもといフェルトのキャラですが、雷系にしてみることにしました。時報とか聞いてるとそんな感じがしたので......。抗議等々受け付けます。
自分的にはこれがしっくりきますが......。
一方ビスマルクは一般的な性格で行こうと思います。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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