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ララが地球へ訪れて幾日かの時が流れた。
ここに至るまでに美柑は幾つかの行動を起こし、結果を残した…のだが、それと同時に数える程度の失敗もしている。
その最たる例が『結城リトの恋心を変えてしまった』事である。
この時点で彼女はまだこの事が引き起こす可能性に思い至っていない。と、いうよりも気付こうとしていないのかもしれない。
結論からして、彼女は過去の抑制された日々から解放され、ララが来るまでの間に自身の幸せと呼べる日々を謳歌した。
だからこの時の美柑は欲張ってしまった。
自分でもリトを変えられる可能性を知ったことで、彼女は『リトを独占する事も出来るのではないか?』という希望を抱いてしまう。
とはいえ、リト自身も気付いていない中に妹である美柑に引かれているのも事実。
もしもこのままララが来なければ。
そんな、もしもがあれば。彼女の望みは叶ったのかも知れない。
折れ曲がった彼女の道はここで再び方向を変え、別の未来へと進み出してしまう。
欲張った彼女はリトを独占する為に間違いを訂正しない。
本能か無意識か、美柑はこのままリトには誰も好きになってくれぬように行動を重ねる選択をする。
そして、ララの登場。リトは婚約者候補へ逆戻り、再び抱かれた恋心。
この事で、この世界が自らの知っている過去へと戻りつつある事を確信してしまった彼女はこれまで以上の行動を起こす決断をした。
果たして、この選択が今後の自分の選択として正しかったのかどうか。今の美柑に知るすべは無い。
たとえ、『ララが訪れる』という事実そのものが回避する事のできない通過点であったとして…それがどれだけの影響を及ぼすか。
ララ・サタリン・デビルークという少女の存在がこの世界にどれだけの影響を与えるのを考える余裕はなかったのかも知れない。
宇宙から彼女が訪れた時点でどんな些細な現実も大きく変わってしまうのは、むしろ当然の事であり…大抵の事はその圧倒的な存在感によって塗りつぶされてしまうのもまた必然的な事である。
『過去へ遡り、未来を変える』
この事が可能であるなら、『世界』には決まった道など存在しないという事。
美柑は再び失敗をした。
ただ一度の敗北に対して過剰に意識しすぎた故に、再び方針を変えてしまった。
付かず離れずこそが彼女の知るリトの攻略法であった事を諦め、積極性を押し出す作戦に切り替えた事で再び未来は変わる。
結城美柑の恋路は茨の道である。
手を伸ばせば届く程に近い希望が、見えぬ壁によって阻まれる。
その壁こそが最大の難関であり、最後の一線。
壁の向こうへ進む為、触れる為に彼女は自分の道を歩み続ける。
たとえどんなに長い『遠回り』を選んでしまったとしても。
◆
私が最初に戻ってきた日から数ヶ月して、リトと同じベッドに寝る日々を続けてきた。
最初は週に一回。次第に頻度を増やしていき、一年前には週に六日を占める形で落ち着く。
希望としてはこの数字をゼロにしたいところではあるけど、流石に多感な時期のリトに一切のプライベートを与えないのは気が引ける。
あまりにも一緒過ぎて鬱陶しがられたりするのは普通にイヤだし、兄妹といえど男と女の違いは私には理解できない。だから、一日くらいはリトに時間を与えるのもまた一つの駆け引きみたいなものだ。
朝起きて、大好きな人の顔が目の前にあると一日幸せな気分になる。
だから週一回の『おあずけ』はちょっぴり寂しいものを感じる時があるけど、仕方ないと思うしかない。
一息をついてふと思う。
ララさんが来てからはもう以前の様に、半端に覚えている昔の行動をする理由も無くなった。
元々ララさんが早く地球に来たりしない様に始めた事だったワケだし、このまま続ける事もないだろう。
というより、ここまで違う行動をとっておきながら今更心配する事も無さそうだしね。
とはいえ、過去と同じ道を辿っているのもやっぱり事実だ。
