「(雰囲気が変わった?)」
別段何か武技を使ったわけでもない、特殊な構えをしたわけでもない。だが明らかに先程とは違う雰囲気を醸し出すアルトリウス。
「行くぞ」
その瞬間
「ぬおっ!?」
滑るように移動し、ガゼフの眼前へと迫るとクレイモアを切り上げる。防ぐガゼフだが、彼の身体は衝撃で浮き上がる。次は浮き上がった所に上からの斬撃を加えガゼフの足が地に着くと、地面が僅かに凹みだす。
「ぐっ!おおおお!!!!」
「ふっ」
剣をはね除けると、アルトリウスは素早く後方へと飛び退く。
「鎧を身に纏いながらも、あの身のこなし、そしてあの腕力……凄まじいな」
「……」
アルトリウスは飛び上がり、空中で身体を一回転しながらその勢いで降り下ろす。案の定受け止められるが、再び飛びもう一度縦回転で斬りかかる。更にもう一度、三回目の斬撃にガゼフは後ろへ後退する。
「(守りに徹していれば勝機はない、ならば!)」
下がる足を踏み止めさせ、思いきり大地を蹴りあげる。
「《流水加速》!!」
武技によって向上した移動速度はまさに弾丸の如く。迎撃を試みるアルトリウスなのだが
「《即応反射》!!」
クレイモアの切っ先は空を突く。
「何!?」
視界より消えたガゼフ、そしてアルトリウスを影が覆う。《流水加速》によって彼の眼前まで迫り《即応反射》で動きをキャンセルし瞬時に背後へと飛んでいたのだ。ガゼフは確信する、獲ったと。
「ちぃ!!」
誰もが一撃を与えたと思った最中、ガゼフは吹き飛ぶ。背後から刈り取ろうとしたガゼフなのだが、アルトリウスは振り向く勢いのまま左足を軸としその場で回転しガゼフを弾き飛ばしたのだ。辛くも空中で体勢を立て直し、地面に着地する。
「獲ったと思ったのだがな」
「流石に先程のは肝が冷えた」
一瞬も油断できない戦いが此処にある。村長やガゼフの部下は息を飲む。目のまで起こっているのは人間を超えた者の戦い、王国最強のガゼフとそれに匹敵する強さを持った騎士アルトリウス。
「(居るものだな、強者というものは)」
ガゼフは思う、今まで一戦交えた相手で此処までの強さを持った者は居ない。同じ剣士ならば尚更だ。
「くく……ふははっ!!」
「?」
笑い出したガゼフにアルトリウスは首を傾げる。
「すまない、気が触れたという訳ではない。やはり私も男ということだな、強敵にはやはり心が躍る」
一呼吸置き
「感謝するぞ、アルトリウス殿。楽しいと思える戦いは初めてだ」
「それはなにより、此方の方こそ感謝する。貴公との戦いは私にとって良い経験となった」
「そうか……」
二人は真正面に捉える。そして──
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
「しっ」
ガゼフはこれ以上に無いほど柄を握り締める。アルトリウスは右腕に力を込める。駆け抜ける彼等は既に目と鼻の先、次の一撃で雌雄が決するであろう。
「でりゃああああぁぁぁぁ!!!!」
猛々しい声と共に振り下ろされる剣。アルトリウスは下方寄り切り上げ、そして───
バギィン!!!!
何かが砕ける音と同時にガゼフとアルトリウスの動きは止まり静寂が訪れた。空より何かが落ちてくる、剣の刀身だ。
「……折れたか」
静寂を破るのはアルトリウス、自分の手に握られたクレイモアを見て呟く。クレイモアは中心から先がへし折れていた。
「ふむ、武器が壊れた以上戦えないか」
折れたクレイモアをその場に投げ捨てると
「ガゼフ殿、貴公の勝利だ」
背を向けアルトリウスはそれだけを告げ、アインズの下へとアルトリウスは歩んでいった。すると一気に騎士からの歓声が沸きあがる。ガゼフは唖然とする、突然訪れた勝利に。
「私が勝った……?」
ふと捨てられたクレイモアと折れた刀身をガゼフは見る。何か違和感を感じた、何かが可笑しいと。それを拾うと
「……まさか」
刀身には傷一つ付いてはいなかった。妙な話だ、あれほどの攻撃を受けて何故か?それに見る限り普通の剣よりは頑丈に作られているだろうクレイモアは何故折れたのか。ガゼフは一つの結論に至る。
「何と言う御仁だ、底が知れぬ……」
群青のマントを揺らしながら自らの主の下へ行く騎士の背中をガゼフは見る。
「すいません、負けてしまいました」
軽く頭を下げながらアルトリウスはアインズに謝罪をする。
「武器がまともであればアルトリウス様が敗北等……」
「違うぞ、アルベド、アルさんはワザと負けたのだ」
「ワザと?」
「……ばれてましたか」
「ばれますって、あんな戦い方をしていれば」
「?」
二人の意図にアルベドは解らない様子。
「アルさんは戦士長の攻撃を全て同じ箇所で受けていた、というわけだ」
