なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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幕間・燻る残り火

 

 

 

 

幕間・燻る残り火

 

 

 

Side~御神美沙斗

 

 

 

「な、何だこいがぁっ!」

「ぐあっ!!」

 

銃声が響く中、私は室内の敵を片っ端から斬って捨てていった。

地下室まで用意している組織にしては雇っている護衛は大したでもなく、多少出来のいいのもいたが対一であれば一瞬で片付けられるレベルの相手がせいぜいだった。

 

加減のできない相手であれば確実に息の根まで止める必要があるが、この程度なら戦闘不能に調整することも出来るし何よりではある。

もっとも…確実に生き繋げるかどうかは知らないが。

まぁ売春から兵器や薬の密売まで行っている組織の護衛についているような連中にそこまで気を使ってやる義理は無い。

 

室内を片付けたところで廊下に出ると、長い廊下にいくつもの扉があった。

…何処かが裏口になっていれば重要なものだけもって脱出している可能性が高い。

一つ一つ見ている暇もないので『心』で周囲を探る。

 

明らかに人の数が多い部屋があった。

迷わずその部屋の扉を…

 

 

鞘突きの刀で放った射抜で吹き飛ばした。

 

「ぐあっ!!」

 

歪んだ扉の先から潰れた声が聞こえてくるのと同時に机の下の男に銃口が向けられ、放たれると同時に神速で飛び込んだ。

木製の机を下の男ごと蹴り潰し、掃除用具入れから飛び出してきた男を鋼糸で拘束、手刀で昏倒させた。

男が飛び出してきた掃除用具入れを倒すと、隠し通路があった。

一手であたりが引けるとは幸先がいい…

通路を駆けていくと、階段付近で固まっている集団が見えた。

 

 

あれが主犯か…

 

 

武装持ちの護衛を片付けて、主犯核の連中を拘束する。何か騒いでいるが所詮罵詈雑言なので聞く耳は持たない。

階段上部を覆う鉄板を徹で切断して表へ出て、通信機を動かす。

 

『首尾はどうかね?』

「隠し通路から脱出しようとしていた者たちを確保しました。内部に確認しきれていない別室があるため確保はお願いします。」

『了解した。』

 

鋼糸で縛りつけた連中を待機部隊に任せ、私は内部の殲滅へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「残敵の掃討は完了…だね。」

 

全部屋の確認が済んだところで、私は息を吐いた。

 

今回、丁度人手が少ない時に発見の報があった密売組織の確保、殲滅にあたり、私一人での突入となった。

 

無論、少ないとは言え多少の人手はあったのだが、彼等に突入を任せた場合外部の警戒…先の隠し通路からの脱出などに対応する為の『数』が居なくなる。

ただ内部を片付けるだけであれば私一人で事足りるため、今回このような手段をとる事になったのだ。

 

蓋を開けてみれば、内部は通信妨害までかかっていたため部隊で入っても連携が取り辛かった事を考えるとかえってよかったのかもしれない。

全体の指揮も執らなければならないため、早々に戻ろうとして…

 

「これは…」

 

散乱していた資料の一つを手にして、歯噛みした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

修行から戻った8月中頃から一週間程たったある日、俺と兄さんは月村家を襲撃したごろつきを片付けて鋼糸で縛っていた。

 

「しっかしなんだったんだこいつら?」

「さあな…手練でも無いようだが…」

 

昨日兄さんに美沙斗さんから『月村の人達の様子を見ていて欲しい』との連絡があったため、兄さんは忍さんに、俺はすずかにそれぞれついて過ごす事になったのだが…

翌日である今日、家でマッタリ過ごしている所にいきなり襲撃を受ける事になったのである。

 

最も、おおっぴらに車で乗りつけた挙句武器が金属バットや改造エアガンというとても残念な連中だったのだが。

 

「気を抜くな速人。むしろこの程度の相手が襲撃してきた事が問題なんだ。」

「分かってるよ。」

 

