なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第七話・届く想いと届かぬ想い

 

 

 

 

第七話・届く想いと届かぬ想い

 

 

 

「右上腕骨、左腓骨、左脛骨の完全骨折、不全骨折多数…内臓損傷、脳震盪、内出血多数…」

 

次々と傷名を読み上げていくシャマル先生。

あーあ、予想はしてたが酷いなこりゃ。

 

「なんて無茶するんですかっ!!!」

『つい…ね。本当ごめん、今回はさすがに反省した。』

 

声は聞こえているものの、俺の方は口を動かすのも億劫なので念話で返す。

第一、全身包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態なので喋っても身体に響くし。

 

「バリアジャケットの性能が関節補強に特化してなかったら二度と戦えない身体になっていたかもしれないんですよ!?」

『だよなぁ…』

 

実際、それを見越してバリアジャケットとしての防御機能を放置し、関節等の壊れたら回復が絶望的な箇所の補強に重点を置くように構成してもらったのだ。

アリシア様々である。

 

が、当然本気で心配してくれているシャマル先生に『こうなる前提でした』なんて言える訳もなく、適当な呟きを念話で返す。

 

「幸い多数あるとは言え治らない怪我はありませんから、治るまでは大人しくしていてくださいね!いいですね!?」

『了解。ってか動けないわこれは。』

 

喋る事すらろくに出来ない現状、大人しくも何もなかった。

俺このままヘリに乗せられて六課に戻されるんだろうか?

情けないことこの上ないなこりゃ…

 

『そういやスバルは無事ですよね?ここまでやって弾は斬れてたけど斬れた破片が当たってましたなんて言われたらちょっと切ないんですけど…』

「シグナムが多少怪我してたけど、貴方以外に危険な状態の人はいないわ。スバルもちゃんと元気よ。」

『そりゃ良かった。』

 

シャマル先生にしてみれば良くは無いんだろうが、あの状況じゃ仕方ない。

ただの神速で間に合うとも思えなかったし。

何にしても無事ならよかった。動けるようになるまで時間があるだろうし一休みするか…

 

問題はいろいろとあったが、とりあえず守れて安心した俺はゆっくりと眠りについた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

フォワードのメンバーにやることを指示したはいいのだが、相変わらず意気消沈していて返事すら返さなかったティアナ。

落ち込むのは分かるんだけど…それがここまで露骨に見えるって言うのも困る。

とは言え色々言っても仕方が無いし、自力で問題から答えまでたどり着いたほうが先に進む時にも困らないから本当に危なくなるまでは言うつもりは無いが。

 

とりあえず散歩と称して人気の無い場所までつれてくる。

衆人環視の中で説教じみた事を言われるなんて、誰だって嫌だろう。

 

ティアナは…きっと特に。

 

「失敗しちゃったみたいだね。」

「すみません…一発…逸れちゃって…」

 

これでもかと言う程に沈んでいるティアナ。

 

「私は現場にいなかったし、ヴィータ副隊長に叱られて、もうちゃんと反省してると思うから。改めて叱ったりはしないけど…」

 

事情を知っている身として納得は出来る。反省もしているんだろう。

 

「ティアナは時々、少し一生懸命すぎるんだよね。それでちょっと、やんちゃしちゃうんだ。でもね…」

 

言葉を紡ぎつつティアナの肩に手を置き、目線を合わせる。

『失敗した事』をこの上なく反省しているからこそ、ティアナは見ていないものがある。

それを理解してもらう為に…本気で言葉を紡ぐ。

 

「ティアナは一人で戦ってる訳じゃないんだよ。集団戦での私やティアナのポジションは、前後左右、全部が味方なんだから。その意味と、今回のミスの理由…ちゃんと考えて、同じ事を二度と繰り返さないって…約束できる?」

「はい。」

 

反省しているからか、返事は小さいものだった。

けど、ちゃんと私の目を見て答えてくれた。

 

教え子の事…ちゃんと信じないとね。

 

未だに何処かこわばっているティアナを安心させる為に笑みを見せる。

 

「なら…私からはそれだけ。約束したからね。」

「…はい。」

 

相変わらず力の戻らない返事を最後に、ティアナは皆の元へ戻っていった。

 

 

前後左右、全部が味方。

ティアナは今恐らく、『味方を撃たない様に周囲の事を考えて』と思っているだろう。

 

けど、逆に言うと…前後左右全部が味方なのだから、『自身が対処しなくてもいい箇所』と言う物がある筈なのだ。

 