そう、どんな強固な物でも一点を集中して突けばいずれは崩れる。アルトリウスはガゼフの全ての攻撃をクレイモアの一箇所で受け、同じ箇所でガゼフの剣に当てるように攻撃していた。結果、耐え切れなくなったクレイモアは折れたのだ。アインズの言葉にアルベドはようやく理解する。
「……流石はアルトリウス様、ですが何故あの男にそのようなことを?」
「今回戦ったのは、私の力がどこまで通用するかを知りたかったのだ。最初から勝敗等には興味が無い、どうせなら勝ちを譲ろうと思っただけだ」
「成る程、至高の方の意図が解らないとは、誠に申し訳御座いません……」
深く頭を下げるアルベドによいとアルトリウスは頭を上げさせる。
「さて、用は済んだな。鎧は彼に預けて……」
いざナザリックへ、そう考えたアインズなのだが広場に一人の騎士が息を切らしながら来る。騎士は大声で
「戦士長!村の周囲に複数の人影が!村を囲むように接近しております!!」
※
家の影でガゼフ、アインズ、アルトリウスは一つに視線を絞る。
「確かにいるな……」
今見えるのは三人の人影、いずれも軽装備で身を整える者達だ。そして目を引くのは光り輝き翼を生やす何かだ。
「一体彼らは何者なのですか?それに何が狙いで……」
「恐らくあの浮かんでいるのは天使、そして横に居る者達は魔法詠唱者《マジックキャスター》……あそこまで数を揃えられるのはスレイン法国……狙いは私でしょう」
ガゼフは苦笑しアインズが
「戦士長が狙われている……ですか」
「この地位についていれば……な。それに奴等は噂に聞く特殊工作部隊《六色聖典》。であろう、数も腕もあちらが上だ」
落ち着いていては居るが心では焦っていると見える。アインズとアルトリウスは顔を合わせ
『アインズさん、気づいてます?』
『はい、あの天使と言われている者……炎の上位天使《アークエンジェル・フレイム》に似てますね。けど何故』
『解りませんが、ここは……』
「ゴウン殿」
二人が伝言で会話をしている中、ガゼフが声を掛ける。
「よければ雇われないか?それかアルトリウス殿、若しくはあの騎士をお貸していただけると嬉しいのだが」
「……お断りさせていただきましょう」
アインズは少し悩んだ後に答えを出す。
「そうか……では王国の法を用いて強制徴集……と言いたいところだが、抵抗はするのだろう?」
「勿論です」
「流石に貴方方に抵抗されては、奴等と戦う前に全滅だ……ゴウン殿、アルトリウス殿……お元気で、この村を救った事、感謝する」
ガントレットを外しガゼフは手を出す。アインズはその手を握り、次にアルトリウスへ。アルトリウスは左手を差し出した。
「貴殿と会えた事、そして剣を交えることが出来て良かった」
彼はアルトリウスの左手を両手で握る。
「そうか、貴殿は左利きか……ふっ、どちらにせよ本気は出していなかったという訳だな」
「申し訳ない」
ガゼフは静かに首を横に振る。
「構わない、戦えただけでも私は嬉しい」
アルトリウスの手を離し
「御二方、我が儘を言うようだが、もう一度……もう一度この村を守って欲しい。今差し出せるものは無いが、このストロノーフの願いを何とぞ……」
言葉を手で制し、アインズは
「了解致しました。この村は必ず守りましょう。このアインズ・ウール・ゴウンと」
「深淵歩きアルトリウスの名に掛けて」
二人の誓いにガゼフは安著する。彼等なら必ずこの村を守りぬいてくれると。
「感謝する、最早後顧の憂いなし……私は前のみを見て進ませていただこう」
「ガゼフ殿、これを」
何処から取り出したのだろうか、アルトリウスは黒く少し反り返った剣をガゼフの前に出す。
「この剣は?」
「私は特殊な力を持った武具を集めるのが趣味でな、これはその一環で手に入れたものだが。竜の尾より生まれたこの剣、きっと貴公の役に立つだろう」
「では私はこれを渡しておきましょう」
アインズからは変わった見た目をした彫刻だ。ガゼフは二人から送られた品を手にする。
「ありがたく頂戴しよう……では」
「「御武運を」」
アインズとアルトリウスはガゼフの姿が消えるまでその背中を見送った。
「良かったんですか?アルさんが彼に付いて行くと言ったら俺は承諾したのですが……」
「現状、相手の力も解らないのです。下手に動いて後手に回ることはしたくありません……ですが」
見えなくなったガゼフを思い出し
「あそこまでの武人です、死なせるには……だからこそ、私はあの剣を渡したんですよ」
彼なら上手く使ってくれる、アルトリウスはそう信じていた……
果たしてアルトリウスがガゼフに渡した剣は何なのか!?
そういえば8階層の桜花聖域という場所にいる、まだ名前も出ていないNPC。巫女服らしいのですが、私的に巫女服キャラはかなり好きなので本格的に登場してほしいですね!!