なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第五話・ホテルアグスタ

 

 

第五話・ホテルアグスタ

 

 

 

次の勤務が、ホテルアグスタで行われるオークションの警備に決まった段階で、俺は一足先に現地に入った。

ヴィータとシグナムも先に現地で警備につくらしく、一緒にホテルアグスタまで来ていた。

俺の方はと言うと、一応戦力にはカウントされているものの、正規の局員でも無いのに目立つところうろうろしてたら不審者扱いされかねないので、目立たないところで大人しくしていろと指示を受けた。

 

 

なので…現在駐車場を目立たないようにうろついていた。

 

 

ロストロギアの運搬にも使われるから、見つかったら大目玉は間違いないだろうが…

今展開している凪形態なら魔力反応探知される事も無いし、完全気配遮断をやれば生命反応すら隠蔽できる。見つかる事は無いだろう。

 

と、見知った姿を見かけた俺は、周囲に誰もいない事を確認して念話を使う。

 

『よ、シュテル。』

『マスターも来ていたのですか。』

 

シュテルはいきなりの念話に驚く事も無く対応する。

周囲をうかがって俺を探すような真似すらしない。うーん冷静だな。

 

『仕事だよな?何してるんだ?』

『私物の護衛です。これだけ騒がしい場所だと不安があるという事でしたので。』

『私物って…』

 

サラリと言ってのけたシュテル。

だが、こんな所で護衛する必要があるような『私物』って…

 

『…違法…ロストロギアとかじゃないよな?』

『知りません。』

『っておいっ!』

 

即答したシュテルに念話だと言うのに突っ込みを入れてしまった。

 

『冗談じゃなくな、ここ六課の人集まるんだぞ?詰問されてやばいのだったら』

『個人のプライバシーがありますので、ただの護衛依頼で積荷を見せろなどと言えません。フリーの魔導師は別に関所や監視員では無いので調査権限などというものもありませんし。』

 

知った上で知らん振りするのではなく、本気でそういう理由で護衛物に関しては何も聞いていないのだろう。

俺に嘘つく理由も無いし、まったく迷い無い返答だったし。

 

『専用の権限を持っている方が開示するように言って来たなら大人しく検査させます。それで問題ないでしょう。』

『…それもそうだな。なのは達も来るから気をつけろよ。』

 

別に悪い事をしている訳でもないが、もし中身が『当たり』で依頼人が管理局にとっ捕まったりしたら、報酬はパーになる。

ただ働きになりたくなければ下手に詰問されるような真似はしないほうがいい。

 

ま、レヴィならともかくシュテル相手にこんな念押し必要ないだろうが。

 

『んじゃ、俺はそろそろ戻るわ。明日くたばらない程度に仮眠もとっときたいし。』

『それではまた。』

 

結局いつも通り最後までマイペースなシュテルに肩を竦めつつ、俺は帰路につく。

 

 

それにしても、アテが外れたな…

 

 

裏取引でもしてる連中がいるのなら人気の無い、かつ物資のやり取りが簡単に済むこういうところで交渉ごとなりやってるかと思ったんだが、シュテルが堂々と突っ立っててしかも護衛の魔導師だって言うのだから、当然そんなのがいる所で密談なんて行う馬鹿はいないだろう。

第一、やばい事してる奴がいたらいたでシュテルが通報して終了なので、俺がわざわざ隠れて張る理由が無いのだ。

拍子抜けしたな…っていかんいかん。悪い事してる人がいないほうがいいんだから残念がってどうする。

 

とりあえず、明日メンバーが揃うまでに何か無いとも限らないし、適当に休みつつ警戒しておくか。

 

 

 

Side~ジェイル=スカリエッティ

 

 

 

「ふむ…やはりオークションの品には取り立てていいものはなさそうだね。」

『管理局が認可しているものですから。引き続き、裏の品についての情報整理を進めます。』

「頼んだよウーノ。」

 

ロストロギアのオークション会場となっているホテル・アグスタ。

しかし、例によってオークションで直接扱っている品には大した物はなかった。

 

私を『犯罪者』とする管理局の許可が下りている物だ、無理も無い。

 

密輸品に面白そうな物でもあればよいのだが…

 

と、背後から聞こえてきた足音に振り返る。

 

「戦闘はあるのか?」

「…グリフか。密輸品にめぼしい物が見つかればそうなる。」

 

本当に珍しい外の人間の内の一人、グリフがそこにいた。

私の答えに歩みを止めたグリフは、少し何か考えるように間を置いて切り出した。

 

「まだナンバーズを出す訳にもいかないんだろう?良ければ僕が出ようか?」

「いいのかい?」

 

確かにまだ此方が直接姿を見せるのは早い。

手が借りられればそれに越した事は無いのだが…

 

「対面戦闘以外もこなせるか、一通り実際に試して起きたいからね。」

「成程、では遠慮しない事にしよう。ルーテシア達が側にいるから合流しておいてくれ。何かあれば一緒に頼むことにするよ。」

 

静かな笑みを浮かべたグリフは、背を向けて去っていった。

 

