「まどかを殺したいのかっ!?」
「…」
夜の公園に瀬津そうまの怒鳴り声が飛んだ。
ガンガンと耳の奥で響き続ける。
鹿目まどかが瀬津そうまの事を落ち着かせようと試みるも、気の弱い鹿目まどかは何もすることが出来ず、それでも何とかしようと瀬津そうまの制服の裾をきゅっと引っ張った。
それを気付いているであろう瀬津そうまは無視して、声を荒げ続けた。
瀬津そうまの額からは少なくない出血が確認できた。
それを自身の右手で抑える。
「魔女退治は死と隣り合わせ。それを俺は何度も言ってきたよな?」
「…うん。」
「確かに最近調子は良かった。まどかの弓の腕も上がって、魔法の節約をしながらも大量の敵を相手にすることが出来ていた。…そういう時こそだろ! 隙が生まれかねない時ってのは!」
「ごめん…」
美樹さやかは瀬津そうまの額に手を伸ばす。
魔法で出血を抑えるためだ。
それを瀬津そうまは右手で打ち払った。
鹿目まどかが代わりに短く悲鳴を上げる。
「魔法を節約しなきゃダメだろ。」
「…ごめん。」
「そんなに謝らなくていい。この怪我はさやかだけの責任じゃないからな。まどかを引きずりまわした俺の方が責任は重い。」
「そんなこと…私は瀬津君やさやかちゃんに無理を言って…」
「それでも、その時無理にでも止めていれば、こんな事態に陥らなかったかもしれない。さやかやまどかがこんな風に悩むこともなかっただろう。」
聞こえるように、瀬津そうまは歯ぎしりをする。
それは自分の未熟さを恥じているようで、それを否定したい2人なのだが声が出てくれない。
瀬津そうまがここまで怒りをぶつけてきたことは初めてだったから…
瀬津そうまはただのフェミニストであると、美樹さやかはであった当初考えていた。
それは今も、少しだけではあるが、変わらず考えている。
だからミスをしても咄嗟にフォローしてくれる。
後々説教をするも、どこか本気では怒れない優男な性質。
クラス中の女子から熱い視線を集めるその容姿と性格は、女子に好かれるために生まれてきたのではないかと思わせる。
…事実、そのために生まれた容姿であるということは美樹さやか以外は知らない。
女子と積極的に会話し、女子をまとめあげるその姿はそのように映っても仕方のないことだろう。
もちろん男子にも同じような対応を取るのだが、いかんせん女子との絡みが多いからか、そのような印象がほとんどない。
そんな瀬津そうまが鹿目まどかと美樹さやかに激怒しているのだ。
表情は魔女や使い魔にしか見せない、肉食動物を彷彿とさせるような険しいものとなり、声は全身を震わすほどに大きい。
ただでさえ、瀬津そうまの怪我で精神的に弱っていた2人には恐怖の対象でしかなかった。
「さやか。剣を一本作ってくれ。」
「えっ? なんで…」
「この借りは必ず返す。だから、それまでお前たちは魔女退治を休憩していてくれ。」
「そんな…!?」
「最近同じことの繰り返しで空気が緩んでいたことも分かったしな。一回やり直そう。」
「それならあたしも…」
「駄目だ。今のさやかは信用できない。」
強く、はっきりと言い放つ。
その言葉は美樹さやかの心に深く突き刺さる一言だった。
開いた口がふさがらない。
ただ、身体は勝手に動き出し、瀬津そうまに一本の剣を渡していた。
「それじゃ、また明日、学校でな。」
そして瀬津そうまはまたも2人を残し、夜の街を1人で歩いていった。
第34話 難しい午後
それはまるでゾンビのようだった。
皮膚は腐って剥がれ落ち、ドロドロの身体の至る所にこげ茶色の骨が見え隠れする。
