なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第八話・速人の魔法戦カリキュラム

 

 

 

第八話・速人の魔法戦カリキュラム

 

 

 

 

感慨深いものを見せられた後だったが、いつまでも呆けていては修行にならない。

俺は魔導師組と宵の騎士達を連れて、ひとつ離れた島に来ていた。

フレイアに結界を張って貰ったため、この中で何がどうなろうと周囲の人や今修行中の兄さん達が物音なんかを気にする必要がない。

 

「なのはは魔法戦の練習な。」

「え?いいの?」

「当然だろ?お前は魔導師なんだから。」

 

午前中が肉体トレーニングで魔法の修行はやれないと思っていたのか、笑顔を見せるなのは。

御神の訓練と言ったって剣振る訳じゃないんだから魔導師が魔法戦やらない訳がない。

 

ただ…御神の訓練のペースでやるだけだ。

 

「一対一で模擬戦十連戦。シュテルとレヴィが交互に付き合ってくれるそうだ。」

「じゅ!?」

 

言い切ることもなく引きつった顔で固まるなのは。

 

「嫌なら嫌で誘導弾制御六時間とかでも」

 

言い終わる前にブンブンと音がなりそうな位に横に振るなのは。

普段は朝だけできついのにやれる筈も無いと言う所だろう。

 

承諾したなのはは疲れた足取りで離れていく。

 

残ったフェイトとクロノは苦い表情でなのはを見送る。

さて次はフェイトだが…

 

「取り合えず剣の基本型を一通り見せるから、それをやるか。」

「わかった。」

「って訳でクロノ、少し自主錬でもしててくれ。」

 

クロノが頷くのを確認したところで、俺はフェイト共にその場を離れる。

 

ある程度障害物の少ない空間を探したところでナギハを抜いて構える。

 

「さてフェイト、さっき言ってた剣の基本型だけどな、地上でやらないといけないわけがあるんだ。」

「速人はわざわざ魔法陣の上走るくらいだもんね。どんな理由?」

 

問いかけてきたフェイトの前で、俺は思いっきり握り手に力を込めてナギハを振り下ろす。

残身も何もないそれをみたフェイトが、どう返していいか困ったように表情を曇らせる。

 

「えっと…違うよね?」

「ああ。今のは極端すぎる例だが、何も知らない奴に全力で振れと言うと多分こうなる。」

 

俺はフェイトに説明をしながら用意した的を取り出す。

糸で吊るした青竹。

コイツが一番分かりやすいからな。

 

「で、魔導師勢の上手い奴らは大抵それより一個上、全身の力を上手く使ってるレベル。で、その上が全身の力を一点に集約させるレベル。この辺は結構珍しくなるな。そして…」

 

吊るした青竹に向かって全力で踏み込んで、一閃。

両断された青竹は、剣閃に沿う様に落ちた。

 

うーん…やっぱり斬るのが限界か。

 

「さっきの説明全部に加えて、全ての力を攻撃時の一時…もっと言えば命中時の一時のみに集中させる。それができればもっと上手くいくんだけどな…」

「今ので上手く言ってないの?」

 

意外だったのかフェイトが戸惑ったように返す中、兄さんが上の竹を落とさずに切断できる事を教えると、フェイトは目を丸くして固まった。無理も無いが。

 

「いきなり無理なのは分かってるけど、意識するかしないかは大分違うからな。出来るなら地上では俺が今やった感じ以上を目指してみてくれ。」

「分かった。」

 

それなりに見れたものだったのか、フェイトは素直に頷いてくれた。

踏み込みを使った斬り方を打ち下ろしから突きまで全部で9個見せる。

真剣に見ていてくれたようで、特にやり直す必要も無く二刀形態にしたバルディッシュで大体さまになりそうな形で再現してくれた。

 

後は、これを繰り返してもらえばいいだろう。

 

「一つにつき百回、左右別々に。」

「うん、分かった。」

 

全部で1800回になるんだが、分かってないのか想定済みなのか、特に驚く様子もなく頷くフェイトを確認して、俺はクロノの元へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

「魔法戦教えてくれ。」

 

誘導弾制御をやめて俺を見たクロノに対してそう頼むと、意外だったのか驚くクロノ。

確かに剣使えって言われればそうなんだが、そう簡単にいかない訳がある。

 

