なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第三話・力

 

 

 

第三話・力

 

 

 

「はああぁぁっ!!」

「っ…」

 

苛烈極まりないシグナムの剣を俺はどうにか避け続ける。

一発でも当たれば初日から医務室送りか冥界送りだろう容赦の無い剣閃。

大振りメインなのは変わりないが、心なしか昔より斬撃が鋭くなっている気がする。

気や呼吸を感じ取る関係を除いた部分はどうやら体得できてきているらしい。

 

糸で吊るした青竹、刀で斬れたりしてな。

 

ただ速いとかただ強いだけではないその剣を紙一重で凌ぐ。

 

「あ。」

「はあっ!」

 

下がろうとして背中に壁の感触を感じたところで問答無用に横薙ぎの一閃が向かって来る。

垂直に跳躍した後壁を蹴って剣を振りぬいたシグナムの背後に立ち…

 

 

『終了です。』

 

 

ナギハから時間が来た事を伝えられ、俺は深く息を吐いた。

 

「…見事だ、本当に一撃も捕らえられないとは思わなかった。」

「そりゃどうも。」

 

シグナムが剣をしまう音が聞こえ、俺は目隠しを解いた。

 

 

視覚の届かない範囲を探る『心』を使った、暗所戦闘技法。

 

 

電気も無いような時代からある古流の生き残りである御神は、暗殺剣でもある。

月明かりも無い日はほぼ光は無く、そんな中でまさかランプ片手に暗殺に行くわけにもいかない。

そんなときの技法なのだが…電気等の技術の発達と共にそこまでやる必要がなくなったのと、幼少から始めて神速に辿り付くのすら20そこらで早いと言われるような難度の技術が多いため、静馬さんでも戦闘までは出来なかったらしい。

 

一応昔やっていたようで御神の書物には載っていたが、今の所対人戦闘が出来る領域に辿り着いたのは、別口でも暗殺者として育っていた俺と、師匠役無しの完全な独力で神速に辿り付いた程の兄さんの二人だけである。

 

完璧にこなせれば、何となくしか分からない時と異なり完全に死角を無くせるため、神速に慣れた後にこの修行を始めたのだ。

 

ちなみに、今シグナムが付き合ってくれていたのは、勝ったほうの修行に付き合うと言う条件で模擬戦を行い、俺が勝ったためである。

そうでもしなければ、『目隠ししている相手に魔力を使わず剣を振れ』なんて無茶に付き合ってくれる筈も無い。

 

「さすがに開始直後は半信半疑だったが、成程な。」

「途中からまったく躊躇い無く殺す気で来たものな…」

 

その方が修行にはなるとは言え、さすがにひやひやした。

が、当のシグナムは軽く不思議そうにする。

 

「紫電一閃もシュランゲフォルムも使って無いだろう?」

「おいコラ、魔力使うなって前提が消えてるだろうが。」

 

避けやすくなるだろう紫電一閃はともかく、目隠しで回避限定の最中にシュランゲフォルムなんて使われたら絶対に死ぬ。

分かっているのかいないのか、小さく笑みを浮かべるシグナム。

 

「ではもう一戦と」

「ああ、待った。この辺にしておきたいんだが。」

 

意気揚々と再びデバイスに手をかけようとするシグナムを制する。

と、シグナムは不満げな表情を浮かべる。

 

「何故だ?もう体力が切れた訳でもあるまい。」

「切れるまでやってもまずいだろ。それに俺はともかくそっちは交代部隊のリーダーもあるんだろ?」

「む…」

 

実際いい加減に休まないとまずかったのか、シグナムは表情を歪める。

 

「俺は俺で適当にやるから。隊長さんの指揮下のもとでね。」

「…あまりいじめてやるなよ。」

「分かってるって。」

 

普段どう思われているのか問い詰めてみたくなる台詞を残したシグナムと別れ、なのはを探…す必要は無かった。

 

 

「あーあ…」

 

 

模擬戦なのか、人が宙を舞ったり建物に突っ込んだり桜色の爆発に飲み込まれたりしていた。

抵抗が抵抗になっておらず、喰らってはばたばたと倒れている。

 

