なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十三話・総てを護る為に

 

 

 

第十三話・総てを護る為に

 

 

 

 

Side~エリス=マクガーレン

 

 

 

フィアッセのガードについて廊下を移動中、それは起きた。

 

金髪の女性が袋に包まれていた長剣を手に駆けてくる。

 

「フリーズ!!」

 

私が放った銃弾は、『消えた』女性に回避されていた。

 

 

どこに…

 

 

私はあたりに意識を払い…

 

「そこっ!!」

 

フィアッセの背後に迫る影に向かって銃を連射。

だが、影はそれを跳躍して回避した。

 

速すぎる…動きが人間のものじゃない!

 

着地した女性はコートからナイフを投げ、それは一直線にフィアッセに向かう。

 

 

 

まず…間に合わない!!

 

 

最悪の光景を想像した私の目に…

 

 

 

 

投げられたナイフを掴む手が見えた。

 

「はいそこまで。」

「速人…」

 

フィアッセの前に速人が立っていた。

いつ来たのかも分からなかった、つまりそれは…

 

彼もまた、私達の理解の及ばない領域にいる事を意味している。

 

速人は掴んだナイフを無造作に床に放り投げる。と、少しの血が後をなぞった。

素手で掴んだのか…

 

「手は大丈夫なのか?」

「掴んだだけじゃ深くは切れないもんです、投擲用みたいですしね。」

 

事も無げに言い切ると、速人は腰の剣を抜いた。

 

「フィアッセさんを連れて行ってください、コイツは俺が引き受けます。」

「っ…」

 

無茶だと言いかけて口を閉ざす。

 

彼に『無茶』ならば私達には『無理』だ。

悔しいが…この10を過ぎた程度の少年は、私達より遥かに強い。

 

しかし、それでも一人で残る必要は無いと思ったのだが…

 

「誘拐が目的の筈なのに殺しに来たコイツはおそらく別口で、本命がまだいる筈です。」

 

そう言われては返す言葉が無かった。

私達の目的は、あくまでフィアッセとその周辺のガードなのだから。

 

「手伝いは余程暇になったらでいいですよ。」

「…すまない!」

 

あくまで軽い速人を信じて、私はフィアッセを連れてその場を離れた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「さて…芝居はもういいだろ、『お兄さん』。」

 

告げると、女性の人影は長い金髪を掴んで外し、ロングコートを脱ぐ。

 

中から現れたのは、紫色の髪をした白い服装の男だった。

胸元に下げた十字架が神父の様にも映らせる。

 

もっとも…

 

 

異様な殺気と手にした剣のせいでまったくそんな雰囲気は無かったが。

 

 

「御神…か?それにしては子供過ぎるが…」

 

いきなり御神と言い出す男。

裏の世界の上滅びた御神の名を知ってる他所の戦闘者か…厄介極まりないな。

 

「半分当たりだ、見習いだよ。」

「そうか…本物がどこにいるか吐けば見逃してやってもいいが?」

 

圧倒的に上から目線の男を鼻で笑う。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。裏の世界で機密漏洩するくらいなら自害してでも情報を漏らさないってのは鉄則だろ?」

 

言い終わると男は軽く息を吐いて…

 

 

 

駆けた。

 

 

 

尋常じゃない速さで迫る男の打ち下ろしをかわして左脇腹を狙った右の突きを放つ。

男はそれを難なくかわして横薙ぎに剣を振るう。

 

俺はそれを左の刀で受けて…

 

 

受けきれない事を悟って咄嗟に後方に跳躍して威力を流した。

 

地面を滑るように着地した後ナギハを構え直すと、男は笑みを見せる。

 

「見習い…ね。少しは楽しめそうじゃないか。」

「バトルマニアかよ、俺相手に負けても後悔すんなよ。」

 

道理で御神の剣士に会いたがる訳だと、今更ながらに納得した。

 

だが実力は本物だ。

 

はっきり言って俺より数段上、兄さんと同等かも知れない。

物取り程度にこんな奴までけしかけるなんて…

 

とは言え、泣き言は言っていられない。

 

兄さんに…大切なものを護るために忍さんの下に向かわせたように、俺にだって此処に残った理由がある。

 

俺はヒーローを目指してるから…親しい云々以前に、総てを護るつもりでいる。

 

だから此処に、無関係な人たちが巻き込まれかねないこの場所に残った。

 

 

だって言うのに…コイツ一人に負けていられるか!

