なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十五話・大切なものの為に…

 

 

 

 

第十五話・大切なものの為に…

 

 

 

姉さん達もとっくに片付いていたようで、今はSPの人たちを爆弾の解除に当たらせているところらしい。

 

 

だが、そんな事よりも余程重大な事があった。

 

 

「魔導師!?」

『うん…って大声で…聞かれてないよね?』

「それは大丈夫だけど…」

 

なんだってそんなものが敵にいる?

 

今重要なのはそこだった。

とは言え、起こして尋問するには姉さんや父さんじゃ無理がある。

 

デバイスの補助なしで大きなことが出来る奴はそういないとは言え、縛ろうが何しようが攻撃可能なのだから下手に起こせば何があるか分かったものじゃない。

 

『なのは達に言っちゃった方がいいのかな?』

「あーそうだな、そうし…」

 

言いかけて、止まる。

 

忍さんの誘拐とコンサートの襲撃、何でほぼ同時に起こったんだ?

 

たまたまって可能性も無いとは言い切れないが、コンサートの襲撃はともかく誘拐とかならむしろもっと賑わいの少ない時を狙った方がいい筈だ。

街中これだけ大騒ぎで、なのは達と一緒にコンサートに来る予定まで立っていたのに、そんなタイミングで誘拐する理由は…

 

 

 

コンサートでも事件が起こることを知っていて、人員が分かれる事を狙う位しか…

 

 

 

 

「悪い、俺すぐに兄さんのところに向かうから後頼んでいい?」

『どうしたの急に?』

「向こうにも魔導師組がいる可能性がある。」

 

これは本当に可能性でしかないが、もし二つに繋がりがあれば、少なくともいてもおかしくは無い。

 

「俺なら飛んでいけばすぐだし、可能性とは言えそう言うのがいるって理由があれば魔法使用位許可されるだろ。俺の杞憂だとしても現地で普通の手伝いは出来るし。」

『うん…分かった。じゃあこっちはなのは達に任せればいいかな?』

「適当なタイミングでそうしてくれ。」

『クスッ…了解。』

 

暗に『コンサートは聞かせてやってくれ』と意味を込めると、察してくれたのか軽い笑いが聞こえ、それを最後に通信が切れる。

 

さて…と。

 

『不可視飛行なんて芸当出来るんですか?』

「さぁ?とりあえず音だけは消して飛ぼうと思う。」

『クロノ達に怒られますよ。』

「違法魔導師がこっちで犯罪やってる時点で向こうの怠慢だ、俺が怒られる義理は無いさ。」

 

ナギハと呑気に会話してる場合でもないので、外に出た俺は出来るだけ見つからないように考慮しながら空を駆けた。

 

 

 

待ってろよ、兄さん。

 

 

 

 

Side~月村忍

 

 

 

車は船着場の駐車場に止まる。

私とすずかはそこで降ろされる。

 

正直、このモヤシ男一人なら全力で行けばどうにかなる自信はあった。

夜の一族は血を使用した特殊能力の他に高い身体能力を持つから。

 

だけど…男が使っている機械兵器はどうにもならなさそうだった。

 

「後ろのバラした人形を運び出せ。」

『了解。』

 

男の命令で、私達の後ろの席から降りた謎の機械兵器がトランクを開けて、五体をばらされたノエルが入った袋を持ち上げる。

 

右腕から伸びるブレード、左右の腰にかけられた妙な銃、飛行用のバーニアを背中に搭載した、『明らかにこの世界の科学を逸脱した機体』。

 

銃も明らかに小型マシンガンといったサイズなのに、放たれるのは光の塊で、着弾地点の跡を見る限りだと単発で人間が死ぬだろう事は、ノエルが倒された戦いでわかった。

 

これがなんなのかは分からないけれど、一つ言える事がある。

 

 

 

 

この機械は、人間じゃどうしようもない。

 

 

 

 

だから…

 

 

 

「ん?なんだあれは…」

 

 

その姿を見た時悲しかった。

だけど少し嬉しかった。

 

どうしていいか分からない気持ちに振り回されながら、私は彼を見る。

 

 

 

 

「忍を…放せ。」

 

 

 

 

闇に溶けるような黒衣に身を包んだ恭也が、二刀を手に私達の前に立っていた。

 

 

 

 

 

Side~高町恭也

 

