なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第六話・年明けは波乱と共に!開催、御神式強化合宿!!

 

 

 

第六話・年明けは波乱と共に!開催、御神式強化合宿!!

 

 

 

年明けも程々に堪能したところで、母さんを除く高町家一同は、フェイト、クロノと共に沖縄の無人島に来ていた。

もちろん遊びではない。管理局に4月に入るつもりなら春休みまで修行を待てないから時期を早めたのだ。

 

そう―なのはが管理局に入るための最後の関門、御神の強化合宿の…

 

 

 

 

なのだが…

 

 

 

 

「お前ら早いな…」

 

さっさと走っていると、前方で延びているなのはとフェイト、二人を見ているクロノの姿があった。

島の外周を走ると言うだけの話なのに随分くたばるのが早い。

 

流石と言うべきか、二人をの様子をみていたクロノは一定のリズムで呼吸を整えると俺を見る。

 

「いきなりオーバーワークが過ぎるだろう、強化なしでのマラソンなんて。」

「走ったくらいで何言ってんだよ。ほら起きろ、あんまりサボってると入局禁止になるぞ。」

 

そう言うと、寝転がっていたなのはは身を起こす。

なのはが立ち上がった所で続くようにフェイトも立ち上がる。

 

そうこなくちゃな。

 

で、走り出そうとした所で、後方から父さんの気配を感じる。

 

魔法による治療のおかげで根っこに残っていた大怪我のダメージが抜けた父さんが、『息子に負けてられるか!俺も行くぞ!!』と意気込んで付いて来たのだが、ブランク込みでは並のトレーニングならともかく兄さん達と同じ修行は無理があるので俺達の引率も兼ねて魔導師組と鍛練する事にしたのだ。

 

「はぁ…はぁ…しかし俺が言うのも何だが、俺達の訓練って無茶苦茶だったんだな…」

 

息を荒げつつ告げる父さん。

そりゃ分かるが…今実感する事なのか?

 

「そう思うなら止めてください。彼女達が身体を壊すだけで」

「あぁ違うんだよクロノ君。」

 

だが、なのは達の心配をするクロノの言葉を父さんはアッサリ否定する。

 

「昔は血を吐く位が当たり前だったからな。ちゃんと加減されてる今が安全だと思ってな。」

 

そこまで聞いて、俺は漸く今『この程度』でさっきの言葉が出てきた訳に納得した。

と同時に少し怒る。と言うのも…

 

「そう言うのは俺や兄さんがやる領域だろ?魔導師で一般でないとはいえ職員なんだ。誰がやっても問題ないレベルじゃないと。」

 

そう言うのは誰も彼もが出来る訓練じゃないからだ。

こんな話を聞いてなのはが『そっちでやりたい』何て言い出したらどうする気だ。

 

「そう言えば速人も本職だったな。」

「俺の場合は薬も使ってたけどな。暗殺者として完成させるのが目的だったから身体が壊れるようなヤバい薬は打たれなかったけど異物には違いないから身体が痛い痛い。その状態で訓練とか本当馬鹿だったな。」

 

兄さんとの訓練の方が昔より怪我が多いと言うのも奇妙な話だが、正直それ以外はずっと楽だ。

走るだけの前段階でへばられても困る。

 

意を察してくれたからかは分からないが、なのはとフェイトは揃って走り出した。

クロノはコメントに詰まったように俺と父さんを見た後、二人の後を追った。

 

「それじゃ、俺達も行くぞ速人。」

「了解!」

 

再び駆け出した父さんに追従する形で走り出した俺は、すぐになのは達を抜いて先へ先へと進んで行った。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁっ…」

 

荒れた呼吸を整えると、側でへたりこんでいるなのはとフェイトに目を向けた。

クロノは息こそ切れているがバテるといった感じは無い。

 

「ふー…かなり疲れたみたいだな。」

「ま…まだやれるよ…」

「無理すんな。その足で走っても足ダメにするだけだ。」

 

流石に関節、骨格の単位で壊したら洒落にならない。

足が冷えないように二人にジャージを穿かせ、平らな地面に二人を連れて行く。

 