それだというのに歩くことを止めないその姿はまさしくゾンビといってもおかしくはないだろう。
今回の魔女退治はそんな使い魔を引き連れた魔女との戦いだった。
思わず目を覆ってしまいたくなる相手に、美樹さやかは気丈に剣を振るい続けた。
使い魔の腕を切り飛ばすと、遠くから戦況を見つめる鹿目まどかは目を覆った。
今回の魔女退治は普段とは異なり、2人の強い反発から瀬津そうまは後方で待機していた。
その隣には鹿目まどか。
瀬津そうまを言いくるめる際、鹿目まどかの護衛、といったためそのような形となっている。
よって前衛は…というより、今回の魔女退治は美樹さやか1人で挑むこととなっていた。
当然美樹さやかにも気合が入る。
久方ぶりの単独戦闘であり、なおかつ後ろにはギャラリーもいるとなると当然のことだろう。
いつも以上に気を配り、油断することのないよう自らを律して魔女退治を行っていた。
使い魔である人型ゾンビを半数以上倒した時だろうか、使い魔の奥で常に美樹さやかのことを観察していた巨大な犬のような魔女が突如動き始めた。
骨がむき出しの顎を大きく開き、あろうことか自身が創りだしたはずの使い魔を食らいだしたのだ。
これには瀬津そうまを含めた3人が驚愕の表情を浮かべる。
ゴキッ、ボキッ、という骨をかみ砕く音が結界内に響き渡る。
鹿目まどかはその音だけで吐き気を催していた。
汚いものを食べているかのようにしかめっ面を見せる魔女は、使い魔を勢いよくごくりと嚥下すると、なんと口に含んでいた使い魔の骨を美樹さやかに向け吐きだしてきた。
それはまるで吹き矢の様、真っすぐに標的に向かって飛んでいく。
これには咄嗟に迎撃することが出来ず、美樹さやかは一度鹿目まどかと瀬津そうまの元へと戻るように撤退する。
魔女が吐きだした骨は美樹さやかに一番近くで挑んでいた使い魔に直撃。
一体の使い魔が結界から消える。
続けて魔女は再び手近な使い魔の左腕を食いちぎり、美樹さやかに向けて勢いよく吹き出した。
重力の影響を受けず真っすぐに飛んでくる一塊の骨を、美樹さやかは剣でいとも簡単にはじき落とす。
この時、美樹さやかの身体は命令を下すまでもなく、自然と動き出した。
理由は分からない。
ただ…使い魔の行動が何かに触れたのだ。
弾き飛ばすと同時に、魔女に向かって真っすぐに一足で飛び出す。
身体は音速を超え、剣を握る両手は柄を握りつぶすかのように力強く握られ、そして表情はひどく歪んでいた。
(こいつ…許さないっ…!)
美樹さやかの様子は明らかにおかしかった。
魔女の様子を見るや否や、明らかに激昂した様子を見せていたのだ。
その原因を瀬津そうまは理解できない。
ただ魔女が使い魔を武器として使っているだけにしか見えない。
美樹さやかですら正確に把握できていない気持ちなのだから、それは当然のことかもしれない。
しかしその表情ははっきりとした憤怒に因るだった。
突然身体が動き出し、魔女を憎むほどに荒ぶる気持ちに美樹さやか自身も付いていけない。
しかし、怒りが美樹さやかから冷静を奪っていく。
使い魔のゾンビを使い捨てる行為。
そして大きな口を開き、人型の身体を食らうその姿は…
美樹さやかの逆鱗に触れた魔女は再び使い魔を食らうと、跳んでくる美樹さやかに向け再び骨を飛ばす。
真っすぐに顔面に向け飛ぶ骨を首を傾けるだけで避け、勢いを落とすことなく剣を大きく振りかぶる。
周りの景色が飛ぶように映り変わり、使い魔の群れの頭上を通り過ぎていく。
(こいつは…こいつは…っ!)
