なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十八話・明暗二つ

 

 

 

第十八話・明暗二つ

 

 

 

 

「すまなかった。」

「ごめん!」

 

俺は兄さんと並んで頭を下げていた。

 

 

勿論、言うまでも無くフィアッセさんに。

 

 

何しろ揃って護衛放り出して抜け出したんだ。一回引き受けた以上さすがに堂々とはしていられなかった。

 

 

話が一段楽した後、魔導師を引き渡さなきゃならないし、フェイトも折角だから会わせたいと言う事で、すぐにコンサート会場へ向かった。

忍さんは、色々とやる事があるので屋敷に残って、リンディさんは忍さんの内から直接アースラへ。

 

そして、クロノに魔導師を連れて行って貰った後…残ったメンバーで、フィアッセさんの部屋に集まっているわけだ。

 

 

謝った俺達に対して、フィアッセさんは首を横に振る。

 

「忍とすずか、無事だったんでしょ?ならいいよ。恭也も速人も無事でよかった。」

「そこは当然!この俺無敵のスーパーヒーロー速どっ!?」

 

笑みを返してくれたフィアッセさんに答えるように胸を張って言いかけていた台詞は、兄さんが俺の胸元の傷跡をはたいた事で止まった。

クロノの治療で出血は止まったし傷自体も塞がってはいるものの、専門ではないためか痛みも傷跡もまだ残っている。

 

「馬鹿者が、無敵を嘯くならこの程度で呻くな。」

「や、喧しいこの馬鹿兄!他にやり方あるだろ!!大体戦闘者相手に無傷なんて兄さん達でも無理だろうが!!」

「俺は人間離れは自称しているが無敵と言った覚えは…」

 

俺の抗議に対してアッサリ人間離れと答えた上に覚えは無いと言わずに止まる兄さん。

…おい、自分で無敵名乗った覚えがあるくせにこんなえげつない真似しやがったのか?

 

フィアッセさんは相変わらずな俺達の様子に笑みを漏らすと、少し後ろにつくようにならんでいたフェイトに視線を移す。

 

「貴女がフェイトね。なのはからよく話は聞いてるわ。始めまして。」

「あ、は、始めまして。フェイト=T=ハラオウンです。」

 

緊張しているのかどもるフェイト。

と、丁度そこになのは達が姿を見せた。

 

「ごめんフィアッセ、明日には出るし顔見せ位と思って皆連れてきたんだけど…」

「気にしないで美由希。連れてきてくれてありがとう。」

 

コンサートの後だし疲れもある筈なのに、笑顔でそう答えてくれるフィアッセさん。

と、俺とすずか達を見比べるように視線を動かしたアリサが、肩を落とす。

 

「まったく!自称ヒーローなら折角のコンサート、間に合わせてみなさいよ!」

「うぐ…返す言葉もない…」

 

相手に本職がいたりとか魔導師がいたりとかでごたごたしてたのは間違いないのだが、何があっても守るのが仕事の俺としては本当に面目なかった。

 

今回はすずか達のことが局に漏れるは、それが昔の俺の失敗のせいだわ、しかもコンサートには間に合わないわ…散々だな。

プレシアさんみたいに死んだ人がいない分ましといえばましなのだが…まだまだ修行が足りないな。

 

と、一人内心で反省していると、何故かすずかとフェイトがアリサを少し咎める様に見ていた。

 

「駄目だよアリサちゃん、速人君本当に頑張ってくれたんだから。」

「私も未熟だからだけど、誰一人酷い事にならずに終わる事件ってあんまり無いんだ。皆…敵の人たちも無事なのって本当すごい事なんだよ?」

「う…」

 

二人に怒られてバツが悪くなったのか、アリサは視線を逸らす。

うーん…これでもアリサが言うように不満なんだが、まぁ普通に見たら欲張りなんだろうな。

 

「けど良かったの?魔法の話聞いちゃって。」

 

フィアッセさんが首を傾げながらフェイトに聞く。

フェイトは頷いて返した。

 

「誰にも言わないで貰えれば大丈夫です。それに、転送魔法陣を設置させて貰えるんですよね。」

 

普通に転移できなくも無いが、専用の設備を用意した方が都合がいいらしい。

当然と言えば当然ではあるが。

 

舗装した道路と砂漠を走る際、どちらが便利かなど言うまでもない。

ようはそういう事なんだろう。

 

フィアッセさんは微笑んで頷く。

 