「よし…んじゃなのはは腹筋と背筋。フェイトは足を押さえてやっててくれ。」

「えっ…と…交代でやるんだよね?」

 

自分だけ楽だからか、フェイトが念を押すように聞いて来る。

 

「いや、フェイトはやらない方がいい。やるにしても体育と同じくらいにしておけ。」

「そんな…何で?」

 

不思議というか、なのはだけにやらせるのがそんなに嫌なのか真っ直ぐに俺を見ながら聞いて来るフェイト。

別に隠すほどの事じゃないから話してもいいが。

 

「スタイルが違うからさ。なのはは前に砲撃強過ぎて腕折ったろ。骨格の補強をするのに筋力がいるんだよ。対してフェイトは高速戦闘だろ?筋肉は重いから無闇に付けてもスピードが下がる。1、2キロ増えた所で直進には影響はそれほどないだろうが、方向転換や加減速にかかる負荷は結構増すんだ。」

 

言いつつ俺はナギハをフェイトに持たせて、左右に腕を振らせる。

何も無い手との違いを感じて貰ったところでナギハを返して貰った。

 

「訓練時間も休憩も限られてるし、何か質問があっても出来れば食事時とか帰りにしてくれ。」

 

フェイトが頷いてくれたのを確認して、俺は父さんを見る。

木刀を四本持っている所を見ると、どうやら俺と考えは同じらしい。

 

「俺は父さんと仕合ってくるから、休み休みでいいからなのはは足以外の筋トレやっとけよ。後一応言っとくが…覗こうとして妙な気配がしたらウッカリ斬っちゃうかもしれないからおとなしくしとけよ。」

 

全員頷いたのを確認した俺は、父さんから短刀サイズの木刀を二本受け取ってなのは達から離れ、森の中を進む。

 

 

しばらくして―

 

 

「っ!!」

 

音も無く背後から木刀が振るわれた。

 

咄嗟に前に跳躍。

背中をかすめる感触を感じつつ反転。

 

「っせえぇい!!」

 

視界に納めたからか気勢を隠す事無く振るわれる木刀。

俺は右の打ち下ろしを右の柄で払って左で胴を凪いだ。

空を切ったところで下がって構え直し向かい合う。

 

「ほぉ…横合いから柄で殴るとはな。真剣ならモノによってはタイミング次第で折れてたぞ。」

「父さんこそ、ブランクなかったら最初の一撃で終わってたぞ。」

「よく言う、完璧に気付いてたくせに。」

 

競技じゃない以上奇襲が何だ奇策がどうだ言うのはなし。

ただ…目の前の敵対者を打ち抜くのみ。

 

これぐらいが普通な俺達は特に驚くでも無く構えて向かい合い…

 

切り結んだ。

 

徹で打ち込んだのに普通に打って来た父さんに押されてバランスを崩す。

 

っそ!さすがに体格差があり過ぎるか!!

 

兄さんもそうだが正拳突きが急所攻撃(笑)になるような身長差だ。おまけに兄さんより力が強い気がする。

 

打ち合っても仕方ない…なら!!

 

「ふっ!」

 

上は頭で下は足首まで広く右の五指鋼線を振るう。

飛んでも下がっても避け切れまい!

 

「よ…っと。」

「なっ!!」

 

確かに避けられなかったが、切り払われた。

木刀で切断は出来ないが、打ち下ろされた木刀に軌道を変えられて、鋼線が父さんを捕らえる事はなかった。

いや、確かに兄さんも真剣でやった時に切断したけど、焼きそばじゃないんだから木刀一本で絡めとるとか勘弁してくれよ。

 

と、呑気に思う間も無く、絡め取られた鋼線ごと右腕を引かれ、前に崩れる。

それと同時に父さんが距離を詰めながら左の木刀を振るう。

 

鞘こそないもののこの射程…虎切か!

