艦隊これくしょん〜ブラック提督(笑)の奮闘 作:SKYアイス
第33話
提督の毎日が忙しく、休む暇が余りないのは観察していて分かった。だから提督の負担を減らす為に彼の力になれれば良いなと思いつつ今日も訓練に励む。
神通曰く自分は砲雷撃戦に慣れていないので先ずはそれをやり慣れる必要があるとの事。
確かにあの鎮守府では戦闘をする事が無かった。この鎮守府に来てから初めて感娘らしい事をしているのだ、勿論これから実力を付けていけば良いのだが…自分とさほど変わらない時期でこの鎮守府に入ってきた朝潮の事を聞くと嫌でも焦る。
彼女は改二になる為の練度に達していないにも関わらずに改二へとなった。これは数ある鎮守府の中でも異例の出来事でこの呉鎮守府が初めての事だ。
彼女に追いつきたいーー日々の訓練だけではなく自主練もして少しでも実力を身につけようと日々奮闘する、提督の役に立ちたい…その一心で。
少しでも砲雷撃戦に慣れる為に練習用の的に向けて砲撃を放つ春雨、だが移動しながらの砲撃はこれまた難しい。
移動する度に小さく波が起こり、それが手元を狂わせる。姿勢を正し…尚且つ狙いは正確に付けなければ当たらない。
更に実戦では相手は動くのだ、命中率を少しでも上げる為にはもっと工夫が必要…
「練習熱心だね」
「貴女は…」
そんな春雨の前に現れたのは同じ駆逐艦である睦月だった。彼女は吹雪、夕立と良く一緒に行動している仲良しコンビとして認識している。
そんな彼女はニコニコと笑いながら此方に近づいてきてペタペタと自分の艤装と砲身を触り始めた。
「この間まで新品同然だったのにここまで…春雨ちゃん凄いね!練習熱心で…睦月も嬉しくなっちゃうよ!」
「まだまだ…です、早く皆さんに追いつかないと…戦力にならないといけない…です」
そう、自分はまだまだ素人同然だ。延期になったとはいえそこまで延びたわけではない大規模作戦。少しでも力になる為に…この鎮守府に貢献する為に……そう考えてると少し笑えてくる。あれだけ人間に酷い目に遭わされたというのに、その人間の為に力を尽くそうというのだから…自分は相当な馬鹿だと思う。
「むぅ」
そんな春雨の様子を見て、何を考えたのか睦月はいきなり春雨の頬を掴んで横に伸ばした。
「い、いひゃいれふ」
春雨はじたばたとして手を解こうとするが思ったより力が強くて振り解けない。
「春雨ちゃん!そんなに難しい顔をしてると駄目!」
そう言うと睦月は春雨のお腹をくすぐり始めた、意外なところから意外な攻撃を受けた春雨は思わず笑ってしまった。
「あひゃひゃ!く、くすぐったいですよ!ひにゃっ!?そこは駄目ぇ!」
「にひひ♪ここがええのか〜?ええんか〜?」
暫く睦月のされるがままになった春雨は、睦月から解放されてから涙目になって睦月を見る。すると睦月は優し気に微笑みながら言った。
「朝潮ちゃんも最初は凄く焦ってた。早く追いつかないとってね、今の春雨ちゃんみたいに一人で砲雷撃戦の練習をしたり…でも頑張りすぎちゃって一回倒れた事があったの。
そしたら提督は凄く怒ったんだ、早く戦力になりたいのなら何故周りの感娘に頼らないって…優秀な感娘は幾らでもいるから、そいつらから学べば一人で学ぶより遥かに良いだろうって、倒れるまで訓練した所で何の意味もないってね…だから春雨ちゃんも私達を頼ってね?」
睦月は春雨の焦りを見抜いていたのだろう、普段の彼女からは想像出来ない程に落ち着いた雰囲気の彼女の姿を見て、春雨は驚いたが同時に納得もした。
焦りすぎていたーー落ち着いて周りを見れば、こんなにも頼れる先輩がいるのだ。こんな所も前とは違った。
前の鎮守府では殆ど感娘同士の交流は無かったので、こういった感娘同士の繋がりがこれ程に暖かな物だとは思わなかった。
「だから、もっと睦月達を頼ってもよいぞ?」
そして睦月はにひひ♪。と悪戯っぽい笑みを浮かべて手を差し伸べきた。春雨は目尻に涙を浮かべながらーーー笑いながらその手を取った。
頼れる存在がーーーこれ程心強く、嬉しい事だとは知らなかった。
「っ………はい!」
今度からは頼ろう。自分には仲間がいるのだからーーーー
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執務室でその光景を見ていた提督はクスリ、と笑う。
春雨が焦っていたというのは普段の訓練の様子と戦術訓練の時間の合間に練習していた光景を見て直ぐに分かった。