このままララさんの存在感に圧倒されて負けるなんて悔しすぎる。
だから、ちょっと恥ずかしいけれど今までより更にダイタンに行動する必要は在るかもしれない。
リトには申し訳ないけど、ここまで来たら私だって欲張りになりたい。
だからもうちょっと、もう少しの間だけ私にリトの時間を分けて欲しい。
…少し考えたけど、ララさんやモモさんとかナナさんには悪いけど…リトを諦めて貰おうと思う。
この姉妹と結ばれたら本末転倒だ。
王様のルートに入ったらリトは絶対に苦労する。だから春菜さんとか古手川さんとか…私とかでないと、絶対ダメ。
特にララさんとモモさんは阻止しないといけない。
モモさんは当たり前として、ララさんはハーレム計画なんてなくても春菜さんとリトを共有するつもりでいたらしい。
思想として一番危険なのはララさんだ。皆の幸せを望むララさんと、実際の行動力があるモモさんにだけはリトを譲る気はない。
ナナさんは…大丈夫だろうけど立場が二人と同じだから出来れば選んで欲しくない。
リトには幸せになって欲しい。お節介だと思われても、普通の小さな幸せを手に入れて欲しいから。
私情を挟めば私を選んで欲しいけど……こうなったら予防線くらい用意した方が良いだろう。
とにかく、先ずはララさんをどうにかしないといけない。このままリトと私の時間を取られるのも癪だし、婚約者候補の肩書きもジャマだ。
つまり何が言いたいかというと。
「……で、どうしてこうなるの?」
今日は週に一回の『おあずけ』の日。
私のベッドには規則正しい寝息をしながら気持ち良さそうな顔で眠るララさんがいた。
しかも一糸纏わぬ生まれたままの姿で、目を覚ました私の目の前で。
何故、私は裸のララさんと同じベッドに寝ているんだろう?
覚えている限りだとよくリトの部屋で同じ事をしていたはずだ。まぁ、今、同じ事をしたら一発で家から追い出してやるつもりだから良いけどね。あれ、いいのかな?
「んん…りとぉ~、でへへ~…」
朝から嫌な気分になったのは久しぶりだと思う。
だからこれは正当な理由としてララさんは受け入れるべきだよね、うん。
枕を両手で持ち上げて、構えて…ゆっくり振り下ろす。
「ていっ」
ぼふっと音がしてララさんの顔は枕に埋まる。
そういえば挨拶がまだだった。
「おはよ、ララさん。おやすみなさい」
一秒、二秒、三秒……カチコチと時計がリズムを刻んでいく。
数十秒を数えたあたりでララさんの体が動いた。小さい動きがどんどん大きく身振り手振りを加えて身の危険を表している。
寝起きで私もあんまり考えが纏らないけど、ララさんも多分そうだと思う。
と、ララさんはその瞬間に抑え付けた枕を部屋の隅まで跳ね飛ばして、不足していた空気をおもいっきり吸い始める。
「ちっ…ララさんなんでここにいるの?」
「ぶはっ!? ふぅ~…すぅ~、はぁ~、み、美柑!? 流石にひどいよ~!?」
そんな事言ったって知らない。
私のベッドに無断で侵入してきたララさんが悪いんだから、自業自得だよ。あと前くらい隠しなよ。
一頻り息を吸って、呼吸を整えたララさんは先程までの涙目だったのにも関わらず笑顔で「おはよう!」と挨拶をしてきた。
それに対して私ももう一度挨拶を交わすと、ララさんはペケを呼んでいつものドレスに身を包む。
「美柑? さっきのはやりすぎだよ、私以外には絶対しちゃダメ! だからねっ」
「言われなくてもララさんにしかしないから。で、なんで私の部屋に?」
「うん、じゃあいっか♪ って、あれ? う~ん…ま、いいや。だって美柑がリトの部屋に入ったら一生結婚なんて認めないって言うから~」
あぁ、そういうこと。
前に余裕がなくなって思わず開き直った私の一言がどうやら思わぬ効果をもたらした。
『歓迎するよララさん、リトはあげないけどね』
あてつけだったこの言葉がララさんには意外な一撃になった。
どうやら、私がリトとの結婚を認めないという風に素直に受け止めたララさんは先に私と仲良くなる事を選んだらしい。
