なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

94 / 142
第二話・前途多難

 

 

 

第二話・前途多難

 

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

『本気か?』

 

通信越しに聞こえてきた声は、第一声から冷たかった。

 

「そんな即効冷たい事言わんでやクロノ君。」

『そうは言うが…ただでさえ色々とギリギリの手段で戦力を集めているのに、戦力が足りないので人手が欲しい等と言われてもな…』

「局内部で人を寄越すのがまずいならせめて速人君のほうだけでも」

『僕としてはそちらを最も避けて欲しいんだがな。』

 

クロノ君は肩を落としてそう口にした。

…やっぱり速人君を管理局の事件に関わらせるのは好まないんやろう。

大体、私だってこんなんホントは嫌や。

 

「フォワードの皆を信用しとらんようでこんな事頼むのは嫌何やけど…何があっても対応できるようにせんとアカンから。」

『…確かにあのリライヴがこの件に関わっているとすると、正直どんな手を使っても手が足りないのは分かっている。』

 

モニター越しにクロノ君も硬い表情をしている。

 

リライヴ…通称白い堕天使は、現在確認されている中で最強の魔導師と噂されている。

 

罪状としては民間、管理局問わずで多数の施設襲撃、ロストロギアの盗難及び無断使用、管理外世界での魔法行使が数知れず、犯罪歴がP・T事件への協力からで、10年もの間動いている違法魔導師。

その間、概算ではあるが1000人以上の管理局魔導師を戦闘不能にしている…

 

と、ここまでは完全に危険な凶悪犯罪者なのだが…

 

その間、直接リライヴが出した局員の死者は0、後遺症が残る程の怪我を負わされたのも数える程度。

死者も出してはいるものの、凶悪な密輸犯や人身売買などを行っている組織の人間で、それも意図的に殺しているわけでも無い程度の数。

局が追っていた犯罪組織が壊滅させられて証拠品と共に組織の人員が局員の施設に転移魔法で送られてきた事すらあった。

管理外世界で魔法を使う場合大概が救済活動か戦闘停止と言う、犯罪者にふさわしくない活動ばかりが主だったものなのだ。

 

そのため現状、何をしだすか分からないが悪意が見えない犯罪者として大変扱い辛いものとなっている。

 

何しろ犯罪、災害、事件は彼女だけではないのだ。

しかも大概は誰かに災厄をもたらす事件で、彼女ほど優しくない。

オマケに当の彼女を捕らえようにもB、Cランク魔導師では百や二百がいた所で障害にもならず、AAAクラスが三人でかかっても互角以上というのは十年前に既に判明している。

別件が凶悪な事が大半で、いつ何処に現れるか分からない彼女一人の為に常に何処にでも向かえる準備をエース複数にさせる余裕などある訳が無い。

 

『今回彼女がレリック絡みで動いているとすると、目的と出現傾向が絞れる事になる。融通を利かせるなら今しか無い…とも言えるか。』

「そういう意味でも頼めんか?私はこれでもダメなら後はもう管理局総出で白い堕天使逮捕のみに集中でもせんと無理やと思う。」

 

速人君は単体戦闘において魔導師がまずたどり着けないほどの戦闘技術の持ち主で、今頼んでいるフレア一等空尉も魔力集束刃の使い手で告ぐ戦闘技術の持ち主。

魔導師としてはなのはちゃんやフェイトちゃんのほうが当然優秀ではあるけど、『対一戦闘における戦闘能力』にのみ絞って見た場合、魔導師で速人君やフレア空尉に勝てる人を探すんは無理に近い。

この二人に協力してもらってまだ倒せん相手なら、もう全戦力投入するくらいしか手が思いつかん。

 

クロノ君もそれを分かっているのか、神妙な面持ちのまま頷いた。

 

『仕方ない…手は回してみる、すぐにとは行かないかもしれないが…』

「おおきに。それまでの手は何とかこっちで考える。」

 