 

 

教導…なんだろうなぁ、なのは流の。

 

 

 

非殺傷とか無いから叩きのめされていたとは言え一応加減と言うものがある兄さん達との訓練と違って、まるで容赦が無い。

俺こっちの訓練に混ぜられなくて良かった。普通に戦っていいならともかく魔導師としての空戦機動でこんなんとやったら俺だっていい的だし。

 

全員が完璧に伸された所で、笛の音が鳴り響いた。

 

 

新人達の訓練が終わり、解散した頃合を見計らってなのはに声をかける。

 

「なのは、ちょっといいか?」

 

こんな物凄く砕けた話しかたをしているのは、昼の一件で俺が下手に演技しないほうがいいという話になったからである。

 

『あーもう礼儀はええ!無礼な魔導師って事でやっとけ!慇懃無礼よりマシやろ!』

 

とのはやての一喝によって、やりやすい形で昔からの関係のみ伏せるようにする事になったのだ。

 

「何?速人さん。」

 

と言う訳で、現在なのはからは『普段通りの口調かつ名前呼び』という大変レアな呼び方をされている。

心なしか事務的感が強いのは怒っているんだろう。

それが、俺の公共性の無さかリライヴにアッサリ負けた自分にかは知らないが。

間違っても甘えたいのを我慢してる…なんてことはあのなのはに限ってあるはずが無いし。

 

「エリオとキャロが使ってた回避訓練道具使わせて欲しいんだけど。」

「回避トレーニング?いいけど…」

 

言いつつ苦い顔をするなのは。

施設を利用するのが問題なんだろうか?

そう思っていると、隣にいたヴィータが相変わらずの不機嫌そうな顔で機材を指差した。

 

「施設の使い方わかんねーだろ。オメー一人訓練する間誰か見張らせとくほど暇じゃねーんだよ。」

「あ、なるほど。」

 

そりゃそうだ。

確かに長時間使うとなると此処に突っ立っててもらうのも悪い。

 

「十分位ですむんだけど…」

「へ?」

「はぁ?」

 

なのはからは不思議そうな、ヴィータからは意味があるのかと言いたそうな声が返って来る。

 

「…まぁいいかな。見れば分かる事だし。」

 

が、結局なのははそう言って機材を動かしてくれた。

 

しかし…見るのか。

ま、俺もリライヴ相手じゃ使わずにはすまないだろうとは思うし、見せてもしょうがないか。

 

見せるのには少し抵抗があったが、訓練は訓練でやらなければならないし、身内同然の相手だから構わないと思い直し、俺は展開された機材の中心に向かった。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

お兄ちゃんは機材の中央に立ったところでナギハを二刀とも抜いて周囲を確認する。

 

「…よし、初めてくれ。」

 

お兄ちゃんの合図を聞いて機材を動かすと、宙に置かれた機材から光弾が発射され始めた。

 

短い間隔で発射される光弾を、片足分動かすだけで回避し、避け切れないものを切り落としていく。

 

「ん?おい、射撃命中してる事になってんぞ?」

「あ、本当だ。基本的に回避トレーニングだから設定を調整して無かったな。」

 

デバイスで斬ったものや掠めた光弾が命中扱いでカウントされている。

始めたのに止めるのもどうかと思うし、何よりフォワードの皆と違って別に正確なデータを取っておく必要は無い。

 

「別に記録取る必要も無いわけだし、このままでいいよ。」

「それもそうだな。にしても…」

 

目を細めて攻撃を捌き続けるお兄ちゃんを眺めるヴィータちゃん。

 

「相変わらずとんでもねぇ野郎だな…デバイスで払ってるほうはともかく、普通狙ってバリアジャケット掠めるような距離で避けねぇよ。」

 

完全に回避する事を前提にしている為、お兄ちゃんの身体を皮一枚掠める程度に通過した光弾も命中回数にカウントされていく。

誘導弾、爆発弾があり、何より防御魔法を展開するか高速機動で攻撃が当たる位置そのものから外れる事で攻撃に対応する私達魔導師から見て、絶対にありえない避け方。

 

