深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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第二十話

「……」

 

 

暗く、光も差し込まない森の中でメタスは眼前に立つ異形を切り殺す。

 

 

「せいっ!!」

 

 

勇ましい声と共にユーリの拳から放たれる打撃は異形を容易く吹き飛ばす。

 

 

「これで全部か」

 

「そのようですね」

 

 

辺りを見渡すと数十体に及ぶ化け物の死体が転がっている。オーガ、ゴブリン、どれも大した力を持たぬモンスターばかりだ。

 

メタスが冒険者となって三日が経ち、彼はエ・ランテルから南方の地域のモンスター討伐に出向いていた。理由は一つ、先日の山羊頭のデーモン、そしてソラール。この世界へやって来ただろう他の存在を見つけるためだ。だがあれ以来デーモンの姿を見ないし、ソラールも何処かへと行っているらしく会うことも出来ない。

 

 

「そう簡単には見つからんか……いや、そもそもこの間のデーモンは偶然に居合わせただけなのかもな……ユーリ、アイテムの整理をしたい。私は一度ナザリックへと帰還する。なるべく直ぐには戻るよ」

 

「畏まりました、では私は宿に行きます。何かありましたら報告いたします」

 

「頼んだ」

 

 

 

 

 

 

「さて……む?」

 

 

アルトリウスがナザリックへ戻るや否や一人の悪魔が彼の前に頭を垂れていた。

 

 

「お待ちしておりました、アルトリウス様」

 

「デミウルゴス、一体何のようだ?」

 

「実は御相談したいことが……」

 

「わかった……此処ではなんだ、神殿へと行こう。話はそれからだ」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

「アルヴィナ」

 

「おやまあ、あんたならともかく珍しいのが来てるねぇ」

 

「お邪魔させて頂こう」

 

 

神殿の内部、黒い森の小屋に来たアルトリウスとデミウルゴス。アルヴィナは二人を出迎えると身体を起こしテーブルの上から飛び降りる。

 

 

「何か話でもするんだろう?厄介者は去るとするよ」

 

「すまないな、アルヴィナ」

 

「手数を掛ける」

 

「私は猫、気にすることはないさ。それじゃあごゆっくり」

 

 

そう言い残しアルヴィナは霧の向こう側へと行った。アルトリウスは側にあった椅子をテーブルの前に置き

 

 

「座ってくれ」

 

「いえ、お気遣いは嬉しいのですが……」

 

「前にも言っただろう、堅苦しいのは好きではないと。誰もいない、畏まることはないさ」

 

「……恐れ多いですが、御言葉に甘えさせていただきます」

 

 

デミウルゴスはアルトリウスが用意した木の椅子へと腰を掛け、一方のアルトリウスはテーブルを挟んだ反対側の椅子に。

 

 

「それで話と言うのはなんだ」

 

「はっ、実はアルトリウス様が此度、冒険者として行動をしているとの事ですが……御供を増やして欲しいと思いまして」

 

 

思わず頭に?を浮かべるアルトリウス、まず彼は理由を聞く。

 

 

「理由を聞こうか」

 

「アルトリウス様の御供のユリ・アルファなのですが、確かにあれは強い、プレアデスの中でも優秀です。ですが、予測不能の事態にアルトリウス様を御守りすることができるかどうか、守護者レベルの敵がもし現れたならユリ・アルファ一人でどうにかできるか。そう考え、やはり御供を増やしたほうが良いと考えたのです。何卒御検討を……」

 

 

眼鏡の奥からキラリと光るものが見えた気がする。アルトリウスは彼の眼を一切反らさず見る。

 

 

「成る程、盾役は多い方がいい……そう言いたいのだな」

 

「左様で御座います」

 

「デミウルゴス、お前が私を思っていてくれているのは本当に嬉しい……だがな、不要だ」

 

「何故でしょうか?」

 

「いいか、私はなお前達を友が産み出した息子娘だと、絶対に失いたくない掛け換えのない存在と思っている。盾なんかにはしたくない」

 

「……ですが」

 

 

食い下がらないデミウルゴスにアルトリウスは悩む。

 

 

「……それならば八肢刀の暗殺蟲《エイトエッジ・アサシン》を一体ほど付けてほしい。隠密行動に長けたあいつなら私のバックアップは容易だろう、文句は無いな」

 

「はっ!私の要望に応えてくださりありがとうございます」

 

 

