ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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モブですがオリキャラが出ます。ご注意を。


絶望の使者part 1

 

 その男はリ・エスティーゼ王国の戦士長と名乗った。男は騎兵達の前に出るや否や油断無く俺達を見回し、後方に控えるアルベドを暫く見ていた。アルベドから視線を外すと再び鋭い眼光を俺達に戻し、自身の官姓名を名乗るに至る。

 このガセフと言う男は生粋の軍人、いや戦士と言った所か。身体から殺意やら敵意が溢れているのは俺達を警戒しているからか?まぁ俺も団長も見た目は悪いし、何しろ不気味だから警戒されても仕方がない。

 暴力を生業とした職業において絶対必要スキルは敵の我との【戦力分析能力】だと俺は思っている。現状の我の戦力で敵は倒せるのか?その判断を正しく行える奴は戦場で長生き出来る。

 コイツは恐らくは【ソレ】が出来る奴だ。精強な部隊は兵士をを見れば解る。士気旺盛にして、部隊の統制が取れている……かつて俺の部隊がそうであった様に。

 そう思うと何故か不思議と親近感が沸いてきた。それは俺が軍人として、同じ指揮官としてガゼフと言う男を評価しているからだろうか?この集団はとるに足らない人間共と油断するには少々危険だと俺は思う。

 恐らくこの戦士達は己の死を恐れず俺達に向かって来るだろう。圧倒的な力の差を知っても尚、たとえ最後の一兵になっても戦う事を放棄せず玉砕する。信頼出来る仲間、忠を尽くすに値する指揮官の存在、手強い部隊の見本みたいな奴等だ。

 団長と村長がガゼフ・ストロノーフとやり取りをしている。喋れない俺が口を出す必要は無いだろう。リ・エスティーゼ王国はこの地を統轄している国家って事は解っている。

 しかし……だ、俺が今出来る事は【THE・威嚇】のみ。団長のちょい後ろに控えて全力で騎兵達を牽制をする。妙な真似したら即ぶち殺すと言わんばかりの殺気を放ち、睨みつける。現状、敵か味方すら分からんし、遠慮なんてしてられん。

 だが団長の作戦を俺の軽率な行動でぶち壊してしまっては目も当てられん。もう少し、考えて行動せねばなるまい。

 俺はもう、日本国防軍、特殊作戦旅団、特務少佐【的場巌】では無く、ナザリック地下大墳墓の【タイラント】として生きて行かねばならんのだから。

 

「そちらの御仁にも感謝申し上げる」

 

 おおぅ、知らぬ間ガゼフ・ストロノーフが目の前で頭を下げている。戦士長と言う役職がどの程度のものかは分からんが身分も身元も分からない不気味さMAXの俺達に敬意を示し頭を下げるとはな。村長や部下の反応を見れば分かるが驚愕すべき事なんだろう。

 まぁガゼフと言う男の人柄か、単にそんなに階級意識が低い世の中なのか、俺には分かりかねるが真摯的な態度には素直に好感を抱いた。

 だが、貴様には言わせてもらう……いや言わねばならん。

 

「感謝スル、前二、反省シタラ、ドウダ」

 

 耳を疑う返答にその場に居た者全て凍りついた。無礼極まりない発言に只でさえあまり良い雰囲気では無い空気の中、正に特大の爆弾を弾薬庫と燃料庫に直接投下した様なものだ。だがタイラントはそんな事はお構い無しに無表情のまま、ガゼフに淡々と言った。

 

「弱キ者、死ンダ。貴様等ガ、非力、故二」

 

「……返す言葉も無い」

 

「感謝ナド、要ラン。力ヲ、持ツ者、ナラバ、示セ」

 

 タイラントの手には先程の騎士の兜が何時の間にか握られていた。そして、その鋼鉄の兜をグシャリと一息で握り潰すとガゼフの前に拳を突きだし、潰れた兜を落とす。

 見るも無惨な鉄の塊と化した兜を見たガセフは大男の尋常では無い怪力に驚きを隠せなかった。

 

「ご忠告、痛み入る。聞けば貴殿がこの村を救った立役者と。是非お名前お聞かせ願いたい」

 

 村を救った事には違いないが、寧ろもっと厄介な状態になっていると村長は思っていたがそれを口に出す勇気はなかった。噂に聞く戦士長ならばこの得体の知れない大男を倒せるかもと期待をしたが、一目見てそれが無理だと解ってしまう。強さの規格が違うのだ。恐らくこの戦士達が束になって戦っても結果は先程の騎士達と同じ運命を辿ると確信出来る。