それを最後に通信を切り、息をつく。

 

…不安要素はまだある。

 

リライヴと交戦して優勢に持ち込んだ一戦は、記録上P・T事件の時の庭園内での速人君とフレア空尉のコンビによる連続近接戦のみ。

いくら二人の力なら近接戦で優位に立てると言っても、今の彼女の魔力で全力で距離を取る戦法をとられた場合、空では追いつけないだろう。

隊長陣で動きを制限しようにも、リミッターを解除しないと相手にもされない程戦力に差があるし、第一彼女一人を止めるのに新人以外の全戦力を当てるには新人の力量は心もとない。

 

「泣き言を言うとる暇は無い、必ず止めるんや…」

 

たとえ、相手がリライヴであっても…

 

『…力があるのなら…助けてくれたって良かったじゃない…』

「っ…」

 

夢の中に映っていた、母に売られて道具として使われ続けた少女。

独りだった私は実はグレアムさんに支えられていたし、過去の罪を清算しようとしている今も沢山の人に支えてもらっている。

けれど、自分と同じ規則に見捨てられた人間を出さないために戦っているリライヴちゃんは、八つ当たり的な管理局への報復に走ったりしている訳でも無いのに未だに独りで―

 

「っ!考えたらアカンな…」

 

頭を振って、湧き上がる気持ちを抑え込む。

人それぞれ思惑があるのは当たり前で、私等が逮捕するのは悪い人やなく罪人。

そういう点で、リライヴは間違いなく罪人や。

 

闇の書の主の私と同じように…償っていかなアカンのや…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「と、言う訳で明日から暫く機動六課に居候する事になった。」

 

家の皆を食卓に集めたところで、はやてからの依頼で機動六課に出向く事になったと伝える。

と、すぐさまにレヴィが不満げな声を漏らす。

 

「通うんじゃないの?」

「万全を期す為には、基本的に行動を共にして欲しいらしい。敵がいつ出てくるかわからないし、どっか移動するのに勤務地に通常回線使ってホイホイ連絡取るような真似もして無いだろ。」

 

俺の回答に兄さんが頷く。これくらいの備えは当然だ。

 

「何人で向かうのですか?」

「いや、俺一人だ。」

「「えぇっ!?」」

 

シュテルの質問に答えると、同行する気だったのかレヴィとアリシアが驚きと共に立ち上がる。

 

「二人ともお行儀悪いよ。」

「雫の方が大人じゃまずいんじゃないのか?」

 

立ち上がった二人を注意する雫。

俺が笑って問いかけると二人は座って俯いてしまった。

 

「立場的には俺一人でも拙い位なんだ。大体一回死んだ事になってるアリシアは元よりプチなのは、プチフェイト、プチはやてなお前等三人が管理局内テクテク歩いてたら皆何事かと思うぞ。」

 

特に事情を知らずに三人の子供時代を知っている人は正気を疑うだろう。

何しろ身体的にほぼまんまコピーなんだから。

 

「フレイアに誰か一人はついててくれ。兄さんやノエルさんでもいいから。」

「ああ。」

「かしこまりました。」

 

宵の巻物本体をあちこちに持ち歩くわけにも行かず、どの道統括という事で問題が起こればまずいフレイアが持って(理屈は知らないが同化するような形で)いる。

逆に言えば、フレイアになんかあったら巻物本体そのものまでやばい為、奇襲一撃でさようならとなっては困る。

 

何しろ、今のフレイアはBランク魔導師一人と互角に渡り合う力があるかどうかという程度なのだ。

 

「こっちはこっちでしっかりした大人もいるんだから、速人君は向こうの事だけ考えてなさい。」

「なのはちゃん達の様子とか色々聞かせてね。」

「了解。」

 

笑顔で送り出してくれる気でいる忍さんとすずかに俺も笑顔で返す。

 

リライヴ絡みの案件となると手加減なんてしてる余裕は無いな、体壊すかもしれないが…

まぁ、やってみるか。

 

