なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十一話・さまざまな不安

 

 

第十一話・さまざまな不安

 

 

 

特に異常なし…か。さすがにこの人だらけの中怪しい奴探すも何もないよなぁ…

 

 

 

頼まれた調査は、早速暗礁に乗り上げていた。

 

無駄なの前提で、何か見つかれば儲け物程度の気分で回っている以上無理も無いだろう。

何しろ、俺の事を勘ぐられて家を知られることのほうが問題なのだから。

 

「あら速人君、どうしたのこんな所一人で。」

「あ、忍さん。」

 

知った声に振り返ると、忍さんの姿があった。

 

「もしかして…ヒマなの?」

「へ?」

「だって、修行でもなさそうだし誰もいない上に買い物でもないのにこんなところぶらついてるなんて初めてみたもの。」

 

確かに、人目について修行に不便で遊び相手も荷物も無くこんな町中にいれば…

 

「ヒマそうに見える?」

「それか恭也関係。」

 

笑顔でさらりと言う忍さん。

直接的に調べていると言わない辺り、殆ど察した上で伏せてくれたのだろう。

 

要は、『私でもおかしく見えるから今はやめておけ。』って事だろう。

 

「と言うわけで、暇なら付き合わない?」

「兄さんに言っちゃいますよー。」

「あー、そういうこと言うなら止めよっかな?折角奢りで回ってあげようと思ったのに。」

「すいませんでした!ぜひ同伴させてください!!」

 

殆ど修行に費やして店の手伝いが有事の時だけの俺は、普段から物凄い金欠なんだ。

奢ってもらえるとあれば全力で縋り付いてみせる!

 

それを分かっている忍さんは、満足げに俺の頭を叩いていた。

 

 

うぅ…格好つかないなまったく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたとは、本当は戦いたくなかったって言ったら……信じた?』

 

 

 

………………………………………………………………ありえねぇ。

 

 

 

 

 

モニターに映るのはノーダメージの忍さんの持ちキャラ「ナハト」。

 

ええノーダメージですよ。まったく手が出ませんでしたよ。

何だこれは?人間業か!?

 

「いえーい!どう?」

 

笑顔でVサインを翳してくれる忍さんに、俺は何も返せず乾いた笑みを浮かべていた。

 

そしてふと思う。

もしかしてクロノ達が俺と初めて戦った時、こんな気分だったのだろうか?と。

 

 

 

 

 

ゲーセンでいくらか遊んだ後、たい焼きを買ってベンチに座っていた。

 

「んー…久々に遊び倒したわね。」

 

気持ちいい声が右隣から聞こえてくる。相当楽しんだんだろう。

俺はおごりで貰ったチーズたい焼きを齧りつつ、横目で忍さんを見る。

 

一瞬、その笑顔が翳った。

 

「どうしたの?おねーさんに見惚れた?」

 

俺が見ていることに気づいて笑みを見せてくれる忍さん。

俺はそれに合わせるように笑う。

 

「心配ですか?兄さんの事。」

「…やっぱり分かる?」

 

問いかけると、少しの間をおいて忍さんは息を吐いた。

 

「そりゃね。恭也は強いけど…無敵とか絶対とかって無いし、命掛けの仕事についてるんだから…やっぱり心配だよ。」

 

確かにそうだろう。

戦ってる以上絶対安全って事は無いし、不安なのも仕方ない。

 

 

 

御神の剣士を知らない人なら。

 

 

 

忍さんも一度量産イレイン相手にした時に知ってる筈なんだけどな…

 

「大丈夫です、絶対に。断言します。」

 

少し驚いた風に俺を見る忍さん。

気休めを言わないと思っていたのだろう。

もっとも、実際に気休めではないが。

 

「忍さんがもしヘリや戦闘機による空襲や絨緞爆撃の可能性まで心配してるならさすがに胸を張って断言は出来ませんが、それ以外なら…戦車位までならどうにか出来るはずです。」

「せ、戦車?」

 

意外だったのか面食らったように固まる忍さん。

俺はたい焼きを齧ってなんでもないように続けた。

 

