なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十話・暗雲

 

 

 

第十話・暗雲

 

 

 

闇の書事件が一年過去の話となりかける頃、俺はリビングでアリシアを待っていた。

 

 

 

アリシアがデバイスマスターの資格を取るための勉強が進んでいると言う事で、素人の俺がやるより遥かにマシと言う事でメンテナンスを頼んだ。

 

それを持ったアリシアが今日、家に来る予定なのだ。

 

「それにしても良かったですね。管理局下で行動しないとなると技師の知り合いは不可欠ですから。」

「だな。独学でメンテナンスやるにはちょっと手間があるし、何よりナギハはともかく宵の巻物はホイホイ誰にでも見せられないからな。」

 

さすがに、『俺のためのデバイスマスターになる』と聞いたときにはビックリしたが。

 

俺は恐らく大人しくしてないから管理局に入った方がいいとは薦めてみたが、アリシアが引かなかったから頼む事にした。

 

チャイムがなって殆ど間も無く、トテトテと駆けてくる足音が聞こえる。

 

「速人!ナギハのメンテナンス終わったよ!」

 

嬉々としてナギハを手にしたアリシアがやって来た。

俺はアリシアをソファに座らせて、手にしていたナギハを受け取る。

 

「よ、ナギハ。調子はどうだ?」

『中々いいですよ。さすがに局の人に頼んだ時ほどじゃないですけど、マスターがメンテナンスを自力でやるよりは大分良好です。』

「言ってくれるな、その通りだけど。」

 

俺は即座にナギハを展開、装備してみる。

 

抜刀、違和感なし。

空中歩行用魔法陣、違和感なし。

 

改造したわけじゃないからバランスとかは変わってなくて当然かもしれないが、それでもこれは結構凄いと思う。

 

「うん、違和感なし。サンキューアリシア。正直勉強してるにしてもまだ早いんじゃないかと思ってたが、そんな事まったく無かったな。」

「ホント!?やったぁ!」

 

喜ぶアリシアの横で、シュテルが息を吐いた。

 

「マスターの力となるつもりなら材料次第で何でもできる位の腕はいると思います。メンテナンスで手放しで喜ばないでください。」

「むー…でも一歩前進には違いないよ。」

「それはそうですね。」

 

素直に認めたシュテルの言葉にようやく上手くいった実感が沸いたのか、改めて笑みを見せる。

シュテルは酷評だが、俺は大分助かった。

 

と、アリシアは少しあたりを見回して俺を見る。

 

「恭也さん達は?」

「兄さん達なら香港で修行中。」

「そっか。ってあれ?修行なら何でついて行かなかったの?」

 

アリシアも俺が兄さん達と一緒に修行をやっている事は知っている。

だから当然と言えば当然の疑問だった。

俺としてはついていけたほうが良かったんだが…

 

「対銃火器武装隊ようの訓練なんだけどな…さすがに子供は混ぜられないって。」

 

俺は思い出した経緯に溜息を漏らしつつ苦笑する。

 

「速人の方が大抵の大人より強いのに。」

 

アリシアが拗ねた様に呟くが、無理もない対応だ。

むしろなのはぐらいの人間を戦わせる管理局の様な組織はこちらでは犯罪組織ぐらいだ。

 

「確かに兄さん達と比べたら見劣りするからな。それに…」

「それに?」

 

俺の語尾をなぞるアリシアにむかって、両手を腰に当ててふん反り返る。

 

「小学生にたたまれたら部隊の人達立ち直れないだろうしな!ははははは!!」

 

思いっきり笑い飛ばしてやると、シュテルが冷たい視線を向けて来た。

 

「自信過剰が過ぎますよマスター。恭也達より先人の美沙斗がいる部隊なのでしょう?」

「あー…まあな。」

 

それを言われると痛い。

美沙斗さんもまだ兄さん達より強いと自負する腕前だ。

いずれ抜かれるとは言っていたけど、あの二人より強い時点で既に『異常以上』だ。

 

「けど火器武装の兵ぐらいなら何とかなるのはホントだぜ?」

「人間の台詞じゃないよ…」

 

人聞きの悪い台詞の発生源に目を向ければ、我が妹君がいた。

こんな年で既に仕事とはご苦労なもんだ。

 