兄さんの注意の通り、この程度の連中が夜の一族の情報を持っているとも思えないし、情報も持ってなくて襲撃するならむしろ大企業の一人娘であるアリサの方だろう。

 

「このまま法的な処置を…とは行かないんだ、知っている事は洗いざらい吐いて貰う。」

「っち…ガキが恐くてやくざがやってられるかよ。」

 

兄さんに問い詰められた縛られている男の一人がそう言って兄さんを見据える。

十人で乗り込んできてそのガキに返り討ちにあった時点でもうどうしようもないだろうが…この手の連中は現代草食男子と違って変な方向でプライド高いからなぁ…

俺はこいつらよりよっぽど常人外れた生活のお陰で指つめる程度じゃ済まない拷問方法にも心当たりはあるが、ヒーローとして絶対にやるつもりは無い。

 

「なぁ…名前出した方が早くないか?」

「何の…いや、駄目だ。俺達は所属してるわけじゃないんだから。」

 

香港国際警防と言えば、知っているやくざ連中なら裸足で逃げ出すだろう。当然、敵に回すなんて真似を一介の暴力団が出来る筈も無い。

一応名前を伏せて兄さんに聞いては見たが、兄さんからは予想通りの答えが返って来た。

 

「ま、いいか。必要なら明日まで捕らえて置けばいい訳だし。」

「そういう事だ。」

 

現地での事後処理、引継ぎが終わり次第休暇を使ってこっちに来ると美沙斗さんから話があり、それが明日になるという話だったので、それまで拘束しておければいいだけだ。

 

「んじゃ俺はノエルさんに部屋手配して貰って来る。」

「…待て、忍に許可を」

「おいおい兄さん半分家主だろ?雫も居るんだしさ。捕らえて置けばいいって許可したじゃないか。」

 

以前の事件の後すぐに子供が出来たらしく、今では月村性で大半こっちで過ごしている。

半年近くも俺の修行に付き合わせたせいもあるのか、未だに主の様相に慣れていない兄さんに肩を竦める。

 

「と、言う訳だから衣食住は心配しなくていいよ。」

「ちっ…」

 

子供に畳まれた挙句気まで使われたのが納得いかなかったのか、兄さんに問い詰められていた隊長らしい人は顔を逸らして舌打ちした。

 

 

 

 

「でも本当に凄いね速人君、恭也さんと比べても見劣りしなかったよ。」

「そりゃそうだろ。兄さんは勿論俺だって本気じゃなかったし。」

「言っちゃ何だけどさ…本当モンスターよね。アンタも恭也さんも。」

 

部屋に戻ると、窓から様子を伺っていたすずかと遊びに来ていたアリサに褒められて呆れられた。

俺は軽く肩を竦める。

 

「兄さんと一緒にするなよ。そんな化物な俺も姉さんも一本取れて無いんだから。」

「アンタの場合それに加えて魔法まで使えるんでしょ?」

「魔法運用の能力『だけ』で見ればなのは達の半分も無いけどな。」

「それでよくなのはに全勝できてるわねアンタ…」

 

なのはからどんな風に話されたのか分からないが、俺が話せば話すほどアリサの反応が冷たくなっていった。

って言うか、ナギハ貰う前の二戦目で負けてるんだが…なのは的にはアレを勝利とカウントしたくないのだろうか?

 

「でもどうすんのよ?忍さんは恭也さんとくっついててもいいけどアンタがすずかにベッタリしてるのは別の意味で危ないと思うんだけど?」

 

ジト目を向けてくるアリサに向かって俺は腰に手を当て胸を張る。

 

「邪推にも程があるぞ、俺は何もしない。せいぜい部屋に聞き耳立てるくらいだ。」

「すずか、護衛変えたほうがいいわ絶対。」

「あ、あはは…」

 