そんな事してる暇があったら、リトと仲良くなるように行動をすればいいものを…と思ったけど、そうしないように私がララさんに「リトの部屋に無断で入ったら絶対に結婚なんて認めない」と言った事が原因だっけ。
そしたら、ララさんはこうなった。先ずは私と仲良くなってから、リトとラブラブしたいみたい。
「怪我の功名…ってやつかなコレって」
「コーミョー?」
「なんでもないよ、着替えるから出てってよ」
わりと素直に出て行くララさんを見て、こうなってしまった状況よりも思ったより良い方向に修正されているんじゃないかと私は思う。
さて、今日は休みだしリトと何をしようかなぁ~。
◆
美柑の部屋を追い出されたララは頭を悩ませていた。
思った以上に難攻不落の美柑にリトとの結婚を認めさせるにはどうしたらいいのか。
最近のララはこのことでばかり頭を悩ませている。そんな彼女を心配に思うペケはララに問いかけた。
「ララ様、最近同じ事で悩まれているようですが…」
「う~ん、そうなんだよペケ~。どうすれば美柑と仲良くなれるのかな?」
ペケの立場からすればララの悩みを速やかに解決させてあげるのが彼女のコスチュームロボットとして当然の事だと思うだろう。
実際そのとおりで、未だにリトという地球人とララが結婚するというのを心からはよく思っていないペケであったが、当のララがここまで執着した相手がいないのもまた事実。
彼女への忠誠から一先ずはリトの事を認め、ララの不安の種を解決する事を先決と判断する。
しかし、ペケはこの時点でリトとその妹である美柑のただならぬ関係になんとなく気付いてしまっていたので思考回路をフルに働かせる事になる。
主人のララは全く気付いていないが、美柑という少女は明らかに血の繋がった兄を異性として好意を抱いている。
宇宙での常識としても近親恋愛を認めている星は数える程度しかない。
当然この地球でもその常識は当てはまっている事は既に独自に調べ上げている事なのでペケは理解していた。
故に、出来れば厄介事に繋がるこの家庭とはあまり深く関わらない事が良策といえるだろうが、それも出来ない。
正直なところ、ララはこの兄妹にとってお邪魔虫でしかない筈だ。
幸いなのは現時点でリトの方が美柑に異性への恋慕を抱いていない事だろうが…だからといってこの問題の解決への糸口にはならない。
(ララ様、私にはどう足掻いても彼女を認めさせることが出来るとは思えません…)
そうは思っても、口に出せない。
目の前には真剣にこの問題に悩む主人の姿。
アドバイスでも何でも良い、頭の良い主人が自分には及びもしない何かを思いつくなら今はそうさせてあげるしかない。
ペケはそう思うしかないのだった。
「ララ様、彼女は正直言って兄のリト殿を異常なまでに慕っております。結婚を納得させるのは困難かと…」
「でも結婚したら美柑は妹になるんだよ? 少しでも仲良くならないとやっぱりダメだって!」
「そう言われましても、彼女は今焦っているのだと思います。ララ様が訪れて、今まで二人で過ごしていた空間が無くなるのを恐れているんだと思います。先程も申した様にあの二人は世間から見ても兄と妹の仲では量れません。正直に言って…ララ様は嫉妬の対象でしかないでしょう」
「う~、う~」
出来ればコレで諦めてくれればどんなにいいか。
きっと美柑も同じ事を思うに違いないとペケは思いながら溜息を吐いた。
◆
「リト、あ~ん」
「あ、ずるい私も! はいっあ~ん♪」
「い、いや、二人とも落ち着いてくれ…」
手早く朝ごはんの用意して今日も三人で食卓を囲む。
なんだかんだいって、この風景にも元々、慣れたものだ。今更戻ったところで違和感はない。
だから、とりあえず方針を変えたので「あ~ん」というのを実践してみた。
これがなかなか恥ずかしい。
作った目玉焼きとウインナーを見比べて、やり易そうなウインナーをリトの口へ運ぼうとする。
この後リトの口に入ったお箸を使うのだろうか?