「使ってない場所とか見つけづらい場所なら色々あるし、大丈夫だよ。」

「それなら大丈夫です、それに、今回みたいな事がまたあったら危険ですから。」

「あの魔導師さん…どうしてわざわざ管理外世界の地球に来て悪い事してたんだろう…」

 

フェイトの返答を聞いたなのはが俯いて搾り出すように呟く。

顔だけは見たらしいが気絶していたため話は聞けなかったらしい。

 

「その辺はクロノ達が教えてくれるだろ。今くらい楽しもうぜ。シュテル、アレあるんだろ。」

「はい、用意してあります。」

 

シュテルは言いつつ、ルシフェリオンを取り出す。

 

『プットアウト。』

 

機械音声の後、見慣れた翠屋の箱が飛び出した。

 

「マスターがなけなしの小遣いを全て使い切って用意した翠屋のシュークリームです、堪能してください。」

「って言わなくてもいい情報まで言うな!!」

 

シュテルの言葉に苦笑するフィアッセさん。

 

「あんまりお小遣い貰えてないの?」

「店の手伝いより修行優先してて…どうしてもやばそうな時以外手伝ってないから…」

 

なのは達は局で給料が既に出てるし、正直俺一番貧乏人なのだ。

とは言え、折角フィアッセさんが戻ってくるなら寄ってる暇が無いまでも翠屋の味位は堪能していってくれればと考えて…

その場で食うなら他の皆の分もないと食べづらいだろうし、かと言って長期保存が利くような代物でもない。

 

 

結果、その場で皆で食べられる数を用意して…破産と相成った。

 

 

まぁ、皆喜んでくれれば俺としては文句は無いのだが。

 

 

「ありがとう速人。でも無理しなくていいよ?」

「いや、実は修行ばっかりであまり入用じゃないからこういう時に使えれば無理は無いんだ。気にしないで食べてよフィアッセさん。」

「それじゃあいただきます。」

 

喜んで箱から一つシュークリームを取り出すフィアッセさん。

 

 

「ボクも食べていいんだよね?」

「ん?ああ、いいぜ。」

 

物凄く気になっていたらしいレヴィは、俺が承諾すると飛びつくようにシュークリームを食べ始め、それをきっかけに皆が一つ一つ手にとってシュークリームを消化していった。

 

「でも、本当にありがとう。」

 

シュークリームを食べ終えた頃合に、フィアッセさんがそう口を開く。

 

「父さんと美由希はともかく、俺と速人は肝心なところで放り出したのだが…」

「修行切り上げてきてくれて、日本まで守ってくれたじゃない。速人君だって、物凄く大変だったみたいだし。」

 

浮かない表情の兄さんに対して綺麗な目を向けるフィアッセさん。

 

「エリスにもいっぱい無茶させちゃったし、恭也たちの誰か一人でもいなかったら、きっとこのコンサートは出来なかったから。やっぱり、ありがとう…だよ。」

 

そうまで喜んでくれるなら、俺としても…恐らく兄さんも、本望だろう。

 

「ま、そう言うならまたなんかあったら頼ってくれよ。子供なりに力を貸すぜ。」

「ああ。俺も美由希も、いつでも呼んでくれ。」

「私達の二刀は、その為にあるから…ね。」

 

やっぱり嬉しかったのか、兄さんと姉さんも俺に続くように守ると誓う。

俺達の答えに、フィアッセさんも笑顔で頷いてくれる。

 

「うん、これからもよろしくね。」

 

とりあえず、フィアッセさんのほうについては大団円ってとこかな?

 

「ところで兄さん、父さんを仲間はずれにしたのはワザと?」

「………………………ああ。」

 

すっごい間の後に答えを返す兄さん。

…割と本気で忘れてやがったな。ひっでぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、もう一つ。

ある程度予想していた事ではあったのだが…

 

 

こっちはあまり、よろしくない空気だった。

 

 

「貴方は自分が何をしたかわかってるの!?」

 

開口一番、さくらさんの口から漏れたのはそんな怒声だった。

 

兄さん達は今頃フィアッセさんの見送りに出ていて、俺は朝から忍さんに呼び出されて、屋敷の傍の森にいた。

 

もっと正確に言えば、忍さんを通してさくらさんに呼び出されて。

 

綺堂さくらさん。

忍さんが親戚の中で一番信頼している人。

ただこの人、夜の一族としての生まれのせいか分からないが、何と言うかその…敵対者やらそれに連なるものやら、初対面の相手やらに対しての警戒心が半端じゃない。

 