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

自室に戻ったあたしとスバルは、すぐに着替えに入る。

 

「明日来る外部の人ってどんな人なんだろうね?男の人って言ってたけど…」

「そんなの明日になればわかるでしょ。」

 

呑気なスバルの問いかけを切って着替えを続ける。

 

「ティア、やっぱり機嫌悪い?」

 

少しだけ悲しげに呟くスバル。

無視して寝てやろうかとも思ったけど…今更何を隠したって無駄なのは分かってる。

 

「…当然でしょ。あたし達はこの仕事のプロなのよ?他所から来る奴がどんな奴で、どれだけ出来るのか知らないけど、そのあたし達が不足だからって同じ局員ならともかく外部から引っ張ってくるのよ?平然としてられないわよ…」

 

そう、まるであたし達が役立たずだと言われているようで…

 

「そういうあんたはどうなのよ。憧れのなのはさんも軽く見られてるのよ?」

 

あたし達だけの事ならともかく、なのはさんに憧れて管理局に入って、事ある毎に目を輝かせてなのはさんの話をするスバルにとっても気分のいい話じゃないと思ったんだけど…

当のスバルは聞き返すと難しいことを考えるような顔をした。

 

「うーん…そう言えばそうなのかもしれないけど、なのはさん達のほうがなんていうか、『悔しいけど仕方ない』って感じだったから。」

 

スバルの言う通り悔しそうではあるものの何処か今回の事について認めているような部分があった。

そういう姿勢は管理局員としてどうなのかと問い詰めたかったが、あたしだって子供じゃない。

 

現代、古代ベルカ、先史のミッドまで含めて最強かも分からないとまで言われている程デタラメな魔導師、白い堕天使リライヴ相手に、手段なんて選んでいられないこと位理解は出来ている。

 

「それに、外部の人ならリミッターとかに引っかからないし。」

 

保有制限の話を持ち出すスバル。

…書類仕事苦手だったり頭弱そうな喋り方したりするくせに座学の成績いいし、結構鋭いのよね。

スバルは、握った拳を軽く打ち合わせる。

 

「そのリミッターがかかっているって言っても、あのフェイト隊長が一瞬でやられちゃうような人相手に今のあたし達でどうすればいいのかって感じだし。今は…白い堕天使の相手が無理でもせめて他の事に対応できるように、強くなろう…って思ってる。」

 

いっつもそうだったけど、変なところで弱気になるくせに普段はとことん前向きなのよね…

 

「もう寝るわ。訓練きついんだからしっかり休みなさい。」

「…うん。」

 

ぐだぐだと悩んでいても仕方ない、あたしは…立ち止まっていられないんだ…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「失礼しまーす。依頼主の八神はやてさんはどちらでしょうか?」

 

出来るだけ明るく元気にと思ってにこやかに挨拶をしたのだが、何故か局員の方々に睨まれた。

むぅ…バリアジャケット以外の仕事着でと思って黒の上下で来たのがまずかったんだろうか?

スーツは動くの面倒だしなぁ…

 

「念には念をと思い出迎えに来て見れば…随分怪しい格好で来てくれたものだな。」

「あ、シグナム…空尉でしたっけ?」

「雇い主近隣の情報位覚えておいて貰わねば困るな。」

 

冷たい注意をした後、シグナムは傍の局員に事情を説明して、俺を案内してくれた。

 

『久しぶりだな。』

『お前店にも来ないもんなぁ…オフシフトなら間に合うんじゃないのかよ。』

 

素性を伏せている関係上、歩きながら念話で会話する。

表情に出せないから迂闊に笑い話も出来ないが、まったく身内の会話が出来ないよりはましだ。

 

『別にそこまで菓子を好んでいる訳でも無いしな。』

『フレイアは別人だから合いに来る気も無いってか?』

『そうまでは言わんが、こちらはお前と違って忙しいのだ。』

『なんで知ってんだよ…』

 

シグナムまで俺の依頼が無いことを知っていたのか、やけに『お前と違って』を強調される。

兄さんといいシュテルといい…静かで真面目な奴は人をからかうのが好きなのか?

