第三話・アリシアの家出
Side~フェイト=テスタロッサ
私は、病院に入院したなのはのお見舞いに来ていた。
フレイアの魔法で多少なり治した後だったから、縫うとかはしなくても良かったみたいだけど、結構痛そうな傷だった。
でも、一応恭也さんにも認めて貰えたって話をしてくれたなのははとても嬉しそうだった。
「それにしても、一日だけど入院なんて…」
「あ、うん…バリアジャケットがあんまり役に立たなくて。」
信じられない。
なのはのバリアジャケットは防御力を考慮して組まれている。
高機動型の私のジャケットより防御力が高いはずなのに…
「本当に凄いね…私も模擬戦やってもらえるかな?」
「…あ、あんまりお勧めしないよ?何でかよく分からないけど物凄く怖かったから。」
私は興味があったんだけど、かなり強い意志を持ってるなのはが言いよどんでいる。
そんなに怖いのだろうか?
「レイジングハートに聞いたら、あの時の私、初めて魔法使った時よりもどうしようもなかったって。」
「そ、それは…凄いね。」
なのはがふざけて魔法使う筈が無い以上、そんな状態になるほどなのはを怯えさせたと言う事になる。
なのはだって激戦を潜り抜けてきてるのに…
「でも良かった。後は合宿に行く事になるけど、管理局には勤められるって。」
「合宿?」
「うん。お兄ちゃん達の合宿。運動苦手だから少し不安だけど、戦う仕事につくならそんな事言ってられないし。」
速人達の合宿、なのはも行くと言うなら魔導師が行ってもいいのだろうか?
一回盗み見ただけのあの鍛錬に…
「ついて行ってもいいかな?」
「え?うーん…恭也お兄ちゃんに聞いてみるね。」
「ありがとう。」
恭也さんに許可を取るとなると念話で聞く訳にも行かない。
決まったら教えてくれると言う事で、お見舞いは終了になった。
元々回復魔法も使ってたからもう退院できるみたい。
「それじゃまた後で。」
「うん。」
なのはが管理局に入れるようになって、あの速人達の訓練について行けるかも知れない。
アリシア…お姉ちゃんももう退院していて、
そんな事もあって…少し、浮かれすぎていた罰だったのか…
「何で…」
「え?」
「何で管理局に入るの!?」
お姉ちゃんに怒鳴られた。
帰ってきてなのはが管理局に入れるようになったから、一緒に行けると話したら、お姉ちゃんが怒った。
訳が分からなかった。
お姉ちゃんは管理局での活動が全部は優しい活動にならないって言う速人の言葉を知らない筈だし、何でこんなに怒るのか分からない。
ただ、本当に怒っている事だけはわかった。
「だっておかしいよ!私とかお母さんとか助けてくれた速人を危ない人扱いするんだよ!?何でそんな人達の手伝いなんか!!」
「それは、少し間違えたら危ないから…」
そこまで言った所で、聞き慣れた鞭のような破裂音がした。
頬が熱い。
叩かれたと分かったのは、その熱さを感じてからだった。
「速人が少し手を差し延べてくれなかったら私も死んでたんだよ!?なのに速人が悪いの!?私が生きてるのが悪いって言ってるのと同じじゃない!!」
痛かった。
叩かれた頬よりも、胸の奥が。
母さんに叩かれた時と違って、裏切られたんじゃなくて裏切ってしまったんだって、お姉ちゃんの瞳に湛えた涙を見て思ってしまったから。
「フェイトの馬鹿!!大っ嫌い!!!」
「あ…」
力無く崩れ落ちた私は、泣きながら背を向けて部屋を飛び出したお姉ちゃんを見送る事しか出来なかった。
Side~アリシア=テスタロッサ
家を飛び出して、訳も分からないまま町に出る。
どこをどう進んでいるかも分からないまま家を離れて…
「うわっ!」
「あっ!ご、ごめんなさい!!」
前を見ていなかったせいで人にぶつかってしまう。
転んじゃった私はそのまま謝った。
「俺は大丈夫だ。ってアレ?フェイトちゃん?」
私がぶつかった人は振り返って手をさしのべてくれた。
フェイトの知り合いだったみたい。
「私、フェイトのお姉ちゃんのアリシア=テスタロッサです。」
「お姉…へぇ…そっか。」
微妙な反応をするお兄さん。
うぅ…小さいのは長い間ポッドで眠ってたせいだもん。
「お兄さん信用してないでしょ。」
「してるって。それじゃ俺が女だって言って信じるか?」
言われて良く見てみる。
…心なしか胸が本当に少し膨らんでる気がする。
「…冗談?」
「だよな。俺も何で男に生まれなかったのか疑問に思ってる。」
サッパリ言うお兄さん。…ひょっとして、本当に女の人なのかな?
