なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第六話・墜ちる風

 

 

第六話・墜ちる風

 

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

「はい残念。」

「ぐ…っ!」

 

魔力剣でレヴァンティンを切断しつつ打撃を叩き込む。

シグナムの身体がくの字に折れ…

 

 

崩れ落ちずに持ち堪え、後退する。

 

 

…呆れた精神力だなホント。

能力限定されてる状態で勝負になる訳無い事位分かってるだろうに、意識とんでもおかしくない一撃を無理して堪えるなんて。

 

「犯罪者に…情けをかけられた攻撃で打ち倒され…おめおめと引き下がれるものか。」

「情けって…シグナムの中では私って片っ端から殺して回るのが普通になってる訳?」

 

打撃で済ませたのは別に情けをかけるとかじゃなくて、極力殺したりとかする気が無いだけなんだけど。

シグナム的に譲れないプライドとかあるんだろうか?騎士って言ってたし…

 

「まぁいいや。素直に引いてくれる?本命が来たからさ。」

 

下から気配を感じて、私はスカートを抑えつつシグナム含めて二人とも視界に入るように移動する。

 

どうやら、私の嫌な予感は当たったらしい。

召喚士を探そうと試みる魔導師が一人もおらず、誰かが向かって来る『気配が』まるで無い。

 

だからこそ、気配無しで行動可能かつ管理局に関わってそうな役一名を思い出した私は、もし予想が当たりなら二、三人倒されたら姿を見せるだろうと思って出てきたのだ。

そして、何の気配も感じなかった森の中から突如現れた姿が、私の予想が当たっていたことを示していた。

 

 

空なのに飛行じゃなく歩行。

もう大人に分類されるだろうに相変わらずな赤いマント。

腰に下げた二つの小太刀。

 

 

何処までも懐かしい姿のまま、大きくなった高町速人の姿があった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

なのは達より色々と一回り小さいが、それでも昔と違い子供ではなくなったリライヴ。

けどそれ以外はそのままで変わりなかった。

 

全身純白のバリアジャケットも。淡い桜色の首輪も。

 

犯罪者と呼ばれるにはあまりにも澄んだ瞳と優しい微笑みも。

 

「久しぶりだね。」

「そうだな。」

 

普通に答えたつもりだったが、リライヴは少し目を伏せる。

 

「怒ってる…みたいだね。」

 

何となくおかしさを感じ取ったのか、そんな呟きが返って来た。

俺は軽く肩を竦める。

 

「変わったわけじゃないんだろうがな…さすがに今回のは無いだろ。」

 

スカリエッティは普通に傍迷惑な類の犯罪者である。

間違ってもこいつが協力するような相手じゃない。

本人もそれが分かっているのか、少しだけ目を逸らして頷いた。

 

「…でもまぁ、私がやることは結局変わらないから。そろそろ始めようか。」

 

リライヴはそれだけ言うと、デバイスを構えた。

 

「シグナム。」

「分かっている、後は頼む。」

 

受けたのはただの拳一撃だが、リライヴの規格外な魔力で強化された一撃をリミッターをかけた状態のバリアジャケットで直撃したのだ。

ただでさえ打撃は、線を切断される刃の一閃と違い、ダメージが面で潰れるように来る。

一度診て貰わないと内臓も骨も危ないだろう。とてもじゃないが戦闘を続けられる筈も無い。

 

ので、下がって欲しかったのだが…シグナムは一人前衛をこなしているザフィーラの元へ向かっていった。

さすがにガジェットに遅れはとらないだろうが、頑張るよなアイツも…

 

『さすがに一人は厳しいやろ、限定解除してなのはちゃんとフェイトちゃんをそっちに』

『いや、いい。』

 

はやてからの念話に簡潔に答え、リライヴに意識を戻す。

回数にかなりの制限がある限定解除をこんな所で使わせるのも悪い。

まだ何も相手の事が分かってないような状況なのだから。

 

それに…今この場で決める分には十分勝機がある。

 

「屋内ならともかく、この空戦機動の距離で速人の魔力じゃ私に追いつくのは無理だよ。それでも…やる?」

「いや。」

「ま、そう言うと…え?」

 

俺が首を横に振ると、意外だったからか驚きを隠さず声に出すリライヴ。

 

「た、戦わないの?それならそれで」

「ああ違う、そっちじゃない。」

 

困惑を隠さず、少し怒ったように俺を見据えるリライヴ。

 

「空戦機動の距離とか言ってたが…そこは俺の間合いだ。」

「…っ!!」

 

俺の答えを聞いて間もない内にリライヴの目が完全に戦闘用に切り替わる。

そこまで確認した所で…

 

 

 

神速に入る。

 

 

 

緩やかなモノクロの世界の中、リライヴに迫る。

初めの二、三歩は完全に気づかれず、リライヴが気づいた時には既に一足刀の距離までつめていた。

俺の左の一閃をリライヴが魔力剣で受けた所で、すぐさま右を真一文字に振るう。

 

