ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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接触

 カルネ村では合同の葬儀が行われていた。墓地と言うにはみすぼらしい、墓石の代わりに置かれたであろう石が何とか墓地としての体をなしていた。村長が亡くなった人達に鎮魂の言葉を述べている。

 タイラントはその葬儀を見て複雑な気分になっていた。それは錯覚と言うべきか、村の葬儀の様子が自分の記憶に埋もれた過去がフラッシュバックしていたのだ。

 国の為に戦い、命を落とした部下達が国立墓地に埋葬される事無く、無名の兵士以下の扱いで処分された光景が鮮明に甦る。その棺桶には国旗も無く、見送りの儀式も無い。無縁仏として合同で埋葬されていた、あの時の様子が。

 

「全く、死んだその日に埋葬とは気が早いな」

 

「異界ノ、習ワシハ、解ラン」

 

蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を使えば蘇生は簡単だが……」

 

「止メテ、オコウ、団長」

 

「肯定だ、我々に利益が無い。村を救ってやった、これで満足して貰おう」

 

 アインズも、タイラントも【死】に対する処置には抜かりはない。前衛職であったタイラントも何度お世話になった事か。無論、タイラント自身も蘇生アイテムは複数持っている。戦う以上、常に損害を被るリスクを考えなければ足元を掬われる。備え有れば憂い無し、万全の体制を常に心がけているのだ。

 要するに、二人がその気になればこの村全員死んだとしても蘇生は可能である。

 しかし、【死】すらも乗り越えられる力を持つ者が世間に広まれば大変な事になる。まして大規模な術式も必要無く、ファストフード感覚で死者を蘇らせてしまう魔法詠唱者と……大男。

 確実に厄介事に巻き込まれるのは間違いないだろう。例え口止めしたとしても、きっと漏れる。生きている以上、絶対に話さないと言う確約など出来ないのだから。

 アインズはアルベドに後詰めや今後の方針を説明をしている。特に不可視能力を持つシモベの派遣や誤情報による村の襲撃の中止命令等、中々忙しい様子だ。この後にまだ村長との話し合いの続きもある。

 

【ピンチな村を助けました~めでたしめでたし】

 

 そう単純に済めばどんなに良い事か。アインズだけに負担をかけてしまっている事にいたたまれなくなったタイラントはすごすごとその場を後にした。

 ドスンドスンと重たい足音を立てながら村の中を腕を組んで歩く。葬儀で無人となった村はシンと静まりかえっていた。

 後詰めの兵といえば俺の部下、いや【兵器】を投入するべきか考える。人里に放つだけで無差別攻撃かつ接触感染するウイルスでゾンビを大量生産する便利な奴等だが……

 

「村ガ、壊滅スルナ……」

 

 かつて俺達にケンカを売ってきた弱小ギルドの拠点にネメシス(復讐の女神)一体で襲撃させたら1時間足らずで壊滅させる成果を上げた。俺の【兵器】は殲滅、制圧戦ならば無類の強さを誇るが如何せん【生物兵器】の種族は知性が低いので難しい命令は実行出来ない。【殺す】か【殺さない】か位の単純な命令ならば可能かもしれないがそれでも怪しいものだ。まだ実戦投入は早すぎる。この世界の情報が足りない今、戦線の拡大は好ましくないからな。

 それにしても、何かきな臭い感じがする。俺の第六感、戦場特有の匂いが、風がまだピリピリと身体に感じるのだ。大体こんな小さな村を襲撃する理由が解らん。盗賊ではない正規軍がわざわざ村を襲撃するのは不自然だ。

 まさか此処が重要拠点?こんな小さな村がか?

 なら食料確保の為か?しかし食料確保もしないで家を燃やしていた。

 奴等の手慣れた様子を見るに行き当たりの襲撃では無い。何か他に理由があるならば、この戦、まだ終わりでは無い。

 大体、敵国のジェノサイド部隊を蔓延らせているのにこの国の治安組織は何をしているのだ?まぁ、通信設備も移動手段も古代クラスの世界では迅速な対応も出来ないのも仕方がないか。

 考え事をしながら歩いていたら村の入口の所まで来ていた。あまり賢く無い俺でもこの有り様だ。団長はこの未知の世界でナザリック皆の為に手探りで歩いている。それはギルド・マスターならやって当然だろうなどと俺は思いたくない。我々が生き残る為には皆が力を合わせなければならない。なら俺は俺の出来る事を愚直にやるだけだ。有り余るこの力と軍事面で団長を支えナザリックの安全面をより強固なものにするのが俺の役目だ。

 

「神ノ悪戯カ、悪魔ノ所業カ……」

 

 どこまでも続く青い空を暫く見上げていたタイラント。一体自分は何の為に此処へ来たのかと答えの出ない問題を改めて深く考える……が、何かがショートしたのだろうか頭から煙りが上がると弱々しく村の方へと戻っていった。

 

 

 村の中をタイラントが歩いているといつの間にか前に何かが立っている。目線を下げると其処には子供が居た。

 あ、危ねぇ……危うく踏み潰す所だった。歩いているだけでスプラッターとか本当に嫌なので気をつけて欲しい。【飛び出し注意!タイラントは急には止まれない!】と書いてある看板でも後で作らせようかな……

 

 その時、ボスっと身体に何かが当たる感覚があった。

 

 前にいる子供、男の子が俺に向かって石を投げた様だ。何か俺、悪い事したかな?いや俺の見た目的な問題かな?しかし、良く俺に臆せず面と向かって石を投げれたな。ぶち殺した騎士達だって俺に向かって来れたの一人位しか居なかったのに。俺は君に素直に称賛を贈りたいけど、ナザリックには優秀なセ●ムが居てな……