「家に行く道分かる?良かったら案内…どうかした?」
目に見えて表情が変わっちゃったみたいで不思議がられる。
何でもないって言ってもリンディさんに連絡行っちゃうだろうし…
「家出…して来たんです。」
「え?」
「はいー。取りあえず今日は家の方泊まってって貰います。迷惑なんか無いですよー、速人君とちごておとなしいですし。」
私はお兄さん…じゃなかった晶さんのお家に連れて来て貰った。同居しているレンさんが電話で連絡してくれる。
「で、何で家出なんかしたんだ?」
晶さんが責めるでも無く聞いて来る。
理由なんてフェイトが知ってるから隠してもしょうがない。
私は、管理局に速人さんが悪い目で見られてる事、そんな速人さんがいなきゃ私は生きていなかった事、なのにフェイトがそんな管理局に付くって言ってる事を説明した。
「…私、速人さんがいなきゃ生きてないのに…何であんな事言う管理局なんかに就職するなんて…」
「あー…なるほどな…」
晶さんが困ったように頭を掻く。
隣りに座ったレンさんが、ちょっとだけ怒ったように息を吐いた。
「何や大体想像付いたけど…あのアホ警察さんに睨まれるような事までしとんか。」
「アホって!だから速人がいなかったら私は」
「落ち着いて。俺達これでもアイツとはそれなりに付き合いあるからどういう奴かは知ってるつもりだ。」
つい身を乗り出した私を止める晶さん。
私が座り直したのを見ると晶さんはレンさんを睨む。
「恩人をよく知らない人に馬鹿にされたら嫌だろ?普段のノリはやめとけよ。」
「う…言うやないかおサルの癖に。」
「何か言ったかミドリガメ?」
睨み合う二人。
何でか笑ってるのにちょっと怖い。
「あ、あの…」
「「あ。」」
恐る恐る声を掛けると、二人は睨み合うのをやめて私に向き直った。
「コホン!えーと…つまりアリシアちゃんは速人君を傷つけるような事言う警察…管理局や、それの味方しようしとるフェイトちゃんが許せへんと?」
「えっと…うん。」
レンさんが少しだけ違う言い方で聞き直して来たけど、間違いじゃないから頷く。
けど、レンさんは何故か首を横に振った。
「それやと速人君に悪い事しとるんはアリシアちゃんやな。」
「え、な、何で!?」
私は速人さんの事馬鹿になんてしてない。むしろとっても感謝してる。
間違っても悪い事したつもりはない。
「速人は自分が悪い事したの分かってるし、管理局に怒られるの気にしてないからな、多分。嘘だと思うなら聞いてみるか?仕事だから当然だって言うと思うぜ。」
命懸けで私を助けてくれるくらいだから、それ位優しくてもおかしくない。
けど私が悪い事してるって…
「速人君が何で頑張ったか分かるか?」
聞かれて少し考えてみるが、分からなかったので首を横に振る。
「フェイトちゃんやアリシアちゃんに、幸せに生きて欲しかったからや。やのにアリシアちゃん、喧嘩して飛び出して来て泣いとったろ?しかも当の速人君の事で。」
「あ…」
言われてようやく分かった。
レンさんの言う通りに速人さんが思っているなら私の方が速人さんを裏切ってる事になる。
「二人が喧嘩したって聞いたらアイツきっと傷…つかないな。二人を引っ張ってなけなしの小遣いはたいて遊園地にでも連れてきそうだ。」
「せやなぁ…何なら速人君にゆーて見よか?遊園地行きたいやろ。」
…何か二人にはどうなるか想像ついてるみたいだけど、私とフェイトが仲直りする為にまたいろいろするのは分かった。
ちょっと楽しそうだけど、私のせいで速人さんに無茶させたくない。
「速人さんに迷惑かけたくないから…」
「何や、タダは貴重なんよ?」
「テメーは一々発想ががめついんだよ。」
私の答えに意外そうに答えるレンさんと、そんなレンさんに呆れる晶さん。
「がめついて何やコラ!アンタがアホやから無駄遣いしまくっとるだけやろが!」
「10円20円違うのに大騒ぎする必要ねーだろ!!」
「そこに気ぃつけるかつけんかが明暗を分けんのや!!!」
睨み合う二人。
当たり前に喧嘩するのはちょっとどうかと思うけど、何でか仲良さそう。
…仲いい…か。フェイト叩いちゃったな…
謝らないといけない。速人さんが管理局の事気にしてないなら、フェイトと速人さんに酷い事してるだけで何の意味もない。