 

 

 

 

探知機の反応が船着場へ向かうのを読んだ俺は、法定速度に触れつつ車をとばした。

 

現地に着くと、ちょうど忍とすずかが降りた所だった。

そしてその後ろに正体不明の機械が、人一人入りそうな大きさの袋を担いでいた。

 

ノエルさんの姿が無い所を見ると恐らく…

 

「忍を…放せ。」

 

俺は出来るだけ冷静になる様に努めて告げる。

男はそれを聞いて笑う。

 

「出来る様だがなぁ…だったら尚更コイツから逃げるのが無駄って分かるだろ。それを…放せ?馬鹿か。」

 

言いながら背後の機械を指す男。

見た事もない材質や技術で作られたのであろうその機体が、ノエルさんを『無傷』で倒したとなると…

 

かなり厳しい相手なのは間違いない。

 

「駄目恭也逃げて!この機体ノエルでも」

「逃がす訳ないだろうが…殺せ。」

 

男の命令で銃を手にした機械兵器は、即座に俺に狙いをつける。

射線上を外し接近を試み…

 

 

 

 

既に俺に二発目の照準が合っていた。

 

 

 

 

 

神速。

 

 

 

 

 

けたたましい破壊音を背に、俺は辛うじて建物の影に身を隠す。

だが、ただの銃弾と違い連射されれば普通に貫通する。

 

どうするか…

 

考えている暇も無い。

俺は機械兵器の前に躍り出て飛針を投げる。

 

モニターになっていそうな頭部に向かっていったそれは、障壁を展開する事で防がれる。

障壁越しには撃てないはずと、膜場の光が残っている間に接近して斬りつけるが…

 

 

 

 

 

刃が全く通らなかった。

 

 

 

 

近接距離でよく見れば、ヘコみの様な光沢があった。

いくらノエルさんでもこんな相手に距離をつめられたとは思えない。

となると当たったのは恐らく、炸薬式カートリッジを使用したロケットパンチだろう。

アレを直撃してこの程度のダメージでは装甲部分は徹でも切断出来ない。

 

右腕が振りかぶられ、一閃される。

嫌な予感がした俺は、受け止めずに神速で避ける。

 

 

躱した刃は、深々と地面を裂いていた。

 

 

刀で受ければ刀ごと斬られていたかもしれない。

 

「…はぁ…っ…」

 

再び遮蔽物に身を隠すと、肩で息をしている事に気がついた。

 

神速を短時間に連発しすぎたか…

 

このまま戦闘を続ければ敗北は必至。だが、だからと言って攻めても効かない。

 

手を考えつつ、すぐに隠れられる位置から様子を伺うと…

 

 

 

 

 

 

忍に金的を蹴り上げられた男の姿が見えた。

 

 

 

前のめりにうずくまって声も上げずに身悶える男を見ていると、さすがに少し背筋が寒い。

 

だが、当の忍はそんな事は意にも介さず、俺を狙っている機体を見ていた。

 

「ここまでやっても私に狙いが変わらないって事は貴方を眠らせちゃえば逃げ放題って事かしら。」

 

確かに忍に狙いが変わる事もなく機械兵器は俺に狙いをつけている。

 

男の身を守るよう命令されていないのか、命令が一つずつしか通らないのか分からないが…

 

 

だが、新たに命令できないわけじゃなかった。

 

 

「っ…ガキの足を撃ちぬけぇっ!!!」

 

 

瞬間、こちらから狙いを外した機械兵器は、俺から見えない位置に向かって銃を放つ。

 

 

「すずか!!!」

 

 

忍の悲痛な叫びが聞こえ…

 

 

 

 

俺は後先を考えるのをやめた。

 

 

 

 

迷いは捨て、ただ眼前の敵を討つ事だけを意識する。

 

意識を神速の世界よりも深く深く沈めていき…

 

 

 

駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其を極めた剣士の前では、全てが零になる。

 

間合いも距離も…武器の差も。

 

故に其は奥義の『極み』…

 

 

 

 

 

 

 

小太刀二刀御神流斬式・奥義の極み

 

『閃』

 

 

 

 

 

 

 

刹那、右の抜刀が機体の腕の付根に吸い込まれる。

関節による装甲劣化部分を正確に捉えた一撃は、申し訳程度に守っていた装甲を裂いて亀裂を作っていた。

 

