遅咲きオレンジロード   作:迷子走路

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『彼女の周辺②』

 テレビで言っていた事がある『恋は駆け引き』だと。

 実際そうだと思った。だって僕の恋はきっと全力を持って望まなければ実らないものだと知っていたから。

 時に押してもダメなら引いて、また時には強引に押し切る勇気だって必要だ。

 たとえ都合が悪くても振り切る覚悟だっている。

 そう、僕の場合は自分を押し殺す覚悟が必要なんだ。

 だからどんなに予期せぬ事態になったとしても好機に変えなければならない時だってある。

 きっと今がその時だろう。

 

「お~い、そこの暇そうな大好くん。ちょっとあたし達の相談に乗ってくんない?」

 

 ちょっと前を境にして、僕と小暮さんは少しだけ仲良くなっていた。

 結城さんのヒミツを知る数少ない人として今は偶に雑談くらいする関係。

 そんな僕らは知り合い以上で友達未満なんだと思う。

 その彼女が後に二人の女子を連れて目の前に現れた。

 僕としてはあまり目立つようにして小暮さんと話すのは出来れば控えたいと思ってるんだけど…そうは言ってられない。

 彼女は結城さんの親友だ。

 つまり、彼女と仲良くする事がそのまま結城さんの評価に繋がることだってあり得るんだから。

 もしも僕が小暮さんに嫌われたら。

 彼女がそのまま態度に出したり、何かの話題で僕の名前が出たら元々無い好感度が地に落ちる可能性だってある。

 逆に気に入られたら。

 結城さんについてもっと知る事が出来るかもしれない。だけど勘違いされて小暮さんとはそういう関係なんだと思われるかもしれない。

 別に小暮さんが嫌いなワケじゃなけれど…本命の相手にそう思われたらと思うと気持ちが一気にブルーになるのは仕方ないと思う。

 結構最低な事考えてるかもしれないとは自覚している。

 でも、恋は駆け引きだ。甘く考えて玉砕してたら後悔しか残らない。

 だから今はこの渡りかかった船に上手く乗る事に集中しなきゃならないんだ。

 

「え~と、構わないけど…何?」

「感謝してよ? 美柑を説得するの大変だったんだから」

 

 言われて小暮さんに連れられた二人…結城さんと乃際さんを見ると彼女達は僕を一瞬だけ見ると視線を逸らす。

 乃際さんは接点が少ないから警戒されても仕方ないとしても…結城さんにそうされるのは正直傷付く。

 そんな僕を見て、小暮さんは手をあたふたとさせながら励ますように気遣ってくれる。そういえば彼女は僕の好意を知っていたっけ。

 説得…ということは僕にそういう機会を作ってくれたのかもしれない。

 大して仲良くない相手に、親友の相手を務めさせてくれるなんて。

 小暮さんの優しさに感激しながら、突然降って来たその好機を僕はものにしてみせると決意する。

 

「ところで相談って?」

「あぁ、うん。実はね、今度美柑のお兄さんの誕生日らしいんだけどさ。美柑がそのプレゼントに困ってるらしくて」

 

 僕と小暮さんは結城さんの好きな相手が実のお兄さんである事は知っている。

 つまり、小暮さんは知っていて僕にこの話を持ってきたということだ。

 これは試練なのかもしれない。

 僕にとって薄っすらとしか見た事の無いお兄さんこそが最大の恋敵(ライバル)だと一方的ながら思っている。

 しかも手を繋いで一緒に外を歩く羨ましい姿だって目撃している圧倒的に格上の相手だ。

 そんな月とスッポン…現在で天と地の差すらある相手に更に塩を送らなければならないなんて。

 これでもっと結城さんがお兄さんと仲良くなったらと思うと、彼女の将来が心配になる。兄妹でそんな関係なんてやっぱり良くない筈だ。

 だけど今は僕は地に立つ側の人間。

 天に立ち、見上げる対象のお兄さんに届くには結城さんにアピールは絶対にしなくては届かない。

 

「何かね、今年からは競う相手がいるらしいからその人には負けたくないんだって!」

「ちょっとサチ! そこまで言わなくていいじゃん! はぁ…やっぱりいいよ。いきなりでメーワクそうだし」

「いや、僕は全然そんな事思ってないよ!?」

 

 諦めムードというか、始めから期待なんてしてない素振りの結城さんを見て思わず大きな声が出てしまった。

 肩がはねる彼女達を見て間髪を入れずに謝罪をして思考する。

 『相手』とは誰だろう?

