なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十六話・漏れた秘め事

 

 

 

 

第十六話・漏れた秘め事

 

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

転送に先立って映し出された現地…地球の映像に、私は…ブリッジのクルーは硬直した。

 

両足の千切れたすずかが、恭也さんの手から流れる血を飲んでいた。

 

 

 

 

吸血鬼。

 

 

 

 

 

地球では魔法と同じファンタジーで、魔法が科学になっている管理世界でも普通は聞かない。

 

思い出すのは、闇の書の暴走体との戦い。

あの時すずかは私の首を…

 

「彼女達だけモニターから外して、それから箝口令も敷きます。今の話は外部に出さないように。」

 

母さんの指示に我に返る。

 

そうだ…今気にする事はそこじゃない。

 

あまり間をおかずに、4機の機体が船から出てくる。

 

「クロノ、フェイト、転送準備が出来次第現場へ飛んで。民間人の安全確保を最優先。」

「はい!」

「了解!」

 

今は皆を助けるのが先だ。

私は困惑を振り切って地球へ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は三人を安全な場所へ連れて行く、フェイトは人型を頼む。」

「分かった。」

 

クロノの指示通り、転移直後にすずか達と傀儡兵の間に入る。

同時に、風を感じて隣りに視線を移すと、速人がいつもの調子で名乗っていた。

こんな状況でも相変わらずの速人に少し感心する。

 

「フェイトは右から、俺左からで早い者勝ち。それでいいか?」

 

あっさりと言う速人。

元々管理局の不始末なのに…

 

「ごめん…手伝わせて…」

「問題ないない。んで、それでいい?」

「あ、うん。」

 

あくまで明るい速人に頷き返す。

とにかく今は目の前の敵に集中しないと…

 

「く、くそっ!迎撃だ!奴等を殺せ!!」

 

白衣の人の命令に従って動き出す傀儡兵。

 

私は速人の割振りの通りに右にブリッツアクションで移動する。

 

『プラズマランサー。』

「ファイア!!」

 

溜め無しで放った高速魔力弾は、一番右にいた…今私の前にいる傀儡兵に直撃した。

 

けど、装甲を抜ききれずに罅だけが入る。

 

…固い。なら!!

 

鎌を展開した私は、接近して振り抜く。

思ったより素早く動かれて回避され、後ろにいた傀儡兵に銃を撃たれる。

 

『ソニックムーブ。』

 

左へ高速移動で回避した後、私はバルディッシュを振り上げる。

 

「ハーケン…セイバー!!」

 

バルディッシュから放たれた刃は傀儡兵に吸い込まれて、傀儡兵は爆発した。

 

さっき回避されたもう一機が撃って来る銃を、ブリッツアクションにて回避しつつ接近。

横薙ぎに振るった鎌は、今度こそ傀儡兵を両断した。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

確かに普通の筋力やどれだけ鍛えようが素材が鉄な刀で、全身異界金属のコイツの相手は無理がある。

 

「っと…エネルギー弾か、兄さんよくこんな物避けたな。」

 

生身の兄さんと魔力強化を行った俺なら、パワーはともかく、スピードは明らかに俺に分がある筈だ。その俺でも回避は結構大変な銃をよく避ける。

 

恐らくあのデタラメ高速移動の恩恵なんだろうが…

 

でも…ま、魔導師ならどうにでも出来るし、ましてや俺の敵じゃないな。

 

「鋼糸刃『ストリングスライサー』!」

 

指を揃えて伸ばした指鋼線に風の魔力を付加させて、近接攻撃としては広範囲に振るわれる刃を、受け持った左から二体に向けて振るう。

クロノとの魔法戦訓練の時に思いついたもので、魔導師としての利便性に長けた範囲攻撃ではあるのだが…

 

 

吹き飛んだだけであまりダメージが無かった。

 

 

なるほど…兄さんでも無理なわけだ…けど!

 

「斬れるだけの装備と身体能力があるなら話は別なんだよ!」

 

倒れている内の一体に飛び掛った俺はそのまま足の付け根の関節部に『徹』を叩き込む。

 

そして、片足を失って立てなくなった傀儡兵の両腕と残る片足の関節を切断して、背中のブースターを破壊する。

胴体残ってる奴がいたほうが検分しやすいからであって、遊んでいる訳ではない。

 

が、やってるうちにもう一体が起き上がってきた。

銃を構えられる前にと接近して一閃。

 

だが…右腕の甲につけられたブレードで防がれた。

 

「っておい、まさか機械に受けられるとは思わなかったぞ。プログラム的に。」

 

振り初めに軌道予測でもしているのだろうか?無駄に性能のいいAIだ。

オマケに反撃まで仕掛けてきたその馬鹿機械に対して、ちょっとだけ意地が湧く。

 

 

魔法世界の科学兵器に『業』なんて扱えるものか。

 

 

 

「貫き徹す!!」

 

 

 

防ぐつもりで構えていただろう傀儡兵のブレードをすり抜けるように向かっていった一閃は、傀儡兵の首を斬って落とした。

 

回転しながら低く跳躍して、回転と共に切断した首の穴に、逆手に握った刀を突き立てる。

 

爆発前にその胴体を蹴って跳躍。

 

「終了ー。身体強化もあるし負ける訳無いけどな。」

 

無い首から煙を噴出した傀儡兵が倒れるのを確認したところで、フェイト側がどうなってるかが気になって視線を移す。

心配するまでも無くしっかり片付いていた。魔導師としての利点が強い戦いはやっぱり俺の方が劣るらしい。

 

 

とりあえず、逃げようとしている白衣の男を指鋼線で捕らえて近づく。

 

「フェイト、先にこっちで話があるから後で引き渡すな。」

「え、速人?」

 