その上で最適な効率、安全かつ確実に射撃を行っていければ、ひょっとすると今のフォワードの皆でもヴィータ副隊長の到着前に全機撃破出来たかもしれない。

無茶をして欲しい訳ではないけど、前向きに考えるのであればそういう選択肢があった筈。

今回ティアナはエリオとキャロを下がらせて、自身の負担を無理矢理増やした挙句、自分の力で撃つことに拘った結果こんな事になった訳だけど…

 

同じ事は、速人お兄ちゃんにだって言える。

 

そもそも、余程の緊急事態がなければ出ないとはいえ一応私達は余剰戦力ではあったのだ。

当然能力限定つきでリライヴちゃん相手に何が出来るわけでも無いけど、今回ははやてちゃんが解除を許可してくれる予定だった。

 

どうせあのお兄ちゃんのことだから、『こんな早くに限定解除使わせるのも可哀想だろう、俺が片付ければ問題ない』とか考えていたんだろう。

挙句、明らかに自分の担当じゃない位置に首突っ込む為に命懸けの技使って重体。

 

もっと…頼ってくれればいいのに…

 

力不足で局外部のお兄ちゃんを引きずり出した挙句抱く感想ではないことはわかっていたけど、無理した結果倒れたお兄ちゃんを思い出すと、どうしてもそんな思いが浮かんできて…

 

 

 

お前が言うな。と言われる所を想像したせいで、余計にイライラして来た。

 

 

「気分…変えよう。」

 

 

深く息を吐いた後軽く頭を振って歩き出した。

ユーノ君がいるらしいし、折角だから少し話しておこう。

 

 

 

Side~シャマル

 

 

 

「でも本当にビックリしたわ。」

「すみません。」

 

速人さんとは別室で休むシュテルちゃんの様子を見に来た私は、もう既に問題なさそうなシュテルちゃんの様子に一安心出来た。

速人さんに無用な心配事を増やさない為わざわざ部屋を分けたのはいいけど、二人同時に様子を見ることが出来ないから少し心配だったのだけど…これなら大丈夫だろう。

 

「さてと、それじゃあ少しお話聞かせて貰おうかしら。何で貴女が護衛してたものは盗まれた形跡があったのに、オークションは滞りなく行われたのかしら?」

「知りません。」

 

痛いところをついた筈なのに、まったく動じないシュテルちゃんにアッサリ切り替えされた。

 

「知らないって…密輸品だったからでしょう?」

「オークションに出す予定の無い私物だったのでしょう。それが何であるかは護衛の任を受けた際にわざわざ確認していません。」

「確認して無いってそんないい加減な」

「私は公的機関の人間ではないので他者のプライバシーを侵す権利は無いので。」

「うぅ…」

 

淡々と、まったく乱れる様子を見せないシュテルちゃんの様子に、此方が悪い事を聞いているような気がしてくる。

私ははやてちゃんに通信を繋ぐ。

 

『お、シャマルどしたん?』

 

モニターに、アコース査察官と向かい合って座るはやてちゃんの姿が映る。

情け無い理由で邪魔する事になって本当に申し訳ないんだけど…

 

「すみません…この子から事情聴取なんて私にはちょっと荷が重いです…」

『そうか?聞いたこと素直に答えてくれるとおもうんやけど…』

 

はやてちゃんは不思議そうに聞き返してきて…唐突に何かに気づいたような表情を見せた。

 

『シャマル、別に密輸品護衛しとったから捕まえるとかは考えんでええよ。』

「え?」

 

問題発言をされた気がして思わず聞き返す。

が、はやてちゃんは笑顔のまま続ける。

 

『一般の雇われ魔導師が私物守ってくれって言われて私物全部見せろ何て言えるはずも無いし、仕方ないやろ。』

 

はやてちゃんにまでシュテルちゃんと同じ事を言われてはぐうの音も出ない。

 

『それより欲しいんは襲撃犯の情報とかや。大丈夫やろ?』

「は、はい。」

『なら頼むな。』

 

それを最後に通信が切れる。

改めてシュテルちゃんに向き直ると、これ見よがしに溜息を吐かれた。

 

「私が言うのも何ですが、はやては大丈夫なんですか?」

「色々あって多少神経太くはなったのよ…上のいさかいって醜いものが多いから…」

 

シュテルちゃんは、何処に納得したかは分からないが私の返しに頷いた。

 

「そろそろ本題に入りましょう。襲撃者の情報でよいでしょうか?」

「あ、ええ。お願い。」

 

本題を促すシュテルちゃんに頷いて、私は話を纏める準備をした。

 

 

 

Side~ユーノ=スクライア

 

 

 