「美沙斗さんに救われた時の戦いから、俺は御神の剣士とずっと過ごしてきました。だから断言できます。あれは人間離れじゃない、戦闘者の中でも上位に入るくらいの異常だ。」

 

いくら戦闘者であっても、幼少から訓練で通して来た人種でも、それが『繰り返されてきた家系』と言うのはそう無い。

進化の過程で、徐々にその姿をより環境に適した形に変えてきたように、兄さん達は『戦闘者として徐々に進化してきた家系』だ。

 

その最新にして最後の四人。そのうちの三人がいるのに、一体これ以上何がある。

 

それでも心配と言うなら、通学中に転んで死んでしまうかもしれないとか最早そういうレベルの話になってくるが、誰だってそんな心配はしないだろう。

 

だから言い切る。

 

「俺も戦闘者の一人です、絶対大丈夫ですから安心してください。」

 

断言すると、忍さんは柔らかい笑みを見せてくれた。

一人で会場付近を歩いてたのも、きっと少し心配になってたからなんだろう。

 

安心してもらえて何より…

 

 

あ。

 

「どうしたの?速人君。」

 

表情に出たのだろう俺に対して、忍さんは不思議そうに問いかけてきた。

あれだけ断言していて今更思いついたことがあったとなっては気になるのだろう。

少し後ろめたいので視線を逸らしてたい焼きを齧る。

 

「いや…怪我とかじゃないんだけど…」

「ふんふん。」

「告白されたりとかしないかなーと…フィアッセさんいるし、スクールの人たちって皆女…の…」

 

言ってる最中、異様な空気を感じて俺は忍さんを見た。

 

 

笑顔だった。

 

 

ただし、なのはの『ソレ』が可愛く見えるくらいに底冷えするような目だった。

 

「速人君?」

 

名前を呼ばれただけだ!落ち着け俺!

だが、それ以上指が一つも動かなかった。

 

「何か言った?」

 

俺は全力で首を横に振った。

 

「そう、ならいいんだけど。」

 

それだけだった。これ以上は何もなかった。

 

辛うじて難は逃れたものの…

 

 

もう二度とこの手の話題を女子に振るまいと、俺は固く誓っていた。

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

夜、寝る前にと速人お兄ちゃんとの模擬戦。

 

私は首にナギハを突きつけられて動けなくなっていた。

 

ヴィータちゃんやフェイトちゃん、クロノ君とだって『勝つか負けるか分からない』位になってきているのに、速人お兄ちゃんには未だに勝てない。

 

「単純魔法戦なら負けないのに…」

「自慢にならないっての。俺の魔法戦は雑魚殲滅用だからな。」

 

物凄くあっさりした様子で言い切る速人お兄ちゃん。

管理局に入ってそろそろ一年になるのに、お兄ちゃんとの距離は全然埋まっていない気がしていた。

 

それは…いろいろな意味で。

 

お兄ちゃんは恭也お兄ちゃん達とフィアッセさんのボディガードをする事にしたみたいだけど…緊張も何もないいつも通りの表情をしている。

 

「あの…私にも手伝える事」

「ない。」

 

言い切る前に止められる。

 

「言ったろ?命よりも決まりを優先しなきゃならない事だってある、それが組織だって。魔法のないお前なら俺のクラスメイトでも倒せるぞ。」

 

返す言葉も無かった。

 

管理局に入ったのに管理外世界で魔法を…ただの事件に使うわけには行かない。さすがに自分が危険に巻き込まれかけた時などの対応についてまでは厳しく言われることは無いけど、それでもその世界にある筈の無い力を振るう事は許可されていなかった。

 

だけど…だからって大切な人が危険に巻き込まれるのを目の前に何も出来ないなんてそんなの…

 

 

ポン…と、軽い音と共に頭に柔らかい感触があった。

 

 

「心配するな、誰がやると思ってる。」

 

速人お兄ちゃんはそう言って笑う。

けど…

 

「魔法…使うの?」

 

聞きたくない気持ちはあったけど、聞かなきゃいけない。

 

