魔法少女の騎士   作:アンリ

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第10話 ニフラム

 

 

第10話 ニフラム

 

 

 

 

 

「お待たせキュゥべえ、そうま君、美樹さん。」

「悪いな、マミ。ちょっと俺だけじゃどうしようもないみたいだ。」

 

 ぐにゃぐにゃと形を変えていくグリーフシードから発せられる威圧感に、たどり着いたばかりの鹿目まどかは固唾を飲んだ。

 禍々しいだけでなく心に直接的に語りかけてくるような…

 不安を駆られるその物質に身震いが止まらない。

 

「任せて、そうま君。今日は一気に決めちゃうから!」

「あれ? なんかマミさん機嫌いいね? 何かあったの、まどか?」

「あははは…なんだろうね?」

 

 美樹さやかはこの不安に慣れているかのようにあっけらかんとしていて、鹿目まどかに巴マミの様子の変調に疑問を浮かべている。

 渇いた笑い声を洩らしながら、美樹さやかの精神的な強さに羨望のまなざしを向けていた。

 その美樹さやかの強さも、巴マミと目の前の魔女への対応策を練っている瀬津そうまによるものだということは鹿目まどかには分からない。

 

「来るよ、マミ、そうま。」

 

 キュゥべえが告げると同時にグリーフシードの変体がピタリと止まる。

 時が止まったかのようにその場にいた全員が身動き一つとることをやめてしまった。

 そして時は動き出し、ゆるゆると形を変えていたグリーフシードは急速に動きを速めていく。

 四方に広がっていた影がグリーフシードを中心に集まり、膨張し、形を作っていく。

 どこまでも光を吸いこんでいきそうな影は、徐々に色味を帯びていき赤みを、そして白みを付加していった。

 

「魔女が出てくるぞ…」

「先手必勝ね。」

 

 影はキュゥべえを一回りほど大きくした程度の大きさへと収束していき、台座は細長い四 脚椅子へと形を変えていく。

 魔女へと姿を整えた影は、台座から早変わりしていった椅子にもたれ、くたっと力が抜けた状態で正体を現した。

 にごった水色の瞳にけだるげに垂れ下がったピンクの毛色をした耳、手脚は短く首には赤の水玉のマフラーが巻かれたぬいぐるみ。

 それがこの結界を形成していた魔女、シャルロッテの姿であった。

 瞳が輝かしいものなら女の子の部屋にあっても違和感のないほど、小さくか弱く柔らかそうな姿に鹿目まどかと美樹さやか、そして巴マミさえも少しばかり拍子抜けしてしまった。

 

「悪いけど今日は速攻で片づけるわよ!」

 

 先手必勝、とばかりに巴マミは魔女へと向かう。

 魔力で具現化したマスケット銃を横薙し四脚をへし折ると、返す刀で重力に引かれ落ちる魔女を砲身で殴り飛ばす。

 中学生の女の子とはいえ魔力を編み込んだ一撃は魔女をいとも容易く弾き飛ばした。

 勢いからして人間ならば複雑骨折していてもおかしくないほどの速度で、魔女はどす黒い壁にぶち当たる。

 しかしその程度で巴マミは止まらない。

 殴打に利用したマスケット銃を発砲、魔女の頭を貫通。

 単発式のマスケット銃を何丁も生み出し、魔女の身体の至る所に魔力の弾丸を撃ち込んでいく。

 マシンガンの如く連射される弾丸は、魔女の柔らかな生地をいとも簡単に貫いていく。

 並大抵の魔女であればすでに絶命し、結界を崩壊させていただろう。

 まだ巴マミの追撃はまだ終わらない。

 

(身体が軽い…本当に最高の気分ね。)

 

 魔女を貫き壁にめり込んだ弾丸数発が形を変え、巴マミに良く似合う金色のリボンとして弾痕から飛び出す。

 自由に伸縮するそれは、抵抗なく地面に倒れ伏せる魔女を縛り上げ、宙へと釣り上げていく。

 まるで生け贄の祭壇に上げられた魔女。

 そして魔女狩りの執行人である巴マミが最期に綱を切る。

 

