なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十九話・爪痕は心の中に

 

 

 

 

第十九話・爪痕は心の中に

 

 

 

結局、魔法の話をさくらさんにもした上で、今後アースラの誰かが夜の一族の話を漏らすようなら同様に魔法についても公開すると言うような形で落ち着いた。

 

 

脅しあいみたいですっげぇ微妙な状態だが、無条件で信用するとか言うのはさすがにさくらさんには軽すぎるか。

 

後、今回コンサート会場襲撃に来ていた魔導師は、自動傀儡兵をあの馬鹿に売り渡した張本人でもあったらしい。

 

何でも、魔力もなければ派手な魔法も使えない身で裏家業についているのに限界を感じて、ならばいっそ、魔法発動を探知されにくい自分の長所を生かした場所で働こうと言う事らしかった。

 

 

 

それでどこに行くか、という事で…

 

 

 

二度も魔法関連で事件が起こってる上に突如現れた天才子供魔導師のなのはの出身世界、第97管理外世界、地球に目をつけたという事らしい。

 

いくら天才魔導師だろうと、プロフィール…出身地位なら雑誌レベルにすら掲載されるし、事件にしたって終わった事件の概要は、歴史なんかに記録される話になってくるから、機密レベルでもなければ大筋位は簡単に知る事ができる。

 

そんな情報を集めて、裏で捌いた傀儡兵を以って、今回結託しようとしていたあいつ等に力を貸す事に下らしい。

 

管理世界に夜の一族の情報を売り渡すまでは行っていなかったのは幸いだった。

 

あのまま誘拐されていたらそれもありえたかもしれないとなると、ぞっとしないもんだ。

 

 

 

「っと、ここまでだな。」

「ふ…やはり私の負けか。」

 

俺はシグナムの首に突きつけたナギハを下げて鞘に収める。

 

 

 

 

さくらさんとの問答を終え、事件の結果を聞いたのが昨日の事になった現在、暇ならばとなのはがよく練習に使う丘に呼び出されて練習試合の最中だったのだ。

 

 

 

だが、結果は歴然。何しろ余計な事を考える余裕があるほどに。

 

 

 

それと言うのも、今回魔法戦や空戦ではなく、身体能力も通常の状態で、バリアジャケット…シグナムたちは騎士服だったか?も展開しない状態で…

 

簡単に言うと、いつも俺や兄さん達が普通にやってる訓練方法での仕合だったのだ。

 

無理もない結果だ。

 

「しかし…手を抜いたな速人。」

「いや、まぁ…って言うか、初手から本気で行ったら今回のお前の目的果たせなかったと思うぞ?」

 

俺の返しにシグナムが僅かに眉を動かす。

推察ではあったけど、どうやら当たってたみたいだな。

 

「俺や兄さん達の『業』を知る事、それと自分達の剣との性質、目的の違いを知る事、習得できるかどうか知る事…こんな所だろ?」

「言わずとも承知済みという事か。私もベルカの騎士である以上自身の剣以外を習得する気もないが、あのリライヴがあれほど絶賛し、その程度の魔力値で私をたやすく破ったものについて知っておきたく…いや、知る必要があると判断して来たのだ。」

 

だからなのか、それほど暇でもないはずの守護騎士が揃い踏みだった。

 

「で、収穫はあったか?」

「正直シグナムが弱ぇ事しか分からなかったけどな。」

 

浮かない表情のヴィータに聞いてみたが、完全に薮蛇だった。

シグナムの眉が思いっきり吊りあがる。

 

「ヴィータ…どうやらレヴァンティンの錆になりたいらしいな。」

「やってみろ、返り討ちだ。」

「止めろ二人とも。頼んで速人を呼び出したのは我々だ、無駄に時間を使わせるな。」

 

言い争いですまなくなる前にザフィーラが止めてくれた。

うーん、渋い。

止め役って普段静かだから目立たないけど、実際ありがたいよなぁ。

 

「でもヴィータの言い方もそこまで間違ってないんだよな。」

「何?」

「あぁ待った。シグナムが弱いって方じゃなくて、分からなかったって方な。」

 

勘違いされかけて慌てて止めると、皆に何を言ってるのか分からないと言った表情をされた。

 

「皆作り物の生まれだろ?って待った待った。偏見で言ったわけじゃないからそんな冷めないでくれ。」

 