そう思うだけで顔が赤くなる気がした。
そんな風に考えていると、私のマネをしたララさんがリトに自分のウインナーを運ぼうとする。
「ちょっ!? ララさん! これは『妹』の私の役目なんだからっ!!」
「え、初めてなんだけど…」
「ずるいよ~! 私だってリトの『お嫁さん』だもん! だったらこれくらいしてもいいよねっリト?」
「私認めてないよ!!」
「…二人とも落ち着けー!!」
突然のリトの大きな言葉に思わず体が反応してしまう。
あまりの驚きにウインナーがテーブルに落ちてしまった。いや、それよりも…リトが、怒った?
横目で見るとララさんも目を見開いている様子でリトを見ている。
私とララさんは恐る恐ると、怒ってしまったリトの反応を待った。
すると、リトはゆっくり顔を上げていつもの困ったような顔で私達を見る。
「あ、いやゴメン…驚いたよな。でもさ、せっかくの朝食なんだし仲良くやろうぜ? 一応…これから一緒に食べるんだし」
「う、うん…そうだね、ごめん」
「リトがそういうならそうするよ、ゴメンね美柑」
頭の中で警鐘が鳴った。コレは良くない事態だと私のカンが言ってる。
リトが態々そんな事を言ったんだから相当精神的に追い詰められてるのかもしれない。
こうなったら私が何とかするしかない…んだけど。
やっぱり表面上でもララさんと仲良くならないとダメかな。
別に嫌いってワケじゃないし、無理ではない。実際、ララさんとはそうやって来た。
でも、今は出来るだけララさんとリトには仲良くなって欲しくない。
こうなったら仕方ない。ララさんと話をつけるしかないかな。
「幸い、今のララさんなら少しは言う事聞いてくれそうだしね」
「どうかしたか、美柑? だ、大丈夫だぞ? もう怒ってないから、ホラ」
「…ホント? 良かった」
そうと決まれば、今日はリトの事は諦めよう。ついでに聞きたい事もあったし。
◆
朝食後、リトは父である才培の所へ向かった。
どうやら最初から予定として組んでいた事だったらしく、今日一日、夕方頃まで帰ることは無いと告げて家を出て行く。
都合よくリトが出て行ったことで、付いて行こうとしたララを止めて美柑は今後の話を始めた。
議題はズバリ『リトを不安にさせないよう私達がする約束事』について。
ポカンとするララを見ながら美柑は説明を始める
「いい? 私はさっきみたいにリトを怒らせたくないの。だから、ララさんにはこれから幾つかの約束事を守ってもらいます」
「え~、私だけ? そんなの理不尽だよ~」
「…解った。私もいくつかは譲歩するからララさんも守ってね」
流石のララも一方的な押し付けには納得せず、仕方なしに美柑はララの言い分を聞き届ける事にした…ように見せた。
かかったと美柑は内心でほくそ笑む。
最初からある程度そのつもりで声をかけたのだからこの場合、彼女にとって全然問題はなかった。
狙いは最初からララに幾つかの決まりを言い聞かせる事にある。
言えばララは素直に聞くかもしれないが、それを守るかどうかは非常に怪しい。
故に、自分も守るからという対等の理由でしっかりとした場を設けた事にこそ意味がある。
こうして、妹と嫁(予定)の話し合いが始まった。
「最初は今までどおり、リトの部屋に勝手に入らない事。破ったら一生私は結婚を認めないから」
「はーい」
「次、さっきみたいに喧嘩にならない様に私のする事の邪魔をしないこと」
「それは美柑に都合良すぎると思うっ」
お互いの意見やぶつかり合いを繰り返しながら決まりごとが作られていく。
美柑は最初は自分の事だけを考えて始めていたが、徐々に今の現状を楽しみつつあった。
今思えば、ララとは最初から良好な関係を築いていた。
だから、こうやって二人で口喧嘩を交えた会話等当然した事が無く…思わぬ新鮮さに口元が揺るんでいるのにも気付かないでいる。
彼女の父親の描く漫画の様な展開と言うわけではないが、お互いが譲れないものの為に言い合って衝突し、話し合う。思った以上にその事は当初の関係よりも壁の無い、友人の様な関係が出来上がりつつあることを二人は知らない。