「…マミ、油断するなよ。」

「大丈夫、そうま君! これで最期! 『ティロ・フィナーレ』!」

 

 既に巨大な砲身は魔女を捉え、魔女はマミの魔力により束縛されている。

 この圧倒的優位な状況にいながらも、瀬津そうまは集中を切らさない。

 それが身体能力のみでこの闘いの場に立つことが出来る瀬津そうまの心得であるが、今回ばかりは他にも理由がある。

 

「やった!!」

 

 巴マミの必殺技が魔女を貫くと同時に美樹さやかが歓声をあげる。

 鹿目まどかは羨望の眼差しで巴マミを見つめる。

 そして強大な魔力をぶつけた巴マミも、2人の喜ぶ声に反応して笑顔を見せた。

 これまで全ての魔女を薙ぎ倒してきた一撃が決まったのだ。

 一息吐いてもおかしくはない状況だろう。

 

 …しかし巴マミは暁美ほむらが告げた言葉を失念していた。

 

『…今度の魔女はこれまでの魔女と訳が違う』

 

「っ!? マミっ! 避けろっ!」

「えっ?」

 

 瀬津そうまの声に振り返るとそこには巨大な黒い魔女が、大きな口を開いていた。

 巴マミをひと飲み出来るほどの口は、ゆっくりと獲物を捕食するように巴マミの頭に狙いを定め、その鋭い牙を下ろそうとしていた。

 

(ま…じょ? どうして…)

 

 巴マミの必殺技『ティロ・フィナーレ』を受けた魔女はその身を滅ぼしていなかった。

 そもそも巴マミは魔女本体に対して、実は一度も有効打を与えることが出来ていなかった。

 

 シャルロッテ…ぬいぐるみのようなその外見に身を隠し、魔法少女が油断した時正体を現す。

 本体は自由自在に大きさを瞬時に変えることができるため、本体が姿を現し巴マミに近付くまで1秒程度の時間しかかからなかった。

 故に油断していた巴マミは反応できない。

 振り返り、魔女が今まさに噛みつこうとする様を眺めることしか出来なかった。

 鹿目まどかと美樹さやかも突然の事態に声を上げることもできない。

 …そして巴マミの命を切る断首刑は魔女により敢行された。

 

(ゆっくり…閉じていく…)

 

 巴マミの瞳に映る光景はコマ送りで再生される。

 ゆっくりと閉ざされていく魔女の口。

 真っ白な口の中は巴マミを待ち望んでいて、涎のような透明な液体を滲ませている。

 視界はどんどんと狭くなっていく。

 

 …そして目の前は漆黒に包まれた。

 

 

 

 巴マミは最後に考えていた。

 この光景を見て、鹿目まどかの考えは変わるのだろうか…

 残酷な状況をも乗り越えて魔法少女になるのか…

 そもそも鹿目まどかはここから生きて帰れるのか…

 目を見開いても先を見ることが出来ない状態で、巴マミはぼんやりと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「瀬津君!?」

「そうま!?」

 

 そこで巴マミはあることに気付く。

 何故目を見開けるのか…

 何故鹿目まどかと美樹さやかの声をいまだ聞き取れるのか…

 そしてその答えはすぐさま無理やり理解させられる事となる。

 

「マミ! しっかりしろ!」

「えっ…?」

 

 巴マミの腹部に垂れる液体。

 顔にのしかかる何か。

 巴マミは漸く何かが自身の瞳を塞いでいることに気が付いた。

 何一つ欠損することない右手でそれを取り外す。

 すると漸く瞳は光を受容した。

 

「大丈夫か! マミ!」

「そうま…君?」

「良かった…無事みたいだな。」

 

 巴マミが倒れ込んでいる体勢から見上げた景色には、1人の男の子。

 瀬津そうまの安心した表情がそこにはあった。

 どうやら瀬津そうまが助けてくれたのだと、巴マミは回らない頭で理解することができた。

 その証拠とばかりに巴マミの身体を、瀬津そうまが右腕で抱え込むように支えている。

 