左腕を食われた使い魔が何かうめき声をあげている。
痛みなど感じないであろう使い魔が痛み苦しんでいるその姿は…
あの日の瀬津そうまに似すぎていた。
…そして美樹さやかが枕元で想像した巴マミの姿とも似ていた。
大きく振りかぶった剣を勢いよく振り切る。
魔女が腐りきった瞳で美樹さやかを見つめたように見えた。
全て見透かされているようなその瞳に、心がざわつく。
同情するような視線に違うっ、と叫びたくなる。
美樹さやかの振り下ろす腕は風を切り裂き、剣は魔女の身体を真っ二つに切り裂いた。
ギャオゥン! という断末魔を上げ魔女は地に伏せ、そして腐りかけの肌が急速に溶けていく。
溶けた肌はドロドロとなり、骨まで溶かしていく。
まるで硫酸だ。
巨大な身体は全て溶け、それでもなお侵食が止まらない肌は周りの使い魔を巻き込んでいく。
結局魔女の肌によって使い魔のほとんどが魔女の滅亡に合わせるように、使い魔の群れは全て溶けていった。
その光景はまるで泥の海に沈んでいく人の群れのようだ。
地獄絵図がそこには広がっていた。
全ての使い魔が溶けきると結界は霧散した。
夜の公園が広がり、冷たい冬の空気が肺を満たしていく。
火照った身体はその程度では治まることはない。
魔女や使い魔の溶けた跡は結界が霧散すると同時に消えていた。
無意識に顔には笑みが浮かぶ。
魔女を倒し、グリーフシードを手にすることはできなかったが、被害を出すことなく魔女退治を終えることが出来た。
達成感が身体に満ち足りてくるような感覚があった。
(あたしはそうまを救うことが出来たんだ…)
美樹さやかは後方で戦いを見ていた2人に振り返る。
そこにはきっと笑顔を浮かべた2人がいるだろう。
そんな想像を浮かべたまま、美樹さやかは振り返った。
そこには地に伏せる瀬津そうまと、瀬津そうまの身体を揺する鹿目まどかの姿があった。
世界がぐるぐると回り始める。
「瀬津君…いつもと変わらなかったね。」
いつもの昼休み、いつもの屋上。
それだというのに箸はいつものように進んでくれない。
鹿目まどかの弁当の中身もあまり減っていない。
「…まぁ、とにかく食べようよ。お昼休み終わっちゃうし。」
「うん…」
梅干しの着色料によってうっすらと赤く染まったご飯を口に含む。
酸っぱくて…涙が出そうになる。
「そうまは、全然自分の悩みとかを表に出さないよね。」
「…そうかな?」
一口、二口と食事を進め、そして再び箸を止めて話を始めてしまう。
さっきからこの調子なので、弁当の中身は一向に減ってくれない。
空を見上げため息をつくと、今にも雨が降り出しそうな厚い雲が広がっていた。
比較的暖かいので雪は降らない、と気象予報士が言っていたことを思い出した。
鹿目まどかが言っていたことは瀬津そうまの態度のことだ。
昨夜、鹿目まどかを庇い額に怪我を負ってしまった瀬津そうまは、頭に包帯を巻いて登校してきた。
当然クラスの人気者となっている瀬津そうまのそんな様子に、男女問わず心配顔を向けてきた。
…ただし、暁美ほむらだけは席に座ったまま様子を伺うのみだったが。
質問攻めにあう瀬津そうまはそのすべてを冗談交じりに返し、時には敢えて優しさに甘えるような態度を見せ、そして最後には心配顔で詰め寄ってきたクラスメイト全員を笑顔にしていた。
決して本当のことは口に出さず。
今も無理やり呼びとめたクラスの男子生徒と、楽しい食事に時間を過ごしているだろう。
瀬津そうまのことだ、周りと合わせる、というより周りを巻きこんで笑い合っている姿が目に浮かぶ。
その想像はとても幸せな光景で、少しだけ食事のペースが上がった。
普段とは全く変わらない様子を見せる瀬津そうまだったが…
しかしそれは怪我の理由を知る鹿目まどかと美樹さやかにも同様の反応であった。