俺が堂々と宣言した台詞に、過剰反応するアリサに苦笑するすずか。

でも、同じ部屋にでも居ない限りそれ位しないと危ないのは事実なんだよなぁ…襲う側にモラルなんて元々無い訳で、何も装備できない風呂とか個室に隔離されるトイレとか絶対狙われるだろうし…

無論、そんな事が出来るのは、道中の警備を抜けるだけの俺や兄さんクラスの戦闘者だけではあるのだが。

 

「アリサも気をつけろよ?金目当てじゃないかはまだ決まって無いんだから。」

「わかってる。護衛の人と一緒に鮫島に迎えに来てもらう事になってるから。」

 

それならとりあえず少々の事なら大丈夫だろう。

日常的に警戒態勢で無いと危ないって言うのも大変だな。

 

「いい?すずか。何かされたら恭也さんは無理でも私か忍さんにちゃんと相談してよね。」

「大丈夫だよ、多分。」

「すずかまで多分かよ!?信用無いなぁ俺…」

 

笑みを見せながら語る二人。

その会話の内容はともかく、張り詰めた空気が無い事が俺や兄さんを信用してくれていると感じられて少し嬉しかった。

 

とりあえずは美沙斗さんが来るまで、きっちりこの場を護ろう。

 

 

 

 

Side~月村すずか

 

 

 

「ま、まさか寝る時まで一緒とは思わなかったよ…」

 

夜も更けた頃、速人君は私の部屋にいた。

お姉ちゃんの『私と雫は恭也が見ててくれるから、速人君はすずかをよろしくね。』との鶴の一声により、ここでの見張りが決定したのだ。

 

言うほどは疑ってないけど、速人君は温泉とかで色々まずい所があったから少しだけ心配になる。

 

「一応大きさはあるけど…ベッド一つしかないんだ。狭くなっちゃうけど」

「あ、俺は椅子にいるからいいよ。」

 

並んで眠る位はしょうが無いと思っていたんだけど、速人君は近くの椅子に腰掛けた。

 

「速人君…寝ないで護衛してくれるつもりなの?」

「一応寝るよ。ただ、浅くだけどね。寝てても何かあれば起きて動ける程度に寝るつもり。」

 

事も無げに言った速人君は、本当に椅子から動くつもりは無いみたいだった。

 

「速人君って、普段言ってるより真面目だよね。」

「何だよ急に。」

「こんな状況なら事故扱いで少し位何かあるかなって思ってたから。」

 

がっくりとオーバーに俯く速人君。

 

「護衛中に襲い掛かったら最早護衛じゃ無いだろ…」

「でもお姉ちゃん達は」

「言うな、俺が悪かった。」

 

お姉ちゃんの護衛についてそのまま一緒になった恭也さんに護衛じゃないと言ったも同じになってしまう為か、速人君は私が言い切る前に謝ってきた。

もっとも、二人は恋人…今となっては夫婦だけれど。

 

「初めはハリボテみたいなものだったんだよ。」

「ハリボテ?」

「暗殺者として育てられたってのは言ったろ?その時は正直何もなかった。相手が裸だとしても見る箇所はどこに武装を仕込んでいるか、どんな戦闘スタイルか…そういう所だった。」

 

皮膚の内側にも仕込んでいる人が居ると聞いて、さすがに痛々しくなる。

が、当の速人君は顔色一つ変えずに続けた。

 

「そんなんで一般家庭入ったわけだけど…すずかなら服の感想聞いて、『その服装では武器を隠しにくいと思います』とか返されたらどう思う?」

「確かにそれは…コメントに困るね…」

 

想像して、速人君がそんな台詞を言う事に違和感を感じなかった事にどう返していいか少し困る。

 

「だろ?で、ヒーロー目指す折に『英雄色を好む』って知って、あえて意図的に騒ぐようにして目を向けてたら…ま、今では普通に気になってしょうがなく…」

「うーん…確かに武器の話をされても困るけど…」

 

変わった先も大きく間違っている気がしてやっぱりコメントに困る。

 