「闇の暴走体の中にいた時、疲れ過ぎたせいでいつも通りの戦闘が出来なくなったんだ。辛うじて凌いだけど初めて使った魔法でまともにやり合える訳も無くて死ぬ程苦戦したんだ。対少数強敵や潜入調査とかならともかく、数が多かったり時間が長引くと厄介だ。」

「それほど疲れた状態で魔法戦をやっていたのか?」

 

改めて驚くクロノ。だが…

 

「魔法戦と呼吸止めて戦うのどっちが辛いと思う?」

「それが本当なら呼吸を止める方が遥かに辛いが…君はそんな戦いをしていたのか。」

 

正確に言えば違うんだが、代謝を下げて動くわけだから下手するとそれよりキツい。

 

が、丁寧に説明しても怒らせたり心配かけたりするだけなので、濁して置いておく。

 

「教えてって言っても戦って魔導師視点から問題点あげるだけでいいんだが、駄目か?」

「なるほどな…僕の方が君から戦い方を教わる位に実力差があるのに何を言い出すのかと思ったらそういう事か。」

 

察しの早いクロノは納得して頷いた。

 

そもそも戦い方が違う上俺の方が実力上なんだ、クロノにわざわざ戦闘法を教わる必要は無い。

それでも頼んだのは、魔導師の視点から問題点を知りたかったからだ。

 

クロノは頷くとデバイス…S2Uを構える。

 

「あれ?デュランダルは?」

「普段から使う気は無い。それに僕はこれでもなのは達より魔法戦技能は高いつもりなんだが。」

 

わざわざ古いデバイスを使用するクロノに不思議に思って問い掛けると僅かばかり呆れたようにそんな回答が返って来た。

 

要約すると、『魔法戦素人の君に全力でやる気はない』って所か。

 

「舐めたなクロノ、後悔させてやるぜ!行くぞナギハ!!」

『はい、マスター!』

 

抜いたナギハを両の手に握り締め、俺は宙を舞った。

 

 

 

 

Side~クロノ=ハラオウン

 

 

 

速人との模擬戦が開始してすぐ、僕は速人がわざわざ魔法陣の上を走る訳だと感じた。

 

「っち!!」

 

視認が困難な細い鋼線を振るう速人。だが、いつものように活きていない。

右手から振るわれるそれを避けた所で左手がナギハに添えられている事に気付いた僕は、少し直線上を外す。

 

「く…そっ!!」

 

僕が動いたかどうかというタイミングで、速人は高速移動魔法を使う。

確かに反応は速いが、普段なら正面を外したくらいで魔力刃を放つのをやめる事などない。

それに、なのはのそれより僅かに遅い機動で背後を取ろうとした所で、フェイト相手でもどうとでもなる僕には大した意味はない。

 

「ブレイクインパルス。」

「が…っ!!」

 

打ち込んだ近距離攻撃は、速人の身体に吸い込まれてその意識を断ち切った。

 

「ここまでかな…ん?」

 

墜落する前にバインドで止めようとしたのだが、頭から落ちていった速人は半回転して空中で『着地』する。

 

飛んで来るかと思ったが、速人はそこから僕に向かって手招きした。

どうやら今のは勝利と認めてくれたようだ。

 

しかし、魔法戦で力量がこうまで変わるとは…

 

「っ!?」

 

と、少し考えながら速人の前に着くと、首にナギハの刃が添えられていた。

 

いくら気が抜けていたとは言え、挙動すら見切れなかった…

 

「くそ…こんなに差があるのか。」

 

しかし、僕が悔やむ前にナギハをしまった速人は、歯がゆそうに俯いた。

 

差…というのは通常魔法空戦と足場ありでの戦闘の事だろう。

 

何しろダメージ受けて墜落した直後にこの動きだ。生半可な魔法戦とは訳が違う。

 

「君はへんなことを考えないで普通に戦った方がいいんじゃないのか?」

「いや、駄目だ。」

 

僕の提案は即座に切り捨てられる。

しかし、彼もかなりの訓練を積んでいる身だ。生半可に戦うのは危険なのは分かっているはずなんだが…

 

「強敵少数相手にならそれでいいんだ。けど、広範囲多数の敵相手に防衛戦とかだと正直絶対抜かれるからな。」

 

確かに理にかなっていた。

 

