第六話・明かされた過去の闇
Side~フェイト=テスタロッサ
私は、昨日のダメージを抱えたまま、町を歩いていた。
昨日の雷は、私が本気でも一撃だけで出せる威力じゃなかった。準備時間の長い連射だったらあるにはあるけど、あの攻撃はどこから来たかも判らないうちに気を失ってしまったし、現状心許ない。
アルフがいてくれなかったら、今頃もう捕まっていただろう。
「駄目だな、こんなんじゃ…母さんが待ってるんだ、頑張らないと…」
本格的な捜索は、今はアルフのほうにお願いして、私は慣らしと近辺の捜索のため、町を歩いていた。
昨日起きてすぐは、攻撃が雷だったのが災いしてか、身体が痺れてまともに動かなかった。
回復魔法と慣らしによって普通に動くようにはなったけど、全力で動いて弊害が無いとは言い切れない。
今日一日様子を見るようにとアルフに散々念を押されて町を歩いているのだけど…
「やっぱり、普通に探したほうがいいかな…」
どう考えても街中を歩いているだけじゃ発見なんて無い。
…そうだね、魔法行使が普通に出来るかも慣らしになると思う。
アルフに申し訳ないのでちょっとだけ言い訳を考えながら人垣を外れるために歩き出
いきなり、本当に唐突に男の子に手をつかまれた。
当然、振りほどこうかと思ったんだけど…
「っ…よかっ…」
何故かその子は泣いていた。
「え?え!?」
意味が分からなかった。町を歩いていたらいきなり見知らぬ男の子に手を捕まれて、何故か泣かれたのだ。状況を説明出来る人がいるなら教えて欲しい。
周囲の人の暖かいようなむず痒いような視線が痛い。
「あ、あの…場所を変えて」
「そ、それもそうだな!!」
私はいきなり男の子に抱えられる。
絵本のお姫様のように。
分からない、何にもサッパリ分からない。
「とりあえずこっちだ!!」
「え?え!?」
男の子に連れられて、人の少ない海岸まで来てしまった。
逃げるべきだったのだろうけど、なんだか温かさに当てられた私はそのまま海岸まで呆然としていた。
「すいませんでしたぁっ!!!」
「えぇ!?」
海岸につくなり、男の子は地面に頭を叩き付けて土下座して来た。
一体この子は何者なのか?
男の子だからと言っても凄い運動能力だし、それが無くても…変だった、変過ぎた。
「あの…落ち着いて聞いて欲しいんだけど…」
男の子はとてもバツが悪そうに言葉を紡ぐ。
「昨日の雷俺のミスが原因なんです!!」
瞬間…思考が停止して…
「っ!!」
バルディッシュを手に身構えた。
迂闊だった。彼が敵だったなんて…
倒してすぐにでも逃げないとと思う私の前で、男の子はブンブン手を振る。
「いや違う聞いてくれ!お願いだから!!」
必死な男の子の額から、血が流れていた。
…少なくとも敵意が無い事は分かった、これが敵なら馬鹿過ぎる。
「…手短にお願いします。」
時間がある訳では無いが、私は彼の話を聞くことにした。
現地調査の一環だと自分に言い聞かせて。
妹さんをジュエルシードから守らせるつもりで話をした特殊能力者が、非殺傷設定も無いのに私に攻撃して、自分が魔導師の話をして無かったのが原因で死なせかけた…と、謝りに来たらしい。
「…あの、白い娘を襲ったのは事実だし、私が犯罪者なのは分かってるでしょう?何で謝ったりするんですか?」
不思議でしょうが無かった私の目の前で、男の子は若干暗いまま答える。
「だって…喧嘩で死人出したらダメだろ。普通に考えて。」
呆れと怒りが同時に湧く。奪いに来た私のセリフじゃないが、危険なロストロギアを巡った攻防を喧嘩扱いするなんて、どれだけ軽いのか。
「そう思うなら妹さんを引かせて下さい。アレは危険なんです。軽い気持ちで触れていい物じゃ」