 考えれられる相手といえば、()()()()()()という言葉の意味で想像できる人間になる。

 僕の中に二人の候補が出来上がる。

 一人は、長らく離れていた親戚や幼馴染とかが近所に現れた場合。

 そしてもう一人は…お兄さんに対して好意を抱く相手が現れたか、そのまま『彼女さん』であるかだ。

 結城さんの好意を知るに、競うという言葉の意味はきっとそういう事で間違いないと思う。

 となれば、これは僕にとってかなり都合の良い状況なのでは?

 どっちにしてもお兄さんがそっちの相手と仲良くなってしまえば結城さんはお兄さんを諦めなくちゃならない。そしたらもっと僕にだって希望が見えてくる。

 そんな悪役の様な黒い感情が渦巻いていると、いつの間にか小暮さんが僕の目の前で心配そうに顔を覗き込んでいた。

 

 何を考えてるんだ僕は…せっかく小暮さんが僕を信用して与えてくれた機会を打算で潰そうとするなんて。

 

 もう一度考え直す。

 確かに僕にとっては結城さんが競い相手に負けてしまった方が都合は良いのかも知れない。でも、その後は?

 たとえフリーになった結城さんが一度フった僕を見てくれるだろうか?

 ない。悲しいけど、それは無いと思う。

 そう、僕は気付いた。これは試練だ。

 本当なら遠い未来や結果。先を見据える事が大事なのかもしれない。

 最終的な打算で動くのは当然の事だし、重要だと思っている。

 けど、今は逆だ。

 『先』より『今』が僕には重要なんだと考え直す。

 焦る必要なんて無い。お兄さんについて関係の無い僕が、今この状況をどうこう考える理由なんて無いんだ。

 僕が何かしなくてもこの事態は勝手に動く。

 だったら今僕がするべきは…ここで正解を導き出し、少しでも結城さんに僕をアピールする事だ。

 これでお兄さんと仲良くなってしまう可能性は大いにあるがそんな事には目を瞑るんだ僕。恋は駆け引きだ。

 時に寛大な心で我慢をする事だって必要だと思う。

 

「深くは追求しないけど、とりあえず良いかな?」

「お、乗ってきたね~。もち、いいよー」

「去年のプレゼントは何だったの?」

「一応…手編みのマフラーかな」

 

 なんだって…。結城さんはそんな事まで出来ちゃうのか!?

 なんて羨ましい。素直に羨ましい。たとえ兄妹の関係だったとしても結城さんに心のこもった手造りのマフラーをプレゼントして貰えるなんて。

 考えたらダメだ。今は嫉妬してる場合じゃない。答えを出さないと…!

 

「僕に相談したって事は、今年はその手法ではする気は無いって事で良いのかな?」

「そうなるね。なんかその相手の人がすっごいプレゼントを用意するらしいから美柑も焦ってるんだってさ」

「別に焦ってなんかないし」

 

 そういう結城さんだけど小暮さんや乃際さんにはとっくに相談してるんだと思う。その上で僕に聞いてくるんだから内心ではやっぱり焦ってるんだろうなぁ。

 結城さんの気持ちになって考えてみると僕も同じ気持ちになった。

 長年大好きだった人に一番のプレゼントを贈ってきたのに、横から入ってきた相手にその一年の想いを衝撃の大きさで負けてしまうなんて面白くない。

 そうでなきゃ、僕にこんな込み入った話が来るはずが無い。

 

「わかった。つまり、男として何が貰ったら嬉しいかってのが聞きたいんだね?」

「流石~! 話が早くて助かるよ! いや~あたし達じゃ結局良いのが浮かばなかったんだぁ~」

「ごめんね、初めて会った人にこんな質問するべきじゃないって分かってるんだけど。サチの友達だって言うからつい甘えちゃったかも」

 

