なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第七話・剣に懸ける思い

 

 

第七話・剣に懸ける思い

 

 

 

「ふふふ…温泉といえば覗き!生涯で今この時ほど気配の完全遮断が出来る事を喜ばしく思った事は無いっ!!」

「死にたいようだな愚弟よ。」

 

 

思ったまま口にして、親愛なるお兄様と大乱闘する羽目になった。

 

「こちとら格闘訓練も積んでんだ!刀無しで勝てると思うなよ!!」

「大した自信だが、俺を相手にする理由には足りん。」

 

徹、貫を併用した拳や蹴りがすっ飛んでくる。俺は柔で捌き、剛で迎え撃った。

 

 

 

俺たちは今、温泉に来ていた。高町家ご一行と忍さん達、それから格闘の師匠の二人と共に。格闘の師匠はややスタイルに難はあるが現役高校生、忍さんや姉さんまでいる桃源郷がすぐ隣にあるんだ、負ける訳にはいかない!!

 

 

「俺の桃源郷はこの柵の向こうなんだ!負けられるかぁぁぁっ!!」

「…その執念は訓練で出せこの阿呆が。」

 

 

 

結論として、互角の戦いを繰り広げた結果、我等が父上様の一撃によって終わりを告げました。

 

 

 

で、おとなしく風呂から上がった訳ですが…

 

「最っ低!」

「駄目だよ速人君?」

 

俺の魂の叫びが届いていたらしく、正座でアリサ、すずか両名によるお説教と相成った。

 

「くそっ…だがしかし俺は諦めないぞ!必ずやいつの日にか」

「今すぐ諦めなさいこのヘンタイ!!」

 

立ち上がろうとする俺の頭を押さえつけるアリサ。

 

くそー…漢のロマンのわからない奴等め…

 

 

 

 

 

二人に解放された俺は、痺れた足をさすって部屋を出る。と…

 

獰猛な殺気を感じた。

 

あまり長い間ではなかったが、敵意をむき出しにした何かがいる。と、なのは達の気配から離れる一つの気配に、俺は覚えがあった。

 

 

そして俺の前に姿を見せたのは、フェイトと共にいた女性だった。

 

 

「こんばんわおねーさん。」

「ああ、こんばんわ。」

 

普通にしてればいい人らしい。久遠がいた時には、俺は目に入っていなかったのか、まったく気づかない。

 

『今ここで殺気をまくな、殺されるぞ。』

「っ!」

 

俺が送った念話に反応した彼女は、俺を警戒して身構えた。

 

『だから殺気立つな!事情を知らない達人がいるんだ、予防で殺されたらアンタだって困るだろう!兄さん達が本気で来たら魔法使った位でアンタのこと守りきるなんて無理だからな!!』

『…アンタ、あたしを守るってまた大きく出るじゃないのさ。』

 

一応殺気を警戒心レベルまで落としてくれる。…まぁ、コレ位なら大丈夫か。

 

 

『とりあえずは…だ、この町にいるんだろ?事件にも乗らずに消されたくなかったらジュエルシード以外では品行方正でいてくれ。判るだろ?揉めず騒がず大人しく…だ。』

『なんだいそりゃ?普通の人間に殺される訳無いだろう?』

『異常な化物なんだ。敵に回して死なずにすむとすれば、空を飛ぶ位か。』

 

…魔導師の身を案じて念を押さなきゃならない鉄の固まり持ってるだけの人間って、やっぱりおかしすぎるんじゃないだろうか?

内心で軽く呆れていると、彼女のほうから念話が飛んできた。

 

『子供はおうちでいい子にしてな、邪魔すると怪我じゃすまないよ?』

『俺がただの子供に見えるなら…アンタも家で大人しくしておいたほうがいい。怪我じゃすまないぞ?』

 

向こうは挑発のつもりなんだろう。

だが、俺の方は警告のつもりだ。ジュエルシード集めに参加するほうが、今この場で殺気を纏っていることよりははるかにマシだ。

 

 

 

 

何か、既に離れた位置に妙な気配があるし、十中八九飛針か何か準備してるだろう。

 

 

 

 

『とにかくだ、ジュエルシード見つけるまでは大人しくしててくれ。』

『ま、いいさね。邪魔するならその時はその時だ。』

 

 

警戒心全開のお姉さんと別れて…

 

「出てきなって、気配遮断は俺のほうが上だぜ兄さん。」

「気づかれていたか、さすがだな。」

 

刀を下げた兄さんが姿を現した。

抜刀術でもかまされた日には気が付いたら胴が二つに分かれてました。何てシャレにならん位グロい展開になりかねない。

とりあえず去ってくれてよかった、うん。

 

 

「知り合いか?」

「まぁちょっとな。安心してくれ、何も無く終わらせる。」

 

 

どうせなのはに何かあって、何かやってる事位気づかれてるだろうからそれだけ言う。

 

伝えることは伝えたと戻ろうとした俺を、兄さんは珍しく真面目に俺を呼び止めた。

 

 

「速人、一つだけ心して聞いておけ。」

 

殺気も怒気もない、ただ真剣な兄さんの声。こんな声は、正直殆ど聞かない。

 

絶対に忘れないよう意識を整え兄さんの言葉を待つ。

 

 

 

 

「御神の剣は守るための物だ。…大切と思えるものを守って、必ず戻って来い。」

 

 

それが、俺に御神流を薦めた理由だと、その時初めて気が付いた。

 

血を浴びて、命を絶ち、誇ることも無く。

 

そんなものにわざわざ人生を費やす理由…

 

 

 

 

俺がヒーローになりたいと言うことを、

俺が持つ…いくつもの死を積み上げて持ってしまった力を、誰かの幸せの為に使いたいと言う願い事を知っていたから、兄さんは俺に力をくれようとしていたんだ。

 

 

「ああ、必ず守る。」

 

俺は自身の持てるありったけの意思と共に誓いを立てた。

兄さんは静かに笑みを漏らして、部屋へと戻っていった。

 

 


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