「主語なくそれだけ言われてもちょっと…」

「とぼけないで!今回のこと…貴方の勝手が原因なんでしょう!?」

 

まぁつまり…だ、無茶苦茶やりすぎた俺は思いっきり睨まれてる訳だ。

問答無用でぶっ飛ばされたり、力を使ったりしてこない辺りはまだ抑えてくれているようだが、それもいつまで続くか分からない。

何しろ俺は、ただでさえ誓いを半端な状態までしか約束していない身だ。本気で潰しにこられても何もおかしくはない。

 

「そう…だね。ごめん弱くて。」

「全然分かって無いじゃない、強ければ良かったって言うつもり?」

 

謝ったんだけど、余計にさくらさんの視線が険しいものになる。

失敗したことに怒ってるんじゃなかったら、悪いけど今の所謝れない。

 

「もしそれ以前…家に侵入して夜の一族のことを知っていたことや、誰にも言わずに一人で襲撃をかけた事を怒ってるなら…悪いけど謝れません。」

 

静かに、さくらさんの瞳の色に揺らぎが起こる。

本気になりかけてる…ってことかな?

 

「放っておけば、忍さん達が奴らに攫われていたかも知れない、調べて知らなかったら、それに対処一つ出来なかった。兄さん達に手を借りようにも、バラしちゃいけない話が絡む。だから俺一人で行ったんだ。謝って俺の間違いだったと言うのなら、他に最善策が必要だけど…思いつかないから謝れない。だから…弱くてごめん。」

「勝手な事を…」

 

睨まれるのも分かる。

何しろ無茶やってる自覚はあるんだから。

 

「…無理矢理忘れさせるしか、私達に関わらないようにする方法はないのかしら?」

「それも無理ですね、気配遮断に気づけなければアッサリ調べ直して元の木阿弥です。」

 

これに関しては仮に素直に記憶操作を受けてもそうなる自覚があった。

違和感なく記憶操作した所で、兄さん達の周囲にいる限り間違いなく調べ直すだろう。

 

第一、脳内麻薬と言う形ではあるが、ある程度意識的に自分の頭を操作できる俺に暗示関係の能力が正しくかかるとも思えない。

 

 

そうなると…

 

 

「こうするしか…ないのね。」

 

告げたさくらさんから、耳と尻尾が生える。

 

「普段綺麗ですけど、それは可愛いですね。…言われなれてます?」

「…随分余裕なのね、人間の子供がこの状況で。」

 

まぁ冗談でそんな姿になる訳もない。

捕まえて血を吸われて、後は殺されるか逆らえない程度に重傷負わされるか、それとも本気で殺されるか…そんな所だろう。

 

「俺は種族的には一応人類ですけど、少し変わってるだけのすずかと違って『バケモノ』ですから。まともに育ってないって意味と、戦闘能力で。」

「『少し変わってるだけ』?人に生まれているくせに何をそんな簡単にっ…」

「そう言うなら…人に生まれたせいで、気にするなって言っても説得力がないからすずか達を気楽にさせてあげられない、俺の気持ちだって分からないでしょう?」

 

お互い様と言ったつもりだったんだが、かえってさくらさんの瞳が鋭くなる。

屁理屈にしか聞こえてないんだろうな…無理もないが。

 

とは言え、これで怒られては俺も説得のしようがない。

 

 

 

 

瞬間、さくらさんが駆けた。

 

 

 

爪で薙いだのか、辛うじてかわしたが服が僅かに裂ける。

 

速ぇ…

 

さすがに技とかはないけど、突進力だけなら兄さんと同等位の速度あるんじゃないか?

修行とかしてるわけでもないだろうに…

 

「抵抗…しないつもり?」

 

通り過ぎた位置から振り返ったさくらさんは、俺を見ながらそう言って来た。

 

「悪党相手や仕合ならまだしも、義理の姉妹の親戚。家族同然じゃないですか。へまして二人を巻き込んだのだって本意じゃないのに、そんな大事な人に力なんて振るいませんよ。」

「っ、そう…」

 

戸惑いを見せたのも一瞬、さくらさんは再度襲い掛かってきた。

 

 

幸い、『こういうこと』に慣れてないからか、魔導師勢よりも更に見やすいのは間違いないが、魔力による強化もしないまま、素手で獣を相手にするようなものだから身体能力だけで大分厳しい。

 

腕や足が衣服や皮膚を掠めるように通り過ぎる。

 