「ま、そういう訳で。ヒーロー目指した結果の副産物みたいな物だから、護衛中位は安心してくれていいよ。」

 

事も無げに昔の事を話した速人君はそう言って笑う。

 

きっと、今そんな話をしたのは少し速人君が…男の人が傍に居る状態で眠る事が心配だった私を安心させるため。

 

不安が消えた私は、深い眠りについた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

翌日…美沙斗さんから告げられた事実は、とんでもないものだった。

 

 

「彼女達二人…月村忍さんと月村すずかちゃんの情報が、出鱈目に出回っている。」

 

 

出回っているのはある種予想がついていたが、出鱈目にといったところが引っかかる。

 

「彼女達の血を飲むと不老不死になれるとか、実は淫魔の一種だとか、魔法が使えるとか…そう言った情報が出回っているんだ。」

「…それ、裏の情報屋がやり取りするにはあまりにいい加減だよな。素人集団か?」

 

第一、特定組織のみに渡されている訳でもなく出回っているのだから裏の世界に入りたてのド素人か、真似事をしようとしてた奴が半端になげたか殺されたか、そんなレベルだ。

こんないい加減な情報で襲われたのだとしたら迷惑にもほどがある。

 

「確かにこれだけならば誰も動きはしないだろう。だが、以前海鳴で港周辺が丸々異能力で破壊されただろう?恭也と速人が止めたと言っていた…」

 

…魔導師に提供された機械を使って襲ってきた男が逃げようとした港だ。

 

エネルギー弾、熱光線銃なんて近未来的代物はこの世界には無い。

異能力という扱いで処理されていたのか…

 

「海鳴近辺に住んでいる事は発覚している。同時期にそんな騒ぎがあったと聞けば信憑性が高くなる。更に情報提供者はHGS患者だと言う話まである。」

「はい?」

 

もう滅茶苦茶だった。

 

HGS患者と言えば超簡単に言えば超能力を持ってる人。転移や浮遊が出来るが、基本的に病院や施設にいる筈で早々うろついている訳も無い。

 

「あの…何でそうなったんですか?」

「何でもあちこちに現れた情報提供者が、ありえないほどの広範囲を短時間で移動している事からそう推測されたらしいが…」

 

一つだけその『超能力』を起こせて自由に動けた存在に心当たりがある。

 

「ちなみに美沙斗さん…その情報提供者って…」

「昨日調べては見たんだが…済まない、まだ見つかっていない。機械の杖を持った男という所までは分かっているんだが…」

 

……ほぼ確定だった。

 

コンサートでの事件でひっ捕らえた後この世界から消えた上、分かっている範囲の関係者の記憶と痕跡を異界の技術で弄繰り回してあるんだ。いくら香港警防と言えど所在が掴める訳が無い。永遠に。

いい加減なレベルの情報屋に情報を渡していた理由も、魔法のない世界での活動に慣れていないから当たりやすい連中から回っていたのだろう。

 

…事前に情報を撒いたとすると、捕らえた二人を売るつもりだったのだろうか?

 

何にしても…

 

「管理しろよ管理局ー!!」

 

頭を抑えて叫んだ俺の言葉の意味を知らない美沙斗さんだけが、ただ一人首を傾げていた。

 

漏れちゃいけないはずの二人の情報が広く浅く漏れた挙句、香港警防に魔法がらみの事件に関わるきっかけが出来るとか、正直もう俺の対処できる領域じゃない。

 

恐らく多用していただろう転移魔法に一回も気付かなかった事に嘆きつつ、この馬鹿げた事態をどう収拾したものかと頭を抱えた。

 

まぁ地球は『管理外』世界だし、星の数ほどあるだろう何処かの世界の一つで魔法使われてすぐ分かるなら、闇の書事件もP・T事件も一瞬で解決に向かっていただろうから無茶は無茶なのだろうが…

 

 

 

とにかくクロノだけは絶対巻き込もうと心に決めた。

 

 

 


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