The Song of Yggdrasil.   作:笛のうたかた

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旅人とナザリック―3

 「……来たね」

 

 ぶわっ、と地面から膨れ上がったおどろおどろしい影が門を形作り、彼方より此方へその口を開いた。

 ひやりとした空気にアルンは目を眇める。属性攻撃でも状態異常でもないそれは、瘴気を伴う魔の気配に他ならない。鋭敏になりすぎた五感とスキルが教えてくれる。そこに現れたのは死の支配者に並ぶ、生命の怨敵だと。

 

 「――どうやら、わたしが一番のようでありんすね」

 

 アルンよりも幼げでありながら、妖しげな美を湛えた少女が〈転移門〉から歩み出る。漆黒のボールガウンを纏うゴシックロリータとパーティドレスを足し合わせたような装いは、果たして白蝋の如き肌を隠すためか、それとも少女の本性を秘するためか。

 頭の片側で結われた長い銀髪を揺らし、スカートの端を摘まんだ少女が、敬意に満ちた仕草で恭しく礼を取る。濡れたように赤い瞳が一瞬だけアルンに向けられ、妖艶なる美貌がその瞬き一秒に満たぬ間、不審と警戒に彩られた。だが次の瞬間にはまるでそんな事実は存在しなかったように、麗しき微笑みが隣のモモンガに注がれている。

 

 「モモンガ様、第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。仰せにより罷りこしました」

 「……ああ、よく来た。わざわざ手間を取らせてすまないな」

 「何ともったいないお言葉。我が君の命とあらば、いついかなる時でも馳せ参じます。……それで、モモンガ様」

 

 通り一遍の挨拶が済み、真紅の虹彩が改めてアルンを見た。いや、睨みつけたと表現する方が正しい。

 

 「そこなエルフは一体何者でありんしょうか? 侵入者の報告も客人があるとの連絡もわたしの元に届いては……それに、ここの階層を守護するチビたちの姿もないのは、どういうことでありんしょう?」

 「詳しくは全員がそろってから説明する。ただ、そうだな、アウラとマーレはそこの貴賓席で熟睡中だ。起こしてやるといい」

 「――は? 階層守護者が至高の御方を出迎えもせず寝こけていると!?」

 「正確には睡眠のバッドステータスだが、不幸な行き違いがあっただけで二人の責任ではない。不慮の事故のようなものだ。叱責するつもりはないから、よろしく頼む」

 「はっ!」

 

 格式張った態度は部外者のアルンがいるからだろうか。それとも普段からこんな喋り方なのだろうか。

 大急ぎで遠ざかっていく背中を見送りながら、アルンは空中に腰かけたままそっと息を吐く。ひとまず危険はなさそうだが、モモンガの危惧は当たらずとも遠からず。命令が浸透して安全が保障されるまで、一人歩きは自重するべきかもしれない。

 

 

 

 ―――くぉらぁぁぁぁあ!! さっさと起きろやぁぁぁぁあ!!

 ―――うわっ、うわっ!? なに、シャルティア? 何で怒ってんの!?

 ―――う、うう……耳が、痛いよ……。

 ―――うっさいチビ! アホ! 寝坊助! モモンガ様がおいでになってるのに出迎えもしないとか馬鹿でしょうがこの豆粒ッ!

 ―――は? え? モモンガ様が!? って何さりげなく付け足してんの!? 全然さりげなくないってのこのバーカッ!

 ―――お、お姉ちゃん、それノリツッコミ……? そ、そんなことより確か、侵入者が……。

 

 

 

 「……すごく面白いね、あの三人」

 「ああ、まあ、何というか、まさに茶釜さんとペロロンチーノさんのやりとりだな」

 

 引退した共通の友人を思い起こさせる会話に、二人してしみじみと過去を懐かしんでいると、闘技場の第五階層側から新たな気配が現れた。

 

 「サワガシイナ……」

 

 ガチャ、と具足を踏むような音が冷気を連れてくる。先ほどのシャルティアが纏っていた寒々しい気配ではなく、属性攻撃の判定を喰らうに足る刺すような冷たさである。

 モモンガの前までゆったりと歩み寄るその威容は、さながら氷塊から悪魔染みた昆虫の像を彫り出し、武人の概念を付け加えた侍の如し。大柄なモモンガをも上回る背丈に、無骨な鎧を思わせる甲殻と、骨格。ざらりと伸びた尾からは氷柱のように鋭い棘が生えている。