 

「至高の御方に対する無礼、万死に値する……」

 

 ほら見なさい、凄く早いでしょう?優秀なのよアルベドさんは。大げさだと俺は思うんだよなぁ、何も殺す事ないじゃない子供のした事なんだからさ……

 躊躇無く降り下ろされたバルディッシュを軽く指で弾くとタイラントは大きく頷きアルベドを制止した。取り合えず子供の言い分を聞く為に。

 

「そんなに強いのに……何でお母さんを助けなかったんだよ!」

 

「知ラン」

 

 タイラントは子供の必死な訴えを一言でバッサリ斬った。

 いや、俺も言いたい事は沢山あるが出てくる言葉が少なく、単純になってしまうのだから仕方がない。男の子もまさかそんな答えが返ってくるとは思ってなかったのか絶句している。

 まぁ正直、こっちも行き当たりばったりで介入した様なものだし、到着以前の犠牲者に関してはどうしようもない。蘇生だって不可能じゃないがするつもりも無い。君には悪いが御愁傷様としか言えないんだよな。

 

「至高の御方に向かって……」

 

 隣でガタガタと身を震わせてるアルベド。触ったら爆発してしまいそうな程怒っているな。その忠義には感心するけど、まずは落ち着こうか。深呼吸をしなさい、深呼吸を。こんな小さな事でイライラしてたらこの先大変だよ?美人なんだから寛容に広い心を持って生活しようよ……

 

「弱キ者ニ、生キル、資格ナド、無イ」

 

 タイラントは子供を掴むと顔の前まで持ち上げて言った。弱肉強食の真理を直に説いてやった。白濁した目と顔の迫力、想像を越えた恐怖で子供は直ぐに気絶してしまった。別に怖がらせるつもりは無かったのだが、この先またナザリックの者に同じ様な事をしでかせば確実に殺られてしまう。だから少々お灸を据える意味で脅しておいたのだ。タイラントは子供を藁の山に放り投げると若干不服そうなアルベドと共にアインズが居る村長の家へと向かって歩き出した。

 日も暮れ、空が赤く染まる頃に漸く村長との話は終わった。やれやれ、まさか丸一日かかるとは思わなかったな。団長曰く、この世界の事を知れば知る程分からない事が増えていく。でもそれが把握出来た事に意味があるとの事だ。今後のナザリックの動きについては帰ってからじっくり話し合うと決め、村を出るべく歩き出した……が。

 どうも俺の嫌な予感は的中したようだ、聞けば村に向かって戦士風の集団が接近中で接触まで時間も無いと村人は騒いでいる。

 やれやれ、泣きっ面に蜂も良い所だな。本当に気の毒に思うよこの村。

 

「ご安心を。今回だけは特別にただでお助けしますよ」

 

 団長も最後までやる方針に決めたようだ。まぁここで見捨てるのも気が引けるし、薄情過ぎるか。殺るなら殺るで準備をせねば、時間があればより万全の備えが出来るが……事態は切迫してるので難しいか。

 タイラントは【FIM-92スティンガー】を取りだし肩に担ぐ、村人はその異様な光景にただならぬ何かを感じたが硬く口を閉ざした。触らぬ神に祟り無し、余計な事を言ったら大変な事になるのは考えるまでもない。

 村長は全く生気の感じられないこの大男が心底怖かった。アインズを名乗る仮面の魔法詠唱者は確かに不気味だがまだ大丈夫だ。喋れるし、頭も良さそうだし、何よりも知性を感じる。だが、この大男は違う。何を考えているか分からない。分からないから恐ろしいのだ。魔法詠唱者の隣に立ち、村に向かってくる者を待ち構えているが、この男の異常な強さを知っているが故に手放しで安心する事など出来ない。何故なら何時、その暴力が自分達に向けられるか分からなかったから……

 

「武装ニ、統一性ガ、無イ」

 

「只の野党か何処ぞの傭兵団か、何にせよ警戒しなければな……」

 

「先制攻撃ヲ、開始スル」

 

「ちょ、ちょ待て、待って待てぃ!気が早すぎる!タイラントよ!」

 

 アインズは慌ててタイラントを制止し、ランチャーの発射を阻止した。いきなり此方から敵対行為をしてしまう事は避けたかったのだ。

 あくまでもアインズ・ウール・ゴウンは救世主であり虐殺者では無い事を広めなければ今日の苦労は無駄になってしまう。だからこそ、タイラントには自重して欲しかった。

 アインズの制止を受けて渋々ランチャーを肩から下ろす。タイラントとしては射程外からの先制攻撃は出来るならやりたかった。何故なら向かってくる集団は恐らく手練れであると確信していたからだ。タイラント・ズーム・アイで騎兵の姿を確認して改めて思う。先程の腑抜けた騎士とは違うと。

 軍事組織が統制した装備である事には理由がある。それは識別だったり、士気の高揚、装備の互換性だったりと組織としてのメリットがあるからだ。

 だが、この集団は明らかに違う。自分達の使いやすい様に装具を改造している。単純に戦い易さを追求している様子が装具から見てとれた。奴等からかつての自分と似た何かを感じた。それ故に先手を取って撃滅してしまいたかったのだが。

 そうこうしている内に統制された騎兵達が村へと入って来る。その数20騎。アインズとタイラントを警戒しながら前に見事に整列する。やはり自分の見立ては間違ってはいなかった事をタイラントは感じた。

 そして、その集団の中から一人の男が前に出た。見るからに屈強そうな、恐らくは指揮官であろう人物だと一目で解った。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガセフ・ストロノーフだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仕事が忙しくて中々更新出来ません。

次回、ニグン、絶句の巻き

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