「お前に言われたくないぞ破壊魔。」

「私は魔法使ってだからいいの!」

 

魔法を使うと破壊魔になってもいいらしい。

あぁ…うちの末っ子はいつからこんな凶暴になったんだ。

 

「ってそれはいいや。それよりどうなったんだよ、皆行けるのか?」

「あ、えっと…はやてちゃんと守護騎士の皆、それにユーノ君は大丈夫だって。フェイトちゃんとクロノ君は仕事休めないみたい。」

 

少しだけ残念そうななのは。

フェイトが来れない訳だし無理もないが。

 

アリシアも落ち込んでいるかと思ってみてみたが、楽しそうに腕を組んでいた。

 

「しょうがない、フェイトのためにおねーちゃんが一肌」

「デバイスでの撮影は駄目だよ。」

「えー…」

 

が、言い切る前になのはにぶった切られてむくれるアリシア。

フラッシュなしで映像記録を取るのが当たり前のデバイスなら盗撮など訳ないだろうが、民間人としてもヒーローとしてもよろしくない。

 

「駄目だぞアリシア。無闇に迷惑かけるのは俺の方針じゃない。」

「はーい。」

「なのはの話は聞く気もないの!?」

 

俺が止めるとアッサリ笑顔で了承するアリシア。

なのははリライヴといいアリシアといいあんまり素直に話を聞かれないため少しむくれている。

二人とも管理局にいい印象が無いから当然と言えば当然なのだが。

 

「そういう汚れ役は私達が引き受けます、アリシアはマスターの隣で真っ当に動いて下さい。」

 

と、それまで見ていただけだったシュテルが唐突にそんな事を言い出した。

汚れ役って…だからそんなのにいられても困るんだっての。

 

「いやだから」

「現代は情報戦ですから。舞台のローアングルから更衣室にシャワールームまで、綺麗に映像記録を取ってきましょう。」

「駄目だと思ったけど確かに現代は情報必須だな。いやよく言ってくれたシュテル。フェレットに扮した変人に見咎められない為にも俺がキチンと見張りを」

『エクセリオンモード。』

 

 

 

 

 

 

 

言い切る前に不吉な機械音声が聞こえ、視線を移す。

冷めた目で笑顔を浮かべた悪魔がいかつい槍のように変形した杖を手にしていた。

 

「お、お兄ちゃんは室内で砲撃は駄目だと思うなぁ…」

 

少しずつ寄って来るなのはから距離を取る。

と言っても室内で動ける距離には限りがあって…

 

「大丈夫。悪魔から授かった魔力でただ思いっきりぶん殴るだけだから。」

『ええ問題ありません。』

 

寒い笑顔のなのはにシンクロするようなレイジングハート。

こいつら気が合い過ぎだろ!!ってかぶん殴るって!?

 

「何処でそんな言葉遣い覚え」

「ヴィータちゃん。」

 

あ、なるほど。

 

と素直に思ってる場合じゃなかったのだろう。

 

いつの間にか目の前になのはの顔があった。

 

 

 

「せーのっ!!!」

 

 

 

振り抜かれたデバイスを直撃した俺は一回転してぶっ倒れた。

 

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

 

お昼休み、いつもの屋上で、なのはちゃんは少しご機嫌ななめな様子で昨日の話をしている。

と言うかシュテル絶対確信犯やろ、相変わらずからかうの好きなんやなぁ。

 

「本当、信じられない!ヒーロー名乗る人の台詞じゃないの!」

「は、速人らしいね…」

 

むくれるなのはちゃんの話に苦笑するフェイトちゃん。

 

「速人君の場合ノリでそう言う台詞が出とる可能性あるからなぁ。私としては楽しそうでええんやけど。」

「良くないわよ!あれは一回痛い目見るまで治らないわね…」

 

しみじみと言うアリサちゃん。

私は痛い目見てもやめんと思うけど…言ったらなのはちゃん余計落ち込みそうやし黙っとこう。

 

「でも久しぶりだよね。ゆっくりして行けたらいいんだけど…」

「遊んでる訳じゃないんだから無理でしょ。ま、お土産くらいは渡せるかもしれないし用意しときましょ。」

 