 

 

少しばかり引けた気持ちを切り替えて、再度男と切り結んだ。

 

 

 

 

Side~高町士郎

 

 

 

地下駐車場には、悲鳴が響き渡っていた。

と言っても、その全てが俺の所業なのだが。

 

 

「がぁ…っ!」

 

 

次々と倒れる武装した男達。

と言ってもまぁ無理も無い話だが。

 

まず、神速を捕らえられるのは同質の戦闘者、それもかなり上位か、薬物による強化でも施されていなければ不可能。

まして、まったく障害物の無いところならともかく、止まっている車や柱の陰を利用して間を置く事もできる現状で、銃持ってる程度の連中に負ける事は無い。

 

車の陰から身を躍らせた俺は、鋼糸で固まっていた二人を括り、『徹』で肺を強打し気絶させる。

と、視界の端に銃を構えている相手が見えたので飛針を投げると同時に跳躍。手の甲に刺さった針の痛みに硬直している男に接近して一閃。

 

 

残りは後…一人か。

 

 

俺は芸も無く銃を構えている男に対して接近して、腕を絡め取って肘を折る。

悪気は無いが、痛みに悶えている男の首に手刀を入れて気絶させた。

 

「ふぅ…まぁブランクがあるとは言え御神の剣士に十数人で挑んだ馬鹿さ加減を呪ってくれ。」

 

本気でやれば100前後でも相手に出来る俺達相手にこの人数は無謀としか言いようが無い。

もっとも…ブランクのせいもあって神速を多用するのが何気に辛かったが。

 

「それにしても…やっぱり全員拘束しておかないとまずいよな…」

 

俺は頭を抑えつつ、全体を見やる。

多少なり斬りつけたりもしたが、基本的に致命を負った者はそういない筈だ。

 

殺してしまっても問題は無かったというか、本来そうすべきだったのだろうが…

 

 

速人の馬鹿がうつったのか?

 

 

下っ端で足しにもならんだろうが『龍』かその関係者だろうし、何より特に殺さなくても余裕持ってやれた訳だから気にする事もない。

 

 

とりあえず手近な奴から鋼糸で縛りつつ、夢物語を抱く前の速人を思い出す。

 

 

 

あれは、恐らく暗殺者として完全で、完璧に正しい姿勢。

敵に対して何の感慨も殺意も敵意も抱かず、ただ作業のように命を刈る。

だが同時に、戦闘者に囲まれて育った俺でも見た事が無いほど、人として大事なものがなくなっていた。

 

 

 

…ま、そんな人間止めた状態から抱いた記念すべき夢なんだし、親として少しくらい付き合ってやるのも悪くない…か。

 

 

「あ、そうだ。手が空いてる人がいたら手伝ってもらうか。」

 

どうせ戦闘員が必要なら俺が戦った方がいい訳だし、他の人にこいつらの事後処理頼んだ方が無難だろう。

 

俺は思いつつ無線通信機を手に取った。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「はあぁっ!!」

 

振るわれる剣閃。

大振りの一撃には間違いないのだが、魔導師と違ってこの距離で戦い続けるためのものになっている。

俺は間一髪で身をかわして…

 

 

触れていない筈の床が裂けたのを見た。

 

 

ちょっと待て、金属音は間違いなくしなかった。

 

 

真空刃か?

 

 

つまるところ、紙一重で『下がって』避けたらばっさり切られる事になる。

ただでさえ長剣で間合い長いのに何てヤローだ!!