手ごたえを感じたところで、リライヴの左足が振り上げられてきているのが見えた。

急所狙いの足の脛を左の刀の柄で受ける。

最後、右の突きでリライヴの右肩を貫こうとして…

 

リライヴのバリアジャケットが弾けとんだ。

 

ジャケットパージの勢いに飲まれ吹き飛ばされると同時に神速が切れる。

体勢を立て直してリライヴを見ると、初めより多めに距離を取った状態で腹部を押さえているリライヴの姿があった。

 

行動不能にするには浅かったらしい。

殺さず止めるなら峰打ちでどこかしらの身体機能を一時停止させる方が無難か…

 

「じょ…冗談じゃない…君もう人間じゃないでしょ?」

 

再展開した為切り口が塞がったバリアジャケットの上から、腹部の傷口を押さえるリライヴ。

余程神速が予想外だったのか、いつもより若干余裕がなさそうに見える。

 

しかし…人間じゃない…ねぇ。

 

 

「それは俺も言いたい。デタラメだなその魔力刃。」

 

 

俺は先に打ち込んだ左のナギハを見る。

 

 

 

打ち込んだ部分から先がすっぱりと切断されていた。

 

 

 

正直俺の魔力値は、リミッターかけた状態のなのは達と変わらないかそれより低い位だから、リライヴの剣を防げるとは考えてなかったが…

防がれただけで切断されるとはさすがに思ってなかった。

 

『修復…完了。』

 

が、鋼線を使って斬られた先端を回収していたお陰もあってか、俺にはさっぱり原理不明なデバイスの自己修復能力によってナギハは元の形を取り戻した。

コアさえダメージなければ魔力は使うものの修復可能なんだよな。デバイスって便利だ。

 

 

けど、修復できるからと言って油断は出来ない。

 

 

空中歩行魔法陣の展開にも少量とは言え魔力を使っている訳だし、何より神速を織り交ぜる程度で済むならともかく、乱発して長時間の戦闘などできる訳が無い。

 

 

 

最悪切り札を切ってでもここで片をつけ…

 

 

 

 

Side~ヴィータ

 

 

 

「ちきしょー…邪魔しやがって…」

 

シグナムがリライヴに襲撃されたせいで、シグナムが相手にしていたガジェットがフリーになった。

背後からミサイルとか光弾をバカバカ打たれたせいで多少なり相手にしなきゃならず少し時間を食った。

まぁリインもいるし、今のあいつ等でも時間稼ぎくれーなら十分できるとは思うが…

 

『ティアナ!4発ロードなんて無茶だよ!それじゃティアナもクロスミラージュも…』

『撃てます!!』

 

何となく…嫌な予感のする念話が届いた。

それから間も無く、ガジェット群を撃ち貫いていく魔力弾の中から…一発が、ガジェットを引き付ける為に宙を駆けていたスバルに向かうのが見えた。

 

 

直撃コースだった。

 

 

 

くそ…っ!間に合わねぇ!!

最悪を予感した次の瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

風の刃が、スバルに向かう魔力弾を両断した。

 

 

 

 

 

そんな筈が無い。アイツがさっきいた場所からここまでどれだけの距離があると…

そう思いつつ、風の刃を扱う人間はこの場にただ一人しかいない事も知っていたあたしは隣から感じた風に顔を向ける。

 

 

 

あたしの横に、ついさっきまでリライヴと戦っていた筈の速人が、刀を振りぬいた体勢で止まっていた。

 

まず真っ先に、無茶して味方撃ちかけたティアナを怒鳴りつけてやろうかと思って、次に速人がここにいると言う事はあのリライヴがフリーだと言う事に気が付いた。

 

速人を返す方が先決だ。

 

「わりぃ、こっちはもう大丈夫だ。オメーはリライヴの相手に…」

 

そこまで言って、速人の様子がおかしいことに気が付いた。

何も聞こえていないかのように微動だにしないなんて、いくら速人でもおかしい。

ふざけた奴だが戦闘中に笑わせる事はあっても不安を煽るような冗談は…

 

 

 

 

 

 

速人は唐突に、血を吐き出して崩れ落ちた。

 

「っ!お、おい!!」

 

慌てて身体を支え、手放しそうになるデバイスを鞘に収めてやる。が、そうこうしている間に、あたしの肩口に生温かい感触が伝わってくる。

 

 

 

雪の日、力を失っていく身体を抱きとめていた嫌な記憶が蘇り…

 

 

唐突に、速人が暖かい光に包まれた。

救援でも来たのかと思って顔を上げると…

 

リライヴが、杖状になったデバイスを翳していた。

 

「っ!て、てめぇっ!」

 

睨みつけるが、速人を抱えたままでデバイスが構えられない。

リライヴはそんなあたしを相手にせず、杖状のデバイスを使って魔法を使い続ける。

光が治まると、速人は口から血を吐き出す事はなくなっていた。

 

コイツ…何のつもりだ…

 

