第八話・いざ尋常に勝負!
夜になって、ジュエルシードの反応を感知して外にでる俺となのは。
魔法が発動しているところを見ると、フェイトがもう片付けてくれたのだろう。
現地に着くと、予想通りジュエルシードを手にしたフェイトの姿があった。
「よっ、順調みたいだな。」
「貴方は…やっぱり来たんですね。」
少し驚いた後悲しげに目を伏せるフェイト。と、なのはは俺とフェイトを見比べてきょろきょろとしている。
「あ、そういや見せてなかったっけ。ほらコレ。上手い具合に撮れてるだろ。」
「あ…え?」
俺は携帯電話を取り出してなのはに向ける。待ち受け画面にドアップで写ったフェイトの姿があった。たい焼きにハムッと噛り付いてる愛くるしい表情の写真である。
「あ、あの…」
「ちょっとアンタ、いったい何してくれたんだい!!」
察しが付いたらしいフェイトは赤くなって俯いてしまい、それを見た女性が怒る。
何と言うか喧嘩っ早いなあのおねーさん。
「あ、アンタも見る?結構上手いタイミングで撮れたと思うんだけど。」
「いったい何の…ブッ!!」
俺が画面をフェイト達の方に向けると、フェイトはますます赤くなって、おねーさんは思いっきり噴出していた。
「フェ、フェイト!何でこいつがこんなの持ってるのさ!!」
「え、えっと…ごめん…この間のお菓子は彼から貰ったもので…」
「お兄ちゃん!?なのはは一言あっても良かったんじゃないかと思うの!」
全員が全員バタバタと慌てふためく中…
「そ、そうですよ!彼女はジュエルシードを盗んでいったんですよ!?」
ユーノの一言で、空気が戻った。
ここは、ノリを替えたユーノを責めるべきか、シリアスな空気に戻してくれたのを感謝するべきか…
そんなどうでもいい事を考えていると、おねーさんが頭を乱暴にかき乱す。
「まぁ良いけどさぁ…アタシ親切に言ったよね?いい子にしてないとガブッと行くよって!!」
宣言すると同時、変身するおねーさん。何か犬になった。
「おお、変身魔法って奴か?」
「ちょっと違うね、アタシはこの子の使い魔さ。主人の魔力によって存在して、その全てをかけて主人を守り抜く!」
なるほど、人型の方が偽者って訳か。
納得していると、犬さんはフェイトの前に出る。
「フェイト、こいつらはアタシに任せて先に」
「悪いがそういう訳にも行かないな。」
俺は単独で前に出る。いつもの完全武装で。
いつ飛び掛ってくるかも判らない犬さんに対して、俺はただまっすぐに立つ。
「フェイト、前に話したと思うが…頑張れ。」
「お、お兄ちゃん!?ここはなのはを応援してくれるんじゃないの!?」
「お前はいーの!言わなくても頑張った結果相手をへし折るスタンスぶっ通すんだから。」
応援を所望するなのはを一蹴して、ユーノに視線を移す。
瞬間、犬さんが飛び掛ってきた。
おそらく俺の攻撃なんか意にも介していないだろう。このまま俺ごとなのは達を吹っ飛ばそうとする勢いだ。
全身を強化する、量的には彼女の十分の一程度の力しかないだろう。
だがそれで十二分。技は力を制す為にある。
身をかわしながら全力で『徹』を一閃。
「が…っ!?」
犬さんは防御がまるで役に立たない一撃を受けて、森の中に吹っ飛んでいった。
「アルフ!!」
フェイトが叫ぶ中、俺はユーノを掴んでアルフと言うらしい犬さんを追う。
「ユーノ、お前はこっち。万一犬さんにやりすぎたら治療してもらわなきゃならない。」
「い、いやでも!」
「なのはは決めた。邪魔は無用だぜ?男の子なら判るだろ?」
渋るユーノを引っ張って、俺はその場を離れた。
行く先は当然森に消えたアルフの元。
「ユーノ、空となのはの方に逃がさないようにだけ頼む。」
「そ、そうは言うけど…」
「だーいじょうぶだって、地面にさえいてくれりゃ、相手が人外だろうと負けねーよ。」
渋るユーノをおいて離れさせる。視線を移すと、少し苦しそうなアルフの姿があった。
「やってくれんじゃないのさ。」
「パワーはある、魔法行使も上手いのかもしれない。だが…下手だな。」
「舐めんじゃ…ないよ!!」
飛び掛ってくるのに合わせて潜り抜けて腕を打つ。とは言え、『徹』じゃないとまったく効き目が無い。峰打ちじゃ無ければダメージはあるんだろうが…そりゃ怪我させるからな。
「この…っ!ざけんじゃないよ!!」
近接戦が不利と判断したのか、宙に浮いて口から光弾を放ってくるアルフ。
っち、こうなると面倒だなおい!
内心で舌打ちしながら放たれた光弾を切り裂く。と、しばらくそうしているとアルフはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「アンタ飛べないんだねぇ?」
「まぁ普通の人間だからな!」
機嫌よさそうだったアルフだが、自信満々に言い切った俺の台詞が許せなかったのか、途端に顔を歪める。
「アンタが普通の人間なら、ドラゴンもロストロギアも全部普通だよ。そんな程度の魔力で強化だけでアタシとやりあうなんてさ。」
言われて思う。そう言えば、俺の魔力量ってどれ位なんだろうか?とりあえずなのはより段違いに低いような気はしてるんだが…あとでユーノに聞いてみるか。
「けど…あっちは勝負あったみたいだね。」
アルフが笑って見上げた空には、砲撃魔法を放った体勢のなのはに上空から突っ込んでいくフェイトの姿があった。
その姿に気づいたなのはだが、その状態からできる事はもう少ない。
詰んだかな。
俺は何の気なしにそう思って…
「「っあrjgbあえrんfkなsdfじなえr!!!!」」
頭と頭で激突して、声にならない悲鳴を上げる二人の姿を見た。
傍から見てたら微笑ましくも見える光景。
だが、何をしたのかわかっていた俺は自分の頬が引きつるのを感じていた。
「あの馬鹿…たしかに出来なくは無いけど練習もなしでやるか普通?」
なのはがなにをしたのか?