 昆虫特有の複眼がモモンガと、その横に浮かぶアルン、それから貴賓席で口論する三人の様子を眺め、思案するような気配を醸した。異形の面貌から表情を窺う術はないが、こぼれた嘆息が空気中の水蒸気をパキパキと凍らせていく。

 

 「……ナニヤラ事情ガ御有リノ様子。オハナシイタダケルマデ、コノ場ニ控エテオリマス」

 「助かる、コキュートス。ナザリックのこれからに関わる話だ。招集した全員がそろうまで待ちたい。……しかし、なかなか降りてこないな、あの三人は」

 「――遊ブノモイイ加減ニシロ! イツマデ御方ヲ待タセルツモリダ!?」

 

 怒声が飛び、びくりと身を竦ませた三人が大慌てで戻って来る。〈飛行〉で宙を駆けるシャルティア、その下を疾走するアウラ、やや遅れてマーレ。その急ぎ方だけでも特徴がよく表れていて、ほうほうとアルンは興味深く見つめる。

 

 「申し訳ありません、モモンガ様! あたしの守護階層に来ていただきながらお出迎えできなくて――ってああーッ! さっきの侵入者!!」

 

 侵入者、という台詞にシャルティアとコキュートスの肩がぴくりと震える。マーレはおろおろと周りの顔色を窺っているが。

 

 「モモンガ様、そいつ侵入者です! 断りもなくナザリックに忍び込んでたのを発見して、捕まえようとしたんですけど……ええと、その、眠らされて……それで…………」

 「負けたんでありんすね?」

 「まっ、負けてなんか……っ、負けて、なんか……」

 

 だが、言葉が続かない。尻すぼみに消えていき、左右で色の違う瞳に大粒の涙が溢れた。同じ責任を感じているのか、ぐすっと鼻を啜ったマーレの目にも雫が浮かんでいく。

 

 (ん? ちょっと待って、これ、僕が泣かしたことになるの……?)

 

 さすがにシャルティアもそれ以上何も言えないのか、沈痛な面持ちで見守るばかり。コキュートスは言わずもがな。

 いたたまれない空気を何とかしようとしたのはモモンガである。バタバタとアイテムボックスからハンカチを取り出し、先ほどの三人以上の慌てぶりで双子の目元に押し当てた。

 

 「な、泣くな二人とも。ナザリックの栄えある守護者が涙を見せるんじゃない!」

 「で、でも、モモンガ様……ぼくたち、モモンガ様のご期待を裏切って……」

 「違う、お前たちは何も悪くない。これは不幸な偶然なのだ……。アウラ、マーレ、お前たちが私の期待を裏切ったことなど一度としてないとも」

 「ほ、本当ですか、モモンガ様……? あたしたちを置いて、他の四十一人の方々のように、どこかに行っちゃたりしませんか……?」

 「しないとも。約束しよう、私は決してお前たちを見捨てたりしない。ここナザリックこそ私が帰る場所だ」

 「うっ、うう……モモンガ様……!」

 「モモンガ様ぁ……っ!」

 

 ひしっと抱き着いた双子の頭を、骸骨の手がよしよし、と撫でる。もらい泣きしたのか、シャルティアもまたぐすりとレースのハンカチを目元に当て、コキュートスは静かに打ち震えている。

 ただ一人、部外者のアルンだけが感動の輪に入れない。なんだかなー、と思いつつ、そっとハープを爪弾いた。

 優しくも悲しげなメヌエットが風に乗って流れ出し、〈真祖〉と〈蟲王〉がチラリとこちらを見るのを感じながらも、アルンは演奏を止めなかった。結果論とはいえ、自分の悪戯心が二人の子供に涙を流させたのだ。そのお詫びぐらいはさせてほしかった。

 

 「……何なんでしょうね、この状況は」

 「モモンガ様、何か問題でも……」

 