アコース査察官が戻るまでの間の護衛役を請け負ってくれたなのはと一緒に、僕はある場所に来ていた。

 

「…酷い…みたいだね。」

「うん…」

 

なのはと並んで向けている視線の先には、ベッドに横たわって静かな寝息をたてている速人の姿があった。

僕を守る事も任にしてくれていたなのは達。

そんな中、前線であのリライヴと戦ってくれた挙句、無茶のせいで眠っている友人の様子が気にならない筈がなかったから、人払いをした上で見舞いに来たんだけど…

酷い怪我ならいくらでもしてきた速人だけど、人が来て喋っているのにまったく反応を見せない様子なんてそう簡単に見られるものじゃない。

 

相当の無理をした事は想像に難くない。

 

「…もういいや、出よう。ここで話してても速人が休めないし。」

「うん。」

 

結局一切反応を返す事のなかった速人を背に、僕となのはは部屋を出た。

 

「ごめん、わざわざ人払いまでしてくれたのに。」

「あ、ユーノ君は気にしなくていいよ。そもそもそんな事しなきゃいけないのお兄ちゃんのせいなんだし。」

 

手間をかけた筈だから謝ったけど、なのはは笑顔で許してくれた。

 

「部隊の調子はどう?」

「白い堕天使以外についてはおおむね順調。」

「リライヴか…」

 

彼女相手なら仕方ない。

 

管理局員が考えたらまずい台詞だという事は十分に分かった上で、それでもそう思ってしまう。彼女には、それだけの強さがあった。

 

正義を名乗れないのに悪事を喜ぶ事もなく、笑顔で僕達と話せる位だから一人が好きな訳でも無いはずなのに味方もいない状態で、最低でも十年間。

大儀がなくて仲間もいなくて永い時間…信念を維持するにはあまりにも辛い要素が揃い踏みしているのに、それでも尚…狂う事もなく真摯な瞳のまま戦い続けている。

ある意味、魔力よりも技術よりも強大な強さ。

 

と、僕の不安を感じたのか、なのはが笑みを向けてくれる。

 

「大丈夫、私だって何もしてこなかった訳じゃないし。今度こそ、必ず彼女を止めるから…」

「なのは…」

 

笑顔で…けど、本気の瞳で、握った自分の手に力を込めて告げるなのは。

まるで…自分を戒めるかのように。

 

なのははずっと強かった。

フェイト相手の時も力量差に逃げないで、リライヴ相手にすら真っ直ぐ向き合って戦う事から逃げず、今だって不安要素ばかりのこの状況で折れないように強くあろうとしている。

 

 

でも僕は知っている。その強さの影に心の傷がある事を。

 

 

傷ついて墜ちたなのはから速人が引きずり出したなのはの心の傷、迷惑をかける事を恐れているからこそ被っていた強さ。

 

「ユ、ユーノ君?」

 

僕はなのはの手を両手で包み込むように握る。

恥ずかしいからか引こうとしたなのは。けど、なのはの目を真っ直ぐに見つめる僕から何かを感じてくれたのか、なのはは居住まいを正して僕の言葉を待った。

 

「なのはに…無茶をしないでと言っても意味が無いことは分かってる、大丈夫と聞いても大丈夫と返って来る事も知ってる。」

「ぅ…」

 

否定できないのか拗ねられたのか、なのははちょっと困ったように僕を見る。

そんななのはの手を握ったままで、僕は祈るように続ける。

 

「だからせめて、僕も呼んで欲しい。頼って欲しい。いつでもいい、どんな些細な事でも構わない。変な心配をして進むと決めてるなのはを止めようとする気は無いけれど、進む為の力にはなりたいから。」

「ユーノ君…」

 

出来るなら、傷を恐れて隠す事無くその傷を癒す事ができるように…

 

僕一人勝手に祈るなんて思い上がりかもしれないと、そんな不安もあったけど、祈らずにはいられなかった。

伝えたい事は伝えられた。そう思った僕はゆっくりとなのはの手を離す。

 

途端、物凄く恥ずかしい事言ってた気がしてきた。

 

「ま、まぁなのはを護るなんて偉そうな事は言えないけどさ。司書で学者なインドア全開の僕じゃ。だから本当に力になるくらいだとは思うけど…」

 

なのはは慌てて言い訳めいた事を口走る僕に少し驚いたかと思うと…

僕の手を、さっきまで僕がしていたように両手で包み込んだ。

 

 

ぼ、僕はなのはにこんなことしてたのか!?

