ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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派手に銃をぶっぱします。
俺強い展開注意。


突破

 「……ほぅ、数だけは揃えたな」

 

 壁を越えた先はアンデッドが所狭しと蠢く、グロテスクな光景が広がっていた。

 正に感染極まった某都市の如く、絶望的な状況を絵に描いた様な感じだ。

 しかしこの状況、ラストは核ミサイルでエ・ランテルごと吹き飛ばす展開しか見えて来ないのは気のせいだろうか?

 まぁ、ゾンビ作品の創作物の最後と言えば、大爆発で町ごと全て木っ端微塵と大体相場は決まっている。

 だが流石に中世の世界観でいきなり核ミサイルが飛んで来るなんて事は無いよな?

 超位魔法、あるいはそれに類する未知の何かならば可能性としては0ではないが。

 

 (いかんいかん、また悪い癖が出ている) 

 

 そんな事は無いと分かってはいる。

 しかしそんな起こり得ない事を考えてしまう、これは最早病気か何か?

 そもそも現在の俺が置かれている状況を見てみろ。

 俺が”ゲームのキャラクター“として存在している事自体が非現実的な状況なんだぞ。

 そんな非現実的状況で、もっと非現実的な事を想定したって、頓珍漢な事この上無いだろうよ。

 

 「所詮は下位アンデッド、倒すには造作もない事だがやはり数が問題か」

 

 モモンは二本のグレートソードを回転させ構え直すと、溜め息混じりにそうぼやいた。

 ゾンビ一体一体の強さを度外視しても、この数は迅速さを要求される現状では無視できない問題である。

 途方も無い量のアンデッドが、まるで濁流した川の様に墓場を飲み込もうとしている。

 こんな時、団長の範囲魔法攻撃ならまとめて一掃する事など朝飯前だろうが、現在は脳筋戦士モモンである。

 モモン必殺技:アトミック大回転芝刈り(勝手に命名)で殲滅前進しても、時間が掛かり過ぎてしまう。

 ハゲに辿り着いたら『薬師の小僧は死んでました~、テヘペロー』、だなんて事態だけは絶対に避けねばならない。

 

 正に肉の壁、戦いは数だよ兄貴っ!と言っていた将軍に感心する所だろうか?

 

 しかしっ!こんな時こそ俺の出番である!

 ある時はステゴロ喧嘩マン、そしてある時にはソルジャー。

 ここは我輩が一肌脱いでしんぜよう……

 

 《スキル》

 【トリガー・ハッピー】

 【ホイットマン・フィーバー】

 発動。

 

 「少佐、任せる。派手に殺れ」

 

 「……クク、圧倒的理不尽をご覧に入れよう」 

 

 モモンの号令を合図に、タイラントは目の前のアンデッドの群れに構えていた機関銃の引き金を引く。

 腰だめで持った7.62mmの機関銃が、待ってましたとばかりにドドドドと重低音の咆哮を上げる。

 そして、激しい閃光と共に大量の弾丸を吐き出した。

 発射される無数の弾丸、その数発おきに発射される曳光弾がまるで光の矢の如く映る。

 光の矢は眼前のアンデッドの群れを無慈悲に穿いてゆき、腐った、あるいは乾燥しきったアンデッドの身体を一瞬で木っ端微塵に破壊し尽くし、容赦無く只の肉片へと変えていった。

 対アンデッド用【純銀弾】の効果と射撃専用スキルの発動。

 その威力は馬鹿げた域に達しており、只のアンデッド相手では完全にオーバーキルである事は言うまでもない。

 

 銃とは人を殺す為だけに磨かれた技術の集大成である。

 人類は有史以来、いかに安全に効率良く敵を殺せるかを常に考えている。

 古の原始人は素手よりも頑丈な石を使い狩りをし始めた。

 今度はその石を削り刃にし、やがて剣や槍、斧が生まれた。

 だが、人は考える。

 もっと安全に獲物を殺せぬものかと。

 剣槍よりも遠くから攻撃出来ぬものかと、考えた末に弓が誕生した。

 だが、また人は考える。

 より強力に、安価で殺せる様にならないかと。

 扱う者の技術を要する弓や剣、達人と素人では歴然とした差がどうしても生まれる。

 人を育てるには相当な時間と労力が必要だ。まして争い事、戦が絶えない時代では悠長に訓練などしている間など有りはしない。

 素人でも安価に達人と同等の戦力に成りうる物をと考え、弓を進化させた弩を作り上げた。

 