「とにかく立てるか? 話はそれからだ。」

「う…うん。」

 

 瀬津そうまの言葉を受けゆっくりと立ち上がる。

 そしてそのまま辺りをじっくりと見渡すと、先程本体を現した魔女が舌なめずりをしてこちらを見ていた。

 

「魔女はまだ健在なのね…」

「…そういうことだ。とりあえず今は退くぞ。」

「…冗談じゃないわ。私を虚仮にした罰、ちゃんと払ってもら…わ…」

 

 弱気な発言をした瀬津そうまに巴マミが反抗する。

 自分はまだ闘えるのだと瞳に力を込め、瀬津そうまに視線を向けた。

 しかしそこで勢いはピタリと止まる。

 

 …いや、止められた。

 

 

 

 

 

「そ…そうま…君…………腕……左腕は?」

 

「………」

 

 

 

 身体は自然とガクガクと震えだし、歯がかちかちと鳴り響く。

 そこにはどくどくと左肩口から流す瀬津そうまの姿があった。

 左腕が丸ごと消失しているその姿はやけに歪で、普段の瀬津そうまとは何か違う人物の様に感じられた。

 出血を抑えるように右手で傷口を押さえ込むも、血液は流れることを止めない。

 

 そこで巴マミは理解してしまった。

 瀬津そうまが左腕を犠牲に自身を助けてくれたこと。

 腹部に落ちた液体が瀬津そうまの血液だったこと。

 魔女が舌なめずりをしていたのは、食事の後に唇についた何かを拭き取っていた動作だったこと。

 …そして今自身の右手が掴んでいる物が『瀬津そうまの左手首』だということ。

 

「っ!? きゃっ!?」

 

 巴マミは事実を認識すると同時に、瀬津そうまだった物を放り投げる。

 それを魔女は犬のように口でキャッチし、味わうように咀嚼を始めた。

 右手は紅く染まっている。

 

「あっ……あっ…!?」

「落ち着け、マミ。俺は大丈夫だ。」

「で…でも…」

 

 ぼたぼたと零れ落ちる血液は目を覆いたくなるほどの量。

 瀬津そうまの表情も顔面蒼白なものへと変化していた。

 吐く息も絶え絶えで、どう見積もっても一刻も早く病院へと向かう必要があった。

 しかし巴マミは動かない…いや、動けない。

 縮こまるように自身を抱き締め、脚をがくがくと震わせるだけだ。

 

「マミ! 聞こえてるか!?」

「わ…私の所為…だ…ご…ごめんなさい…」

「っ…しゃーないか…悪いな。」

 

 瀬津そうまは血液がベッタリと付いた右手で巴マミの腕をつかむ。

 するとすぐさま手を引いて、巴マミを鹿目まどかと美樹さやかの元へと無理やり突き飛ばした。

 勢いに身をゆだね、巴マミの身体は美樹さやかの胸へと飛び込む。

 

「まどか! さやか! マミを連れて先に逃げろ! キュゥべえは2人を案内してくれ!」

「でも…瀬津君…」

「いいから早く! 全員死ぬ気か!」

 

 雄叫びをぶつけられた2人は身体をびくりと震わせる。

 その声があまりにも普段の優男である瀬津そうまの声色とは、あまりにもかけ離れていたからだ。

 しかし2人も動けない。

 魔女の恐怖、漂う血の匂い、そして歪なクラスメイト。

 破裂しそうなほどの鼓動を刻む心臓を鎮めることすらできず、胸を抱きしめることしか出来なかった。

 

「ほら、魔女さんよ…美味そうな獲物が目の前にいるぞ? なかなか美味そうな匂いだろ?」

 