 ………あれ、忘れられてる? 僕の告白。

 小暮さんが友達だって思ってくれてる事とか、結城さんが甘えてくれるとかそんな嬉しい感情が吹き飛ぶくらいショックな言葉が僕を襲った。

 初めて会った人…初めて…。

 それもそうか、僕は結城さんからすれば大好きな人がいるのに懲りずに告白してきたその他大勢の人間の一人に過ぎないんだ…はは、そうだよねー。

 

「あ、あ~! でさ、なんか良いアイデア無いかなっ!?」

 

 小暮さんの優しさが伝わってくるよ。身に染みる。

 そうだ、考えないと。こうまでしてくれてるんだから。

 

「そう、だね…。うん、ゲームとかじゃその相手? のプレゼントには勝てないだろうし。そうなると……」

 

 考えた。ゲームよりも、手編みのマフラーよりも望むものを。

 それは僕の欲しいものだ。お兄さんではない。でもそれしか思いつかなかった。

 

「やっぱいいよ、ゴメンね。いきなりで。二人とも戻ろ」

「…デート」

『え?』

「贈り物で…勝てないなら、結城さんとの思い出を作ればいいんじゃないかな? ほら、お兄さんと仲良いって小暮さんからは聞いてたし。だったら、デートとかしてあげたら喜んでくれるんじゃないかな?」

 

 完全な僕の要望だ。兄妹のデートなんてしたこと無いからお互いがどう思うかなんて分からない。

 だから男の意見…とは全然違うけど。僕の個人的な意見を出すしかなかった。

 

「思い出…。思い出……いいかも」

「…え?」

「えと、大好くん…だっけ? その意見参考にするね、ありがと」

 

 そう言うと、すぐに結城さんは一人で走って行ってしまった。

 あれ、僕は成功したのだろうか?

 置いていかれた二人は顔を見合わせて僕を見る。何だか気まずい雰囲気になったこの場を小暮さんが明るい声で制した。

 

「なるほどデートか~。その考えは出なかったなぁ。美柑の親友として情けないよ~」

「でも美柑ちゃん喜んでたみたいだし良かったね。お兄さんと良い思い出つくれるといいなぁ」

 

 目の前で二人が笑顔で語り合う。

 僕の意見が参考になってくれたかわからないけど…とりあえず。

 

「名前を覚えて貰えただけでも進展したって事なのかな」

 

 まるで先生と二人で話すときみたいに息が詰まりそうな空気だった。

 結城さんの口からどんな言葉が出てくるか不安で不安で仕方なかったけど。状況を把握した瞬間、ようやく僕の肺からは塞き止められていた空気の塊が溢れ出るようにして吐き出されるのだった。

 

      ◆

 

「で、あの…小暮さん? 僕らは何でこんな所で一緒にいるの?」

「大好くんだって美柑がどうなったか気になるんでしょ? 家は流石に許可なく教えられないけど、この辺のデートスポット洗いざらい探したらきっと二人が見つかるって!」

「そんなストーカーじゃあるまいし…」

 

 あたしは休日になって大好くんを呼び出した。

 連絡先を交換しといて活用したのは今回が初めてだったけど、男のコに電話するのは意外と緊張するものなんだって初めて知ったよ…。

 さて、とりあえず美柑の家の周辺を探してみる事にする。

 大好くんの事を疑うワケじゃないけど、流石に親友の家を勝手に教えるなんて出来ないからその辺は伏せといた。

 マミは残念ながら今日は用事があって来れないらしい。でも、まぁ二人もいれば行き違いになることも少なくなるし、きっと大丈夫だろう。

 

「さぁお兄さん達を探すよ~!」

「え~……」

 

――――――

 

「見つかりませんでしたっ」

「見つからなかったね~」

 

 昼からずっとお店とかいろいろ周ってみたのに美柑達は全然見つからない。

 まさかの遠出だったのかな? 遠くに出かけて、泊りがけで…いつもと違う雰囲気のホテルとかに泊まっちゃったりしてるのかな。

 