 

「っそ!!」

 

斬りかかるが、アッサリ受けられる。

 

返す刃が向かってきて…

 

 

俺は二刀を交差させてその一撃を受け止めた。

 

 

「止めたか…子供にしては楽しめる。」

「言ってろ!」

 

袖に仕込んだ針を使って投弾丸を放つ。

身をひねるだけでかわした男は一気に駆けて来た。

 

苦も無く長剣を振るう男。

だけど、こっちはいちいちあんなもの受けてたら命が幾つあっても足りない。

 

横薙ぎの一閃を俺は屈んで避ける。と、同時に刀よりも長い鋼線を振るう。

足を取る為に振るった鋼線を男は跳躍でかわす。

 

よし…これで隙が…

 

 

 

「終わりだ。」

 

 

 

瞬間、天井に突きの体勢で足をかけている男の姿が映る。

 

隙が出来るどころか攻撃態勢かよ!!

回避が間にあわない!!

 

天井を蹴って迫る男の突きを俺は…

 

 

 

右手で逸らした。

 

 

俺の右肩を掠めた剣が地面に深々と突き刺さるが、軽やかに着地した男はそのまま横薙ぎの一閃に切り替えてくる。

 

バク転でかわした俺に対して振り下ろされる一撃。

徹を打ち合わせたが、それでもはじかれて膝を突いた。

 

 

 

 

っぶねー!レン師匠の流し方覚えてなかったらやられてた!!

 

 

 

 

晶師匠の重い突きを片手で捌くレン師匠。

小柄な身体で力いらずで扱うそれは絶対使えると思って習っておいたけど…

こんな間一髪の状況で命を繋げるとは、心底感謝だな。

 

「中国拳法…それもものにしてるみたいだね、面白い。」

「使えるものは何でも使う。って言うのが、戦闘者の心得だろ。」

 

とは言え、生き繋いだだけじゃしょうがない。

 

あんまり怪我をさせたくは無いんだが、はっきり言って加減なんかできる相手じゃない。

 

俺はナギハを納めてただ静かに立ち上がった。

 

「抜刀術…ようやく本気か。」

「最初からいっぱいいっぱいだっての。」

「日本固有の奥義…剣を『鞘に収めて』放つ技。見せてもらうよ。」

 

コイツは強い。見せるも何もこれで決めなきゃまずい相手だ。

 

静かに構え、時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

打ち下ろしの一閃が迫る。

 

当たるか否か、その一瞬に…俺は左の刀を抜き放つ。

 

逆手に握った左の横薙ぎで、打ち下ろしの行く先を逸らす。

 

 

貰…った!!

 

 

 

 

 

我流奥義・聖十字『クリスクロス』。

 

 

 

 

残った右の一閃で丸見えの右腕を斬り落とす!!

 

 

縦の一閃を以って十字を描く為に放たれた右の剣閃は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左手に握られた短剣によって止められていた。

 

 

 

長剣で防ぐ間もかわす間も無かった。だから左手に仕込んだ暗器で止めた。言ってしまえばそれだけだが…

 

 

 

反応が速過ぎる。

 

 

 

全力でバックステップを行い距離をとる。

そんな俺の胴を斬りおとすかのように右手によって握られた長剣が振るわれた。

 

数瞬遅れていたら体がバッサリ切裂かれていただろう一撃を紙一重で避けて…

 

 

 

 

 

 

着地と共に胸元から鮮血が舞った。

 

 

「っ…」

 

真空刃を考慮してなかった。

 

幸い致命と言うほど深い傷では無かったが…

 

俺はナギハをしまいながら男を見る。

 

男は短剣を仕舞い両手で長剣を握って俺を見ていた。

右腕が僅かに裂けているが、ただのかすり傷で行動に何の支障もないだろう。

 

これはかなりまずいかもな…

 

「…傷を負うのは久しぶりだ、中々楽しめるじゃないか。」

 

 

男は笑っていた。

 

 

怒りでも手傷を負った俺を嘲笑うのでもなく、純粋に物凄く楽しそうに笑っていた。

コイツ…本気で重度のバトルマニアだなぁ…

 

「見習いでこれかぁ…やっぱり楽しそうだなぁ御神は…ふふふ…ははははは!」

 

楽しそうに笑う男を前に、俺は今から俺が打てる手を考えていた。

 

 

 

 


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