 右手に付いた血液を振り払いながら、魔女へと挑発を繰り返す。

 3人が逃げるまでの時間稼ぎを、瀬津そうまは1人で行おうとしていた。

 左腕を丸々失ったばかりの状況で、傷口から漏れる血液を必死に押さえながら。

 挑発に乗るように魔女は瀬津そうまに向かって、その伸縮自在の身体を伸ばしていく。

 そして一度限りの鬼ごっこが始まった。

 鹿目まどかと美樹さやかの身体はまだ動かず、巴マミに至っては壊れた玩具のように謝罪の言葉を繰り返すだけだった。

 状況は刻一刻と悪化していく。

 唯一魔女と対抗する手段を持つ巴マミが戦闘不能なため、RPGで言えばゲームオーバーであろう。

 

 そこに一つの救いの言葉が紡がれる。

 

 

 

 

 

 

「まどかかさやかが僕と契約すればいいんだよ。」

 

 

 

 

 

「えっ…」

 

 それは白き奇獣からの甘い誘い。

 救いの道を一つ指し示す言葉。

 

「どちらか…いや、2人が魔法少女になればあの魔女を倒せる。全員が助かるよ。そうまの腕だって治すことができる。」

 

 2人の鼓動がドクンと跳ね上がる。

 喉は渇き、唾液を一息で飲み込んだ。

 瀬津そうまは3人から魔女を引き離そうと、出来るだけ長く、遠くへと逃げる。

 魔女の凄まじい速さで迫る突進に、一度たりとも当たることなく紙一重に避け続けていた。

 それは魔法少女ではない一般人からしてみれば奇跡の所行であり、瀬津そうまの並外れた身体能力と反射神経を持ってして初めて可能となる神業であった。

 しかしそれも長くは続かないだろう。

 大量の出血により体力は急速に減り続ける一方であるだけでなく、左腕を無くしたことで 身体のバランスを上手く取ることもできない。

 2人から見ても、瀬津そうまが耐え続けることは不可能である、と判断していた。

 

「さぁ、どうする?」

「キュゥべえ…」

 

 この時既に鹿目まどかと美樹さやかに迷いはなかった。

 それぞれが叶えたい奇跡も頭に浮かび上がっていた。

 あとはそれを口にするだけ…

 

「その必要はないわ。」

 

 しかしその決意は紡がれず、第三者に口を閉ざされた。

 3人とキュゥべえを飛び越えるように長い黒髪が翻った。

 紫を主体とした色調は彼女の怪しさと強さを表す。

 左手首には円の石盤を身に付け、魔女に対抗する力を持つ証。

 

「あの魔女は私がやるわ。」

「ほむら…ちゃん。」

 

 キュゥべえを睨み、そして3人を睨みつける。

 それだけで鹿目まどかの口は突如として開かなくなった。

 遠くでは魔女の突進により砂埃が立っていた。

 

「それからあの人も助けておくわ。…だからここから退きなさい。」

 

 言い終わると暁美ほむらは突如として姿を消す。

 鹿目まどかが瞬きした瞬間には姿を消していた。

 暁美ほむらが重ねた言葉から推測し魔女へと焦点を移すと、魔女へと立ち向かう暁美ほむらの後ろ姿を視認することができた。

 

「ほむ…りゃ…」

「…どきなさい。」

「ぐっ!?」

 

 目にも留まらぬ速さで、息切れの激しい瀬津そうまの隣に立つと、左肩口にそっと触れてから回し蹴りの要領で瀬津そうまの腹部にかかとを打ち込んだ。

 魔法少女の一撃は重く、男子大学生とも遜色ない瀬津そうまの身体を軽々と3人の前まで吹き飛ばす。

 

「そ、そうま!?」

「瀬津君!? 大丈夫!?」

「気絶してるね。手加減されてるとはいえ、魔法少女の一撃を生身で受けたんだ。当然の結果だよ。」

「そうま君…そうま君…」

「何冷静に分析してるのさ! まどか、何か傷口を塞げそうなものない!?」

「大丈夫。彼女が傷口を止めてくれたから、これ以上出血は防げそうだね。」

「彼女…ほむらちゃんが?」

 

