「さて……」
小屋で一準備終え鎧を着直す。蝋燭に照らされた銀の鎧は鈍く煌めく。アルトリウスは横を向くと
「態々見送りに来る必要など無いだろうに」
笑顔のアルベドがそこに居た。
「いけませんか?」
「……いや、嬉しいよ。こうして何処かに行くとき、誰かに見送られるというのは」
今までそういう経験が少ない彼にとってアルベドの行動は心に来るものであった。するとアルベドが周りを見渡し
「そういえば、この小屋に立ち入ったのは初めてになりますね」
「そうだったな……別に最初の火の炉以外は特に制限を掛けていない、好きなときにくるといい」
「かしこまりました、ところで……アルトリウス様のお部屋は何処にあるのでしょう?」
何故そんなことを聞くのだろうと少し疑問に思ったが、彼は答えることにする。
「私の部屋か?ふむ、アノール・ロンドを入って右の入り口だ。荒らさなければ何時でも入っても構わない」
「本当ですか!?」
ずいっと近づくアルベドに思わずたじろぎ
「あ、ああ……大したものはないぞ?私の収集したもの位しか……む?」
何かの気配を感じアルトリウスはアルベドの肩に手を置く。
「シバから報告を受けねばならない、すまないが……」
「解りました、それではアルトリウス様……お気をつけて」
「ありがとう、アルベド……あ、そうだ、月明かりの大剣持っていかなければ」
※
「メタスさん……か」
組み合い待合室でニニャは今この場に居ない者の名を呟く。鈍い銀色の鎧で身を包み、直剣を振るい敵を穿つ騎士の名を。
「どうしたーいきなり」
「いえ……不思議な方ですよね、メタスさんって」
「確かに」
ぺテルは頷く。
「冒険者になったばかりなのに三日も経たずにゴールドへと、更にかなりの実力を持っていてそれを鼻にも掛けないし」
「あのユーリちゃんもメタスの旦那の仲間だから相当な実力者だぜ」
「結構噂になってるみたいですしね」
そうこう談笑をしていると一人の少年が待合室にやって来た。
「えっと、漆黒の剣の皆さんですよね?」
「ええ、あれ?あなたは……」
※
「ンフィーレア?発音しにくい名前だ」
アノール・ロンドの夕日の中、漆黒の剣との約束を果たすべく、アルトリウスは出立前にシバから報告を受けていた。どうやらそのンフィーレアという人物はエ・ランテルでは有名な薬師であり、先日からアルトリウスの事を調べていたようだ。
「目の前に突きだそうと思いましたが、その者の性格、能力を見てもアルトリウス様の脅威とは考えられませんでした。ですのでどう対処すればいいか御聞きしたく御座います」
「……放っておけ所詮は薬師だ、好きに泳がせろ。目障りになるようなら排除すればいい」
「はっ!」
頭を垂れるシバを尻目にアルトリウスは考える。
「(何故薬師が私を?……ンフィーレアか、後で接触してみるか)」
アルトリウスはシバの方を向き
「さて、そろそろ行くか。ユリも待っている」
「はっ、影にて御供致します」
※
ユーリと合流したメタスは組合に到着、待たせているだろう漆黒の剣の皆の元へと。建物の中へと入り受付を通りすぎようとしたが
「メタスさん」
「……何だ?」
受付嬢に呼び止められ足を止める。
「メタスさんにご指名の依頼が……」
「依頼?誰からだ」
「は、はい……ンフィーレア・バレアレさんです」
「ほう……」
シバから報告があった薬師の少年、ンフィーレアが受付嬢の近くにいた。
「初めまして、ンフィーレア・バレアレといいます」
「これは丁寧に、私はメタス。そしてこちらが私の仲間の―――」
「ユーリともうします」
自己紹介は済んだ、メタスはンフィーレアに向けて
「さて折角のご指名だが、済まないな。先約が入っている」
「漆黒の剣の方達とのですか?」
「……そうだが」
何故彼がそれを知っているのか、直ぐに答えてくれる者が側へと来ていた。
「メタスさん!」
「ニニャ」
小柄で少女と呼ばれても違和感のない少年、ニニャが笑顔で彼のもとへと。
「皆はもういるのか?」
「はい、待合室に」
ふとニニャはンフィーレアを横目で見ると
「実はメタスさんに相談したいことが……」
「?」
※
「成程、ンフィーレアの薬草採取の護衛をしつつ、私達も道中に現れたモンスター討伐をすると」
待合室にメタス一行と漆黒の剣メンバー、プラスでンフィーレアが机を囲んで座っている。ペテルが申し訳なさそうに苦笑いをし
「はい、すいません……勝手に話を進めてしまって」
「僕の方こそごめんなさい、言葉が足らなかったです……」