 闘技場の第七階層側から二人分の声が届き、はっと我に返ったアウラとマーレが恥ずかしそうに、そして少し名残惜しそうにモモンガから離れ、ごしごしと袖で目元をこすった。

 演奏を止め、振り返ったアルンの視界に二人の男女が映る。概ね人間を模しているが、騙す気がないのは見ればわかる。三つ揃えの紳士然とした男は邪悪な気配を隠しもせず、先端に棘の付いた銀色の尾を生やしていた。女は純白のドレスを纏い、射干玉の髪を長く伸ばした美女の姿だが、頭の左右には捻じれた角、そして腰には漆黒の翼がある。

 ひと目で人外と知れる二人をアルンは知っていた。ただ知識としてそれぞれの創造者から聞かされただけで、他の守護者たちも話には聞いたが、アルンは招待されたナザリックを見学することはあっても、部外者の立ち位置を決して崩すことなく、防衛の要である守護者たちに近付くのはできるだけ避けていた。それを残念がるメンバーはいたものの、アルンとしてはこれからも友人を続けていくための譲れない一線でもあった。

 

 「デミウルゴスと……アルベド、かな?」

 

 ほとんど口の中で囁くような声量の呟きだったが、デミウルゴスの丸い眼鏡の奥で、糸のような目が更に細められる。

 

 「ふむ、顔を合わせた覚えはないんだがね。誰かな、君は」

 

 唇を読まれた、とアルンは直感し、とっさに口元を押さえてしまう。デミウルゴスの隣には、アルベドの探るような眼差しがあった。

 この二人は他の守護者と違う。知識ではなくアルンは肌でそう察した。アウラとマーレ、シャルティアとコキュートス、彼ら四人からは感じられなかった深い知性が佇まいから滲み出ている。

 ただ何と答えるべきかアルンが悩む必要はなかった。その前にモモンガが漆黒のローブを翻し、アルンの前に進み出たから。

 

 「デミウルゴス、それは私から説明しよう。他のことも含めてな」

 「これは失礼しました、モモンガ様。……では、全員そろっているようだし、守護者統括殿?」

 「そうね。では皆、偉大なる御方の前に」

 

 並べとも整列しろとも言わず、だがそれだけで何十何百と繰り返したかのように手際よく、守護者たちが横一列を作り、ゆっくりとその場に膝を付いた。彼らを統括するアルベドだけが守護者たちの前で跪き、代表して口を開く。

 

 「本来であれば忠誠の儀を行い、モモンガ様に我らが忠義を捧げたいところですが、いずこの者とも知れぬよそ者に見せるものではない、と勝手ながら判断いたしました。何とぞお許しください」

 「許そう、アルベド。今は火急の事態だ。些事にこだわるつもりはない」

 「ありがとうございます。……では、モモンガ様。そちらのエルフをご紹介していただいて構わないでしょうか? 皆も私も、先ほどから気になって仕方がないのです」

 

 気になる、という言葉がこれほど悪い意味で聞こえたのは初めてだった。モモンガから外れた守護者たちの視線が一斉にアルンを捉える。怪訝、不審、寡黙に警戒。友好的な気配が一つとしてない事実に、アルンは溜息したくなる。

 やれやれ、と言わんばかりにモモンガが肩を竦め、スタッフを持たない手ですっとアルンを示した。

 

 「こちらはファルン・アルン。見ての通りエルフだが、私の古い友人だ。付き合いはお前たちより長いぞ」

 

 その一言で空気が変わった。唖然、呆然、愕然。非友好的な視線が一変し、信じられないという顔がアルンに集中した。中でも実際に攻撃を仕掛けたアウラと、その手伝いをしたマーレは可哀そうなぐらい真っ青になっている。

 

 「し、失礼を承知でお尋ねします、モモンガ様。なぜエルフを、友に?」

 「逆に聞くぞアルベド。至高の四十一人の一人であるやまいこさんの妹を、お前なら知っているだろう? 彼女の種族は何だ?」

 「……エルフでございます。浅慮をお許しください。まさか我々ナザリックの者よりも古いお付き合いの方が、至高の四十一人の方々の他にいらっしゃったとは思い至らず……」

 「気にするな。実を言えば私も再び会えるとは思っていなかった。……こいつは悪戯好きでな、私を驚かせようとこっそり忍び込んだらしい。まったく、幾つになったと思っているんだか……いい加減大人になったらどうだ、“アルン”?」

