なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

81 / 142
第二十話・配る心の在処

 

 

 

 

第二十話・配る心の在処

 

 

 

空を駆けるなのはとヴィータの姿を眺めつつ、ほぼ無傷である事を確認した俺は軽く息を吐いた。

 

 

この分なら俺の出番はないかな…

 

 

この頃調子が悪そうななのはだが、どうやら事も無げに任務を終えたらしい。

ヴィータもいることだし、無用な心配だったか?

と、ことの終わりが一番油断しやすく狙われやすいのはどうやらどこも同じなようで…

 

 

 

 

 

視認できない機械が動いているのを感じた。

 

 

 

 

高速移動魔法で接近すれば間に合う距離だ。

俺は割って入ろうと飛行して魔法を使い…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発動直前に妙な空間に包まれ、落ちる。

 

 

 

 

「っち!」

 

体制を整えて着地…

 

 

 

 

しようとしたところで、何かにとらえられた。

 

「が…っ!!」

 

右腕を捻った状態で胸から地面にたたきつけられる。

 

少なくとも、周囲にこんな真似の出来る奴はいなかった。

フェイト並の速度の奴でもいたのか?

それも…

 

 

 

魔法じゃなく、機械で。

 

 

 

「何者だ貴様、こんな所で何をしている?」

「それじゃあ話せませんわよトーレ姉様。」

 

後からついてきたのか、間延びした声が聞こえてくる。

 

「心配は無用だよお姉さん。何のよう…っ…」

 

背中を踏まれ、軽口をたたく余裕がなくなる。

 

「貴様の話は聞いていない、質問に答えろ!」

「あらあら…どうせなら、あれとお仲間か聞いたらどうです?」

 

相変わらず鋭い声と間延びした声で話す二人の女性の声。

俺は腕を捻られた状態で体を起こされる。

 

「答えろ、貴様は奴らの仲間か!?」

 

背中からする鋭い声。

俺はわざわざ起こされたからなのは達の様子を確認しようと思い…

 

 

 

 

墜ちて行くなのはの姿を見た。

 

かなり遠目なので細かくはわからないが、なのはは墜ちていき、ヴィータはそれを追って降りていく。

 

 

 

 

間に合わなかった。

 

 

 

 

理解した俺の頭が急激に冷えていく。

 

魔法は使えないようだが、内的強化とデバイス強度は特に問題ない。

そこまで認識した時点で、俺は思考を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

逆手に左の刀を手に反転。

 

拘束されていた右腕を折るが、捕らえていた対象の両目を一閃で切断。

 

折れた腕をつかんでいた手が放れたところで徹込みの上段蹴りを対象の側頭部に直撃させる。

 

対象が崩れ落ちるのを確認したところで、もう一人いるはずの対象が不可視化しているのを確認。

不可視化したまま逃走を試みる対象に対し…

 

 

 

 

 

 

 

 

模倣・『射抜』

 

 

 

 

 

 

 

対象の右肩を貫く。

刀を抜くと対象が前方に倒れ込んだ為、首に跳び蹴りを放つ。

 

 

 

身じろぎする程度になった。次は…

 

 

 

 

違う。

 

次はない、次は必要ない。

 

 

目的は殺す事じゃない止める事だ。

 

 

戻れ…

 

 

 

 

 

戻れっ!!!

 

 

 

 

 

頭を押さえながら深く深呼吸。

徐々に心拍数などが戻ってきて…

 

「あたたたたた…」

 

折れた腕が痛くなって肩を押さえる。

 

くそー…自分でやっといてなんだがマジで容赦ないな、敵にも自分にも。

 

腕の痛みと倒れ伏せる二人の女性を見ながらそんな場違いな感想を抱いたいると、眼鏡をかけた女性がよろよろと起き上がる。

 

「こ…殺す気でしたわね…」

「半分機械のお前等がその程度で死ぬ訳ないだろ。」

「な…」

 