メタスは、いやとペテルとンフィーレアの二人が頭を下げるのを止めさせる。彼としても丁度いい機会であった、漆黒の剣の依頼を受けつつ自分を嗅ぎまわっているンフィーレアの事を逆に探れるかもしれない。
「利害は一致している、護衛ならば数が多い方がいい、それに私達だけではなくペテル殿達にも報酬を出すのならば別に言う事はない」
「本当ですか!」
「ああ……」
ンフィーレアの言葉に首を縦に振り肯定を示すと、彼は立ち上がり
「では準備に取り掛かり出発しよう」
「「「はい!」」」
漆黒の剣の皆も立ち上がり、一同は待合室を出ていく。メタスはユーリに近づき
「あのンフィーレアという薬師から目を離すな、八肢刀の暗殺蟲を一体監視には付けているが、近場からでしかわからない事もある。何か不審な行動をしたら知らせてほしい」
「はっ、お任せください」
彼女ならあの薬師の行動を見逃すことはないだろう、期待を込めメタスは頷き自分もまた出発の準備へと向かうことにした。
※
エ・ランテルから出立したのは昼を回った後の事だ、馬車を中心に隊列のように並び森の周囲に沿って進んでいる。この道は比較的モンスターの出現率が高く、ペテル達の依頼をこなすには打ってつけだ。例の異世界《ロードラン》より現れし者達が居れば話は別だが。
モンスターも大した強さもなく、エ・ランテルでは一際有名になっている『つらぬきの騎士』と『拳姫』が共に居るという事でペテル達は一定の安心をしている。因みにユーリの異名は勇ましく、そして華麗な拳技を用いて戦うことからそう名付けられたとか。
すると先頭を歩いていたルクルットが、自身の右側を歩くメタスに声をかける。
「ところでさー旦那ってどっかの国の騎士とかやってたの?」
「……何故そう思う?」
「だってさ、そんな鎧着てるし剣術だって相当なもん、しかも振舞とか見たら誰だってそう思うって!」
彼の言葉にダインはうんうんと傾く。
「……いや、平民だったよ、私は」
「うっそ!」
「どうやったらそこまでの強さを手に入れたか聞きたいですね……」
一瞬メタスは考えたが
「例え何度挫け倒れても、例え剣が折れたとしても、自分を強く持ち『折れない心』を持つことだ」
この言葉は熱が特にこもって放ち、自分にも言い聞かせるように言う。彼は振り返る、折れない心を持ったからこそ今までやってこれた。ペテルやニニャ達は納得したように
「メタスさんが強い理由、ちょっとわかった気がします」
「……しばらく歩いたが、皆も疲れたろう。此処で一度休憩をとらないか?」
彼からの提案にペテル達は快く受ける。
「そうですね、モンスターと戦うのであれば常に身体は万全にしなければなりませんから」
馬車を止め各自はそれぞれ行動をとる。メタスはニニャに
「ニニャ、少し聞きたいことがあるのだが」
「なんでしょう?」
「実はだな……」
メタスは彼からこの世界の魔法について様々なことを尋ねる。生産魔法という塩や砂糖等を作り出す物や、危険を知らせてくれる物など耳にしたことのない魔法があることを教えてくれ、途中からンフィーレアも加わり更に知識を得ることが出来た。
「それと、雷の槍を放つことが出来る魔法も存在するのか?」
「雷の槍……確かソラールさんが使用するって言われてる物ですよね。僕も実際には見たことがないのですが、彼の魔法は誰も見たことも聞いたことのない物で今現在はソラールさんだけの魔法になります」
「……成る程、ならば結晶の槍を飛ばす魔法は?」
結晶の槍、その単語にニニャとンフィーレアの表情が少し強張る。
「えと……メタスさん、何故結晶の槍の事を知っているんですか?」
「?」
疑問符を思わずメタスは浮かべ、ンフィーレアは少し小さな声になって話を始める。
「結晶の魔法は確かに存在します、けど誰もその魔法を求めないのです」
「ほう、余程の理由があるようだな」
はいと頷き、これから先の話は少し長くなると念を置く。
「……かつてとある国を脅かした白い竜が居ました。その龍は絶大な力を誇り、口からは炎ではなく結晶のブレスを吐き人間を貫ぬき殺したと。そして一人の旅人に遂には倒され、人間が死体を調べてそのブレスをどうにか再現できないかと研究をしました。結果は成功、竜のブレスを模した結晶の魔法を扱えることができるように」
ンフィーレアの話に食いつくようにメタスは聞き入る。
「しかし悲劇が起こりました。その研究に関わった者達は次々に狂っていき、果てには殺し合うという最悪な事態が発生して国は結晶の魔法が原因と考え、二度と使われないように研究資料を封印されました。けど時代が進むにつれ、どこからか結晶の魔法を聞き付けた者達がそれを求めようとしましたが……」