「っはぁっ!!!」

 

続けて神速の状態で左を抜いて亀裂に全力で突きを放つ。

 

メキメキと嫌な感触が手に伝わり、左の刀が深々と機体に突き刺さる。

 

刀を引き抜くと、開いた穴から爆発音とともに煙が漏れた。

 

 

音が消える。

 

 

やがて動かなくなった機械兵器がその身を傾け始め…

 

「ひっ…」

 

その身が倒れる盛大な金属音と共に、静寂は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

「ひいぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 

船に向かって逃げ出す男。

逃がす訳には行かないと追おうとするが、身体が重い。

 

 

 

「待って恭也!先にすずかを!!」

 

忍の声に視線を移すと、両足の千切れたすずかの姿があった。

長時間放っておけば失血死しかねない。

 

身体の重さを振り切って忍とすずかの元まで行く。

 

「飲ませればいいのか?」

「そうだけど…」

 

気を失っているすずかには当然首を噛む力などない。

戦闘に使った刀ではどんな菌に感染するか分かったものでは無い為、ナイフを取り出した俺は手首を裂いて、意識を失ったすずかの口に血を注ぎ込んだ。

 

「恭也…」

「貧血になるくらいの量が必要なんだろう?もし危なくなれば後は頼む。」

 

いいつつ俺はすずかの足を見る。

 

それは幻想的な光景だった。

 

傷口の周囲に噴き出す霧が集まった部分から徐々に、千切れた足に絡むように漂う。

しばらくして、足が繋がりを取り戻したところで、忍に手首を咥えられた。

 

 

 

「忍?」

 

 

 

声を掛けたが反応されず、変わりに手首の痛みが引いて行く。

 

最後傷口を舐められると、きれいに塞がっていた。

 

「助かった、ありがとう。」

 

素直に礼を言っただけだったのだが…

 

 

 

忍は泣いていた。

 

 

 

「馬鹿…っ。ガード放り出して…」

「気になって仕方なかったからな。遅くなって済まない。」

 

胸にすがりついて来る忍を力の入らない腕を動かして抱き締める。

 

速人には謝る必要があるかも知れないな。今、つくづく間に合ってよかったと思ってる。

 

「連絡しよう。リンディさんあたりに連絡すれば…」

 

この機体の処分も任せられるかもしれない。

そう続ける筈だった俺の言葉はそこで途切れた。

 

 

 

 

止まっている船から出て来る、停止させた筈の機体の姿に息を飲んだ為。

 

 

それも、後に続くように同じ機体が姿を見せ…

 

 

全部で四機、その姿を見せた。

 

 

 

俺は手にした刀を見る。

 

『閃』を叩き込んだ右の刀も、機体内部に突き入れた左の刀も、鞘に納める事も出来ない程傷んでいて、とてもあの機体相手の戦闘が出来る状態では無かった。

 

第一刀を手にする俺も、神速の多用に『閃』の使用、すずかに多量の血を与えた事による貧血と、刀同様戦える状態では無い。

いや、逃げる事すらままならないといった所だろう。

 

「化物が…これだけいればどうにかなるだろ。」

 

どうにかなる所かもう打つ手が無い。

 

…仕方無いか。

 

「忍、何とか引きつけるから逃げてくれ。」

「恭也!」

「すまない、今の俺にアイツらをとめるのは無理だ。だから…」

「ずっと一緒だって言ったじゃない!」

 

閃を連発できる人間など聞いたことも無い。

にも拘らず、俺にもっと力があればと思ってしまうのは剣士としての性なのだろうか?

 

俺は二刀を手に立ち上がる。

 

「なぁに…そこの二人は死にはしないさ、安心して―」

 

男が言いつつその手を振り上げ…

 

 

 

 

 

 

まばゆい光と共に、突風が巻き起こり、雷鳴が響き渡る。

 

 

 

 

「高町速人、ただいま参上!待たせたな皆!!」

「遅くなってごめんなさい。」

 

 

晴れた視界の中心に、真紅のマントを纏った速人と黒いマントを纏ったフェイトの姿があった。

 

…まったく、ギリギリに現れる所まで真似しなくてもいいだろう。

 

ヒーローを目指している愚弟のあまりのタイミングのよさに苦笑しつつ、肩の力を抜いた。

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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