 

部隊長の部屋に入ると、椅子に座っていたはやてが立ち上がる。その脇にリインが飛んできて並ぶ。

背後で扉が閉まる音が聞こえ…

 

「久しぶり速人君、元気しとった?」

「お久しぶりです!速人さん!」

「おいおい、普通に喋っていいのかよ。」

「勿論表向きはアカンよ。けど、知っとる人だけしかおらん時くらいはええやろ。ここ密室やし。」

 

結構軽いはやての対応に肩を竦める。

 

「なら表では敬語にしといた方がいいのかな?『八神部隊長閣下』とか。」

「速人君…絶対なめとるやろ?」

「いや、自分で似合わねーと思っただけ。」

 

苦笑するはやてに対して同じく苦笑を返す。

が、そんな事をやっていると隣に立つシグナムに睨まれた。

 

「あまりふざけているとただ働きにさせるぞ。」

「そうですよ!真面目にやってください!」

「了解。シグナム空尉もリイン曹長も怒ってるし本題入ってくれ。」

 

はやてにしても長話している余裕があるはずも無いのでさっさと話を進めることにする。

 

「せやな。と言ってもIDカード渡す位やけど。前線ではなのはちゃんかフェイトちゃんの指示に従ってな。」

「俺前線メンバー扱いなんだ。っておい、IDカードがあるなら何で」

「郵送は出来んやろ。」

 

玄関で捕まった俺としてはさっさと貰っておきたかったが、たしかに郵送で送られても困る。そもそも連絡着てすぐ来た訳だし。

 

「リライヴへの対抗策で呼ばれたんだろ?普段どうすりゃいいのさ。寝てる?」

「給料ドロボーか!使い方はなのはちゃんに任せてあるから、戦闘訓練の敵役から雑用まで色々頑張れ。」

 

やっぱりそう楽なものでもなかったらしい。しかし、使い方と来たか。

妹に使われるというのも中々情けない話だなぁ…

 

「さて…と。私はちょっと外に用事があるから途中まで一緒にいこか。」

「廊下でてすぐ素性ばらすような事言うなよ。」

「お前がな。」

 

そんな軽い茶化しあいを最後に俺達は部屋を出た。

シグナムと別れ、メカニックのシャーリーと合流し、道中に施設説明を受けつつ表まで行くと、ジープが置いてあった。

…これいつから置いてあったんだろうか?

部隊長の手間を減らす為だろうとは言え、結構凄い待遇だな。

 

「お、来たみたいやで。」

 

はやてが視線を移した先に、なのはを先頭にした七人と一匹が歩いてくる。

竜て…ファンタジーだなぁ。

 

『とりあえず知らん人らしく敬礼、自己紹介。』

『はいはい。』

 

俺の姿に気づいた途端に笑みを失うなのはとヴィータ。

って失礼な奴等だ。俺手伝いで来たのに。

 

「本日より機動六課に協力する事になりました速人と申します。管理局きってのエースである皆様から見れば、フリーの魔導師となるといささか頼りなく感じるかも知れませんが…しばらくよろしくお願いします。」

 

敬礼しつつも軽く笑顔で挨拶する。

 

「テメー嫌味か…」

「へ?」

 

ヴィータに睨まれつつ告げられた意外な台詞に全員の様子を伺ってみると、なのはは目を細め、フェイトは苦笑いして、後ろにいる橙の髪の少女にも睨まれている。

振り返るとはやては額を抑えて首を横に振った。

 

あれ?フリーの魔導師ってそんなに好評無いだろうしと思って謙遜してみたつもりだったのに、初日から睨まれてるし…

 

 

どうやら俺は相当に礼儀とかと無縁の生き物らしかった。

こんなんでこの先大丈夫なんだろうか?

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。