速人の剣がいくら優れていても、間合いは剣の長さでは限りがあるし、今回の暴走体のようなサイズの大きい敵相手に剣の長さの傷をつけてもかすり傷で済んでしまう。

移動もさすがに魔法陣を駆けるより飛行したほうが速い。速人は風を使えるから尚更だ。

 

体力切れもそうだが、何より別の方向性の力が必要だからこんな事を頼んだのか。

 

「そういう事ならとことん付き合おう。どうせ君の事だ、なのはにだけ十戦もやらせておいて自分はこれで終わらせるつもりは無いんだろう?」

「当然、サンキュークロノ。」

 

少し呆れて言ったつもりだったのだが、何も気にせず笑顔を見せた速人はそのまま距離を取った。

 

さて…かなり力量が落ちるとはいえ、狙いやタイミングは速人個人のそれのままだ。

僕のほうも真剣に勉強させてもらう事にしよう。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「はっ!!」

 

俺が放った一閃は空を切る。

避けたクロノが放ったシューターを高速移動魔法で迂回回避して、再度一閃。

 

今度はデバイスで受け止めた。

 

「っ!なんで回を追う毎に鋭くなるんだ君の動きは!疲れとか無いのか!?」

 

俺を弾き飛ばしながら砲撃魔法の準備に入ろうとするクロノに向かって飛針を投擲するが、これもかわされた。

 

「鋭くなってるって!?そりゃ光栄だ!!」

 

 

再度接近して放った一撃もまた避けられた。

追撃をかけようとしたが、鎖状のバインドが迫ってきたためそれの迎撃に手を裂く事になった。

 

 

もう何度目か覚えていない空戦で、俺は何となく察していた。

連撃は結構無理がある。

 

 

 

シグナム達がやたらと大きなモーションで振るっていた剣を思い出しつつクロノに吹っ飛ばされて何度か。

ようは飛行の勢いを重力や地面代わりに上手く使えばそれなりに威力ののった一撃を振るえることが分かった。

 

ただ…それで二撃目は振れないんだ。

 

まさか体当たりのように相手を押しっぱなしで振り続けるわけにも行かず、その上全身を上手く使わないといけないため中々小振りに出来ない。

 

 

近接で連撃を行うには、空戦はあまりに不便だ。

 

 

「風翔斬!!」

「く…っ!」

 

足場が無い状態では鋭さが落ちるため発生速度も弾速も落ちるため、クロノ相手では中距離でもアッサリ防がれる。

 

 

ええい!大降りの練習してるようなものなんだ!だったら…

 

 

「コイツで…どうだぁぁぁっ!!!」

「な…」

 

 

俺は指を揃えた状態で伸ばし、五指鋼線に魔力を纏わせながら振りぬいた。

 

青緑の魔力光に包まれた線が、まるで長い剣でも振るかのようにあたりの枝葉を切り裂きながらクロノに迫る。

 

だが、思いっきり目立つため線上を外されてアッサリかわされ…

 

「今のは驚いたな、まったく…次から次へと新技を編み出さないでくれ。」

「お、俺の勝手だろうが…」

 

バインドで拘束された上で砲撃に撃ちぬかれた俺は、どうにかクロノに顔をむけて文句を言った。

 

 

くそ…単純魔法戦じゃどうあがいても勝てん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな無茶し通しの訓練も過ぎ、夕食の時間…

 

 

「…死屍累々とはよく言ったものだな。」

 

兄さんがそんな言葉を漏らしたが、無理も無かった。

 

比較的元気なフレイアと姉さんが食事の準備をする中、なのははボロボロでへたり込み、フェイトは腕を落としてぐったりとしていて、フレアは兄さん達にやられたのか顔にシップを張っていた。

 

俺の方は、クロノが加減してくれたからか魔力ダメージ以外にたいしたダメージもなく、普段の戦闘方法ですらそれなりに戦える俺が魔法戦だけで体力使い切るわけもなかったため、少し魔力切れで眠い位で他はたいした事は無かった。

 

「さすがに今日は此処までだろう。」

「そうだな。初日だし。」

 

やがて並んだ食事には手をつけたものの、そこでダウンしたフェイトとなのはを、俺とクロノで寝袋につめて寝かせてやった。

 

「互いに兄だしな、これくらいは。」

「そうだな。」

 

疲れきってはいる物の可愛い寝顔を眺めつつ、兄としてクロノと笑みを交わした。

 

 

 

 




今はここまでです。

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