「皆同じように狂ったというわけか」
「はい……」
「呪われし魔法とも言われて今や誰も追い求める者はいないんですよ」
まさかこの世界にかの魔法が伝わっているとは思いもしない。もっと話を聞こうとしたが
「これ以上お喋りしてる暇は無さそうだぜ」
ルクルットの言葉通り、複数のオーガとゴブリンの群れが彼等に向けて進軍していた。漆黒の剣の皆は武器をそれぞれ構え陣を組む。一方のメタス達は
「……ユーリ、ンフィーレアの守りは任せた」
「はっ」
つらぬきの剣を抜き、両手で構えを取りながら
「先陣は私が切ろう」
「あ!メタスさん!」
大地を滑るように駆け、飛び込み横に凪ぎ払われた純銀は残光を残光の軌道を描く。オーガの体はその残光に沿いゆっくりと斜めにずれていった。
切断された半身が地へ落ちると同時に騎士は次なる標的へと既に向かい、角度を付け回転しながら切り捨てる。
この間僅か10秒、ペテルは余りの速さに下舌を巻く。彼だけではない、その剣劇を横目で見ていたルクルット達もだ。
「すごい……」
「ありゃゴールドどころじゃないぜ……下手すれば……」
「ミスリル……いや、アダマンタイトにも届くかもしれないのである……」
感嘆の声を上げる。ニニャが彼の戦いに見入っていると
「ヒヒッ!!」
草むらを這いゆっくりと近づいていたゴブリンの一体がニニャに飛びかかる。
「わわっ!」
棍棒が降り下ろされるその前に、ニニャの頭上を腕が通りすぎる。
「ぐぇっ!!」
ゴキャッ―――
鈍く響く音がし、ゴブリンの身体は放り投げられる。
「私の戦いに驚いてくれるのは嬉しいが、今は自分達の事を専念したほうがいい」
「は、はい!」
ルクルットが弓を捨て剣を抜きながら
「すまねえ旦那!」
「いい、後衛はしっかりと守っておけ」
今だ此方に向かうオーガの群れの後方……メタスは気配を感じ
「気を付けろ、こいつらの長がいるようだ」
「えっ!?」
先程までオーガ達の身体で見えていなかったが、ようやく姿を現した。大鉈を両手に携える大きな体躯。
「あいつはこの前の!」
「山羊頭のデーモン……ペテル殿、オーガとゴブリンは任せる、私は奴を殺る」
「わかりました!」
互いに頷くとメタスは大地を踏みしめ走り抜ける。オーガ、ゴブリンを無視し後ろにいる山羊頭へと肉薄し
「ふんっ!!」
切り下ろすが鉈を横に構え防ぐ。もう一方の鉈で掬い上げるように振るうとメタスは身体を横に向けて難なく交わす。
「グモオオオォォ!!」
力強く二つの鉈が振り回され、メタスはバックステップで距離を取る。山羊頭はメタスに鉈を向け
「グオフッ!!」
吠える。この行動になんの意味があるのか、ふと考えるが
「メタスさん!そっちにオーガが!」
「……」
顔だけをそちらに向けると此方へと迫ってくる二匹のオーガ、メタスは先程よりも長い距離をバックステップで移動しオーガの間を通りすぎ
「邪魔だ」
前進すると共にオーガの体躯を切り裂き、そのまま山羊頭に近づく。山羊頭が再び短く吠えると一体のオーガが山洋頭の前にたつ。
「奴等の指揮をしているということか……以前の個体とは違うな」
冷静に分析しつつ高く飛び上がりオーガを踏み台に、つらぬきの剣を逆手に持ち直し
「ガッ……」
脳天に深々と刀身が差し込まれ、勢いよく引き抜く。山洋頭はぐらりと傾き大地に巨駆を横に倒す。踏み台にしたオーガを一睨みすると怯えるように逃げようとしたが
「逃がすか」
手のひら大のナイフを投擲し見事眼に刺さる。悲痛の声を上げながら目を抑えその生じた隙を逃さず、メタスはオーガの身体を貫く。
「……ほう」
オーガが倒れるとペテル達が奮闘している様が視界に入る。ニニャがペテルに魔法を掛け強化し、オーガとゴブリンを攻撃、彼に横槍を入れようとしたゴブリンにニニャが魔法の矢を放つ。ダインは草を操りオーガの足止めを、ルクルットはニニャが魔法の詠唱をしている間に彼を狙うゴブリンを狩っていく。
穴のないチームワーク、メタスは賞賛を贈る。
「素晴らしいチームだ……一人一人互いを信じ連携をとっている……良いものだな」
彼らの姿に昔の自分とアインズを照らし合わせ、懐かしくも切ない感覚がメタスの心を締め付けていた。
更新遅れて申し訳ありません……
そういえばダークソウル3のトレーラーが出てましたが、薪の王とか深淵とか見知った単語でてきてちょっと歓喜しております!