『リト、お誕生日おめでとう!』

『ありがとう、美柑。はは、何か緊張するなこういうのって』

『私もだよ。ねぇ、リト。今日はいっぱい遊んだね』

『うん、楽しかった。たまにはこういうのもいいな』

『…ね、まだ夜だよ? もっといっぱい遊ぼ?』

『へ? み、美柑? 何言って…』

『リト……ねぇ、今日はずっと、ずっと朝まで楽しいコト、いっぱいしよ?』

 

「こ、小暮さん!? どうしたの、涎出てるよっ!?」

「…うぇッ!? ハッ…じゅる、ご、ごめん考え事してた」

 

 う、いやいや、いかんいかんって。いくらなんでも飛躍しすぎた。

 というか、親友をこんなカタチで辱めるなんて…あたしってばサイテーじゃん。

 しかも大好くんに涎出てる顔見られるなんて…あ~恥ずかしいなぁ!!

 そうっ! そうだよ、なんだよもぅ結局今日は大好くんとお店入って、おやつ食べて歩き回っただけじゃんか!?

 まったく、せっかく美柑のデート見てやろうと思ったのに。

 はぁ、ま…いっか。

 ホントはお兄さんがどんな人か知りたかったけど、いつもの態度見るにもしも見つかったら絶交どころの騒ぎじゃなかったかもしれないし。

 一昨日なんて、ちょっとからかったら親指と人差し指の間をおもいっきり摘ままれてゴリゴリと押された。めちゃくちゃ痛かったよあそこ…。

 やっぱ、くんしが危ないからなんとか~って言葉は本当なのかもしれない。偉い人は言う事が違うわ。

 

「まぁけっこう楽しかったから良いか。ね、大好くんはどうだった?」

「……」

「ん? どしたの…って、あ」

 

 黙っている大好くんの視線の先には今日一日かけて探し回った親友の姿があった。いや、あれは本当にあたしの親友の美柑なんだろうか?

 うわぁ…うわぁ~、美柑ってあんな表情するんだぁ!

 今まで友達やってたあたしが、そう思うほどに今の美柑の表情は衝撃的だった。

 一緒にいる相手がウワサのお兄さんなんだろう。絶対にそうだ。

 ちょっと想像より幼さの残る顔立ちだけど、すごい落ち着いた雰囲気のザ・年上って印象を持つ人にぴったりとくっ付く親友。

 腕を絡め取って胸なんて…あんま無いけどしっかり押し付けてる。

 お揃いの似た感じの色の服を着て、見たことの無いくらい幸せそうな表情で歩く姿は…すっごい微笑ましくなる様だった。

 お兄さんの方も嫌がる素振りなんて一切無いみたい。雑誌とかでやってた車道側を歩くってやつも意図してるのか知らないけどやっている。

 なにあれ、カップル?

 正直な感想だとコレに尽きる。

 歩いてる方角と二人で空いている手に持っている買出しの袋を見るに今から帰るところなんだろうな。

 

 ちょっぴり頬を染めながらお兄さんの顔を見上げる美柑の表情に何だか背徳的な心臓の高鳴りを覚えた。

 そんな妹を優しく見守る様に目線を向けているお兄さんの姿に「あぁ、なるほど」って意味も無く親友の胸中に納得してしまった。

 

「あ、あはは、コレはコレは…予想以上だったかな?」

「ごめん、小暮さん。僕…帰るね」

「え? あ~うんゴメンね今日は。あたしは楽しかったよ? じゃぁ…また」

「うん、学校で…じゃあね」

 

 走り去っていく大好くんの後姿を見て彼の二度目の失恋を悟った。

 期待した分二回も失恋を経験するなんて不憫でならない。

 学校ではもっと優しくしてやろうかなとあたしは密かに決意した。

 

      ◆

 

 喉が枯れる。声が出ない。肌寒くなってきた季節から来る風が目に染みる。

 僕は泣いているのか?