 そんなこんなで時は流れ、人は数多の武器を考えては戦に使う。

 そして黒色火薬が発明され、約8世紀頃に遂に銃の原型が誕生する。

 以降、その存在は以後の戦場の在り方を根本から塗り替えた。

 例えば、時は群雄割拠の戦国時代にま遡る。

 無敵と言われた武田騎馬軍団を打ち破ったのは、かの第六天魔王織田信長。

 信長は銃の有用性にいち早く気づき、長篠の戦いではおよそ3000丁もの銃を調達し、運用する。

 圧倒的な遠距離火力により騎馬軍団を撃破せしめ、特に火縄銃の三段撃ちは一つの軍事革命とも言われる。

 だが、皮肉にもサムライの時代に終止符を撃った兵器もまた銃である。

 ともあれ、魔法と言う不可思議な事象をかなぐり捨てた異世界の工業技術、いや武器技術の結晶。

 何世紀にも渡り改良進化を繰り返し、如何に多くの弾を発射でき、如何に効率良く多くの人間を殺す為に生まれた末に辿り着いた進化の極致。

 そんな武器である機関銃が、たかがゾンビの群れ程度に遅れをとる筈など無い。

 ゾンビは劣った知能いや本能で察した、機関銃(あれ)は不味いと。

 しかし、察した所でゾンビに成す術などない。

 危ないから近寄ろうにも、ヤバイから遠ざかろうにも、基本的に動きが鈍いアンデッドではどう足掻こうと無駄であった。 

 

 「圧倒的理不尽、確かにその通りだ」

 

 目の前で展開される機関銃によるゾンビ解体ショー。

 墓石や枯れ木、遮蔽物ごとゾンビを薙ぎ払う熾烈な銃撃は正に銃弾の豪雨。

 一方的な殺戮は墓地に文字通りの屍山血河の地獄を作り出す。

 ファンタジーを根本から破壊する、近代兵器による蹂躙。

 剣と魔法の世界観?そんなの関係ねぇ!と言わんばかりに機関銃をぶっぱなすタイラント。 

 そして、永遠に続くと思われた銃撃音は弾切れを境に漸く止まった。

 

 「……クソッタレ共、お休みの挨拶が無いぜ?」

  

 そう吐き捨てると銃口から白煙を上げ、発射可能限界を迎えた機関銃をぶっきらぼうに投げ捨てる。

 投げ捨てられた銃は地面に落ちる事なく粒子となって収納空間に消え、タイラントは新たに背中から中折れ式擲弾銃を取り出した。 

 再度集まりつつあるゾンビの集団に40mmHE弾を撃ち込もうとした時、プレアデスと+1匹が到着した。

 

 「シズ、現在地」

 

 「申し訳ありま「殿!殿!周りが大変な事になっているでござる!」せん、モモン……さん!」

 

 おいナーベが若干イラついているぞ?ハム公よ自重しろ。いつか丸焦げにされるぞ、割りとマジで。

 

 「状況は見ての通り、全面敵だ」

 

 「……状況は最高、我々はこれより突撃を敢行する」

 

 「「御意」」

 

 ビシッとプレアデスの二人が気を付けをし、直後に戦闘態勢をとる。

 シズはスカートの中から突撃銃を取り出し、ナーベは両腕に電撃を帯電させた。

 準備は万端、あとは突撃命令を待つのみである。

 

 「時間が無い、一点突破だ!一気に駆け抜けるぞ!」

 

 突撃する直前にタイラントは重要な事を思い出した。

 衛兵の応援の手勢や新手の冒険者等の妨害勢力の対処である。

 お膳立てするだけして、美味しい所を持って行かれるなど許せたものではない。

 あくまで新参の冒険者の我々の立場はお世辞にも高くは無い、寧ろ低いだろう。

 かと言って気に食わないからと冒険者や衛兵を殺す訳にも行かない。

 起こりうるリスクには手を打っておくべきだ。

 