 「悪いけど“モモンガ”、永遠にスケルトンの君に成長がどうこう言われたくないよ。そっちこそ、そろそろ転生して第二の人生を歩んだらどう? それか、うん、誰かいい女見つけて人生の墓場に身を埋めるっていうのも……あ、ごめん、君もう骨だったね! ……気付けば君は、骨と皮♪ 仲良しこよし、二人の骸骨、遺骨、納骨棺……♪」

 「黙れ」

 

 ズゴン、とスタッフの一撃が飛ぶ。ギルド武器による世界一贅沢なツッコミである。

 空中に留まっていられず、墜落したアルンは頭を押さえながら涙目でモモンガを見上げた。……打ち合わせ通りなのだが、威力が強すぎるような。ちょっとHPが減った気がする。提案したのはアルンだが。悪ふざけも入っているが。

 ともあれ呼び捨て、悪ふざけジョーク、物理的ツッコミの三連コンボ。これでダメならもうどうしようもないレベルで親しさを見せつけたわけだが。

 

 「…………モモンガ、様……? その、よろしいのですか? このナザリックの支配者にして、至高の四十一人のまとめ役であらせられるモモンガ様に、これほどの暴言。……決して、許されることでは」

 「暴言? 友人同士の気安いじゃれあいだろ? 気にするな」

 「じゃれあいにしてはかなり痛いんだけど……」

 

 

 

 

 ―――じゃ、じゃれあい……あのモモンガ様と……。

 ―――ど、どうしよう、お姉ちゃん……ボクたち、どうやってお詫びしたら……。

 ―――しぃーっ、静かにするでありんす。後でわた……わらわも一緒に考えてやるでありんすから……!

 

 

 

 何か聞こえたような気もするが、聞かなかったふりで。

 

 「ゴホン、ンンッ! ……とにかく、こういう奴だ。口が悪いこともあるが、本人に悪気はないので大目に見てやってほしい。アルン、どうせしばらく滞在するつもりだろう? 九階層に部屋を用意する。旅が好きなのは知っているが、偶にはちゃんと屋根のある場所で身体を休めろ。メイドにも掃除以外の仕事をさせてやらんとな……ああ、アルベド、そういう話なんだが、構わないか?」

 「……友であるというモモンガ様のお言葉、しかと理解いたしました。至高の御方のご友人に否やと申す者などおりません。メイド長のペストーニャには私から指示を出しておきます」

 

 最も早く立ち直ったアルベドが即座にそう答えると、満足げにモモンガが頷いた。アルンはまだちょっと痛む気がする頭を撫でながら、その隣で立ち上がり、ジャランとハープに指を走らせる。

 

 「改めまして、僕の名前はファルン・アルン。根なし草の風来坊、西に東に北、南、旅に生きてるファルン・アルン♪ 名前を呼ぶならアルンと呼んで、どうぞよろしくナザリック♪」

 「真面目にやれ」

 

 ズゴン、と今度は地面までめり込みアルンは悶絶した。

 

 「ぷっ……!」

 

 と、やや弛緩した空気の中、一連のやりとりに噛み殺しきれなかった笑いが誰かの唇からこぼれ出る。アルンが顔を上げてみれば、シャルティアが跪いたままわざとらしく顔を逸らし、コキュートスは俯きながらも小さく肩を震わせている。デミウルゴスとアルベドの叱責めいた視線が飛ぶも、その二人さえ唇が緩むのをこらえている有様なのだから、きつい眼差しになりようがなかった。

 アルンにとって一番の収穫は双子の顔色がやや戻っていることである。自責の念は残るにしても、悪いのは結局アルンだし、本当に不幸な偶然が重なっただけで二人に罪はない。多少は吹っ切る手助けができたかな、と起き上がりながら思う。

 

 「……やれやれ、何年たっても相変わらずだ。さて、そろそろセバスが戻ってくる頃だが……ああ、来たな」

 

 その言葉通り、闘技場の入り口から異様な速度で近付いて来る姿があった。白髪と白髭を蓄えた老紳士だが、アルンの記憶が確かなら、セバスというキャラクターのカルマ値は極善だったはず。邪悪な存在ばかりが集うこのナザリック最後の良心と言って過言ではない。