 

始め、トーレが『自分を生身で倒した少年について知る必要がある』と判断して、調査に赴いた地球から彼を連れて来た時は、正直それほど気にもしていなかった。

何しろトーレとクアットロを倒した少年も、その後トーレを倒したグリフも、身体能力が少し高いだけの普通の人間なのだ。

特別高い魔力がある訳でもなく、多少薬品などは使っているようだが強化改造されている訳でもない。

 

 

『生命操作技術』の完成を目指している私としては、特別興味の引かれる存在ではなかった。

 

 

とは言うものの、トーレの身が危険だったから話をしてみたが…

彼からの要求は『武器、修行施設、寝食の提供』という大したものでもなかったので、暫く置いておく事にした。

 

 

 

…結果は、予想以上のものだった。

 

 

 

ナンバーズの戦闘訓練に付き合う事になった彼を、どうにか討とうと試行錯誤を繰り返すトーレは、私の想像以上のペースで才覚を発揮させていく事になった。

 

彼自身に興味は無くとも、彼が持つ『生命体』としての強さは、娘達にはとても有意義な物だ。

 

機械としてのさまざまな『機能』と生命体が持つ『感覚』を共に扱う事こそ戦闘機人の理想的完成形。

 

私は機能を用意する事はできても、生きた感覚は掴んでもらう他無い。

その点で、彼は大いに助けになってくれた。

 

 

私の娘達が彼を超えるまで、彼にはこのまま頑張って貰えるといいんだが…

 

ともかく…まずは明日だ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

オークション当日、俺は森で待機していた。

 

中で事が起こる確率はそれほど無い上に、正規の局員がごった返しているところに俺みたいな立場のがいる必要も無い訳で、むしろ外で何かあった時にすぐに対応できるようにしておくと言う事でここにいることになった。

 

屋内から外に出るまでの分単位も無い時間でも、ガジェットはともかくリライヴが出張った場合、一瞬でシャマル先生が討たれて指揮監視の機能停止…なんて事も十分可能だろう。

 

『前線各員へ、状況は広域防御戦です。ロングアーチ1の総合回線と合わせて私、シャマルが現場指揮を行います。』

 

シャマル先生後衛だから指揮とか出来るのか。

 

『スターズ3、了解!』

『ライトニングf、了解!』

『スターズ4、了解!』

 

前線三人の元気のいい返事が聞こえてくる。

っと、俺も返事は返しておかないとな。

 

『こっちも了解。リライヴが来た時は指示を待たずに対応してもいいか?』

『お願い。』

 

アイツへの対応で呼ばれている以上、出てきたら即座に移りたいが、そのこと知らずに動かされると防衛網にあっさり穴が開くことになりかねない。

向こうも分かってはいるのかすぐに許可をくれた。

 

 

 

少しして、森のあちこちで爆発が起こる。

 

先行しているのは副隊長二人とザフィーラらしいが、さすがに仕事が速い。

こういう戦闘だと基本一機ずつ落とす事になる俺よりあいつ等の方が役に立つからな…

 

俺やフォワード陣はあいつ等が取りこぼした場合に対応するのが仕事だが、この分だと回ってこなさそうだな。

 

 

 

Side~ゼスト

 

 

 

『ごきげんよう、騎士ゼスト、ルーテシア、リライヴ、グリフ。』

『ごきげんよう。』

 

出現したモニターに、スカリエッティの姿が映る。

 

『グリフから聞いていると思うけど…レリックはなさそうだが、実験材料として興味深い骨董が一つあるんだ。少し協力してはくれないかね?』

「断る。レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ。」

 

別にこの男に協力する義理は無い。必要意外の事で関わるつもりも、まして使われるつもりも無い。

向こうもそれ位は承知しているのか、すぐに俺から視線を外す。

 

『リライヴ、君はどうかな?』

「聞くまでも無い。裸の女性を室内プラネタリウムにしているような奴に私が協力すると思う?」

『これは失礼、少しは配慮しようか。』

 

普段より冷たい声で、リライヴは協力依頼を一蹴した。

欠片も配慮など見せない態度のまま、ルーテシアに視線を移す。

 

『ルーテシアはどうだい?頼まれてくれないかな?』

「いいよ。」

『やさしいなぁ、ありがとう。今度是非、お茶とお菓子でも奢らせてくれ。』

 

芝居がかった礼を返すスカリエッティは、傍の木に背を預けたまま動かないグリフを見る。

 

『ルーテシアのデバイス、アスクレピオスに…私が欲しい物のデータを送ったよ。君も協力してくれるんだろう?』

「ああ。」

『よろしく頼むよ。』

 

グリフは閉じた目を開く事も無く返事だけを返した。

だが、スカリエッティのほうはそれでよかったのか、満足げに頷いた。

 

「じゃあ、ごきげんようドクター。」

『ああ、ごきげんよう。吉報を待っているよ。』

 

ルーテシアの言葉を最後に通信が切れる。

 

「本当にやるの?」

 