リライヴは速人を悲しげに見つめながら、静かに口を開く。

 

「護り手は本来、命に代えても負けることは許されない。なのに…自分達のミスで死に掛けた仲間を、貴方達が護らなきゃならない筈の民間人に命懸けで救われるって一体どういう事?」

「ぁ…」

 

ティアナの掠れた声が届く。

呑気に話してないですぐにでも叩きのめして捕らえなきゃならない相手ではあるが、速人を抱えたままという事もあって何も出来ずにいた。

 

「今日は…彼に免じて引く事にする。」

 

リライヴは、あたし達など眼中に無いかのように背を向ける。

 

 

 

「こんな事犯罪者の私が言う台詞じゃないのは分かってるけど…失望したよ、時空管理局。」

 

 

 

怒りではなく、本当に悲しそうに呟いたリライヴは、リミッターがかかったままのあたしじゃ到底追いつけない速度で飛んでいった。

 

 

…まだ…戦闘中だ。いつまでも滅入っている訳には行かない。

 

 

「スバル、速人をシャマルのとこまで慎重に連れて行け。それが終わったらオメーら二人纏めてすっこんでろ。後は…あたしがやる。」

 

吐き出した血で赤みが混ざった速人の服と、あたしの目を見たスバルは、開きかけた口を閉ざして速人を引き受け、ゆっくりとウイングロードを戻っていった。

 

「…くそ…っ!!」

 

あたしはアイゼンを目一杯…ガジェット相手には入りすぎなくらいの力を込めて握り、残っていたガジェットに向かって行った。

 

 

 

Side~シュテル

 

 

 

「敵…ですね。」

 

仕掛けていたサーチャーが空気の動きを感知したことで、私は反応があったサーチャーを仕掛けていた方向へ視線を移した。

ステルス能力を持っているようだが、マスターの提案を受け空気振動などからも情報を得られるよう調整した為、見えなくても問題はない。

 

「パイロシューター。」

 

屋内で高威力の魔法を乱用する訳にも行かないので、対象のみを狙えるよう数個のシューターを操作し、何も見えない空間を塞ぐように飛ばす。

 

シューターの一つが甲高い音を立て消滅し、同時に見えなかった襲撃者の姿が現れた。

黒い鎧だけの様な姿で、人型ではあるものの、どう見ても人以外の種のようだ。

 

最も…何が相手でも関係はありませんが。

 

「警備中の局員を呼び出して拘束してもらっても良いのですが、私の仕事は荷物の警備のみ。引くと言うのであればこれ以上交戦する気はありませんが、どうしますか?」

 

一応警告はしてみたものの、止まる気配はなかった。

臨戦態勢に入った襲撃者に対して私も構え…

 

 

 

 

 

背後から、ナニカを突き刺された。

 

 

貫通はしていない為短剣の類と判断したものの、だからと言って何の慰めにもならない。

 

「っ…」

 

振り返る間は無いと判断した私は、手だけを背後に向ける。

零距離速射砲撃魔法、ブラストファイアー・インパクト。なのはの魔法を元に形成されたそれを放ち、間を稼ごうと考えたのだが…

 

魔法構築前に、向けた手を曲げられた。

 

あらぬ方向に曲げられ、折れた感触と激痛が伝わってくる。

 

振り向く間も無く突き飛ばされた私の眼前に、先の黒い襲撃者が腕を振り上げているのが見えて…

 

 

殴られたのを理解するのと同時に、私は意識を失った。

 

 

 

Side~グリフ

 

 

 

警備の女が倒れたところで、僕はナイフをしまった。

 

「見えないくらいで安心しないで欲しいんだけど。」

 

ガリューと言うらしい虫は、かしこまった様子で僕に頭を下げる。

喋らないが此方の話は理解できているらしい。

 

「後は局員が来なければ戦闘要員は付近にいないだろう。積荷は任せるよ。」

 

引き上げる僕は、倒れている女に目を向ける。

一応急所は外したとは言え、バリアジャケットを抜く為に全力で刺し貫いたからこのまま放置しては結局死ぬかもしれない。

 

「早めに済ませてくれ。これを警備が見つけられる位置においていく。」

 

僕がそう言った直後、ガリューはトラックの扉を思いっきり破壊する。

此方はわざわざ声を忍ばせていると言うのに…忍ぶ気まったく無いんだろうか?

 

「誰かいるんですか、ここは危険ですよ。」

 

案の定、警備員の足音が聞こえてくる。

破壊音を耳にした筈なのに徒歩で近づいてくるとは…幼稚な警備だな。

だが、こうなった以上別に女を動かす必要は無い。

僕は見つかる前に足音を忍ばせつつ駆け出した。

 

今回上手くはいったものの、この警備の質の悪さでは僕の技量が問題なかったのかどうか判断する材料にはし辛い。

もう少し難度の高い仕事を引き受ける事にしよう。

行き同様楽な帰り道を駆けつつ、僕はそんな感想を抱いていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 


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