物凄い単純な話だが、なのははフェイトが鎌を振ろうとした瞬間…
前に、フェイトに向かって飛翔したのだ。
「ったたた…やっぱり見てただけじゃ上手く出来ないや。」
「っぅ…無茶をする。」
ある程度近づかれたら防御魔法を展開する上、近接攻撃自体がそこまで多くない魔導師にとっては理解できない回避方だろう。
接近する事による回避なんて。
とは言え難度は高い。いきなりで成功する訳も無い。
考えればわかるとは思うが、理屈がわかったからと言って出来る事じゃないし、魔法のように事前に組んでおいて使うなんて事ができる技術じゃない。
飛べるようになったばっかのアイツが空中であんな真似するなんて、教習所を卒業できただけのようなペーパーが高速4輪ドリフトかますようなもんだ。
「あっぶねーな馬鹿…そこまで本気か。」
「ち…飛べないってんなら相手にするだけ時間の無駄だね!」
言いつつ反転し、フェイトの援護に向かおうとするアルフ。
新技を試すときかな?
俺は拾った石を持った手を腰に構え…
回転をかけながら投擲した。
「あつっ!!な、なんだい今のは!!」
尻尾に石の直撃を受けたアルフは驚き俺に視線を移す。
そうそうそれでいいんだよ、人の喧嘩に割って入るもんじゃないぜ。
「さっきから飛べない飛べないうるせーっての!こちとら無力な人間なんだ、飛ぶ鳥を落とす位出来なきゃ…守るなんてご大層な事言えるかよ!!」
さっきの一撃は加減した。それを教えてやるために全力の一投を放つ。
障壁を張って防いだアルフはそれなりに驚いてくれたようだった。
投弾丸『スローバレット』。
投擲時に回転をかけることで直進による空気抵抗の減衰、貫通力の上昇をはかる。姉さんとの練習で思いついたもので、既にスチール缶くらいなら魔力強化無しで風穴を開けられる。
歯軋りをしたアルフは、再び俺に向かって来た。
Side~フェイト=テスタロッサ
…目の前の娘は、本当に強い娘だった。
別に戦闘技術が優れている訳じゃない、魔力が多いけど、ただそれだけ。
けど強いのはそんな事じゃなくて、彼女そのものの強さ。
振り下ろされる鎌に対して向かって来る。発想自体は多分さっきから戦ってる速人達のものだろう。でも、それで攻略できるからって普通そんな恐い事は出来ない。練習しているのなら、頭同士がぶつかるなんて馬鹿な事にもならないし、何かしら攻撃手段もあったはず。
つまり彼女は…練習も何もなしに、見つけた活路に躊躇いなく踏み込んだ。
それだけじゃない、私が本気で倒しにかかっていると言うのに、彼女から嫌な気持ちが向けられて来ない。
『話し合いで解決できるって事無い?』
そう言った時そのままの目で私を見ている。
襲い掛かったのに、恐い筈なのに…
このまま事情を話せば受け入れてすらくれそうな…
「だから…」
「えっ?」
だから許せなかった。
心配してくれる家族の前でこんな、怖くて危ない事を、頼まれてもいないのにやり通すとか勝手に決めてるこの娘が…
「…帰れ!!」
本気で行く。
「アークセイバー!!」
「っ!」
『プロテクション』
飛来する刃を防ぐ彼女。アレは足止め用、だから十分!!
「サンダースマッシャー!!」
「あ…くっ!!」
初手で放った砲撃魔法。防御魔法を展開している彼女に対しての追撃。直撃したのを確認した所で私は高速移動を行う。
予想通り防ぎきられていた。でも…
「っ!!」
背後を取った私は、彼女の首に鎌の刃をかけた。
『プットアウト。』
「え、レイジングハート!?」
と、彼女のデバイスからジュエルシードが一つ吐き出される。
だけど、それよりも驚いている彼女のほうに聞きたかった。このまま斬られるつもりなのか。
ジュエルシードを回収した私は、そのまま降りていって速人達に視線を向ける。
アルフをあしらっている速人は、私に気づいて剣をしまった。
「アンタ、どういうつもりだい?」
「あれ?言わなかったか?俺は二人っきりにしてやりたかっただけだ。終わったなら別に後は。」
速人は私にかかってくるつもりは無いみたいだった。かなり本気で行ってしまったから、もう余力はあまり無い。彼らのサポート役の子も含めてかかってこられたら今の私じゃ正直逃げ切れるかも怪しい。
「速人!アレは危険なものなんだ!使用目的も明かさない上に管理外世界で人に攻撃を仕掛けるのが平気な人達に」
「分かってるけど悪いユーノ。友達だし、なのはとの約束もあるからちょっと止められない。」
屈託も無く、彼はそう言った。友達…と。
「…私は繰り返すよ?」
「知ってる。その代わりなのはが強くなってく。いつまでもつかなぁ?」
楽しそうに笑う速人。私はいたたまれなくなって…
「行こうアルフ…」
「了解。…ふんっ!」
アルフと一緒にその場を離れた。
SIDE OUT