さすがに困惑した声を上げるフェイトだったが、夜の一族の事は管理局には話せない。

あらかたコイツから聞かなきゃならないことを聞いた上で忍さんにも扱いを相談しなきゃならない。

 

「ひ…」

「誘拐までしておいて怯えるなって…大体話聞いたりしなきゃならないだけで酷い仕打ちをする気は…」

 

無いから安心しろと告げようとしたのだが…それが出来ずに硬直した。

 

 

 

男に、見覚えがあったから。

 

 

 

コイツが原因ってことは…

 

「速人、それが簡単に出来ない事位わかっているだろう?無茶苦茶言わないでくれ。」

 

思考に捉われていた所でクロノに止められる。

確かに管理局としては管理世界のものを扱っていたこいつの事情聴取を俺達にされるのがまずい事も十分分かってはいるのだが…

 

「悪いクロノ、今回は冗談でもなんでもなく見逃してくれないか?」

「今回『も』の間違いだろう。それに毎度君が無理を押し通しているだけで、許可した覚えは殆どない。」

 

クロノはデバイスを構える。

くそ…理由を言おうにもそれを話せないから別々に分かれて話を聞く必要があるって言うのに…

 

「…戦る気か?」

「君がその無茶を押し通す気ならな。」

 

俺は縛った白衣の男を見る。

連れてかれてコイツに一から十まで喋られたらそれこそ色々と終わりだ。

まだアースラの皆にすずか達の事が漏れていないうちにかたをつけないといけない。

 

 

「クロノ…どうしてもって言うなら俺も本気で行くぞ。」

 

 

納めたナギハに手をかけると、クロノの傍にいたフェイトの表情に影が差す。

俺が管理局と…クロノと交戦するのをよく思っていないんだろう。

 

そして…

 

 

 

『速人…ひょっとしてすずかの事で何かあるの?』

 

 

 

俺とクロノの交戦を止めると言う点においてだけは、念話で届いたフェイトのその一言で叶った。

悲しげな表情と声音を隠さない念話に、俺は構えを解いて頭を抑える。

 

正直聞きたくないが、聞かなきゃならない。

 

 

 

「…フェイト、正直に言ってくれ。何を見た?」

 

 

 

冗談ですまないので割と真剣に問いかけると、フェイトは途端表情をこわばらせてちらちらとクロノに視線を送る。

 

クロノは少し息を吐くと、デバイスを降ろして話を始めた。

 

「転送前に現地の状況を確認した時に、両足の切れたすずかが恭也さんの血を飲んでいた所を見た。プライバシーに関わる事だから見なかった事にするつもりだったんだが…」

 

答えは最悪のものだった。

 

現地の状況見ないで転移するわけにも行かないし、足がちぎれた状態で放置する訳にも行かないが…

よりにもよって何でその二つのタイミングが被る。

 

「…クロノ、リンディさんに降りて忍さん達の所に来て貰えるか?話がある。」

『すぐに向かうわ。エイミィ、此処の処理をお願いね。』

 

直接リンディさんからの通信が届き、俺達は先にクロノが避難させた兄さん達の下へ行く。

 

「忍さん、大丈夫?」

「私は…それよりも恭也が…」

 

忍さんは問題ないようだったが、忍さんは浮かない表情で兄さんを見る。

 

視線を追うように兄さんを見ると、普段からは想像も出来ない位感じられる覇気が薄い。

ばてた所で献血まがいの真似をしたんだから色々ボロボロなんだろう。

 

「兄さんは大丈夫だろ、化物だから。」

「治ったら覚えてろよ速人…」

「生身であんなもの倒すのが化物じゃなかったら何なんだっての。」

 

そう言って肩を竦めてやると、兄さんは苦笑する。

ま、そんな反応が出来る余裕があるなら大丈夫か。

 

「それはそうと…話があるんだ。」

 

言い辛かったのだが、言わずに放置しておくわけにも行かない。

意を決して告げる。

 

「…クロノ達にすずかが血を飲むところを見られてた。」

「ぁ…」

 

皆が息を呑む中、すずかだけが掠れる様な悲しげな声を上げる。

 

「ごめん、シャレにならない事態なのは分かってるつもりだからどっかで話さなきゃならないのはわかってる。今リンディさんに降りて来て貰うから…」

 

謝る中、なんかふらついてくる。

 

「…速人、防護服から元に戻れ。」

「へ?な、何で?」

「いいから戻れ。」

 

有無を言わさぬ兄さんのいいように俺は諦めて元に戻る。

 

 

 

胸元がパックリと裂け、右脇腹も裂けた服装に。

 

 

 

…致命傷じゃないからってさすがに手当てなしですっ飛んできて戦闘続行は無茶があったのか、未だに血が止まっていなかった。

 

「き、君は何をやってるんだ!?」

「いやぁ…ちょっと本物とやりあう事になっちゃってさぁ…その後慌ててこっちにすっ飛んできたから治療してなかったんだよな。」

「馬鹿者、さっさと治療しろ。」

 

兄さんの台詞に全員に同意され、俺は目を逸らす。

 

「そうは言うけどな…魔法関係で受けた傷じゃないから治癒魔法頼るのもまずいだろ?」

「君は本気で馬鹿だな…」

 

呆れたようなクロノは、言いつつデバイスを俺の傷口に翳す。

出血が治まって、痛みが少し引く。

 

「必修で扱える程度の簡素な回復魔法だ、後で専門医に診て貰ってくれ。」

「そうだな、とりあえず今は話が優先だ。」

 

どうするべきか、決めるのは忍さんになると思い、忍さんに視線を移す。

忍さんは深く息を吐き…

 

「とりあえず…私の家に来てもらうわね…」

 

何処か疲れたような重い声で、そう告げた。

 

 

 


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