人懐っこい笑顔を見せ、どこか大人な風格も纏い、そして相手をいつの間にか立てている。
それは傍から見れば仲の良い友達のように映るだろうが、瀬津そうまのことをよく知る2人、特に美樹さやかにとってはとても他人行儀なように感じてしまった。
まるで迷路のようだと、美樹さやかは感じてしまう。
入口は入りやすく初めはどんどんと先に進めるが、次第に行き止まりにぶつかり結局ゴールにたどり着くことなく、途中まで進めたことに満足感だけを与え人々を追い払う。
美樹さやかはそんな迷路を想像してしまった。
…無論、満足感を与える迷路、って何? と後に考えてしまうのだが、それは置いておこう。
そのような理由で、鹿目まどかと美樹さやか2人だけで、屋上でいつものように食事をとっていた。
瀬津そうまに魔女退治を禁止されているのだから、今日くらいは志筑仁美と上条恭介と一緒に食事をとって、2人の様子を弄るのも悪くなかった、と今になって考える。
そうすれば教室にいることもできた。
「どういうこと?」
そんな普段と変わらなく見える瀬津そうまの印象だが、鹿目まどかには思うところがある様子を見せる。
思わず美樹さやかは真意を訊ねた。
「どうして瀬津君はそんなに反省してるのかな、って?」
「えっ? そりゃあもう、『自分の所為でまどかが怪我しかけた』とか考えたからでしょ。」
「でも、私もさやかちゃんも怪我しなかったよ?」
「そういうことじゃないでしょ。そうまは自分が男の子だってことに執着するところがあるから、男の自分が守らなきゃ、って思わずにはいられないの。今回だって、きっとそういうことだと思う…たぶん。」
「気のせいかもしれないんだけどね?」
鹿目まどかの前置きに美樹さやかはうなずく。
「昨日の瀬津君、機嫌が悪かったのかな~、って思うんだよね。」
「えっ、そうだった?」
「本当に気のせいかもしれないからね!? …でも昨日は朝からどこか近寄りがたい雰囲気があったような気がして。」
そう言われ、美樹さやかは昨日の瀬津そうまの様子を思い出す。
前日の魔女退治で負った怪我の所為で、注意して見なければ分からないくらいではあるが歩きずらそうにしていて、それでもいつものようにクラスメイトに囲まれ、怪我のことは誰にも気付かれないように振る舞っていて、何故かクラスメイトの佐藤さんに放課後校舎裏に呼び出されていたり…
何か余計なことまで思い出している気がするが、学校に居たときはそんな様子は無かったように感じる。
頭を傾げている美樹さやかに、鹿目まどかは続けて話をする。
「だからね。きっと昨日は虫の居所が悪かっただけだと思うの。」
「そんなものなのかな~?」
鹿目まどかの言いたいことは分かる。
瀬津そうまも『人間』なのだから悩みもするし、憤怒することもある。
だからちょっとの事でイライラしてしまう事もあるだろう。
それが鹿目まどかの言いたいこと。
それは分かるのだが…
「でも、やっぱり私がしでかしちゃったのも原因だよね、それ…」
「えっ!? えっ~…そんなこと!」
美樹さやかが魔女に斬りかかった際、避けた骨の塊が鹿目まどか目掛け真っすぐに飛んでいったことが原因の一つだ、と美樹さやかは考えている。
美樹さやか一人では精神的に未熟であり。
瀬津そうまや鹿目まどか一人では魔女退治に実力不足であり。
その欠点を補う為に、3人で魔女退治を行っているのだ。
お互いがお互いを意識し合わなければ、それはただただ欠点を増やすだけの行為だ。
今回の場合、美樹さやかは単独での戦闘ではあったが、最低限鹿目まどかと瀬津そうまに危険を及ぼすような事態には全力で阻止するべきである。
瀬津そうまが付いているのだから安心、という気持ちもあったのだろうが、その瀬津そうまも前日怪我を負っている。
