第十三話
ワールドアイテムというものがある。
ユグドラシルにおいて、全てのアイテムの頂点に立つといったものだ。どのワールドアイテムも破格の性能で、対抗するには同じワールドアイテムか職業『ワールドチャンピオン』でしか抗う事が出来ない。そしてそのワールドアイテムの一つ
『最初の火』
というアイテムが存在する。効果は二つで一つは所持者のレベル上限を解除できる。一見地味に見える能力……なのだが、本来ユグドラシルのレベル制度は種族レベルと職業レベルを足して100が最大値となる。最初の火の所持者はその100を越え更に種族レベル、職業レベルに新たに加算することができる。更に公式から最大レベルが幾つか定められていない。詰まり天辺が見えず、その最大値に届くまで永遠にレベルが上がり続けるという。1レベル上がるのに必要な経験値はかなりのものだが、それでも止まることを知らないレベルアップは凄まじい物であろう。最初の火を手にした者の成長は止まることがないのだ。
ちなみにこのアイテムはダークソウルとのコラボダンジョンの超高難易度のステージで稀に登場するエネミーを倒し、極僅かな確率でドロップで手に入れることの出来るアイテムであった。そのドロップ率ははっきりいって極悪で正に天文学的な確率、何千回倒してもドロップしないこともざらで、コラボ終了まで誰も手に入れることが出来ないのではと噂されるほど。しかもそのエネミーも殆どでないもので周回しようにも手間が掛かる。あまりにも酷いと言うことで運営にクレームが来たこともある。
しかしこのアイテムを手にいれた者が現れた。その者は最初の火によって更なる力を手にした……そのプレイヤーは、かの極悪ギルドアインズ・ウール・ゴウンのメンバーだった。
そう、あの騎士である……
※
玉座の間を後にしたアルトリウスは真っ先に最初の火の神殿へと赴いた。四騎士達は各守護すべき場所へと待機させ、彼とシフだけが神殿へ。神殿の入り口は門のような建造物になっていて、霧が掛かっており中の様子を伺うことが出来ない。
「……何故か緊張するものだ」
「?」
シフはアルトリウスの顔を心配そうに覗き込む。
「……行こうか、シフ」
霧に手を掛けゆっくりと中へとアルトリウスとシフは入っていく。霧が明けるとそこは夕焼けに染まった途轍もなく大きな広間だ。豪華なシャンデリアを天井からぶら下げ、奥へ左右に並ぶ立派な柱、太陽の光を迎え入れる窓も素晴らしい装飾で固められている。目を奪われるような壮大な景色はアルトリウスに昔の日々を思い起こさせる。
「懐かしいな……」
最初の火の神殿はナザリックの第六階層に存在し、更に内部は四つの階層に別れている。その一つが此処『アノールロンド』だ。その名の通り、アノールロンドを元にボスステージを参考にして作られた場所だ。アノールロンドと同じく変わる事の無い美しい夕焼けが常に差している。正面、その上の階、右と左にも入り口と同じく霧の掛かった門がある。アルトリウスは正面の門へ向けて歩き出すとシフは彼の後を追う。
再び霧を潜ると次に現れる景色は闇。真っ暗く、一箇所にしか明かりが灯っていない。それに足元一面は灰が積もっている。此処こそがワールドアイテム、最初の火を保管している『最初の火の炉』だ。中央にある篝火に彼は近寄る。
「こいつのお陰で色々と助かったものだ」
主の帰りを喜んでいるかのように火は、最初の火は揺らめきを増していた。何故アルトリウスは此処に来た理由、それは最初の火のもう一つの効果にある。その効果とは、自分のレベルを自由に上げ下げ出来ること。勿論自分の最大レベルから上に上げることは出来ないが、下げることは出来る。対した効果ではないが、彼はこれを使いわざと自分のレベル下げてプレイしていた。遊びでレベル1縛り等の制限プレイをするためだ。彼が最後にインした時にも使用しており、凡そ20前半でその時はプレイしていた。残りのレベルは全て最初の火の中にある。アルトリウスは自分の力を回収しに来たのだ。
