なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

62 / 142
第一話・なのはの魔導師就職試験

 

 

 

第一話・なのはの魔導師就職試験

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

クリスマスも終わって落ち着いた次の日の夜。

 

管理局に入りたいと言った私は少し緊張して答えを待っていた。

 

今周りには速人お兄ちゃんと宵の騎士の皆以外の全員が揃っていた。

お母さん、お父さん、お姉ちゃん、恭也お兄ちゃん…忍お姉ちゃん。

忍お姉ちゃんはたまたま遊びに来てたんだけど、恭也お兄ちゃんの恋人さんだからって事で一緒に。

 

「本気みたいだからね…身体に気をつけて何があったかこまめに報告するなら良いわよ。」

「母さんは理解があるなぁ…父さんもいいぞ。真剣なのは分かった以上、お前の道に文句を言うつもりはない。」

 

お母さんとお父さんから認めて貰える。

安心は出来ないけど素直に嬉しい。

 

 

私だって速人お兄ちゃんに言われるまでもなく皆に認めて貰うつもりだった。

 

 

管理局でどうかは置いておいて、地球じゃまだ未成年。

覚悟は充分あるつもりだけど、だからって何もかも勝手に押し通すのはよくない。

 

「心配は心配だけど…父さんと母さんがいいなら私もいいよ。私もまだ未成年だし、なのはぐらいから修行してたしね。」

「私も賛成。なのはちゃんなら心配ないもん、速人君と違って。頑張ってたのもよく分かるしね。」

 

美由希お姉ちゃんと忍お姉ちゃんもそう言って認めてくれる。

ただ…なのはより心配されてる速人お兄ちゃんって一体…って、ちょっと複雑な気分になって…

 

 

 

「恭ちゃんどうしたの?」

 

 

 

美由希お姉ちゃんの声で、後一人…恭也お兄ちゃんが黙ったままなのに気がついた。

 

「ほう…恭也、俺や母さんですら認めたというのに何かあるのか?」

「ああ、少しな。」

 

少し焦った。

認めて貰えなかったら管理局には入れない。

速人お兄ちゃんが全力で止めるって言った以上、無理して入っても酷い事になるだけだから。

 

 

「兄として…高町恭也としては特に言う事はない。何処か抜けてる愚妹よりは出来た仕事をするだろうしな。」

「恭ちゃんが酷い…」

 

 

いつも通りちょっと意地悪な恭也お兄ちゃんが美由希お姉ちゃんをからかう。

 

 

 

だけど…

 

 

 

「だが御神不破流の剣士としては、運良く拾った力を振るう事を楽しんでいるような子供に『護る仕事』をやらせる気がしない。」

 

そう言ったお兄ちゃんは、今まで見た事がないくらい重かった。

普通に喋ってるだけで、恐いとかでもないんだけど…

 

「た、楽しんでるって…それはお兄ちゃんが訓練して上達するのが嬉しいのと同じだと思うの。ふざけて魔法を使った事はないよ?」

「それでもお前はすぐ側にあった護る力を磨く事はしなかった。」

 

御神の剣士にならなかったって事だと思うけど…私運動音痴だし…

 

「護りたい気持ちが先に来て、魔法のほうが自分にあっているから趣旨換えするというならば話は分かる。だがなのはの場合は力が先だ。それに、美由希もそうだが、俺ですらまだ仕事にするかは考えている位だ。ただの仕事ならともかく、護ると言うなら冗談じゃ済ませられない。」

 

考えを見透かされたような恭也お兄ちゃんの言葉に何も返せなくなる。

お兄ちゃんは海鳴の地図を取り出して、特に何もない所に丸をつけた。

 

「…どうしてもと言うならば、明日の夜この廃ビルに来い。その一時限り、不破恭也としてお前の前に立ち、見極める。」

 

 

空気が重い。

 

 