いつもより少し楽しそうに見えるすずかちゃんにアリサちゃん。

知り合いに合える訳やし、何よりその知り合いがあんなとんでも有名人ならそれは嬉しいのも当然やな。

初対面の私も今から待ち遠しい位やし。

 

私は、お願いやから今回ばっかりは急な仕事入りませんように。

と、皆と話しつつ祈っていた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

「…マジ?」

「俺は冗談でこんな話をしない。」

 

電話から返って来た兄さんの声はあくまで真面目なものだった。

 

「お前の事だ、現地で様子がおかしければ勝手に動くと思って伝えた。」

「で、俺におとなしくしてろって言うのか?」

「そのつもりはない。」

 

半人前は動くなという話かと思ったが、そうではないらしい。

 

「もし仕掛けてくるなら、もう下見や準備に回っている奴もいるだろう。」

「調べろって?」

 

来ているかどうかも分からない相手を探すと言うのはかなり無理がある。

 

「ああ。だが軽くでいい。今からお前の事がバレれば人質でも取られかねない。」

 

知り合い大半魔導師なのに人質にとられる心配する必要あるのかとも思うが、下手に魔法使う訳にもいかないし母さんやアリシアみたいに完全に戦闘能力無い人もいる。

確かにバレない方がいいだろう。

 

「了解。俺達が知り合いだったって不運を呪って貰う事にしますか。」

「ああ。だが気をつけろ、魔法を使わないのであればお前よりも腕の立つ相手もいるはずだ。」

「身内にも三人いるしな。」

 

俺の返しに答えはなく、電話はそこで切れた。

それにしても…遺産目当ての脅迫か…

 

 

 

 

 

 

フィアッセさんも大変だな。

 

 

 

 

 

俺は手にしたコンサートのチケットを眺めつつ、コンサートに来るだろうメンバーを思い返す。

 

八神家の5名様になのはとユーノと家の宵の騎士四人。

 

魔導師組はそんなものだが…

魔法を使用しないと言う制限付きでは、恐らく警官レベルにすら手が出ないだろう。

晶師匠とレン師匠もかなり腕は立つけど、銃持ち相手じゃ厳しいはずだ。

 

そして、なのはがどうするかは知らんが…

 

 

 

 

客席が爆破されて人が吹き飛ぼうが、

 

とられた人質が次から次へと頭を撃ちぬかれようが、

 

崩れた建物に胴が潰される人間が出ようが、

 

カーチェイスに巻き込まれてヒキガエルみたいに潰れる人間が出ようが…

 

 

 

 

管理局としては『管理外』世界で魔法を使った活動は出来ない筈だ。

それは勿論、俺や宵の騎士の皆の魔法使用も同様だ。

 

「…ま、相手も魔法使いじゃないんだ、何とかなるだろ。」

 

と言うよりも何とかするしかない。

人の所の遺産探り当てる位の相手なら、それなりの組織のはずだ。

会場を巻き込まれたら死人が山ほど出る。

 

それに、兄さん達に任せたら下手をすると相手の方が殺される。

 

 

全てが上手くいくように願うなら、俺が気張らないといけない。

 

 

「はーやれやれ、どうやらすぐにお前の力が要りそうだ。今回は魔法抜きだけどな。」

『安心してください。並みの金属なら打ち合っても折れる事はありません。』

「後は俺の腕次第か、面白い話だなまったく。」

 

 

俺は胸元のナギハを見ながら、今度のコンサートが災厄にさせないと誓った。

 

 

 

 

Side~フィアッセ=クリステラ

 

 

 

私はきっと、我侭なんだろう。

 

修行で香港にいた士郎達を呼び出してまで、コンサートを強行するなんて。

狙いは私で、スクールの皆も危険に巻き込む事になるのに。

 

 

 

だけど…

 

 

 

それでも私はママから受け継いだスクールの思いを継いで、少しでも歌を届けていきたい。

 

その上で、どうか誰も傷つき倒れたりしないようになんて…

 

 

 

でも、不安はあまり無い。

 

 

 

護る事に、本当に真摯な想いを積んでいる大切な人たちが、傍にいてくれるから。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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