 それすら分からない。でもとにかく駆け抜けた。走っていると何となく気持ちが落ち着く気がしたから。

 

「ッは、っはぁ…! はっ、うっぐぇ、ゲほッ! ゴホ!」

 

 どうやら走りすぎたみたいだ。足が震える。息が上手く出来ない。

 そのまま肩から力が抜けて立ち尽くすと背中をポンポンと叩かれた。

 誰だろう。知らないけどそのまま僕の背中を軽くさすったり叩いてくれる人がいた。

 その優しさが何だか申し訳ない。僕はその人の顔も見ないまま蹲って息を整える。

 

「…あ、ありがとうございました。おかげで、落ち着きました」

「そうですか。それは何よりです」

 

 初めてその親切な人の顔を見ると、その人は年上のお姉さんだった。

 腰まで届くくらい長くて綺麗な金色の髪のお姉さん…なんだろう。そんな少し幼さのある綺麗な顔に釘付けになる。

 って、僕は何を…失恋したからってちょっと優しくされたらすぐに気を取られるとか最低ってレベルじゃないよ!

 

「あ、あの…! そ、その、本当にすみませんでした…」

「かまいません。ところで聞きたいことがあるんですが」

「あ、知ってる事なら何でも…」

 

 どうやらお姉さんは道か何かを尋ねたかったらしい。

 周りを見ると確かに誰もいなかった。仕方なく僕が落ち着くまで面倒見てくれたのだろうか? その方が安心はするけど。

 こんな綺麗な見た目の人に親切にされたら心が揺れてしまいそうだったから。

 

「結城リトという人物の居場所を知っていますか?」

「…え?」

 

 たしか結城さんのお兄さんだよね?

 もしかしてこの人が結城さんの競う相手…なのかな?

 遠くではあったけどお兄さんは顔は全然変じゃないし、落ち着いていてモテそうな感じはした。

 この人もそうなのかと思うと僕の気持ちは更に沈んでいく。

 とりあえずさっき見た場所は伝えたものの、もう移動してるだろうという事と家は残念ながら知らないと教えるとお姉さんは無表情のまま納得した感じで背を向ける。

 スタスタと興味を失ったように歩いていく姿を見ると寂しくなった。

 僕は思わず…

 

「あのっお姉さん! お姉さんはその…結城さんをどう思ってるんですか!?」

 

 何でこんな事を…惨めに思うだけなのに。

 僕の言葉に歩くのを止めてお姉さんは振り返る。そうすると綺麗な髪がキラキラと輝きながらお姉さんの周りを照らしてるような感じがした。

 

「私にとって彼は標的(ターゲット)です。それ以上でもそれ以下でもありませんが…決して逃すつもりは無い相手です」

 

 その言葉に僕は鼓動を高鳴らせた。

 こんな綺麗な人にこんな言葉を言って貰えるなんて。

 そして逆にお姉さんを応援したくなった。こんな人に好きだと言われたら絶対に心が動いてしまう。容姿を見るにこの人は近しい親戚とかではないのだろう。

 もしこの人がお兄さんと結ばれたら。

 そんな期待を抱いてしまう。

 

「そう、ですか。あのっ頑張ってください! 応援してますから!」

 

 僕のそんな言葉が届いたのか、そうでないのか。

 金色のお姉さんは行ってしまう。

 いつの間にか日は落ちてすっかり暗くなってしまっていたのにも気付かなかった。

 暗がりの闇の向こうへ去っていくお姉さんの金色の輝きが見えなくなるまで、僕は呆然とこれからどうするべきか頭を冷やしながら考える事にした。




 おまけ
『中学時代の春菜さん②』

 今日は結城くんが風邪で欠席してしまった。先生からの連絡と大事なプリントを預かって結城くんの家へ向かうとだんだん緊張してくる。
 
「あ、あのっ西連寺ですっ! プリントを届けに来ました!」

 チャイム越しにそう告げると結城くんがパジャマ姿でマスクをしたまま現れる。
 辛そうだ。残念だけど早めに退散しないとね。

「態々ありがとな、西連寺。うつったら悪いから今度お礼するよ」
「い、いいよぜんぜん! お大事にっ!」
「ごめん。ところで、よく家知ってたな」

 その言葉を聞くか聞かないかの瞬間に私は立ち去った。
 まさか最初から知ってたなんて言える訳が無い。
 何となくふらふらと結城くんの姿を見て安心してたらいつの間にか家までついていて、しっかりと道順まで覚えてしまっていたなんて知られたら嫌われてしまう。 
 そして変な別れ方をして私は後悔した。
 先生に聞いたって言えばよかったと思ったのは家に帰ってからだった…。

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