驚く眼鏡の女性。

遠目なら兎も角俺がこの距離でわからないはずもない。

魔導師や機械位しか戦闘技法がない管理世界じゃ俺のような戦闘者の事を分からないのも無理もないが。

 

「まぁいいや、とりあえず管理局に突き出すが、文句は言うなよ。治して貰うようには言って」

「ライドインパルス!!!」

 

刹那、二人の姿が消えた。

人間の視認限界か…俺でもほとんど見えなかった事を考えると、あまりとらえられる奴はいないだろう。

 

しかし片腕で二人を押さえておく訳にもいかなかったとは言え、あっさり逃げられるとは…

 

まぁ…いいや。今はとりあえずなのはだ。

 

「頼むから死んでてくれるなよ…」

 

願ったところで結果が変わるわけでもないが、願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はなのはとヴィータを回収しに来た管理局の一団と共に病院まで転移する。

 

集中治療室に運ばれる姿を見送った後、結果を待つ為一室でヴィータと並んで座る。

 

 

 

 

 

 

「ごめん…」

 

 

 

 

 

ヴィータが静かに謝ってきた。

 

「何が?ヴィータの計らいがなかったら俺ついてこれなかったんだけど。むしろ感謝してるぜ。」

 

犯罪者であるリライヴと犯罪者予備軍にあたる危険人物の俺は、局関連での事件解決に関わった記録を表向き消されている。

おまけになのはと兄妹である事も伏せているため、それ程局の人に知られていないのだ。

 

俺が好き勝手やってるのは事実だし功績も特にいらないから気にしてはいないが、こういう時はやはり不便だ。

 

「そうじゃねぇだろ!あたしが側にいたんだよ!今日に限らず普段から!ずっと!!なのに…不調にも何にも気づけなかった…」

 

掠れていくヴィータの声。

 

んー…

 

「ヴィータ達は騎士だったか?結構甘いんだな。」

「どういう…意味だよっ…」

 

涙目を細めるヴィータ。

納得がいかないという部分と今回の反省で綯い交ぜになってうまく答えられないんだろう。

どういうも何も、騎士にしては甘いとそのままの意味なのだが…別に馬鹿にしたつもりはない。

こんな時まで辛口でも嫌なだけだ。

 

とは言え、ヴィータに気負われるのは俺としては本意じゃない。

俺は優しく続けた。

 

「他の局員はどうか知らないが、なのはは戦闘者の俺や兄さん達が戦うことを許可してるんだ。たとえ味方に裏切られて背中から刺されたんだとしても、読み切れなかったなのはのせいだ。少なくともヴィータが謝る必要は全くないよ。」

 

言いつつヴィータの頭を撫でると、思いっきり払われた。

 

「子供扱いすんなよ!」

 

シュテルでも大丈夫だったから問題ないかと思ったが、どうやら気に入られなかったらしい。

人間と言うだけで確実に年下になるヴィータにはちょっと問題だったか。

 

「感謝してるんだよ。昔は敵ですらあったなのはのために、本気で泣いてくれてるんだから。」

 

別に取り繕う事もない本音だったのだが…ヴィータが勢いよく立ち上がる。

 

「何でそんな気の抜けた事言ってられんだよ!なのはが心配じゃねぇのか!!」

「いっ…つ…」

 

怒ったヴィータに両腕を捕まれる。

 

 

 

 

さすがに耐えられなくて顔をしかめると、ヴィータはゆっくり手を離して掴んでいた俺の右腕を見る。

 

「…おい…何なんだよそれ…」

 

恐る恐るといった感じでポケットに収めていた右腕を出すヴィータ。

ゆっくり力を加えると、曲がるはずのない部分が歪む。

 

 

あーあ…ばれたか。

 

 

「折れてんじゃねぇか!!何で言わねぇんだよ!!」

「だってそしたら俺の治療終わるまでなのはの治療結果聞けないじゃん!!」

「変に平静保つんじゃねぇこの馬鹿野郎!!!いいから医務室行くぞ!!」

 