恭也お兄ちゃんが本当に真剣になったらそれだけでここまで空気が変わるなんて思っていなかった。

 

 

 

「随分大きな口利くようになったじゃないか恭也。」

 

 

 

そんな空気の中で一人だけ意にも介さないように明るい声を出すお父さん。

と、お兄ちゃんはお父さんに視線を移す。

 

「仮に俺がなのはの歳に香港国際警防隊に入りたいって言ってたら父さんどうした?」

「全力でぶっ飛ばしてた。」

 

笑顔で言い切るお父さん。お兄ちゃんは私に視線を戻す。

 

「聞いての通りだ。むしろ試験の機会があるだけ良かったと思え。」

「…うん、わかった。」

 

恭也お兄ちゃんのほうが経験はずっと長い。

単に年上だからって訳じゃなくて、気づいた時から刀を持ってて今の今まで毎日修行をし続けて、当たったら死んじゃうそれを振るう事の意味をずっと考えてる筈。

 

言葉を重ねても、真剣だと言っても、それだけじゃ届かない。

 

恭也お兄ちゃんの積んできた本気に、私の本気を見せる。

そうしないと、絶対に伝わらないし納得してもらえないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は朝早いのですね。」

「ふぇ?あ、シュテルちゃん。」

 

魔法の鍛練をするのにいつも通りの時間に起きた私は、同じく起きていたシュテルちゃんと鉢あわせた。

 

…シュテルちゃん、元星光の殲滅者。

闇の書の闇が守護騎士システムと蒐集行使の能力を中途半端に使って作ったプログラム…だった。

今は宵の騎士となって、所有者で命の恩人の速人お兄ちゃんをマスターにしている。

 

 

それはいいんだけど…問題が二つ。

 

 

一つは、蒐集された私の情報から作られたから、私と殆ど同じ姿である事。

もう一つは…恭也お兄ちゃんみたいに人をからかうのが好きな事。

 

…お風呂から身体のあちこちを調べているような声が聞こえたのは気のせいだと思いたい。

 

「しかしマスターはやはり変わった人ですね、プログラム体である私達に部屋を譲るとは。」

「速人お兄ちゃんだからね、それくらいはすると思うよ。」

 

ちなみにマスターの威厳より皆を優先した速人お兄ちゃんはソファで寝た。

朝起きた時もういなかった所を見ると、私より先に鍛練に出たみたい。

 

「なのはは魔法の鍛練ですか?私で良ければ付き合いますが。」

「あ、うん。ありがとう。」

 

ユーノ君は守護騎士の皆の裁判で資料が必要だからってクロノ君に連れて行かれたから、魔法の鍛練が一人じゃないのが嬉しい。

速人お兄ちゃんは時々付き合ってくれるけど…シューターだけだと速人お兄ちゃんが魔法強化無しでもまったく当たらないからやる度にヘコむ。

 

シュテルちゃんはさすがにお兄ちゃん程デタラメじゃないと思うから、素直に嬉しくて…

 

 

 

 

「制御が大変なのは分かりますがわざわざ唸る必要は無いと思います。音は位置を悟らせるきっかけになりますから。缶をくずかごに落とす時ですがわざわざ掛け声を上げるのは最後の一手を相手に悟らせる上、やはり声を上げつつでは精度が誤差程度ですが変わってしまいますので出来るなら最後まで制御に集中するべきかと。一撃ごとの」

「ごめんシュテルちゃん…もう許して…」

 

覚え切れない数の指摘を笑うでも怒るでもない表情で話され続けるのがとても辛いって、今日初めて知って後悔した。

 

 

 

 

 

帰り道、折角だからシュテルちゃんにも話を聞いてみる事にした。

 

「恭也と試合ですか?いくら何でも無茶でしょう。」

「やっぱり…シュテルちゃんもそう思うよね。」

 

シュテルちゃんなら贔屓無しで見てくれると思ったからだけど、シュテルちゃんから見ても無茶みたい。

 