 

腰あたりから放たれた左の一閃を同じ左の木刀で防ぐも、体格差かよろける。

足が使えない所にトドメとばかりに木刀を振り上げた父さんは―

 

「う…」

「俺の勝ち…だな。」

 

鳩尾に突き付けられた俺の木刀の先端を見ながら硬直したあと深く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしギリギリか…ブランク明けじゃないのかよ。」

 

実際問題としてかなり際どかったため、正直驚いた。

最後決めに来ないで一手一手確実に詰めて来られたら負けてたかもしれない。

 

褒めた…と言うと上から目線もいいとこだが、本当に驚いたから言ったつもりだった。

だが父さんは不満だったのか、眉を顰めて腕を組む。

 

「これでも美沙斗よりも強かったんだぞ?…さすがに静馬には勝てなかったが。」

 

完成された御神の剣士と言うだけで十二分に脅威だが、その中でも当然上下はある。

美沙斗さんの旦那さん…静馬さんはその中でも最強とすら言われる程の使い手だったらしい。

さすがに勝てなかったとは言うが、要は比肩するだけの実力があったという事に他ならない。オマケに美沙斗さんよりは上だったと堂々と明言した。

 

ブランクがあったからって、俺が楽勝になるほどには実力落ちたりしない訳か。

まったく…皆して異常にも程がある。

 

「お前…皆化物だとかそんな事思ったろ。」

「う…」

 

気配遮断とかの一環として心中を悟られるなんてもってのほかなのだが、アッサリ悟られる。

 

もしかして俺、スイッチ入ってないと滅茶苦茶分かりやすいんだろうか?

 

割と死活問題なので思い悩んでいると、呆れたように息を吐く音が聞こえた。

 

「お前自分もそこに入れてるか?まだ拙いとはいえ小学生で既に『貫』に手をかけてるのは明らかに異常だぞ?」

 

肩を落とした状態で俺を見て告げる父さん。

確かにそれはそうかもしれないが…

 

「俺は出生が異常だから。あ、いや、卑屈になってるわけじゃないけど、暗殺技使うには相手の気配や仕草に死ぬほど聡くないと…と言うか聡くない奴から死んでったから…」

 

貫は相手の防御を抜く技で、相手の動作を細部まで見切る必要がある。

つまり、素振りがどうだ、型がこうだと言う前に、既に貫の訓練に近い事からやっていたようなものだから出来るのだ。

実際、教わってから使えるようになるまでの時間は徹の方が長かったし。

 

「さてと、もう休憩は十分でしょ?父さん。」

「当然だ。」

 

確認しあったところで構え、俺と父さんは再び木刀を打ち合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達は何度かの仕合を終えて、なのは達の元へ戻る。

いくらか際どい仕合もあったが何とか全勝で終える事が出来た。

一本も取れなかったのは予想外だったのか、父さんは若干落ち込んでいた。

傍目には分からない…分からないように振舞っているつもりなのか、乾いた笑いが余計に痛々しい。

うーん、ブランク明けで勝負になる事の方が凄いと思うんだが…

 

 

「お、やって…ないな。」

 

なのは達が見える所まででたはいいのだが…腹筋をやろうとしていたなのはが完全に起き上がれずにおなかを押さえて寝転ぶ姿が見えた。

 

「あ、速人。」

「はぁ…ぁ…お兄ちゃん?」

 

すぐに声をかけて来たフェイトと、ばてた状態で首だけ動かして声をかけてくるなのは。

辺りを見回すがクロノの姿は無かった。

 

「クロノはどうした?」

「なのはだけ頑張るのも違うから走ってくるって。私は、なのはを見ててって。」

「そっか。」

 

フェイトが教えてくれた答えに思わず笑みがこぼれる。

普通に考えたらただの無意味なオーバーワークだろうに。参考程度には信用してくれたのかな。

ともあれなのはの様子を確認するために軽くおなかを押してみる。

予想通り顔を顰めるなのは。それなりに使えてるみたいだな。

 

「よし、それじゃそろそろ昼に行こうか。多分兄さん達も切り上げてテントにいるだろうし。」

「え…にゃ!?」

 