説明しようかと思った傍から空気が異様に冷めたため慌てて全身を使って静まるよう訴える。

だから、俺以外は普通嫌がるんだから気をつけないと駄目なんだよな…

 

「変な意味じゃなくて、竜の皮膚は硬いとか、ワームは穴倉が好きとかそういう『特性』の話がしたかっただけなんだ。」

「特性って言っても…私達は殆ど人体と変わらないわよ?」

 

シャマルさんが当然出てくるだろう疑問を投げかけてくる。

だが、その『殆ど』の部分を放置する違いが問題なんだ。

 

「その殆どが肝なんだ。皆の場合成長する時、戦闘方法って『習得』する事になるだろ?」

「そりゃ誰だってそうだろ。」

「いや、俺達の業は…特に本物は文字通り『体得』が必要になる場合がある。」

「文字通り?」

 

首を傾げるヴィータ。

無理もない。専門書が出たり生きる為に必須の技術じゃなくなった戦闘は、武道やスポーツと言う形で残ってはいるけど、きっとその人たちじゃ『徹』ですら再現できない。

発祥の地の人でも理解できないものを、外から来た上に知るための機能が備わっていない身では理解できないのも無理はないだろう。

 

「馬鹿みたいに何万と同じ型を繰り返して、それを使って何回も戦闘をやって、考えるよりも早く技が出るようにする。他にも、そもそも理論になってないから感覚を掴むしかないとか。けどさ、成長とかない皆の場合…体が治るって『元に戻る』って事だろ?」

「成程…それで我々が使えないのか。」

 

先に合点がいったのか、シグナムが少し悔しそうに呟きを漏らした。俺はそれに頷いて続ける。

 

「俺は守護騎士がどういう風に出来てるのかは分からないけど、作った人間が理解できていない機能は再現出来ていない筈だ。やってる俺達だって紙に纏めろとか資料にしろとか言われてもし辛い事を再現できる科学者がいる筈がない。だから、作られた皆には業を習得するのは難しいと思う。」

 

正しい気配の感じ方とか言われても、説明しづらければデータや理論には絶対出来ない。

 

そんなものを科学で作れる訳がない。

不可能と知った皆の表情が少しばかり浮かないものになる。

 

近接主体のベルカの騎士がその近接戦で負けて、オマケにその技法が習得不能と言われればやるせないのも無理はないか。

 

「でもあんまり気にしなくていいと思うぞ。」

「何故だ?」

 

と言うか、正直まったく気にする必要は無いと思うのだが、シグナムには不思議がられた。

 

「魔導師には今言った領域で戦える奴いないから。魔法ってそもそも頭で構成するものだし、殆どの奴が扱うマルチタスクが邪魔して極めるって領域まで行かないんだよ。」

 

理由を説明すると、理解半分不思議半分といった感じで頷く皆。

 

「だから問題があるとすれば、俺に勝てないくらいだから気にしなくてもいいと思うぜ。」

「ふ…言ってくれる…」

 

軽い笑みを最後に、シグナムは丘の出口に向かう。

 

「世話になったな、今度時間をとって食事でも奢らせてもらおう。フレイア達宵の騎士も連れてきてくれ。」

「了解。楽しみにしてるよ。」

 

シグナムに続くように、皆一声ずつかけて丘を降りていく。

俺は少し空を見上げる。

 

 

 

 

管理外世界の魔導師の活動に気づけなかった。

 

 

 

それは思ったよりも、魔法を扱う皆には衝撃だったらしく、宵の騎士の皆ですら訓練や情報収集を始めている。

 

フェイトやはやても仕事後に訓練しているようだし、元々一番訓練時間の長いなのはが更に根をつめている。

 

 

…兄さんは、やりすぎで膝を壊した。

 

 

幸いにして、フィリス先生や神咲さんのお陰で完治したが、昔は姉さんを完成させるのが限界だと言っていた。

 

なのは達はもう任務についているし、止めたほうが『安全』なのは確かなのだが…

 

 

「リライヴも…敵に回すんだよなぁ…」

 

 

それを考えると、とめると言う発想が薄らぐ。

 

命の危機を彷徨う領域での鍛錬や戦闘。それは確かに危険ではあるのだが…

 

 

兄さんが、美沙斗さんと同域に辿り着いた最年少なのは、間違いなくその膝を壊した訓練のお陰だ。

 

 