一回捕まったらそれでアウトだ、さすがにずっと受けに回るのも厳しい。

 

「何でそんなに意地になるの?さっきから何度も私を取り押さえる事が出来た筈なのに。」

「マスターがそういう方だからです。貴女達融通の利かない愚かな一族のように。」

 

いきなり背後からかけられた声に慌てて振り返るさくらさん。

 

そこには、相変わらず表情を見せないシュテルと、少し怒ったレヴィとディアーチェの姿があった。

魔法で物音殺しながら来てたみたいだし、魔法を知らないと気づくのは難しいだろう。

 

さくらさんはシュテルの挑発めいた言葉に乗らずに、俺を見る。

 

「彼女達にも勝手に漏らしたの?」

「すずかに聞いたんだよ!マスターは何もしてない!」

 

問い詰められそうになっていた俺を庇うように力強く言い切るレヴィ。

 

なのはにも見られていたと言っていたから説明するような話は昨日の内から出てはいたが、なんで同席してるんだか…

 

俺が漏らしたわけじゃないと知ると、さくらさんは三人に向き直る。

 

「それで…貴女達は」

「黙れ塵芥。」

 

初対面で聞くにはあまりに酷いディアーチェの台詞に、さくらさんの怒りが煽られる。

 

ったく、親戚塵扱いとか勘弁してくれよディアーチェ…

 

「何ですって…」

「黙れと言った。塵芥の分際で我の家族に手を出そうなどと…思い上がりも程ほどにしろ。」

 

珍しく真面目に怒っているように見えるディアーチェ。

俺が怪我してる事はいつもの事だが…何かあったのか?

 

その答えは、すぐにシュテルから示された。

 

「すずかは、涙しながら事実を語っていました。誓いの話まで含めて。」

 

さくらさんが動かなくなる。

 

「一族の決まりごとか何かは知りませんが、家族の事でマスターに八つ当たりしていた割に、貴女がマスターに強要しようとしている思想の強制変化や誓いの強制の方が、その家族を涙させているのです。…愚かとしか言いようがありませんね。」

 

淡々としている分かえって痛いシュテルの言葉を受けて、さくらさんの表情に影が刺していく。

 

「まぁ…そちらの決まりごとは勝手にもめてくれて結構ですが。私自身は彼女の友人と言う訳でもありませんし。ただ…」

「そこの男は我らの家族だ。貴様の一族大事がどうだか知らんが、それを強要しようと手を出して…よもやただで済むとは思っていまいな?」

 

魔力を溜め始めるディアーチェ。

俺はそんなディアーチェに近づいて…

 

 

 

「徹。」

「っああぁぁっ!!」

 

 

 

無茶やってるディアーチェの頭を軽く叩いた。

 

「お前なぁ…さくらさんは、俺の義姉の大切な親戚なの!ちょっと説教されてたからって無茶苦茶するな!」

「こ、この似非英雄が!貴様と言う奴は毎回毎回…日ごと月ごとにそんなデタラメやらんと気が済まぬのか!?」

 

返す言葉がないくらいディアーチェの指摘のほうが的確ではあるのだが、とは言えやっぱり家族である事は間違いないのだ。

 

それをよりによって魔法でぶっ飛ばそう何て、止めるに決まっている。

 

「許して…なんて言えたものでもないんですけど、俺にも家族はいます。それに…誓いを受けられない位大事な決め事も。なので…その…」

 

見逃してもらえるとありがたい。

のだが、今回すずかが大怪我するはそれでかなりばれるはしかもそれが昔とは言え俺の失敗のせいだわで、とてもじゃないがいえない。

 

 

 

「……今日は、もういいわ。」

 

 

 

ふと聞こえた声に視線を移すと、さくらさんは元通り人の姿に戻っていた。

 

「すずかの事…教えてくれてありがとう。少し…話してみるわ。色々と…」

 

言いつつ、少しだけ笑みを返して、さくらさんは屋敷に向かって歩き出した。

 

それにしても…

 

「家族か…中々嬉しい事言うじゃないか。ディアーチェまで。」

「な…」

 

照れるディアーチェの罵詈雑言を聞き流しながら思う。

 

誓い…といってもそれを知らない側に『させてきた』決まり事。

歪みが出るのも当然で…

 

明らかに失敗ではあるのだが、もうすずかが色々と気にしなくてもいいように変わってくれたらいいなと、漠然と考えていた。

 

 

 

 


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