俺は言いつつなのはを背負う。

身体を起こすのも億劫な状態で歩かせるのもどうかと思うし、午後だってこのままお休みと言う訳じゃない。

 

「お、何だ速人。そういうのは父さんの役目だろ。」

 

と、よってきた父さんが妙な事を言い出す。

未だに一緒に風呂入ろうとするし、この父さんじゃなければちょっと警戒するかもな。

 

…最も、未だにできたてほやほやのバカップルよろしくな父さんと母さんみてれば何もないことはわかるが。

 

「やだね。兄の役得でもいい訳だし。なのははどっちがいい?」

「え、えと…オンブされるのは決定なの?」

「当然。」

 

自信満々に言い切ると、なのはから小さく唸るような声が聞こえてきて、肩から回された腕に僅かに力が込められた。

俺が父さんに向かって勝ち誇った笑みを浮かべると、父さんは少しがっかりしたように肩を落としてテントへ向かった。

 

俺はなのはを背負ったまま、父さんを追って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

テントにつくと、持ち込んだプレートの上で魚やら貝やらが焼けていた。

 

「お、いい感じに出来てるな。」

「殆どボクが取ったんだ、マスター。」

 

俺の姿に気づいたレヴィが駆け寄ってきて楽しげに言う。

対してシュテルが若干疲れたような表情を見せていた。

レヴィの頭を撫でつつ、シュテルに対して念話を送る。

 

『何があった?』

『…さすがマスター、表情には出ないと思ったのですが。』

 

思ったとおり疲れた反応が返ってきて、シュテルは何があったかを語りだした。

 

話によると、確かに殆どレヴィが調達してきたのだが、海中で出力考慮しないで飛び回ったり、変換資質が電気なのに射撃魔法撃ったりして調達したため、魚群や海流に被害が出ないように押さえて回っていたらしい。

 

強すぎるのも考えものだな。にしても…

 

『サンキューシュテル。正直そんなところまで考慮してくれるとは思わなかった。でも何でレヴィに直接言わなかったんだ?』

『変換資質は言ったらすぐ聞いてくれましたが、海流の話なんて説明を事細かに聞いてくれるわけも無かったもので。』

 

あー…なんか納得。

壊すのは簡単だけど直すのは難しいからなぁ、まして海流の影響修正なんてそう簡単でもなかったろう。

改めてシュテルに礼を告げた後、ディアーチェの姿を探す。

 

当のディアーチェは、ハンモックに揺られて眠っていた。

 

「いつもの王様病。」

 

レヴィは若干むくれたように言う。

王様病とは中々面白い事をいう。

 

俺はディアーチェに近づいていって揺り起こす。

 

「昼飯だぞ、食うだろ。」

「む…そうか。」

 

ハンモックから降りたディアーチェは悠然と魚群の踊る鉄板に向かって歩く。

 

『そんなに警戒してやるな。大体クロノとっくに気づいてるぞ。』

『な!』

 

魔力反応を隠蔽したサーチャーを操作してクロノを追っていた事を悟られていたのが意外だったのか、念話どころか表情まで変わる。

 

恐らくリライヴの置き土産に当たる魔法を行使しているのだろうが、完全にモノにしているわけでもないためクロノも気づいていた。

警戒する理由は間違いなく裁判等の事後処理に当たっていたはずのクロノの戻りが早すぎる上、こんな訓練について来れるだけの休みが振られたから。

 

大方休みと言うのは名目で、宵の騎士達の実態調査といった所だろう。

人手不足の管理局が執務官フリーにしておく余裕あるわけないし。

 

『でもお前本当に家族思いなのな。レヴィに言わないのか?』

『やかましいわ!大体功績自慢など下々のものが名を売る為にするものだ!我が語る事などない!!』

 

さすがに表情には出なかったが照れてるところが容易に想像できたため、思わず笑ってしまう。

 

「どうしたのマスター?」

「いや、なんでもない。」

 

そう長くかからないうちに兄さん達とクロノも戻ってきたので、俺達はそこで昼食を食べる事にした。

 

 

 

 

 


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