実際、姉さんと修行仲間ではなく師弟なのだ、姉さんも十分人間の領域を外れているのに…だ。

 

そして、リライヴは恐らく同じ事をやって生き残ってる魔導師で、恐らくなのはも他の誰も、戦うとなれば引かないだろう。

 

 

普通の訓練じゃ、それどころか同じ事をしても差を維持するだけで絶対勝てない。

 

 

俺がやるから引っ込めと言うならそもそも管理局に入れてないし。

 

「普通に止めても『大丈夫』で終わるし…無理に止めるなら局に入る前…だよな。」

 

一応忠告だけはしておく事にして、様子を見るしかない。

俺は変わった空気に少し不安を感じながら、祈るようにしばらく空を見ていた。

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

本来静まり返るはずの夜の丘に、缶を打ち上げる音が響いていた。

 

光の弾に打たれ宙を舞う缶が、やがてくずかごに向かって飛んでいく。

 

 

 

「ふ…ぅっ…」

 

 

 

五つの缶のうち、三つがくずかごに治まったのを確認して、私は息を吐いた。

 

2、300回繰り返すのは一つでも疲れる練習だけど、三つのシューターで五つの缶を打ち上げるとなると本当に大変だ。

 

シューターの数の方が少ないと、一つ一つを速く制御しなければならないのは勿論、どの角度へ打ち上げるか、どの順番で打ち上げるかまで最良の判断が出来なきゃならない。

 

 

呼吸を整えるのに、お兄ちゃん達に教わったやり方を使う。

 

 

リンカーコアを意識しながら、自分と周囲の魔力を感じ取るように、出来るだけ深く一定のリズムになるように息をする。

 

次第に、とりあえずの疲れが落ち着いていく。

 

『中々良好ですが、少々急ぎ気味ではないですか?』

 

落ち着いたところで、レイジングハートにそう指摘された。

 

確かに、今日は普段より長めに練習した。

 

いつもやってるフェイトちゃんとはやてちゃんとの夜間練習の後の自主練、どう考えても焦っているようにしか見えない。

 

それと言うのも…

 

『魔導師に気づく事が出来なかったからですか?』

「…うん、そう…」

 

レイジングハートの問いかけに、私は頷きながら答えた。

 

 

 

 

今回、私は本当に無力だった。

 

 

 

 

地球の事件に手を出せない事は分かっていたから、本当にそれだけなら、仕方ないって…あんまり言いたくはないけど、仕方ないって言う事は出来た。

 

でも…魔導師がいて、魔法を使っていて、それでも気づけなくて『仕方ない』なんて言える訳がなかった。

 

 

クロノ君の話だと今回の違法魔導師は、人に気づかれない魔法の扱いが得意なかわりに大きな効果を及ぼす魔法が殆ど使えないって話だった。

 

だけど…魔法を扱っているのに、気づく方法がないなんて事はありえない。

 

「変に悔やんでもどうしようもないのは分かるけど…せめて同じ事にならないように強くなっておきたいんだ。」

『分かりました、では互いに精進しましょう。』

 

レイジングハートから返って来た声は、いつもと変わらない機械音声の筈なのに、何故かとても温かかった。

 

昨日より今日、今日より明日、少しずつでも前に進んで行こう。

また、同じ事にならないように…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「…で、無茶なのが分かっていてお前まで修行量を増やしてどうする。」

「いや、量を増やすと休めないから兄さんや姉さんとの戦闘時間を増やしたいんだよ。やっぱり実戦形式のがいいし。」

 

結論として、どれだけやばい状態になってもカバーできる戦力になる事を選んだ俺は、兄さんにそれを頼んで睨まれていた。

 

膝壊した経験から無茶を止めたいのは分かるんだが…

 

「どうしても駄目なら…俺が一人で何とか修行するしかないけど、監督がいないほうが無茶すると思うなぁ…駄目?」

「どんな脅迫だこの馬鹿者が。」

 

呆れるように息を吐いた兄さんは、鋭い視線で俺を見据える。

 

「そこまで言うのであれば本気でやるぞ、ついて来れるか?」

「這ってでもついてくさ、俺だって元々本気なんだ。」

 

元々全てを救うと言う無茶な理想のための力なのだから、無茶が出るのは当然。なのはがやりきると言うのなら、俺はその上を行くまでだ。

 

誓って兄さん達と二刀を手に、夜の森へ向かった。

 

 

 

 

 


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