一人の仲間が死ぬことでどれだけ自分達が傷付くか知っている3人にとって、仲間への思いやりの欠如は自身の身を滅ぼす最大の敵である。
だからこそ瀬津そうまは美樹さやかに怒った。
美樹さやかはそう結論づけた。
そんな考えを巡らせている際、鹿目まどかはどうにかして美樹さやかを励まそうとあたふたしていた。
何やら上手い言葉が浮かばない様子。
そんな慌てふためく親友の姿に、くすりと笑みがこぼれてしまう。
「大丈夫だよ、まどか。このくらいでへこたれるほど、さやかちゃんは弱くないんだから!」
「あっ、そ、そうだよね。てへへ…」
「でも私、油断してるつもりなかったんだけど、ね。魔女退治の時は真剣に、そして冷静に、ってそうまに耳にタコが出来るほど言われてたし。…確かに冷静じゃなくなってたのは認めるけど。」
「うん。私もさやかちゃん、気合入ってるな、って思ってた。」
「まどかにもそう見えた? それじゃあ、『気合が空回りしてるぞ!』って言いたかったのかな?」
「う~ん…昨日、瀬津君の様子がちょっと変かな、って思ったけどそれは関係ないかな? もしくは、やっぱり魔女に向かっていった時のことが原因とか?」
「向かっていった時?」
「うん。それまでは瀬津君、普段のままさやかちゃんのことを見てたもん。その後は私をかばって…」
「…それじゃあ自分が怪我して、やり場のない怒りをぶつけられた感じ?」
「そうでもなくって、…実はさやかちゃんが魔女に向かっていったとき、一瞬だけどすごく怖かったんだ。さやかちゃんが怪我しちゃうんじゃないか、って。」
「えっ? なんで?」
「前にもあったから…さやかちゃんがいっぱい怪我して魔女を倒した時が。その時も昨日みたいに魔女に向かって真っすぐ飛んでいったの。」
「あの時は…反省してます。」
美樹さやかは過去の自分を思い出し、真っ赤な顔をしながら鹿目まどかに頭を下げた。
鹿目まどかは慌てて手を振って頭を上げさせる。
「きっと瀬津君もそう思ったんじゃないかな? さやかちゃんがまた無理しちゃってる、って。」
「そうまが…。」
「だからきっと、昨日怒ったのは『もっと自分の身体のことを大事にしろ!』ってだよ、きっと!」
瀬津そうまの声真似を加えつつ、鹿目まどかは問題の答えにたどりついた小学生のように気分を高揚させる。
手をしっかりと握り、美樹さやかのことなどお構いなく、寧ろ美樹さやかのことを大切に思うからこそ、腕をぶんぶんと振った。
急に手を握られた時は戸惑いを浮かべてしまった美樹さやかだが、それも鹿目まどかの優しさだと気付くと自然と頬が緩む。
「そっか。たしかに、そうまって男の子だから、そんなこと考えちゃいそうだわ。」
「でしょ! 絶対そうだよ!」
「それじゃあ今日はそうまの立場を考えて、ゆっくり休ませてもらいますか。久しぶりにCDショップに行こっ! 昨日のことはそうまの機嫌が良くなったら、ちゃんと謝りにいくよ。」
「そうだね! それじゃあ行こっか!」
お互いが導きだした答えは違う。
その中に正解は無いかもしれない。
それでも、美樹さやかは少し救われた気持ちになれた。
それと同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
2人は弁当を手に持つと、立ち上がりスカートに付いたほこりを落とす。
その際冷え切った太ももを軽く摩って暖をとりつつ校舎内へと入っていった。
瀬津そうまが昨夜どうしてそこまで怒りを見せたのか。
と言うより、どうしてあんな怒りと反省をごちゃ混ぜにしたような、何をしたいのか分からないような発言をしたのかも分からない。
それでも、今は一緒にいることを誓ってくれたもう1人のパートナーの優しさに包まれることにする。
真偽を求めるだけが信頼関係ではないのだから。
2人にとって、穏やかな1日が過ぎていく。