「確かに彼の鍛え方は並外れたものでしたが、それでも人間の範疇です。身体強化だけで運動の苦手な貴女でも彼の力を上回るでしょう。バリアジャケットがあれば並の攻撃は通りませんし。」

「そうだよね…」

 

それにバリアジャケットで防ぎ切れなくてもレイジングハート経由でプロテクションを張ればそれだけで全部防げると思うし、『とおし』もレイジングハートに衝撃が伝わるだけで終わる筈。

昔はそれでレイジングハート落としてユーノ君に助けられたりしたけど、今そんな致命的なミスはしない。

 

「闇が元の私は管理局に入る事を薦める気もありませんが、勝ちたければ油断だけはしない事です。非殺傷設定もあるのですから、遠慮はしなくても良いでしょう。私から言えるのはこれくらいですね。」

「うん、ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼休み、屋上にいつものメンバーで集まった私達。

 

 

「なのは、メールの話もう少し詳しく聞かせてくれないかな?恭也さんと試合って言ってたけど…」

 

だったんだけど、物凄く心配されてた私はお弁当を広げる間も無くフェイトちゃんに詰め寄られた。

 

「詳しくって言っても本当にそれだけなんだけど…私が剣の修行しなかったのに魔法で戦いたいって言ったのが認められないって。」

「ジェラシー?」

「アリサちゃん…恭也さんがそんな事でなのはちゃんを止めるとは思えないけど…」

「わ、わかってるわよ!!」

 

アリサちゃんの思わぬ返答に苦笑する私達。

誤解を解くために恭也お兄ちゃんの話の本題だと思う事を話す事にする。

 

「魔法の力がいきなり手に入ったから使ってるんだったら、守る仕事は任せられないって…」

「そんな事ないよ、なのはは絶対頑張ってる!」

「はいはいお熱いのはわかったから身を乗り出さないの!あの恭也さんがそれ位わかってない訳ないでしょ?」

 

アリサちゃんに止められて座り直すフェイトちゃん。

それを確認した所でアリサちゃんは私を見た。

 

「ちょっと話は変わるけど…実際恭也さんに勝てるの?」

 

ここでアリサちゃんは私やシュテルちゃんとは別の意見を出す。

 

「や、空飛べてすっごい光を撃てるのは知ってるのよ。けど…あの恭也よ?」

「そうだね…お姉ちゃんがノリで作った銃とか爆弾とかある防衛システムを無傷で潜り抜けたし…刀で試合したら速人君も一勝もしてないんでしょ?」

 

…思いっきりおかしな表情になっているアリサちゃんとすずかちゃんが話す恭也お兄ちゃんの逸話に呆然とするフェイトちゃん。

他に聞いてる話だと…

 

「えっと…確か速人お兄ちゃんを助けた、現役最強の完成された御神の剣士って言われてた美沙斗さんって人とも戦う事になっちゃったみたいだけど、勝っちゃったみたい…」

「完成された御神の剣士って…武装中隊を全滅させられるって言ってた…そんな人に勝っちゃったの?」

 

呆然と聞いて来るフェイトちゃんに頷く。

…改めて思うけど、恭也お兄ちゃんは本当に人間なの?

 

「で、でもさすがに魔導師には勝てないと思うけど…」

「…もしかしたら…戦うのが目的じゃないのかも。」

 

ふと、すずかちゃんが漏らした呟きが気になって、どういう意味か聞いてみる。

 

「たとえば…途中で誰かから助けてって連絡が入って自分の用事と誰かの助けどっちを優先するかとか…」

「単純に罠とかどう?忍さんが協力すれば凄いのできそうだし。」

 

すずかちゃんの話には少し納得出来た。

速人お兄ちゃんもそうだけど、筆記用具は必ず金属製にするとか日常生活でも気を抜かない様にしているって聞いた。

試験はビルだからって考えるだけじゃダメなのかもしれない。

 