 凄惨な光景に目を背けたい気持ちを抑え、傷口をじっくりと見る。

 そこで鹿目まどかはようやく傷口に付く血液が、液状のまま瘡蓋のように傷口に張り付いていることに気が付いた。

 

「きっと暁美ほむらは血液の流れを止めて、出口を塞いだんだ。これでこれ以上の出血の心配はないよ。」

「それなら早く病院に連れて行かないと! キュゥべえ、早く結界の外に案内して!」

「それも大丈夫。もうすぐ終わるから。」

「終わるって…」

 

 突如として密室空間に響き渡る爆音。

 耳をつんざくような音に3人は身体をびくりと震わせた。

 続いてけたたましい爆音が2つ。

 爆音に釣られ目を向けると、そこには黒煙を口から上げる魔女の姿があった。

 それからは圧倒的。

 暁美ほむらを一飲みせんと、大口を開け突進する魔女に飲み込まれ…

 と次の瞬間には何食わぬ顔で平然と佇む暁美ほむら。

 やられた、と勘違いしてしまうほどの目にも映らぬ速さで避け続ける。

 それだけでなく、避け続けながら魔女を何かしらの力で攻撃し、魔女の身体からは黒煙が上がっていった。

 その光景はあまりにも手際の良い行動だったのか、鹿目まどかと美樹さやかの2人にはいつ、どの体勢から攻撃を繰り出しているかどうかすら視認することができなかった。

 攻め続ける魔女に逃げる暁美ほむら。

 その構図から思い描かれる結末とは全く逆の結末は時間を待たず、結界の崩壊という形で訪れた。

 赤と黒の空間は夕焼けに染まる病院へと変わる。

 それが魔女が消滅したことの何よりもの証拠だった。

 

 

 

 暁美ほむらは魔女が落としたグリーフシードを拾い上げ、4人の元へと近寄ってくる。

 すでに魔法少女の姿は解かれていて、それが暁美ほむらなりの敵意の欠如を表していた。

 

「早くその男を病院に連れて行きなさい。傷口がそろそろ開き始めるから。」

「あ…ありがとう! ほむらちゃん!」

 

 暁美ほむらの言葉を受け、病院の入り口へと歩いていく鹿目まどか。

 彼女を見守るように見送った暁美ほむらは、鹿目まどかの姿が見えなくなるとすぐさま腰を抜かし地面に座り込む巴マミを睨む。

 普段ならば、一つとはいえ年長者の余裕すら感じさせる微笑みを絶やさない巴マミは、その鋭い目線に堪えきれず視線を地面に落とした。

 

「あなたは治療する術があるはず。これを使いなさい。」

 

 その逃げた視線を追うように、今手に入れたばかりのグリーフシードを地面へと置く。

 呪いという汚れを吐き尽くしたグリーフシードは、夕陽の中でも漆黒に染まったように不気味に輝いた。

 

「…大罪ね、巴マミ。先輩と呼ばれることで優越感でも感じていたのでしょうけど、そんなもの私たちには不必要な物だわ。…まぁあなたと彼には感謝してる。これでまどかは魔法少女にならなくて済みそうだから。」

 

 ゆっくりと立ち上がり夕闇へと姿を消していく暁美ほむら。

 ローファーの奏でるコツコツという音が聞こえなくなると、ようやく無意識に止めていた息を、過呼吸のようにし始める。

 そして置かれたグリーフシードで自身のソウルジェムの穢れを浄化すると、すぐさま目の前で倒れる瀬津そうまの肩口に手を当てる。

 かつて傷付いたキュゥべえを癒やした暖かな光が傷口を覆う。

 酷く不安定で暖かな光は徐々に傷口を塞ぐ。

 正面からは医師を連れた鹿目まどかの姿も見えた。

 その瞬間、巴マミの意識は突如ブラックアウトしてしまう。

 倒れる直前視界に飛び込んできたのは、真っ青な瀬津そうまの顔であった。

 

 


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