テーブルに付きそうな程頭を下げるデミウルゴスによせとアルトリウスは一言。彼が頭を上げるのを確認すると

 

 

「そういえば一つ聞きたい、お前は人間をどう思っている?」

 

「……私達ナザリックの者からすれば取るに足らない存在ではあります」

 

「成程……これはナザリックの皆にも言う予定だがお前に先に言っておこう」

 

「?」

 

「前にアルベドが人間を虫と言っていた。虫は……人間からしても所詮虫だろう、だが虫の中には人間を殺す事ができる毒を持った奴もいる」

 

 

その言葉にデミウルゴスは彼が何と言おうとしてるか理解できた。

 

 

「そう言う事ですか……人間の中には私達を殺す事が出来る者がいるかもしれない、だから油断はするなということで御座いますね」

 

「物分かりが良くて助かる、お前のそういう所私は好きだ」

 

「ありがとうございます、では今後は人間に対する考えを改める事に」

 

「そうしてくれ」

 

「それでは私はこれで失礼いたします」

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

デミウルゴスは神殿の前で小さくため息を漏らしていた。

 

 

「難儀しているなぁ、デミウルゴスよ」

 

「ゴーか」

 

 

入口の横でゴーが胡坐でナイフのようなものを用い木を彫っていた。

 

 

「何とかアルトリウス様に願いは届いたよ、御供に隠密行動に長けた八肢刀の暗殺蟲を増やしていただけるとのことだ」

 

「ほう、それは何より」

 

「しかし──」

 

 

眼鏡を掛けなおしアルトリウスに言われたことを脳裏に思い起こす。

 

 

「掛け替えのない存在……か」

 

「む?アルトリウスがそう言ったのか?」

 

「ああ、あの方は非常に慈悲深い。私達にさえその優しさを向けてくださる……そこに付けこむ輩がいないか心配だよ」

 

「そうだな……あの者は優しすぎる……」

 

 

手を止めゴーは六階層の天井を見やる。するとデミウルゴスは思い出したかのように

 

 

「ところで君は今回何を作っているのかね?」

 

「ああ、途中ではあるが……」

 

 

地面に置かれたのはオオカミを模した木の彫刻だ。ほうと声をあげデミウルゴスはその未完成の彫刻に釘付けになる。ゴーの言った通り、半分までしか彫られていないがオオカミの毛並み等を精密に再現されており、一種の芸術となっている。

 

 

「やはり君の彫刻は逸品だな、恐れ入るよ」

 

「はっはっは、それを言うならデミウルゴス、貴公が前に見せてくれた骨で作ったものも中々の物ではないか」

 

「実は私も新しいのを作成したのだが、今度お見せしよう」

 

「楽しみだ、ならばこれを早く完成させるとするか」

 

 

神殿の前で二人の笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

アルトリウスはデミウルゴスが去ったあと、『底なしの木箱』を漁っていた。

 

 

「……魔封じの水晶が使えるという事は、前にあの陽光聖典の隊長が証明済み。ならば私の持っている物も使用可能という事か」

 

 

取り出しテーブルに並べる。それぞれがモンスターを召還することができる物で、右から灰、赤、緑、茶の光を放っている。

 

 

「うーむ、どれも試してみたいな。お、車輪スケルトンの後で使ってみるか。……?」

 

 

アイテムボックスから橙色の石を取り出す。その石は振動しており、彼はしゃがみ床にその石を用いて“ユリ・アルファ”と文字を書く。この石は『橙の助言ろう石』。本来ならその場にメッセージを残すだけの代物だが、この世界に来てから効果が変わり、橙の助言ろう石持つ者間でメッセージを送ったり受け取る事ができるようになっていた。相手のメッセージを受け取りたい場合、その者の名前を書くことで次にメッセージが地面へと浮かぶ。アルトリウスは昔を思い出し、伝言ではなくこちらを好んで使っているようだ。

 

 

「何々……」

 

 

ユリの名前が消え次第に文字が現れる。

 

 

「漆黒の剣が会いたいと、ね……早急に行くとするか」

 

 

アルトリウスはテーブルの上の魔封じの水晶と、底なしの木箱に幾つかアイテムをしまい、幾つか取り出しアイテムボックスに入れると立ち上がる。そして向かう、エ・ランテルへと。

 

 

 




アルトリウスが持ち出した魔封じの水晶、それぞれ何が封じられているかはお楽しみに。

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