 

 

思わずやってしまったとは言え、やられるととてつもなく緊張する。

 

 

「護って…くれてるよ。」

 

 

なのはは、ゆっくり言い聞かせるようにそう言い切った。

 

「ユーノ君に貰ったレイジングハートも、教わった魔法も、沢山付き合ってくれた練習の成果も、全部私を支えてくれてる。」

「なのは…」

「私は一人じゃない、だから大丈夫って笑顔で言えるんだよ。信じて、ね?」

 

嬉しかった。

魔力値ではまったく及ばず、戦闘関連は速人がいるから、僕が役に立てる部分なんてどれくらいあるのかってどうしても思ってしまうから。

 

と、手を離したなのはは何かを思いついたように表情を変える。

 

「でも…折角些細な事でも力になってくれるって言ってくれたし、クロノ君がユーノ君に頼んでる位お世話になろうかな。」

「アイツは嫌がらせかと思うくらい仕事振ってくるからね…正直なのはでも同じ位の作業を探す方が大変かもよ。」

 

なのはから笑顔で告げられた嬉しい言葉の余韻に浸りつつ、残った時間を何気ない会話で過ごした。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

あたしはスバルと一緒に速人さんの見舞いをするため医務室に向かっていた。

助けてもらったスバルが初めに行きたいと言い出して、それについていく事にしたんだけど…

 

「ごめんねティア、付き合わせちゃって。」

「あたしのミスが原因なのよ、付き合うも何も無いわよ…」

 

あたしの返しにスバルは少し悲しそうに、それでも笑みを見せる。

ミスの結果なのだ、逃げる訳には行かない。けど…

一人で…自分から来れたかどうか正直分からない。付き合せてるのはむしろあたしの方…

隣を歩くスバルに、いつも背中を押されている気がしてもどかしくなる。

 

暫く無言で歩いていたあたし達は、そのまま医務室についた。

 

「失礼します。」

 

扉を開くと、ディスプレイと向かい合っていたシャマル先生があたし達の方を振り返った。

 

「あら?二人とも。速人さんのお見舞い?」

「はい。あの、速人さんは…」

 

スバルが言い切る前に、シャマル先生は表情を曇らせる。

 

「内臓も痛めていてね…あまり話すことも出来ないから」

『念話で失礼するよ。あ、耳は聞こえてるから普通に喋ってくれていいぜ。』

 

深刻な表情で説明するシャマル先生の雰囲気を台無しにするような陽気な念話が届く。

途端、シャマル先生が勢いよく振り返り、全身を包帯で覆った人が横になっているベッドを見る。そのままの向きで深く息を吐くシャマル先生。

 

振り返られたせいで顔が見えないけど…間違いなくものすごく怒ってる。

雰囲気だけでそう感じ取ったあたしとスバルはただ動かずに様子を見守るしかなかった。

 

「…速人さん、何で起きてるんですか?」

『目が覚めたところで動けないからまったく意味無いんだけどさ、まったく動けないのに覚めてるんじゃ寝ようにも眠れないでしょ?』

「はぁ…」

 

心底呆れたと言わんばかりの溜息を吐くシャマル先生。

あたしが言うのもなんだが…確かにこんなのが患者じゃ溜息も吐きたくなる。

 

「あ、あの…助けてくれてありがとうございました。」

「ご迷惑おかけして済みませんでした。」

 

スバルが礼を告げるのに続けて謝る。

 

『いや悪いな、心配かけて。本当はもっと軽く助けられれば良かったんだけど、便利な魔法使えなくてさ。』

 

が、当の速人さんが何故か謝ってきた。

 

そんな事を謝られてはミスして仲間を撃ちかけた私はどうなる。

と思ったものの、今の私が口に出せる訳もなく、黙っている事しか出来なかった。

 

「そろそろ速人さんには眠って貰わないといけないし、二人も今日は任務で疲れてるでしょう?もう休んだ方がいいわ。」

「あ、はい。」

「失礼しました。」

 

シャマル先生に促され、一礼を最後に医務室を出る。

 

「スバル、先帰っててくれる?あたしちょっと練習してくるから。」

 

医務室を少し離れた所でそう切り出すと、スバルは身体ごと私の方に向けて拳を握る。

 

「練習?なら付き合うよ。」

 

思ったとおりの台詞を吐いて来るスバルを横目に、あたしは外へ向かう。

 

「帰って休んでなさい。悪いけど…一人でやりたいから。」

「…うん。」

 

スバルはそれ以上無理は言わずに引き下がる。

なんだかんだで腐れ縁が続いてきた仲だから、それなりに感じる物があったんだろう。

 

…こんなミスするようじゃ話にならない。

強くなるんだ…もっと、もっと…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




今日はここまでです。

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