「シフ離れててくれ」
アルトリウスの言う通り少しだけ遠ざかり様子を見ることに。彼は静かに火へと手を伸ばす。
「最初の火よ、私の力……回収させてもらう」
吸い寄せられる様に火はアルトリウスの腕へと触れる。その時、火の勢いは増した。
「ぐ、おおおおおぉぉぉ!!!!」
火は全身に周り彼の身体を焼く。苦痛の声をあげその場へと倒れ
「がう!!」
「来るな!!」
思わずシフはアルトリウスに駆け寄ろうとするがその一言によって足を止める。尚もアルトリウスの身体を火は蝕んで行く。
「くそ……回収するだけで……こんな事が……!!」
想定外だ、アルトリウスは熱によって苦しめられながら悪態を突く。すると
「な、んだ……頭の中に何かが……!」
※
「あーまたウルベルトさんとたっちさん喧嘩してる……」
「はぁ……アルさん呼んでき──」
「もう来てますよ」
「あ!アルさん!それじゃ後は仲裁役にお願いしますね~」
「何時から仲裁役になったのやら……解りました、全く喧嘩するほど何とやらか……」
※
「アルさん、やまいこさん!」
「モモンガさんどうしました?」
「ようやく当てたんですよ、あのレアアイテム!」
「おめでとうございます、ところでどれ位注ぎ込んだので?」
「えっと……ボーナス殆ど……」
「あー……まあ超の付くレアアイテムですからね、俺なんて諦めましたし……ん?どうしました、やまいこさん?」
「そ、そんなレアなものなんですか?」
「モモンガさんがボーナス注ぎ込むレベルですからね、かなりですよ。……まさか、やまいこさん」
「え、っと……あのボク……てちゃったんです」
「へ?」
「今なんて……」
「ボク一回のガチャで……当てちゃいました」
「……強運の持ち主ですね」
「ああああああそのガチャ運別けてくださいよぉおお!!」
「モモンガさんが壊れた!?」
※
「例のギルドにちょっかいを?」
「ええ、あいつら俺達の仲間に胸糞悪い事してきましたからね、報復がてらにと。俺とアルトリウスさんの二人なら確実に潰せれるってわけですよ」
「まあアインズ・ウール・ゴウン内で魔法職最強のウルベルドさんが本気になれば、ある程度のギルド相手には出来ますけど……俺はそこまででは」
「ナザリックの深淵騎士が何弱気になってるんですか!」
「深淵騎士じゃなくて深淵歩きです……まあ、まずはギルマスであるモモンガさんとかに意見聞いてからですね……」
「OKでたら行くんですね!それじゃ聞いてきますぜ!!」
「……行っちゃった。全く、面白くはなりそうかな……?」
※
みんな、許してくれ……私は何も出来なかった……。誰でもいい、奴らを……あの闇を止めてくれ……。ああ、もう持たない……お前だけでも助かってくれればそれで良い。
───シフ
※
「っは……」
短く息を吐き出しアルトリウスは正気に戻る。火は吸収されるように彼の身体へと消えていった。
「くぅん……」
シフが彼の腕を軽く舐める。
「大丈夫だ……シフ」
よろよろと立ち上がりアルトリウスは先程脳に浮かんだビジョンを思い出す。
「さっきのはユグドラシル時代の記憶?それに最後のは私の記憶には……」
幾ら考えても答えは出ない。考えることを止め彼は頭を横に振り、左手を何かを確かめるように何度か握り頷く。
「無事戻ったか」
どうやら最初の火より力の回収に成功したようだ、彼は身体の奥から力が溢れかえってくるのを感じている。そしてシフを撫で
「心配させたな、シフ。用は済んだ、それじゃ此処から出よう」
がうとシフは吠えた。
「私の力は全て戻った、次は武器の確認をしよう。『アルヴィナ』の所に行こう」
この作品における最初の火はレベル制限解除という能力にいたしました。
話は変わりますがキアランは仮面をはずすときっと美人だと思うんです!!