 駆け寄ってきたセバスの目が不思議そうにアルンを見つめ、小さな疑問を表情に浮かべながら、守護者たちの列に添ってゆっくりと跪く。

 

 「遅くなりまして誠に申し訳ありません、モモンガ様。……そちらの方は?」

 「古い友人だ。詳しくはアルベドに聞け。……本当はセバスが戻る前にある程度の説明をしておきたかったのだが、まあいい。アルン、お前も当事者だ。心して聞け。現在ナザリックは――」

 

 滔々と紡がれるモモンガの説明にセバスが補足を入れる。ナザリックそのものが全く別の次元に転移した――それ自体は驚くべきことだが、守護者たちにとっての優先度は低いらしい。どちらかと言えば、未知に対して石橋を叩いて渡るモモンガの慎重さこそが強い警戒を促しているように見える。

 

 (毒の沼地から草原に――ユグドラシルで例えるならヘルヘイムからアースガルズに転移したようなものかな。でもそれってワールドアイテムでもないと無理な現象だけど……そんなことよりモモンガの言葉が大事、って気がするねー)

 

 モモンガ様。

 至高の四十一人。

 ナザリックの支配者。

 守護者たちのモモンガに向ける態度。

 そしてアルベドが口にした、忠誠の儀。

 

 (…………フォローぐらいはしてあげよう)

 

 見舞われるだろう苦労を察してしまい、アルンは心の中で合掌した。

 

 「――以上だ。各階層の警戒を怠るな。それとアルベド、八階層の封印が終わり次第アルンを九階層に案内せよ。ペストーニャと、警護中のプレアデスには私が代わりに伝えておく」

 「あ、ちょっと待って。その前に僕も外の様子見ておきたいから、案内は後でいいよ。降りて昇ってまた降りるのも二度手間っていうか、時間の無駄だし」

 「そうか? ……そうだな。さすがにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを貸し出すのは問題がある。〈転移門〉の効果があるマジックアイテムを設置すれば上層と下層を繋げることも可能だが……安全面を考慮すると今は無理だ。いいだろう、だが戻る際は私かアルベド、またはセバスに〈伝言〉を入れろ。手隙の者を迎えに出す。……何か質問や意見がある者は?」

 「では守護者統括として、一つだけお聞かせください。アルン様はモモンガ様のご友人と伺いましたが、あくまで対等な友人同士であり、上下関係はない。そしてナザリックの運営に関わることもないお客様である。……そんな認識でよろしいでしょうか?」

 「その通りだ。私にとって、アルンは四十一人の仲間たち一人一人に並ぶ、大切な友である。そう周知徹底するように。……だが、ナザリックの運営に関わるかどうかは、現時点では断言するのは難しい。特に今は全てが流動的に進んでいるからな……。また何か変化があれば通達しよう。これでよいか、アルベド?」

 「充分でございます。これほど明解なお言葉を理解できぬとあらば、その者はもはやナザリックに不要でしょう。必ずや周知いたします」

 「ああ、不幸な行き違いは一度で十分だ。よろしく頼む。……では、私は先に戻る。各員、休息に入り、それから行動を開始せよ。アルン、また後で話そう」

 「うん。じゃ」

 

 手を振るアルンの前で、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン――階層間の転移が封じられたナザリックで、唯一自在な転移を可能とする指輪の力が発動し、モモンガの姿が掻き消えた。しかし消え去る最後の瞬間、あれだけ完璧な役を演じ切りながら、旧友は未だ心配げにこちらを見ていて、アルンは小さく苦笑してしまう。

 

 (――問題ないよ、モモンガ)

 

 何かを頼まれたわけではない。仕事を割り振られたわけでもない。

 だが今は“知る”ことこそが力になる。そして〈旅人〉に好奇心は事欠かない。

 くるりと振り返って、アルンは守護者たちに向き直る。

 ナザリックの人間ではなく、至高の四十一人でもないアルンだからこそ、知れることがきっとある。

 

 (――ファルン・アルンにお任せあれ♪)

 




原作より雰囲気が緩いのは、アルンという特殊すぎるキャラがいるから。守護者たちもどう接していいのかまだ分かってません。彼らとの会話がどんなものに仕上がるか、お楽しみに。
……忠誠の儀? きっとアルンがいないところでこっそりやってくれるでしょう。

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