 「……ハム公は殿(しんがり)だ。この場において門を守ると同時に新たに墓場に侵入する冒険者(ハイエナ)と衛兵を排除しろ」

 

 「こんな所に一人にしないでほしいでござる!後生、後生でござるよぉ~!」

 

 その時、散漫な動きのアンデッド達が急に活発に動き出した。 

 アンデッドは”生ある者”に強く反応する。

 そう、ハムスケの“生命”に敏感に反応したのだ。

 明らかな敵対行為をしているにも関わらず、いまいちモモンとタイラントに対して反応が薄かったのは、要するに同族だと思われていたからだ。 

 死の支配者(オーバーロード)生物兵器(バイオ・オーガニック・ウェポン)

 同族だと一括りにされるのは些か癪だが、一応は同じアンデッドの部類ではある。

 あながちゾンビ達の反応は間違っていない反応だった。

 

 

 「……見ろハム公、良い肉付きのお前を見て奴ら元気になったぞ」

 

 「ひぃ、某は美味しくないでござる!」

 

 何かでかいモフモフがオーバーリアクションで怯えている。

 しかし何故だろう、可愛いと思ったら負けた様な気がする……

 

 『いかんいかん、働かざる者食うべからずだ。可愛い見た目なんぞに俺は騙されんぞ!』

 

 「……貴様も栄光あるナザリックの一員ならば、その忠義を此処で示せ!」

 

 正に暴君、正に憤怒、有無を言わせぬ濃密な覇気がハムスケを襲った。 

 

 実際は一瞬でもハムスケを可愛いと思ってしまったのを恥じたタイラントが、大声を出して誤魔化しただけである。

 

 それに気が付いているのはモモン只一人だけだった。

 

 『っぶねー、マジっぶねー、バレる所だったぜ……』

 

 『聞こえてますよ、心の声ガバガバですよ……』

 

 後に、この件についてタイラントはモモンにレポートを提出したがそれは諸般の理由により割愛させてもらう。

 

 「でも、流石にこの量は某だけでは厳しいでござるよ……」

 

 ハムスケとてトブの大森林で森の賢王と言われた魔獣。

 自分の力量と対する敵の戦力差の計算は出来ているつもりだった。

 まして相手はアンデッド、死の塞がった死兵であり、その数の暴力は決して侮れるものではない。

 新参者故、モモンに良い所を見せたい気持ちもあるが、主君に使えると決めた以上無駄に死ぬつもりもなかった。

 おまけに下手に手傷を負えば、アンデッド化する可能性も大いにあり得る。

 主の命令に逆らう事に後ろめたさはあったが、無理なものは無理とハムスケなり言ったのだ。

 

 気落ちしながら答えたハムスケを見てタイラントは腕組みをして考えてみる。

 そして一つの結論に達する。確かにハムスケの言う事はもっともな事だと。

 只、単純にハムスケが臆病風に吹かれたのであれば、一考する価値無しで強力な強制力をもって命令を実行させるつもりだった。

 だが格下の相手とは言えこの量のアンデッドだ。

 戦闘中に負傷する可能性は十分大きいだろう。

 感染した巨大ハムスター・ゾンビなど想像もしたくないし、せっかくネームドモンスターを騎獣にしたと言うのに、それをアンデッドにしてしまってはモモンの名に傷が付く。

 【漆黒の剣】無き今、英雄モモンを演出する為にはハムスケと言うネームバリューは今後否応なしに必要になってくる。

 なので、この魔獣は大事にしなくてはならないのだ。

 

 

 「……ふむ、ハム公の言い分にも一理ある。良かろう、生物兵器・創造(クリエイト・バイオウェポン)

 

 そうタイラントが唱えると、地面から鉄のカプセルが6つ地面から勢い良く飛び出した。

 そして、プシューと空気が抜ける音と共にカプセルの重そうな蓋がバタンと倒れ、中から緑色の異様な姿をしたモンスターが現れた。 

 

 【ハンターα】

 