「ありがとうすずかちゃん、アリサちゃん。必ず認めてもらうから待っててねフェイトちゃん。」

「うん、待ってる。」

 

…ここからは終わるまで絶対に油断しない。誓って私は残りの時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

晩ご飯も終わって、私はシュテルちゃんと一緒にビルに向かっていた。

卑怯な気がしたけど結界張らないと戦闘をみせる訳にはいかないし、ユーノ君がはやてちゃんのお家の裁判に付き合ってるから、シュテルちゃんに結界張って貰いたくて付いて来て貰ってる。

 

「そもそも結界張らずに訓練するのは問題だと思うのですが…」

「う…」

 

痛いところを突くシュテルちゃん。

…シュテルちゃんには絶対に口で勝てない気がする。

そんな事を思いながらビルに向かって歩いていると、一人の人影があった。

 

「速人お兄ちゃん?」

 

私はお昼の話を思い出しながら少し警戒する。

速人お兄ちゃんも私が局員になるのをあんまり良く思ってないみたいだから止めに来てもおかしくない。

 

 

 

けど…

 

 

 

 

 

「勝ちたいか?」

 

 

 

 

 

速人お兄ちゃんは全く予想外の言葉を投げ掛けて来た。

 

「え?」

「勝ちたいなら…少しだけ忠告しておこうと思ってな。」

 

お兄ちゃんは私を見ていつもと違う物凄く真面目な表情を見せる。

忠告って…どういう事だろう?

 

「いいか、相手を人間だと思うな。今のお前が地上で一対一を張れる相手じゃない。闇の書の方が可愛いくらいだ。」

「ど、どういう事!?恭也お兄ちゃんが凄いのは知ってるけどいくらなんでも」

「お前は知らない。」

 

一日ずっと恭也お兄ちゃんの事を考えてたって言っても言い過ぎじゃない。なのにアッサリ流された。

 

「どういう事なのですか?なのはが恭也の実力を知らないというのはさすがに」

「俺が今まで一勝もした事がない訓練相手は高町恭也だ。で…だ。お前がこれからやるのは御神不破流の剣士との戦闘だ。普段人をからかうのが好きな兄さんだが、不破の名を冗談で名乗る訳がない。間違いなく本気で来る。そしてそれを見た事があるのは…美沙斗さんくらいだろう。」

 

お兄ちゃんはそこまで言うと神社に向かって歩き出す。

…いつもの夜の訓練をするつもりなんだろう。

 

「勝ち目があるなんて思ってたら絶対負けるぜ。リライヴに挑んでるいつも以上の格上に挑むつもりでやるんだな。何しろ不破って…」

 

 

一度止まって、振り返った速人お兄ちゃんは、自分の首に親指を当て、

 

 

 

 

「要人暗殺なんかを担当してた、『殺し名』だからな。」

「っ!?」

 

 

 

 

言いながら首を切るかのように親指を動かした。

 

「御神の剣もその傾向らしいが裏の不破はもっと根が深い、前の俺に近い『護る為に殺す剣』だ。二度と魔法を使えない身体になりたくなかったらマジでやるんだな。」

 

手を振りながらそう言うと、お兄ちゃんは振り返りもしないで見えなくなった。

 

護るために殺す剣…私はお兄ちゃんのそれをよく知ってる。

別に殺さなくたって、速人お兄ちゃんがクロノ君を木に縫い付けたように加減だって出来るはず。

だから…私が戦うに値しないって思われたら、二度と戦えないようにくらいはされるかもしれない。

 

 

「ちょっと…覚悟決めないとね。」

 

 

私は言いながら強く手を握る。

 

 

 

『エクセリオンモードで行きますか?』

「さ、さすがにそれは…」

 

 

 

本気で言ってるレイジングハートがちょっとだけ怖くて苦笑いした。

折角気持ちを入れ直したのに…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。