 だからこそ、この場において口を閉ざすほか村長に出来る事は無かった。

 

「タイラント、ダ」

 

「タイラントは私が最も信頼出来る腹心、いや友です。ですが人智を超えた呪いの影響でね、彼は上手く喋れないのですよ」

 

「それは難儀な事だ。だがゴウン殿の友であれば……」

 

 ガゼフが何かを言いかけた時、血相を変えた一騎の部下が凄い勢いで村へと進入し、叫ぶ様に報告をした。

 

「戦士長っ!周囲に複数の人影!村を囲む形で接近中!」

 

 まぁ、なんと言う事でしょう。問題が問題を呼び寄せる問題が発生したぞ。こんな辺鄙な村にガゼフも敵も本当にご苦労な事だな。巻き込まれる村の人は迷惑極まりないだろうよ。

 アインズ達は取り合えず村長の家へと向かうがタイラントはでか過ぎて入れないので家の窓付近に立ち、中の話が聞ける位置で周囲の警戒をする事にした。

 

「成る程、確かに居る……な」

 

 ガゼフは窓から見えた人影を確認すると忌々しく吐き捨てた。見える範囲で三人が等間隔を保ちながらゆっくりと向かって歩んでくる。その隣には並ぶ様に浮かぶ羽根の生えた異形の者が居た。

 奴等は其を【天使】と言う。

 異界より召喚されるモンスターであり、スレイン法国では神に使えているとも言われているが真偽は不明だ。

 

炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だなあれは』

 

炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)ですねあれは』

 

『ユグドラとある程度共通している事は認識していたがモンスターも一緒か』

 

『召喚モンスターとして存在しているのか……いや、あるいは……』

 

『次から次へと問題がてんこ盛りだ、なぁ団長』

 

『ですね……はぁ、こんな長引くとは思わなかった。演技するのも疲れるんだよなぁ、早く休みたいよ……』

 

『同感だ……』

 

 肩を落とすアインズとタイラント。精神的疲労は溜まる一方で発散させるすべは無い。食欲、睡眠欲、情欲、快楽的な欲求が全然湧かないのだから困ったものだ。仮に情欲が爆発したとしても精神抑制が発動してやる前から一気に賢者モードになってしまう。欲を断つ事に馴れたタイラントはさほど苦には感じていなかったがアインズにはキツい面もあるだろう。

 

「ゴウン殿。良ければ雇われないか?」

 

 ガゼフの依頼にアインズは直ぐには反応しなかった。ガゼフに加勢して此方に何かメリットがあるかを考えていたからだ。軽率に加勢をすれば、今後王国に徴兵される等も考えられる。いずれは何処かの国に属するのも悪くないと考えているが今ではない。現状、ガセフに加勢するメリットは少ないと言えた。

 

「報酬は望まれる額を約束しよう」

 

 ガゼフは更に畳み掛けた。それほどまでに事態は切迫している。事態だけでは無い。戦力も装備も、あの魔法詠唱者達と戦うには何もかもが足らな過ぎるからだ。

 

「お断りさせて頂く……と言いたい所だが条件付きで良ければ力になりましょう」

 

「願っても無い事だ、何なりと言って欲しい」

 

「まず私達は村を守る事を最優先させてもらう。村の安全が確保でき次第、ガゼフ殿の加勢に向かいましょう」

 

「それは有り難い!この村を守れなくては何の意味も無いからな」

 

 不意にアインズは窓を背にガゼフへと向き直した。夕陽が身体に被りその影がアインズの不気味さ更にを増す。嫌な冷や汗がガゼフの額を流れるが拭う動作すら出来なかった。

 

「我らに矛を向ける事がいかに傲慢で愚かな事か、力でしか分からぬのなら力で知らしめる。その力が……」

 

 

「コノ、俺ダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日も傾いた道をタイラントは歩く、特に急ぐ訳でもなく。堂々と道の真ん中を歩いている。

 威風堂々とさえ思える姿だが状況が状況だけに異様としか言い様がなかった。武器を持っている訳でも無く、かと言って命乞いをしに来た様にも見えない。

 遠目から見ても、かなりの大男だと分かるが……只、其だけだ。 

 そんな無謀な大男に嘲笑し、容赦無く天使を差し向ける襲撃者達。天使の持つ真紅の剣は男の身体を確実に貫く……筈だった。

 天使が迫っているにも関わらず、歩みを止める様子を見せない。唯一先程と違ったのは大男の手に【黒い何か】が握られている。

 見たことの無い道具をいつの間にか持っていたのだ。

 

 ブウゥゥゥゥン!!