でも…お母さんにアレだけ叩かれて、凄く嫌な筈なのにあんな事して許してくれるかな…
「でりゃぁ!!」
「うわぁ!やったなおサル!!」
考え過ぎていたせいか、ようやく目の前が騒がしい事に気がついた私は目を向けて…
耳が壊れそうな大きな音の後、レンさんの掌と晶さんの拳がそれぞれ相手のお腹に当たっているのを見た。
「う…ぐぐ…あかん…クロスカウンターになってもーた…」
「な、何だよだらしねぇな…俺はまだピンピンしてるぜ…」
プルプルと震えて言う二人。
「だ、大丈夫?」
「ん?ああ平気平気。どんガメとは鍛え方が違うからな。」
「パワー馬鹿のおサルに言われとうないわ。ウチも直撃は外したから何も問題ないよ。」
かなり鈍い音だったから心配したんだけどあっさり言う二人。
…なんだろう、はたいた事心配してる自分が馬鹿みたいに思えて来た。
大騒ぎした割にアッサリした二人のおかげで、不安がサッパリ無くなっちゃった。
心配する位なら早めに謝ろう。
『一人で家を飛び出してお二人にも迷惑かけて、何をしたか分かってるの?』
「はい…」
次の日、家に戻った私はリンディさんに次元通信越しに思いっきり怒られた。
『退院したばかりなんだから、あまり心配かけないで。』
「はい、ごめんなさい。」
優しい笑顔を見せてくれたリンディさんに、私は素直に謝った。
あの二人もそうだったけど、意見が違っても仲いいものは仲いいんだ。
速人さんがいなきゃ生きてないのとリンディさんが私を心配してくれるの、両方本当でもおかしくは無い。
『速人さんの問題が落ち着いてないからまだ戻れないけど、終わったらアースラスタッフは休暇が貰えるから、その時はゆっくりしましょう。』
そう言ってリンディさんはモニターを閉じた。
私も映像を消して、意を決してフェイトの部屋をノックする。
「アリシア…」
「ぅ…」
入るなりアルフに睨まれる。
フェイト大事でしょうがないって感じだから無理も無いか。
「アルフ、ダメだよ…」
「けどさぁ…」
アルフを止めて私の前に立つフェイト。
私は真っ直ぐフェイトを見て…
「「ごめ」」
頭に鈍い衝撃があった。
謝ろうと頭を下げた筈なのに、頭が痛い。
目を閉じてたから何が起こったかもよく分からない。アルフに叩かれたんだろうか?
「フェ、フェイト!大丈夫かい!?」
「う…うん…お姉ちゃんは?」
「い…痛ぃ…」
痛い額を抑えて目を開けると、何故かフェイトも額を抑えていた。
ひょっとして互いに頭をぶつけたのかな?うわ、恥ずかしい。
と、少し横道にそれた事を考えていると、フェイトがお辞儀していた。
「その…ごめんなさいお姉ちゃん。管理局だけじゃ私もお姉ちゃんも助かってないのは分かってる。なのに…」
「ち、違うのフェイト!ごめん!!」
フェイトが暗い顔で私を見ていた訳に気付いた私は、急いでフェイトを止めて謝る。
「速人さんを悪く言うのは納得出来て無いけど…フェイトの夢に文句を言った私が悪かったの!しかも私だけ叩いたし!!だからごめん!!」
「そんなことないよ。私だって大事な人の事悪く言われたら悲しいから。それにお姉ちゃんは速人の話を聞いて無いし。」
謝る私を許してくれるどころか、悪くないとさえ言ってくれるフェイト。
…こんないい娘叩くなんてどうかしてたな私。
「速人さんの話って?」
「管理局に誘ったけど断られたんだ。組織の仕事だから、無闇に命令に逆らうと足並みが乱れて被害が大きくなる、いざと言う時にでも見捨てられない自分は管理局には入れないって。」
気になって聞いてみたはいいけど、余計に自分が間違ってたって分かっただけだった。
フェイトを止めなかったなら、速人さんは管理局の事悪く思ってる訳じゃないんだから。
別に居場所が違っても、意見が違っても敵とかそんな事考えなくてもいいなら…
「でもフェイト、これだけは言っておくね。」
「え、何?」
フェイトと一緒になれると思ってたけど、フェイトが管理局に入るならしょうがない。
「私、速人さん専用のデバイスマスターになるから。」
フェイトは呆然と目を見開いた後、そっか、とだけ呟いて苦笑した。
SIDE OUT
混雑を避けたら妙な時間になってしまいました(汗)
今はここまでです。