それを平然と繰り返すお兄ちゃんを私とヴィータちゃんは並んで眺め続け…

 

「そろそろだね。」

「あぁ…」

 

お兄ちゃんから頼まれていた、2分毎に十秒ほど射撃の速度を最速にして欲しいと言う設定通りにしてある。

 

フェイトちゃんでもブリッツアクションやソニックムーブで照準が合わせられないくらいの速度で射撃の雨を避けることは出来る。

けど、中で防御魔法なしで凌ぐなんて考えた魔導師は誰一人としていない。

訓練弾だけど、大丈夫なんだろうか…

 

少し心配する中で、それは始まった。

 

数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの射撃の雨。あっという間に巻き上がった土ぼこりがお兄ちゃんの姿を覆い隠す。

 

カウント回数が加速度的に増していく。

 

「お、おい…止めなくていいのかこれ?いくらアイツでも…」

 

心配そうなヴィータちゃんの声につられて少し私も心配になる。

 

魔導師が魔法を使っていれば無事か位分かるんだけど、お兄ちゃんの場合魔法関係は強化くらいしか使わないから分からない。

 

十秒が過ぎて射撃の速度が通常に戻る。

 

暫くして土埃が晴れると、まったく問題なく動いているお兄ちゃんの姿があった。

 

「一発も当たってねーんじゃねぇのか?アイツ…」

「…だろうね。」

 

先の中に入ってシューターで向かって来る攻撃を凌ぎきれと言われたら私だって出来ない。

だからこそ呼ばれたのだとはいえ、こんな事を当たり前にやってのけるお兄ちゃんに、少し悔しくなった。

 

 

 

Side~キャロ=ル=ルシエ

 

 

 

訓練でくたくたになって帰ろうとしていたところで、訓練場が使われているのをみたスバルさんが、なのはさんたちのもとへ向かう。

私も疲れはあったけど、気になったのでついて行くことにした。

 

「お前ら休まなくていいのかよ。」

「少し気になったもので…今訓練されていたのは?」

「あぁ…昼会ったフリーの魔導師だよ。」

 

砂煙の中から姿を現したのは、両手にデバイスを持ったフリーの魔導師…速人さんだった。

 

「はぁ…っと。あ、前線の少年少女。」

「普通にフォワードって言えねーのかテメーは。」

 

剣を鞘にしまった速人さんは、デバイスをもとのネックレスに戻して首にかける。

出ていた機材は、私とエリオ君が使っていた回避トレーニングの機材だった。

 

「訓練なさっているんですよね。少し見ていってもいいですか?」

 

気になるのか、ティアナさんがそう問いかける。

速人さんは首を横に振った。

 

「残念ながら今日は終了。」

「えぇ!?」

 

アッサリと言い切る速人さんに驚いたスバルさんの声が響く。

私達がさっきまで使っていたから、二十分も経っていないと思うけど…それで終わりなんだろうか?

 

「あの…白い堕天使、リライヴと渡り合う為に呼ばれたんですよね?こんなに簡単に疲れる体力で大丈夫なんですか?」

「余力残しておかないとまずいしな。シグナムと半日斬り合ってるだけで十分疲れるって言うのに…」

 

簡単に言う速人さん。

 

白い堕天使リライヴ。

魔法を使わないで私とエリオ君を一瞬で倒して、なのはさんとフェイトさんも簡単に破った魔導師。

そんな人と戦う為に連れて来られたのに、恐くないんだろうか?