 

 腑に落ちない事を考えていた瞬間、耳を貫く聞き覚えの無い爆音が響く。同時に差し向けた天使達が文字通り弾けとんだ。バラバラに、或いは穴だらけになり光の粒子を散らしながら消えたのだ。

 何が起きたのか全く理解出来ず、その場に居た者は皆暫く呆けてしまっていた。あまりに突発的な事態に思考が追い付かなかったから。一人、正気を戻した者が再び天使を召喚し、大男へと突貫させるが……手に持った奇妙な回転する筒が向けられ再び轟音が炸裂すると共に火を吹くと、天使だけではなく召喚者ごと砂埃の中に飲み込まれ姿を消した。

 爆音が止み、静寂が辺り一帯を支配する。やぎて一陣の風がビューっと吹くと舞った砂埃を散らす。

 やがて砂埃の向こうに見えてくる塊。その【塊】を見た者は嗚咽と共に震え上がった。

 何故ならば、その塊は人としての原形を留めない只の【肉塊】だったからだ。

 

「何だ!何が起きたんだ!」

 

「ジ、ジャックが死んだ!どうなってんだ!?」

 

「ひ、ひでぇ!ミンチよりひでぇよ!神様っ!」

 

 吐き出す者、神に祈りを捧げる者、震える者、誰一人として冷静さを保てる者など居ないかに見えた時、鋭い怒号とも言える指示が浮き足立った者を正気に戻した。

 

「隊列を乱すなっ!全員集合!天使を召喚し突撃隊形!一気に叩くぞ!」

 

 

 恐慌状態に陥った中、一人冷静さを保った指揮官とおぼしき男が指示を出す。

 村の包囲殲滅を任された分隊長トール・ラドクリフ。スレイン法国、陽光聖典に長く所属する猛者である。

 その猛者をして目の前に居る大男から嫌な感じがしていた。まるで強大な魔物が目の前にいる様な感じがしてならなかった。本能という本能が警告を上げているのだ。此処から早く逃げろと、さもなくば死ぬぞと言わんばかりに。

 震える身体と心に鞭を打ち、天使を召喚させる。戦力の出し惜しみはしない、一斉攻撃でこの違和感の元を断つ。

 部下達を集結させ一斉攻撃準備をさせるトールだが、それが無意味だと知ったのはもう暫く後だった。

 

 何処に隠れて居たのか約十名程が姿を現す。どうやら村を包囲する部隊が集結した様だ。それに比例して当然浮かぶ天使も増えている。一対二十の戦力差だがタイラントにとっては脅威でもなんでもない。右手に持ったガトリングガンを起動させ発射、そして横に薙ぎる。発射された弾丸の雨は哀れな標的達に容赦無く降り注いだ。

 

 あの奇妙な音が聞こえた瞬間、集結した部下とその隣に浮かぶ天使が一斉に弾けた。あの筒は何かの飛び道具なのは間違い無い。当然、我々は飛び道具に対する防御魔法を発動させ行動している。つまり並大抵な攻撃では破られない筈なのだ。しかし、その魔法を易々と貫き、盾にした天使をも貫く攻撃。

 身体が弾け、血飛沫を上げながら四肢がもげる部下の様を見て思った。本当に何が起きているのか分からない、これは夢なのではないかと。

 しかし、何かが肩を穿った激痛で現実だと言う事を嫌でも認識させられた。凄い衝撃が身体を突き抜けると同時に吹き飛ばされ、何度も地面に叩きつけられながら岩に当たり漸く止まる。混濁する意識の中、立ち上がろうとするが腕が動かない。ぼやける目を凝らして腕を見た瞬間、トールは後悔と絶望をした。

 

「う、腕がぁ!俺の腕がぁぁぁ」

 

 痛みがした腕を見てトールは絶叫する。

 何故ならば右肩から下、上腕部から下が千切れて無くなっていたからだ。止めどなく流れる血が恐怖と痛みを何倍にも膨れあがらせた。

 

「全ク、煩イ、人間ダ」

 

 片腕が千切れた人間の足を掴むと引きずりながらタイラントは再び歩き出す。

 泣き叫ぶ男を無視して死屍累々の道を進む。目指す場所はガゼフ達が戦う戦場。ゆっくりと、だが確実に進んでいく。

 

 ナザリックに刃を向けた愚か者達に恐怖と絶望を届ける為に…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ニグンまで出せなかった……
次こそは、ニグンを出すぞ!

次回、ニグン漏らすの巻き。

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