ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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絶望の使者part 3

 

 (あれは何だ、あれは何だ、あれは何だ……!?)

 

 ニグンは夢でも見ているのかと錯覚した。そうでなければ無数の天使が一瞬で葬られるなど説明がつかない。寧ろ、夢であって欲しかった。そうでなければ、この現実を受け入れる事など出来そうになかった。

 

 (アレは何だ?アイツ等は一体何なんだ?)

 

 未だかつてこれ程まで感じた事のない恐怖。死の気配が身体の直ぐそこに在るかの様な感覚。身体が震え、汗が吹き出すが何とか恐怖を押し殺し平静を保つ事が出来たのは陽光聖典としてのプライドか。

 驚愕するニグン等を前にアインズが一歩踏み出す。その様を見て一同は思わず後退りをしてしまう。目に見えぬ【何か】を感じたからか……いや、その【何か】など分かっている。この不気味な魔法詠唱者からは尋常ではない殺意が滲み出ている。全てを飲み込む程のドス黒い殺意が。

 

「確か無知で愚か……と言ったか?まぁ、良い。己の愚劣さを噛みしめながら……」

 

「死ね」

 

監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)っ!」

 

 ニグンの掠れた声に従い、神々しいと言っても過言ではない天使が動き出す。全身が鎧の上位天使、その手には大きく頑丈そうなメイスが握られていた。しかし、この天使の特殊能力【視認する自軍構成員の防御能力を若干引き上げる】は自分が動くとその効果は消える。故に待機させておく方が賢い。だが、その効果よりもこの天使の力にすがりたかったのだ。得体の知れない【化け物】を前にして正気を保つ為には。

 監視の権天使が動くと同時に部下達も次々に攻撃魔法を詠唱を始める。あらゆる魔法の一斉攻撃がアインズ達に降り注いだ。空気を、大地を穿ち塵も残さぬ様な徹底的な攻撃が展開された。まるで自身の恐怖を打ち払うかのように、半狂乱になりながら魔法を撃ちまくるニグン達だが……

 

ヴォゴンッ!

 

 先程の爆音が砂埃の奥から響くと、目の前の監視の権天使の上半身が火花と共に弾け飛んだ。まるで硝子細工が砕け散るかの如く、木っ端微塵に爆散した。如何に防御に優れると言ってもタイラントの持つ120mm 無反動砲、対巨竜用粘着榴弾を耐えられる筈がない。至極当然の結果だが上半身を失っても尚、フワフワと浮かぶ権天使。その滑稽とも言える様子を心底楽しみながらアインズは言う。

 

「そら、粗大ごみは焼却するに限るぞ……ヘルフレイム」

 

 アインズの指先から漆黒の火が放たれる。しかし、火と言うにはお粗末な程小さな火だ。吹けば消えそうな程小さな火だが、その火が監視の権天使の身体に触れた瞬間、漆黒の火は全てを焼き尽くす焔と化した。離れた場所に居るニグン達ですらあまりの熱さに目すらまともに開けられなかった。余熱が顔に感じられるが恐る恐る目を開けて見ると、あまりに呆気なくニグンの上位天使は天に召されたのだ。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 悲鳴にも似た叫び声を上げながら魔法攻撃を乱射するニグン達。あの天使が、上位天使がまるで赤子の手を捻るより容易く葬られる様を見て正気を保てる者など居る筈が無い。死にたく無い、只その一点で盲目的に攻撃呪文を叫び続けた。

 

〈人間種魅了〉〈正義の鉄槌〉〈束縛〉  〈炎の雨〉〈緑玉の石棺〉

〈聖なる光線〉〈衝撃波〉〈混乱〉   〈石筍の突撃〉〈傷開き〉……

 

 

 

 

 

『全部聞き覚えのある呪文だな』

 

『えぇ、全部ユグドラシルの呪文で間違いないです』

 

『解せんな、誰かが魔法を教えたのか?最初からそうなのか?』

 

『スレイン法国の人間にユグドラプレイヤーが居るのかな……』

 

『そもそも、この世界の宗教がどんなものかは知らんがキリスト教やイスラム教が在るわけではあるまい。だが奴等は天使を【アークエンジェル】と言う。それはおかしい。形の無い神の存在を想像し具現化するのは簡単に出来るもんじゃない。それこそ何世紀もの時間が必要だ。故にキリスト教を知る人間がどっかに居るかもしれん』

 

『タイラントさん、宗教関係詳しいですね……』

 

『なに職業柄少しだけ調べただけさ。地球が駄目になる瀬戸際でも宗教の違いで戦争してる奴等とも付き合いがあったから』

 

『そ、そうですか。兎に角アイツ等からは聞かなくてはいけない事が沢山ありますね』

 

『まぁ魔法ぶつけられるのも、鬱陶しいし……』

 

『『そろそろ、アルベドがキレそうで怖い』』

 

 二人の気持ちが人知れず一つになった瞬間だった。

 

 

 

 「ひゃあぁぁぁ!」

 

 錯乱した一人が腰からスリングを取りだし礫を放った。魔法が効かない、まして天使の剣も効かないのに何の効果があるのか、しかし冷静な判断など誰一人として出来る状況ではない。ニグンすらもその行為を止める事なく只見ていた。放たれた鉄のスリング弾はアインズとタイラントの頭にまっすぐと飛んでいく。人の頭位なら容易く砕く事が出来る重さの礫だ。直撃すればあるいは……淡い期待を抱くが、突然爆発音にも似た音がした。