左腕を引っ張られて立たされる。

 

「こんなんほっときゃくっつくのに…」

「んなわけねーだろ馬鹿が!!」

 

俺はそのまま引きずられるように部屋を連れ出された。

覚悟や責任の話がどうであれ、俺だって心配は心配なんだよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

治療を受けた俺は、別室でヴィータに遠目から様子を伺っていた事、移動魔法を使おうとして失敗して墜ちたところを二人の女性に捕まった事、倒して逃げられた事を伝えた。

 

「お前がやられかけたって事は…相当の相手だよな…」

「いや、実力そのものはそこまでは。フェイトと同クラスか僅かに上か位だな。」

 

納得しかけたヴィータが、フェイトも十分一流クラスだと首を振る。

 

対なら魔導師にはほぼ確実に負けない俺とか、異常に強いリライヴのせいで感覚麻痺してたんだろうか?

 

「けどよ、それ位ならお前がやばくなる訳ねーだろ。」

「それなんだがな…魔法が使えなかったんだ。」

「…そういや移動魔法使おうとして墜ちたとか言ってたな、どういう事なんだ?」

 

どういうも何もこの手の技術に明るい訳じゃない俺はそれほどたいした説明が出来ない。

 

『武装実体化、身体強化までは問題ないようでした。』

「空中でいきなりそんな状態にされて魔法陣展開による歩行も出来ないまま、着地前に視認範囲外から超高速で接近されたんだ。さすがにちょっとな…」

「そりゃ…確かに無理か。」

 

頬を引きつらせながら同意するヴィータ。

だが、何かに気づいたように真面目な表情に戻す。

 

「でも魔法が使えないとなると何でそいつらは高速移動なんて出来たんだ?」

 

ヴィータの疑問に、まだ伝えていない事を思い出す。

 

「あぁ、言ってなかったか。逃げた女性は半分機械…多分人を改造した状態で、使ってた力も魔力は感じられなかったから別物のエネルギーだと思う。」

「お前そういう事は普通…いや、そーいやお前この手の『変わってる』系の話は本気で気にしねぇタイプだったな。」

 

呆れ混じりに呟くヴィータ。

確かにヴィータの言うとおり、生まれや体の材料なんか別にまったく気にしてはいないんだが、それでも戦力を把握する材料としては気にしなければならない部分だ。

言い忘れなくてよかった。

 

 

 

 

必要な説明をした後、資料を残すために書類データを打ち込んでいくヴィータ。

 

「…ごめん、速人。」

 

そんな作業中に、ヴィータが沈んだ声で謝ってきた。

 

「無理もないとは思うが、なのはの事なら気にするなって」

「そうじゃねぇ!」

 

出来るだけ優しく伝えようとしていると、思いっきり叫んだヴィータの声に断ち切られた。

 

「さっき、なのはの心配してねぇのかって言った事だ…骨折れてんの我慢してまで容態聞こうとしてたってのに…」

「俺関係ならもっと問題ないぞ。大概は気にしないから。」

 

明るく告げると、それ以上ヴィータは何も言わなかった。

 

 

 

ヴィータは違ったと思って謝ってきたみたいだが、実際は当たらずとも遠からず…って所だ。

 

確かに、骨折我慢して容態知りたかったのは確かだが…

 

 

本気で心配しているなら、道中で何かしらミスしているはずだ。

 

それを、冷静に的確に判断した上で行動していたから、つかまれるまで腕が折れてる事ばれなかったんだ。

 

 

そんな余裕のある人間が、人の心配なんてしているのだろうか?

 

 

やっぱり、俺はまだ心のない殺し手のままなのかもしれないな…

 

 

 

少し浮かんできた念を、首を横に振る事で振り払う。

 

事実そうだとしても、受け入れない事を選んだんだ。だと言うのに弱気でどうする。

 

静かな部屋の中で、俺は改めて決意を固めていた。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。