なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十四話・決着

 

 

 

 

第十四話・決着

 

 

 

 

Side~高町士郎

 

 

「寝てる間に連れ出された?」

『ごめん…』

 

美由希に通信が繋がったはよかったが、肝心のフィアッセ嬢がさらわれていた。

しかも眠っている間にと言う事らしい。

 

 

「どういう事だ?」

『それが…霧に包まれて気づいたら眠ってて…』

 

薬品なのかとも思ったが、そんな一瞬で昏倒させられるような都合のいいものが思いつかない。

新開発したものと言うなら霧を吸った全員が死ぬものでも作りそうだし、そもそも薬品関係をそう簡単に持ち込めるはずも無い。

 

『可能性程度なんだけど…』

「何だ?」

『魔導師…なんじゃないかな…って。霧に包まれる前に光も見えたし。』

 

慎重につむいだ美由希の言葉が本当であるならばつじつまは合う。

確かにもし魔導師だとすれば抵抗もせずに一瞬で眠りについた理由にはなるだろう。

 

『なのは達に言う?』

「確証がまったく無いのに此方の事件に関わって後で面倒な事になるとまずい。とりあえずはフィアッセ嬢を探すぞ。それに…」

 

少し間を置いて、続ける。

 

「屋内なら魔導師相手でもどうにかできるだろ。」

『そうだね…分かった。』

 

そうと決まれば急がなければ…

 

『あ、と。そうだ。速人が凄腕と戦ってるみたいなんだけど…』

「ほっとけ。」

『早っ!!いいの?』

「余程やばい相手なら逃げてくるだろ。それに余裕があるならともかく、今はフィアッセ嬢が先だ。」

 

そこまで言って通信を切る。

 

神速が使えないとは言え剣士としての腕前は俺達に迫る域にいる速人が楽に勝てない相手となると、御神と同等の戦闘者と言う事になる。

美由希に心配させない手前言い切ったが、少し不安はあった。

 

フィアッセ嬢は何とかするから、死ぬなよ速人…

 

 

 

 

Side~グリフ

 

 

 

 

本当に久しぶりに傷を負った。

それがこんな子供で、しかも御神の見習いだと言う。

 

本物はもっと楽しめるとなると、待ち遠しくて仕方が無い。

 

でも同時に、目の前の子供が次に何をするのかも少し楽しみだった。

 

殺す気が感じられないが、同時に人を傷つける事に躊躇いを感じない。

 

 

戦闘者なら敵は殺す。

殺しを避けるものは傷つける事を躊躇う。

 

 

普通はそういうものなのだが…面白い奴だ。

 

と、壁を蹴り跳躍した彼は空中で蛍光灯を外して投げつけてくる。

 

「これでも…くらえ!!」

 

受ければ割れて軽く爆発する。ガラス片で目でもやられたら事だから僕はそれを避けた。

 

と、柵を超えた彼の姿が見える。

 

落ちるかと思ったが、彼は手すりを掴むと、姿を消した。

下から着地音がした事を考えると、下の階に下りたのだろう。

 

…逃げた?

 

少し興が削げたけど、それならそれで御神を探すだけだ。

別に構わないと思い直して…

 

 

 

 

 

違和感を感じた。

 

 

 

 

 

逃げたのなら、着地音だけしか聞こえなかったのは何故だ…

 

 

 

 

瞬間、血の匂いと僅かな風を感じて、僕は背後に向かって剣を振りぬく。

 

 

 

 

 

 

 

彼はそこにいた。

 

 

 

 

 

 

僕の右膝を彼の左手の刀が貫いて、僕の剣が彼の胴に向かっていく。

 

片手で僕の斬撃を防ぐ事はできない。僕の…勝ちだ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

俺を吹き飛ばした男はそのまま姿勢を崩して倒れこんだ。

 

一方で俺も男の斬撃を止めきれずに壁に叩きつけられ、脇腹から血を流していた。

 

 

やったことは単純で、下の階に下りた段階で完全気配遮断を使って戻ってきて背後を取った、ただそれだけの事だ。

 

 

けどまさか気づかれるとはな。御神と同等クラスの戦闘者ならそれも無理は無いが…

 

 

俺はあらかじめ立てておいた鞘を見る。

デバイスなのに罅が入っていた。どういう威力だこいつ…

 

気づかれた時、片手で防ぎきれない以上足しにはなるだろうと思って縦にしておいた鞘が、本気で生命線になるとは思わなかった。

 

脇腹に食い込んだ部分もあるため多少切れてはいたが、両断されなかっただけでも御の字だろう。

 

「まだ…もっと…もっとだ…」

 

気づけば、男は長剣を杖代わりに立っていた。左手にしまっていた短剣を握っている。

 

俺はナギハを鞘に収めて…右の鞘が壊れていて入らないので地面に刺して立てて、男に近づく。

嬉しそうに笑った男は左手の短剣を振り上げて…

 

俺は残っていた左足を払って男を転ばせた。

 

「ぐ…もっとだ…もっと」

「んの…馬鹿!!!」

 