 

 一瞬、本当に一瞬の事だった。

 

 後ろに控えていたアルベドとシズがアインズとタイラントの前に立ちはだかっていた。アルベドに関しては先程まで立っていた場所が、蹴った衝撃で大地がめくれ上がっている。アルベドは手に持ったバルデッィシュを振り抜き礫を打ち返す、シズは低い体勢からタイラントから借りた武器(持ち出し可)、中折れ式グレネードランチャーの40mm擲弾を発射する。ポンッと間の抜けた様な音と遅い弾道の煙のエフェクト、呆けて立ち尽くす礫を放った部下の頭が弾けた後、煙が身体近辺に着弾し、残った身体も跡形も無く吹き飛んだ。 

 

「な、何が起きた!?」

 

「分かりませんっ、我々も一体……」

 

「すまないな、私の部下達がミサイルパリーとカウンターアロー、二つの特殊技術を使用して迎撃し打ち返したかつ、対人用擲弾まで発射したようだ。飛び道具対策に防御魔法をかけているようだが無駄だったようだな、申し訳ない」

 

「シズ、弾ノ、無駄ダ、控エロ」

 

「申し訳ありません、でもアイツ等、無礼にも、程がある」

 

「全くその通りよシズ、至高の御方々と戦うのであれば最低限度の攻撃と言うものがございます。あのような飛礫など論外です」

 

「確かに、だがそれを言ったらアイツ等自体が失格ではないか。なぁ?」

 

 アインズの侮蔑を含んだ問いにニグンは心底恐怖した。無表情の大男、不気味な仮面の魔法詠唱者、全身鎧の女、妙な柄の給士服の女、得体が知れない不気味なまでの力を持った者達。もう、手段を選んでいる場合では無いとニグンは決意を固めた。懐にしまっている【最後の切り札】を使うしかない……と。

 

「さ、最高位天使を召喚する。時間を稼げ!」

 

 死への恐怖は都市規模の破壊をも可能にする最高位天使を召喚する事の躊躇いをすべてかなぐり捨てた。この天使を召喚するためにかかる費用や労力は想像を軽く越える。だが、コレを今使わないで何時使うのか?この得体の知れない未知の化け物共にはやはり、最高位天使でなければ話にすらならないだろう。二百年前、魔神の一体を単騎で滅ぼした最強の天使である……

 

 【威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)】を。

 

 

 

 

 

「最高位天使だと?あれは魔法封じの水晶だ、それにあの輝きは超位魔法以外を封じるものだ……」

 

「サガレ、団長、オレ、ガ、殺ル」

 

「だが、熾天使級(セラフクラス)相手では……」

 

「オレハ、盾ダ」

 

「タ、タイラント様!それは私めの役割……」

 

 アルベドやシズの制止を振り切り、アインズの前へと立ち塞がるタイラント。絶え間なく攻撃魔法が身体に当たるがビクともしていない。元々、魔法耐性や物理耐性はずば抜けて高く、並大抵の攻撃ではタイラントにはダメージすら通らない。

 だが熾天使ともなれば話は別だ。魔の対極である天使の中でも正しく最高位の天使。その聖なる力を持ってすれば如何にタイラントとて無傷では済まない。本気で戦わねばかなり不味い相手になる事は間違いない。

 故に、相手が切り札を使うならば此方も使わない道理は無い。たかが人間相手に大人気無いと思うかもしれない。だが、暴虐の権化たるに相応しい力を使わない道理は何処にも無いのだ。

 

『【溢れ出す力(オーバーフロー・フォース)】 』

 

  

 

 ニグンは手に持った水晶を規定使用方法通りに破壊すると眩い光が辺りを包んだ。地上に太陽が落ちたかの様な爆発的な輝きは最高位天使の召喚を意味した。

 そして、目の前には伝え聞く伝説の天使が降臨していた。

 

「み、見るが良い……この尊き姿を!威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)

 

 アインズはあまりに拍子抜けしたのか、頭痛がした気がした。最大限の警戒をしていたのにも関わらず熾天使ではなく、主天使が出てきた。驚きを通り越して最早何も言葉が出てこない。それなのに、目の前の男ときたらドヤ顔で「威光の主天使やで!」と言ってるし……、タイラントに至っては【溢れ出す力】を発動して狂化されてるから主天使程度では足止めにもならない。まぁ、全ては最悪を想定して行動するのが最善の選択だと思っているので、スレイン法国の皆さんには悪いが御愁傷様と後で言っておこう。

 

『熾天使でなく、主天使だ、と……』

 

『あー、なんか早とちりしたみたいですね僕ら』

 

『完全にオーバーキルしてしまう件について話が……』

 

『まぁ、彼等も少しは希望が見れたし良いのでは?』

 

『ならワンパンで片付ける、ワンパンでだっ!』

 

『大切な事だから二回言いましたね……タイラントさん』

 

 威光の主天使の降臨で沸き立つニグン達だが、一方でタイラントの方も負けてはいない。身体の防爆コートと拘束具が弾け飛び、岩石の様な肌が露になる。その二の腕は巨大化し、裂けた肌の間に溶岩の様なラインが出ている。巨大化した片腕の爪が異常発達し、最早人間らしさなど何処にもない。

 

 「諸君、紹介しよう。彼が【ナザリックの核弾頭】……」

 

超・暴君(スーパー・タイラント)!」

 

 




やっと一巻が終わる……

次回、ニグン拷問されるってばよ!の巻き

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