意欲が高いのは良いが、それが焦りに繋がるのは駄目だ。焦れば焦る程に周囲が見えなくなってしまう。理想の実力と自分の現状を比べてしまって自分に自信が付かなくなる…そういった例を自分は何度も見てきた。
そして春雨を中心的に見て危険だと判断したので駆逐艦のフォローが得意な睦月にフォローさせた。同じ姉妹艦の感娘でも良いと思ったが…こういう役割は彼女の専売特許なので睦月を向かわせた。
そして春雨の様子から問題は解決したのだろう、彼女の笑顔がそれを物語っていた。
「さてと」
春雨の件も解決したため、次の仕事に取り付いた。内容は作戦前の黒の鎮守府のガサ入れだが…これはあまり当てにはならない、この程度で見つかるなら黒の鎮守府で苦労はしていないからだ。
もっとも佐世保の提督ならば話は変わるのだろうが…そう思考してるうちにある事に気づく。彼の弟子の舞鶴の提督についてだ
彼は確か最近着任したと同時に異例の出来事に巻き込まれている《不幸の提督》と呼ばれている。
着任後間も無く戦艦ル級のフラグシップ3隻に襲われるも撃退…結果だけ見れば凄まじかったがその後が問題だ。
立て続けに深海凄艦のエリート級の大規模な艦隊との戦闘、ちょくちょく紛れこむ姫級の深海凄艦、最近では鬼と呼ばれる艦とも戦闘した。
立て続けの強敵との戦闘だが、それでも誰も沈めていない彼は《不幸の提督》という称号だけではなく、《雪風提督》とも呼ばれていた。
確かに彼の所持している感娘も珍しいのは分かる、自分でも見た事がない者ばかりだから。
だからこそ心配に思う、彼の感娘を狙う者が現れないかを……
「少し探りを入れてみるかな…」
大規模作戦でら彼の力も必要だ、横須賀の提督はこういう事には力を貸してくれはしない(面倒臭がるため)。
佐世保の提督も積極的に関わると自分の黒が露見する可能性があるために除外。ならば自分一人でやるしかない…そう考えてからは行動は早かった。
また徹夜になるなと思いつつ、眠け覚まし用のドリンクを飲んで書類仕事と調べ物に取り組んだ。
「川内参上!!」
するとバァン!と勢い良く執務室の扉を開けて川内が入って来た、良く夜更かしをする彼女は提督の悩みの種の一つでもあるが、こういった時は助かる。
「五月蝿いぞ川内、早く部屋に戻って寝ろ」
「えー?まだフタマルマルマルだよ?夜はまだこれからなのにぃ!」
少しばかりは気晴らしになる、仕事を手伝わせる気は無いが彼女の明るさと五月蝿さは眠け覚ましに丁度良い。
連日の疲れが溜まっているので眠さにも耐性が無くなってきている、夕張の試薬も切れかかっているので川内眠け覚ましは助かっている。
「やーせーんー!やーせーんー!」
とは言っても、五月蝿い事には変わり無いが
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「では…手筈は此方に」
一人の男性が二人の男性に書類を提出した。それを受け取った男性の一人が目を通し、満足そうな笑みを浮かべてグラスに注がれたジンジャーエールを飲み干した。その男の横に立っている感娘の一人がグラスに新たなジンジャーエールを継ぎ足す。
シュワシュワと気持ちの良い音が鳴り、それが鳴り止む前に再びジンジャーエールを口に含む。
「かぁー!やっぱ最高だぜ!仕事終わりの一杯はよぉ!」
「貴様、雪平が失敗した今計画は今一度見直す必要があるというのに…その能天気さはどうにかならぬのか?」
ギロリと歳を重ねた歴戦の戦士の雰囲気を見に纏う老人が若者を睨みつけた、そんな老人の視線もケラケラと笑い流して若者は書類をしまう。
「とは言っても俺には関係ねぇし、あいつと…佐世保と呉のヤローを殺せるならそれで良いんだよ」
「ふん、まぁ儂も横須賀の奴には借りがあるのでな…今回ばかりは見逃してやる」
「爺さん硬いぜ?気楽に行こうぜ気楽によぉ」
若者はジンジャーエールを飲んでダーツの矢を取り、投げる。刺さった先は佐世保の提督と呉の提督の顔写真だ。
「あいつらは俺の親友を殺した、それだけで殺す理由は充分だ…爺さん、頼りにしてるぜ?行くぜポーラ」
「は〜い」
若者はそう言って彼の感娘と部屋を出て行った。部屋に残った老人は溜息を吐いて呟く。
「知らぬが仏…無知は罪、貴様の親友が黒に手を染めている事を知っていたら…貴様はそれ程殺意を抱いていたのだろうか?………まぁ儂には関係は無いがな」
睦月ちゃんは長女だからね、仕方ないね。
口調?うちの睦月はアニメ睦月とプラゲ睦月が合わさった究極の睦月だから…
こっから第二部に入ります