険悪ムードになるかと思いきや、楽しそうに話し合いをしていく二人。その姿を見守るロボットだけが誰よりもこの行く末を安心した様子で見届けていた。
――――――
「出来たー!!」
「うん、じゃあララさん解ってるよね?」
「もちろんっ! 美柑も忘れないでよね!」
こうして二人の間に見えない関係が築かれた。
元より、リトの事を心から慕ってきた二人の間にちょっとした擦れ違いがあったに過ぎない。
だから、美柑が少しリトに関する事にイジワルになったとしてもララとの関係は悪くはならなかった。
(あれだけ無茶な要求とかもあったのに。これが王女様の器ってヤツなのかなぁ…本当、ララさんには敵わないや)
心の中で美柑はそう思う。
自身の小ささと、ララの大きさに。その違いを感じた。
ララは本当に良い人で、自分はこんなにも嫌な人間だと嘲笑する。
だが既に開き直った彼女は退かない。どんなに悪い人間に成り下がっても、今度こそは素直になると決めたのだ。
他ならぬリトともっと、もっと仲良くなる為に。失う怖さを知った彼女は躊躇わない。
「あ、そうだララさん。大きくなる発明品って持ってる?」
ふと、自分が聞こうと思っていたことを思い出した美柑はララに訊ねる。
今の今まで、実は『西連寺春菜』という少女に出会えなかった美柑はちょっとした不安を感じていた。
本来なら関わる事はもっと後でも、確かに出会う事はあった筈なのだ。
しかし今回はそれが無い。故に彼女が今どうしているのかを全く知らないでいた。
そんな時に今度起こるイベント…臨海学校である。
最初からその事に関わりの無い美柑にとってそのイベントは全くの未知の領域。
ここでどんな事が起きて、リトとララ、もしくは春菜との仲が深まるか解ったものではない。
今となっては春菜の事を想っていないリトだが、もしかしたらこの臨海学校をきっかけにその気持ちが再燃するかもしれない。
何より、西連寺春菜は結城リトを好きなのだ。
それが変わっていないなら、万が一の事もある。
だから、その事が気が気でない美柑は、今度はこっそりと臨海学校に付いて行こうとした。
「大きくって、サイズが?」
「いや、そうじゃなくて年齢的に大きくなれないかなぁって…今度臨海学校でしょ? その、私も行きたいかな…なーんて」
小学生の一人旅では何処にも泊まる事すら出来ない。
成長さえ出来れば自腹を切ってでも付いていく事は可能だと考えた上での決断。あの変態校長もいるなら紛れ込むことだって不可能ではない。
だが、ララでもどうしようもないのであれば、本当に不安だが諦めるしかないのも仕方ないとは思っていた。
だからこそ、一応。念の為に聞いてみるだけ。何より、リトと離れて寝るのが今ではちょっぴり寂しいし『おあずけ』は一日までと決めている。だから、隙があれば一緒に布団に入りたいと彼女は思っていた。
「美柑もリンカイガッコ行きたいの? そんなに楽しいなら今から楽しみだな~…っとと、成長する発明品だよね? えぇと、ゴメン。流石に今からじゃ間に合わないと思うんだ」
「…そっか。ま、期待はしてなかったし、仕方ないよね。楽しんできたらいいと思うよ?」
「美柑…」
口ではそう言いつつも、見るからに落ち込む様子の彼女を見てララは頭を悩ませる。
(あぁ、せっかく美柑からのお願いだったのに! もしかしたらこれでリトとの結婚認めてくれたりしたのかも!? もう~そういうの作って置けばよかったよ~!! 今からじゃ大きくなる発明なんて…)
はたとララは考える。
やがてパァッと満面の笑みになって美柑に提案した。
「美柑、私に任せてよ!!」
「え、でもさっき…」
「うん、大きくなるのは持ってないよ! でも
彼女はウインクをしながら渾身の笑みで返した。
何処までも人を魅了するその笑みと代案に。美柑は逆に不安にならざるを得なかったのは、おそらくは経験から…なのかも知れない。