リライヴが少し浮かない表情でルーテシアに問いかける。

正直、今回は俺もあまり薦めたくは無い。

ルーテシアの探し物に関係なく、奴の為にやることが増えるだけなのだから。

だが、当のルーテシアは小さく頷いた。

 

「ゼストやアギトやリライヴはドクターを嫌うけど、私はドクターの事そんなに嫌いじゃないから。」

「そうか。」

 

俺が短く返した返事に驚いたのか、リライヴが一歩俺に詰め寄る。

 

「そうか…って渋い返事返してるけど本当にいいの?」

 

リライヴが訝しげに俺に問いかけてくる。

犯罪行為に加担する事に何の躊躇いも抵抗も見せないルーテシアの反応に関して問いかけているのだろう。

だが…

 

「説得力があるまい。」

「それは…そうなんだけどね。」

 

次元規模の犯罪者であるリライヴと、レリック強奪に関わっている俺が、安易に犯罪を行うななどと言ってもまるで意味が無い。

ルーテシアがスカリエッティの事を嫌っていないと言うのであれば、止めようが無いのだ。

 

「僕は先行して付近の警備を叩いておく。別ルートから進入してくれれば片方が途中で見つかってもそちらに引き付けられるだろう。」

「ん。」

 

グリフは、ルーテシアが頷いたのを確認すると同時に、この場を去った。

スカリエッティもだが、奴も信用ならない。

卓越した戦闘技術は持つが、騎士ではなく殺し屋と言ったほうが似合う雰囲気の持ち主。

 

『リライヴ。』

『何?』

 

異端とも呼べる状況で、ただ一人…まるで天使のように、瞳に歪んだ物を宿す事無くこの場にいるリライヴ。

 

俺は…そんな彼女に頼らざるを得なかった。

 

動いているだけの死者に過ぎない俺は長い命ではなく、しかしルーテシアは護らねばならない。

殆ど信用のおける者が傍にいない現状では、信用できる人間かつ実力者であるリライヴに、後を託すしかなかった。

 

『もしもの時は、頼む。』

『わかってる。』

 

召喚を始めるルーテシアを前に、聞こえる事の無いよう念話で頼む。

俺が死者に戻った後の話も含めて頼んだつもりだが、知ってか知らずか、念話にしては力強い返事が返って来た。

仮にも元管理局員が、犯罪者に成り下がった挙句に広域次元犯罪者を頼り、頼み事とは…

少し失望はあったが、所詮死んだ身と改めて割り切る事にした。

 

『無理かもしれないけど…』

『何だ?』

 

唐突に返って来たリライヴからの念話。

言葉を濁すリライヴを促し…

 

『信じてくれていいよ。あんなのばっかりで私も犯罪者だから、説得力は無いんだけどね。』

『ああ…善処しよう。』

 

わざわざ必要も無い念押しまでして、俺の答えに笑みを返すリライヴ。

優しさを感じるそれが何処か懐かしく、俺は久しぶりに少しだけ落ち着けた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「転送魔法?」

 

シグナム達をすっ飛ばしてフォワード陣の前に現れたらしいガジェット達。

中間にいた俺も当然抜かれた形になる。

急いで戻らないとまずいかと思ったが…

 

『速人さんは敵召喚士の捜索、確保をお願いします。』

『あ、了解。』

 

が、念話で飛んできたシャマル先生の指示に従い、虫が発生しているらしい位置データを受け取って、凪形態で駆け出した。

 

『フォワードの皆は大丈夫なのか?』

『リイン曹長も援護につきますし、ヴィータ副隊長も引き返してきていますから。』

『成程ね、了解。』

 

フォワードメンバーを信じろと言った類の台詞が一言もなかったのは俺相手だからか自分もそこまで信じて無いからか。

いずれにしてもちょっと可哀想にも感じた。

確かに隊長陣との実力差はデカイが、俺が倒せるって意味ではなのは達でも大して変わり無いし、個々の技量もその辺の警備や武装局員より高い位なんだがな。

 

とか考えつつ走っていたのだが…

 

 

 

 

唐突に、強大な魔力を感知した。

 

 

 

間違えようの無い、馴染みすらある魔力。

 

『速人君!捜索中止!リライヴが出現したからそちらの対処を!!』

『了解!!』

 

俺はすぐさま通常の戦闘形態である薙刃形態になる。

見た目的には顔を隠すか赤いマントかの違いである昔からの戦闘形態だが、機能は大幅に違う。何しろこちらは普通に魔力構成のバリアジャケットなのだ。

 

さて…久しぶりの再会にはなるんだが…そうも言っていられないな。

 

「ここで止めるぞ、ナギハ。」

『はい。』

 

よりにもよって、広域次元犯罪者に助力なんかし出したあの馬鹿をこれ以上放置しておけない。俺が居座るだけでもはやてやクロノにも無理させてるだろうし、登場早々悪いがここで決める。

 

白い堕天使の名そのままに全身を純白のバリアジャケットで覆い空を舞うリライヴ。

懐かしさを振り切って彼女を止めると誓い、俺は空に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 


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