「わりぃ無理だ。あの馬鹿マジになると人の話聞きゃしないからな。今回の騒動だって俺が引き受けるって言ったのに、完全に無視。」
彼は両手を上げて息を吐く。
ちょっとあの子に頭に来た。心配してくれる家族がいるのに無視して戦いに出るなんて…
「あの…貴方は生粋の魔術師なんですか?ロストロギアを引き受けるなんて…」
あくまで情報を聞き出すため、だから躊躇う事無くその質問をして
「いや、俺は元暗殺者。犯罪歴って言うなら俺のほうがとんでもなく上だな。」
聞かなければ良かったと、本気で後悔した。
「本当にさ、人なんて簡単に死ぬんだよ。俺はそれを良く知ってる。多分…君達魔導師より。だからさ、本当焦ったんだぜ?非殺傷設定なんて便利なもんはこの世界には無いし、本当に生きててくれて良かった。」
「あ、貴方は…自分で?」
人を殺していたのか?聞こうとして、声にならなかった。
「…殺さなきゃ殺される、世界はそう出来てるって、ずっとそれだけ教えられてきた。実際、俺と一緒にいた子供たちは毎日のように殺しあって、その数を減らしていった。俺はそんな事を当たり前に思ってた馬鹿野郎だったから、ここに来るまで、気づく事も出来なかった。」
「何に…ですか?」
「たまたま救われてる俺みたいに、俺が奪っていった子たちにも、幸せな世界が生きていればあったのかもしれないって、そんな簡単な事だよ。」
重かった、今の私が聞くには、あまりに重すぎた。
多分、綺麗で幸せな聖人君子が言ったとしても、綺麗としか伝わらなくて、重さに気づくことは無かっただろう。
「今の話で暗い顔ができる君なら信用できる。きっと君は一線を越えない。」
「あ…」
言いながら頭を撫でる手。
私は気づいてしまった。
ジュエルシードは、一個でもまともに暴走させてしまえばそれこそ冗談にならない被害を引き起こす。
私がやってる事は彼より重いのではないだろうか?と。
「ちょっと待ってて。」
私の頭を優しく撫でた彼は、そう言って何処かへ行ってしまう。
少しの間をおいて、彼は袋を抱えて戻ってくる。
「ホイ。」
魚の形をした妙なものを渡され、扱いに困っていると、同じものを取り出した彼はそれを食べた。
「…はむ。」
私も真似して齧って見る。あったかくて甘い味が広がっていった。
「えい。」
「っ!?」
突然何かが光って驚くと、彼は携帯電話を持っていた。
「それじゃまた!」
「あっ…」
彼は止める間も無く去っていってしまった、魚のお菓子の入った袋を置いて。
「フェイト、どうしたのさ?こんな所で。」
「あ、アルフ。コレ食べる?」
私は袋から魚のお菓子を取り出してアルフに渡す。一口かじったアルフは、気に入ったのかそのままガツガツと食べ始めた。
…ジュエルシードを集めよう。母さんに渡さなきゃならないし、この管理外世界の人達を魔導師の事情に巻き込む訳にも行かない。
私は彼とその妹さんの姿を思い浮かべ、改めて意志を固めた。
SIDE OUT
俺は彼女…フェイトの前でたい焼きに喰らい付いている女性を見ながら息を吐いた。
別の気配が近づいてきてたから逃げたけどどうやら正解だったみたいだな。
「一線…か、当に越えてるのは俺の方なのにな。」
何しろ暗殺者だ。非合法の非合法の裏…って位には全うな人生捨ててる。
「あー止めよう、考えると気分が滅入る。」
コレが俺の結論だった。考えて昔話が変わってくれるならそれほど楽なことは無い。だけど、そんなはずも無い。だったら昔の事で悩むより、これから先を変える事に全力を尽くすべきだ。
「とりあえずは、我が妹にこの写真を自慢するだけ自慢しますか。」
たい焼きを加えてはにかんでいるフェイトの横顔が写った携帯を眺めながら、俺は笑っていた。
タイトルの保存失敗してました(汗)なので多分変わってるかと思います。
改めて全部見ると色々失敗もあるものですね…