 

少し…気になった。

 

考えている間に話は終わったのか、私はエリオくんに手を引かれて寮への道を歩き出す。

 

そう言えば…エリオ君、同じ部屋だって言ってたっけ。

 

「あの…エリオ君…」

「何?」

 

私は、エリオ君に速人さんと話せるよう取り持って貰う事にした。

 

 

 

 

 

夜、休憩用のスペースで待っていると、速人さんが歩いてくるのが見えた。

立ち上がってお辞儀をしようとする。

 

「あぁいいよそう言うの。俺ただの民間人なんだし、気楽でいいよ気楽で。」

「は、はい…」

 

すっごく軽く言う速人さん。

だけど、フェイトさんやなのはさんより強い殆ど知らない人と言うだけであまり気楽には出来ない。

そんな私の前に、速人さんは缶ジュースを置いた。

 

「好みがわからなかったんで適当に買ったんだけど飲める?」

「あ、は、はい。ありがとうございます。」

 

奢ってくれたらしいジュースを開いて少し飲む。

と、速人さんは私の前じゃなくて隣に座る。

 

「硬いの苦手なんで軽く話そうぜ。それで、何が聞きたいんだ?」

 

凄く明るく問いかけてくれる速人さん。

フェイトさんと同じで、出来る限り優しく問いかけてくれているのが分かった私は、人がいないうちに話を済ませる為に口を開いた。

 

「…恐く…無いんですか?」

「何が?」

「白い堕天使と戦うの…物凄く強いんですよ?」

 

少しだけ間を置いて、速人さんは軽く反り返る。

 

「恐く無いな。キャロはガジェットや白い堕天使が恐いのか?」

「そういう訳じゃ…無いんですけど…」

 

私は少し躊躇ったけど、自分の事を話すことにした。

 

危険な竜召喚の力を持っているけど制御できない事が原因で追い出され、未だに扱えていない事。

 

「なのはさんに前回の出撃前に励まして貰ったんですけど…自分の力が誰かを傷つけるんじゃないかって思うとやっぱり恐くて…」

「暴走するから恐い…ねぇ?」

 

少し不思議そうに首を傾げる速人さん。

 

「んじゃ試してみたら?」

「え?」

「だから、竜召喚。試してみたら?って。」

 

本当に簡単な事のように言う速人さん。

 

「竜くらいあの隊長たちならどうにかできるんじゃないの?だから、広い安全なとこで試してみればいいと思うぜ。もし隊長たちが断るようなら俺が付き合ってやるよ。」

 

そこまで言うと速人さんは私の隣にいたフリードを見る。

 

「お前も主人の為ならちょっと失敗して魔力ダメージでぶっ倒される位我慢できるよな?」

「キュ…」

 

速人さんの台詞に少し恐がるフリードだったけど、踏みとどまって頷いた。

 

「フリード…」

「お友達はこう言ってるぞキャロ。主人なんだろ?信じてやれよ。」

 

言いつつ、速人さんはデバイスを展開すると、剣を抜く。

 

「こいつは人を殺せる。でも、犯罪者を止める為にも使える。その気になれば…」

 

と、何処からか取り出した果物に剣の刃を当て、果物を回し始めた。

 

「とまぁこんな感じに果物の下ごしらえも出来る。」

 

皮をむいた後デバイスを元に戻した速人さんは、皮をむいた果物を私に渡して、私の目を見る。

 

「力や道具は使い手の意思によってその姿を変える。『竜召喚は危険な力』って思ってる間はそのままだけど、キャロはどんな力にしたいんだ?」

「あ…」

 

初出撃の前になのはさんに言われた言葉を思い出す。

 

 

『キャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから…ね。』

 

 

…なのはさんは、そう思ってくれていた。

私が怯えているだけの、危険な力にしていた竜召喚の力を。

私は、フリードを見つめて呟く。

 

「皆を守ってあげられる、優しくて強い力…」

「そりゃまたどっかの誰かが言いそうな台詞だな。」

「え?」

 

聞かれていたのかと顔を上げると、速人さんは相変わらずの笑みで、私の頭を撫でる。

 

「んじゃ、そう出来るまで頑張ってみる?」

「……はいっ!」

 

 

 

 

次の日、なのはさんに相談した私はフリードの制御を成功させることが出来た。

 

 

 

 

 

同時に、本当になのはさんたち隊長達は、それくらいじゃどうにもならないと身を以って思い知らされた。

今まで不自由させてきた分、フリードと一緒に目いっぱい頑張っていこうと思った。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 




今はここまでです。

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