速人お兄ちゃんと敵対するなんて考えてもいなかったけど、もし管理外世界で魔法を使いたい放題使って反省する事もなかったらきっと…

 

出来るなら、『使わない』と約束して欲しい。

 

 

「誰かが危険になれば命優先で使うだろうな。」

 

 

けど、ソレが無理だってことは分かっていた。

 

もし規則を守るつもりがあるなら私達と一緒に管理局に入っててもおかしくない。

 

シュテルちゃんにはお兄ちゃんが無茶する前に止めるつもりだと大見得を切ったのに、こんなにアッサリ危険な状態になるなんて…

 

 

 

 

 

 

「けど、そっちも心配しなくてOK!!」

 

 

 

 

 

 

 

どちらも選べない私の前で、速人お兄ちゃんは胸を張ってそう言い切った。

 

「え?」

「フェイト、魔法使ったって兄さんに負けたじゃん。大概は生身でどうにかできるから気にしなくていいぞ。クロノ達に迷惑かけてるのは趣味じゃないんだからな。」

 

そこまで言うと、速人お兄ちゃんは真っ直ぐに私の目を見る。

これ以上無い位優しく温かい笑みを浮かべて。

 

「俺達を信じろ。」

 

ただその一言に、不安が薄らいでいくのを感じる。

 

 

 

いつか、私も…不安に襲われてる人に笑顔を上げられるくらいに強くなれたらいいな。

 

 

 

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

 

私は今回コンサートに行けない原因にして悩みの種である事件の調査中だった。

 

質量兵器の裏取引をしている裏の武器商人の解体。

 

ソレが、今回の目的だった。

根が深いためとてもじゃないけれど執務官補佐が外れられるほどの余裕が無かったのだ。

 

今は構成員の人を捕まえてクロノが事情聴取を行っている最中だったんだけど…

 

 

「フェイト、いい知らせと悪い知らせがある。」

 

 

クロノが複雑な表情を浮かべて、ブリッジに入ってくる。

 

「いい知らせは…事件が速く片付きそうだ。コンサートに間に合うかは…ギリギリかな。向こうのスケジュールに少し間があるのならフィアッセさんには会う事が出来ると思う。」

 

となると、有益な情報が手に入ったんだろう。

構成員を捕まえても末端の人だと切り捨てられて終わるから、こういう調査は大変なんだけど、今回の人が当たりだったみたいだ。

 

けど、有益な情報が入って悪い知らせって…

 

「悪い知らせの方なんだが…彼等は完全自立駆動の機械型傀儡兵をよりにもよって管理外世界に売り出していた。」

「なんて事を…」

 

管理世界はそれなりの交流もあって当然技術もある程度の格差はあってもどうにかなるレベルにおさまっている。でも、管理外世界となるとそういうわけにも行かない。

 

「取引があった世界は…第97管理外世界、地球。」

 

声を出す事もできなかった。

 

 

地球に…アレが?

 

 

現在の地球上の兵装で対処できるレベルをどう考えても大幅に上回っている。

更にその傀儡兵は人間より一回り大きいサイズのもので、どこにでも使える…

 

仮に襲われた人が銃火器を持っていても、地球の武装じゃまともに効果があるものは殆ど無い。

 

「僕達は組織の解体、殲滅が先だ。調査は専門の人員に頼む事になる。」

「っ!!!」

 

泣きそうだった。

今すぐにでも地球に飛んで、探し出したい気分だった。

 

もし海鳴だったら…皆ただじゃすまない。

魔力反応の一切出ないあの傀儡兵に奇襲でもされたらいくらなのは達でもひとたまりも無い。

 

けど…

 

「分かってる。」

「フェイト…」

「組織…だから。私は速人に言われて、それでも選んだから。だから、大丈夫。」

 

途切れ途切れになりつつ言うと、お兄ちゃんは私の肩に手を置く。

 

「焦らないように本気で片付けて…早く地球に戻ろう。」

「うん。」

 

どうか…何ごともなく終わりますように…

願っても仕方ないとは分かっていたけれど、願わずにはいられなかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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