まだ何か言ってる男の耳元で怒鳴りつつ、その身体を鋼線で拘束していく。

手足共に使えなくしたところで俺はそいつと向かい合った。

 

 

この状況で子供みたいな強請り方をすると言う事は、恐らく…

 

昔の俺と同じ様な環境で育って、何も知らないままその道を極めて、それ以外好きとか嫌いとかも考えた事無いような生活し続けて来たんだろう。

大人と子供の差は肉体と経験。だから子供っぽく見える強請り方をするこいつは『普通の事を普通に経験していない』と言う事実に他ならない。

 

父さんとか兄さんなら言い訳無用と言い切るのかもしれないが…俺には言えたものじゃなかった。

 

殺すのが当たり前なんて思ってた時期がある俺に、『説教』なんてお門違いもいい所だ。

 

「お前名前は?」

「……グリフ。」

 

怒鳴られた経験が無かったのか、さっきよりはまともになった目で俺を見据えるグリフ。

 

「お前がこのまま裁判受けて刑務所出て、それまで誰も殺さなかったら…お前が戦いたがってた御神の剣士と戦わせてやるよ。」

「何?」

 

御神の剣士と戦えると聞いて目の色を変えるグリフ。

本気でバトルマニアだなコイツ…

 

「約束する。お前は守れるか?」

 

しばらく間があった。

落ち着かないのが見て取れるほど目を血走らせていたグリフは、やがて諦めたように息を吐いた。

 

「お前の名前は?」

「速人。」

 

そう言えば俺のほうも名乗ってなかったな…と今更ながらに思いながら答える。

グリフは俺を見ながら笑みを見せた。

 

「覚えておくぞ速人。もし違えたらその時は…」

「無い。少なくとも俺からは。お前はどうだ?」

「覚えておくと言った。その約束、僕も守ろう。」

 

それを聞いて俺は笑みを返す。

 

とりあえず…一件終了…か。

 

 

 

 

Side~高町美由希

 

 

 

「くっ…まさかこんな時に呑気に眠ってしまうとは…」

「仕方ないですよ、とにかく今はフィアッセを追わないと。」

 

階段を数段飛ばしで駆け下りながら、悔やむエリスさんを励ます。

…本当は仕方ないも何もないのだけど、もし相手が魔導師なら一般の人は本当に仕方ないですんでしまっていいと思う。

 

何しろ、この世界の技術じゃないんだから。

 

とは言え、フィアッセが連れて行かれた事自体はそうそう軽く言うわけにも行かないため、私ははやる気持ちを抑えながら駆けていた。

 

やがて、階段も終わり開いた扉に差し掛かると…

 

 

 

発砲された。

 

 

 

辛うじて回避した私は刀に手をかけるが…

 

 

「ストップだ、そこまでだよサムライガール。」

 

 

妙な呼ばれ方に一瞬戸惑ってしまったが、私は動きを止める。

左手に銃を手にしていた男は、右手にスイッチを持っていた。

 

「このスイッチは軽いからね…打たれても斬られても、スイッチを押すくらいの事は出来る。コイツの威力の程は…エリス、君はよく知っているだろう?」

 

隣でエリスさんが悲痛な表情を浮かべる。

男の話とエリスさんの様子から見て、父さんが負傷した時の爆弾と同質の起爆装置の類で間違いない。

 

そしてフィアッセは、もう一人の男に捕まっていて、なのは達のデバイスのような妙な杖を持っていた。

 

 

 

やっぱり魔導師…

 

 

 

一足で飛び込もうにもフィアッセを抱えた魔導師が直線上にいてそれも出来ない。

やがて、魔導師は手にした杖を振り上げる。

 

「もう少し眠っててもらおうか。」

 

そう言ったフィアッセを抱える魔導師は詠唱を開始する。

 

このまま無策に動いて爆弾のスイッチを入れられたらたまらない。でもこのままじゃ何も出来ない…

考えている私の前で…

 

 

 

 

 

 

 

スイッチを手にした男の手が宙を舞っていた。

 

 

 

 

 

動くなら今しかないと判断した私は、刀を抜いて神速に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御神流・裏 奥義乃参

 

『射抜』

 

 

 

 

 

杖を手にしている手首を貫くと、杖を手放す魔導師。

 

詠唱が止まったのを確認したところで肺に向かって全力で『徹』の拳を叩き込む。

 

特殊な防護服だろうし、これ位やらないと利かないだろう。

鈍い音がして、魔導師は前のめりに崩れ落ちていった。

 

同じように、片腕を切り落とされた男も、切り落とした張本人である父さんの手で昏倒させられていた。

 

「これで…片付いたかな?」

「そうだな。」

 

大きく息を吐く父さん。

今ここで位しか戦っていない私と違って神速を多用したんだろう。

さすがに疲れて見える。

 

「コイツの対応は速人に聞いたほうがいいだろう。アイツの応援に…」

 

父さんが今後の流れを話す中、通信が入る。

 

『こっちはきっちり片付いたぜ!手伝いいるか!?』

 

速人からの通信は、ひとまずの戦闘終了を意味するものだった。

ボディガードとしてはこれで終わりではないけれど、私達はひとまず笑みを交わした。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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