 人間と爬虫類の遺伝子を組み合わせたB.O.W.。

 爬虫類ならではの硬い鱗と、異常に発達した爪、素早い動きで獲物を確実追い詰める恐怖の狩人。

 安価な生産コストな上に、俊敏性、凶暴性、耐久性、どれをとっても素晴らしい性能を誇る。

 中でもその鋭利な爪から繰り出される攻撃“首刈り“は低確率で即死判定すら出す。

 そして何よりB.O.W.の中でも比較的賢い部類に入り、簡単な命令の実行、仲間との連携攻撃すらも可能。

 まさに狩人と呼ぶに相応しい強力な生物兵器である。

 

 「……我が息子達よ、狩りの時間だ。群がるゴミ共と、そうだな……墓場に侵入する人間は全て、殺せ」

 

 「ひぃ、凄い怖いのが出てきたでござるぅ!」

 

 !!!!! 

 

 甲高い咆哮を上げ、残忍な狩人達は動き出した。

 その大柄の身体からは想像も出来ない機敏な動きで、次々と手当たり次第にアンデッド達に襲い掛かり、その鋭利な爪で切り裂いて行く。

 カタログスペックだけ見れば、中位アンデッドのデスナイトと同等程度かそれ以下だ。

 しかし、ハンターは群れで狩りをする。

 一体だけでもそこそこ強いのに、群れるとなればその戦闘力はぐんとはね上がる。

 並みの冒険者ではハンターと目が合った瞬間に首が飛ぶだろう。

 

「……これで寂しくなかろう?さぁ貴様も務めを果たせ」

 

 

 

 

 「な、なんじゃこの音はっ!」

 

 墓地に響いた聞き慣れぬ爆音にカジットは肝を冷した。

 それはある意味確信めいた直感でもあった。

 背中に流れる凍てつく汗と、見に覚えがある濃厚な殺気。

 “奴が来た“、あの赤目の黒い悪魔が宣言通り自分を殺しに来た……と。

 

 「くっ、何故こんな事に!何故……!」

 

 野望達成を目前にして、とんでもない障害にぶち当たったカジットは酷く狼狽する。

 圧倒的なアンデッドの壁、自称最強の戦士であるクレマンティーヌ、そして二体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)と言う切り札。

 だが、何故かそんな万全とも言える備えが心もとなく感じるのだ。

 

 「は、早く儀式を進めねば……」

 

 墓場に響く爆発音がだんだんと近くになっている。

 侵入者達は隠れて行動などしていない、あの大量のアンデッドの群れを正面から薙ぎ払いながら此処に向かって来ている。

 狂っている、常識的に考えればどんなに腕に覚えがある冒険者とてそんな事はしない。

 だが、次々と減っていく召喚したアンデッドとのラインがそれが事実である事を裏付けていた。

 

 「あちゃー、カジッちゃんこれはヤバイわ。アイツが来た」 

 

 ふざけた声ながらも、顔が真剣なクレマンティーヌがそう言った。

 

 「くっ、あと一歩だと言うのにっ!」

 

 

 !!!!!

 

 自分達の直ぐ後ろで起きた爆発に儀式を行っていたズーラーノーンのメンバー全員が振り向いた。

 爆発によって立ち込める砂ぼこり、パラパラと小石が落ちるその奥から一つの影が姿を現す。

 

 「……よぉ、首はちゃんと洗ったか?」

 

 煙を上げる躑弾銃に新たな弾を込めながら、狼狽える集団に向けて親しげにタイラントはそう言った。 

 中折れした銃を戻す際に鳴るカチンと言う心地よい金属音が、静まりかえる墓場にいやに響く。

 赤目の死神がやって来た。

 カジットは自分に向けられた妙な筒を睨みながらも、言い知れない恐怖に支配されていた。 

 

 

 

 

 

 

 

  




今後近代兵器てんこ盛りで進行します。
銃に対する秘匿は墓場内においては度外視で進行します。
遠くから見られた所で魔法と区別つかないだろうし、墓場に入った輩はハンターに殺られます。
衛兵も冒険者も絶対に殺すマンのハンターから逃れる術は無い……筈。
次回、ハゲが死ぬ。

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