なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第三部開始前・それぞれの道

 

 

 

第三部開始前・それぞれの道

 

 

 

パーティーが終わった後、俺達はそれなりの関係者に魔法の事を話した。

 

俺の師匠でよく世話になってる晶さんにレンさん、アリシアの関係で手伝ってもらった神咲さんとフィリス先生、なのはの友達で既に関わってる久遠とアリサとすずか、俺ん家の家族である父さん母さん兄さん、美由希姉さんに忍さん。

 

とは言え、久遠(祟り狐、変身可能)がいる為別になんでもないイベントに過ぎず、アッサリ認知された。

って言うかむしろ、暴露後に久遠の変身を見た魔導師勢(フェイトは見た事あったらしい)が目を点にした。

 

変身後、目を輝かせたレヴィに迫られて逃げ回る久遠を見ているのは本当に楽しかった。

 

さすがにクロノ達に直接見せると立場上局への報告がらみで心労が余計に増えるのが簡単に予測できたので、黙っておくよう釘を刺しておいた。

 

すずかが少しだけ表情を翳らせていたのを見ると、夜の一族の話をしたかったんだろうが、あれは一族の掟があるから下手に話せない。

 

 

 

で、そんな秘密を暴露した割りに一切何も変わらない閉幕を迎えた訳なんだが…

 

 

 

俺は帰る前になのはとフェイトとはやてをつれて神社に来ていた。

 

ついてこようとしていた宵の騎士達だったが、管理局の話をするので聞いてもしょうがないと言う事でフレイアに任せて帰ってもらった。

 

 

 

「やー今日は楽しかった。ありがとな速人君。」

「クロノもイギリス旅行楽しんでる頃だしやっぱ事件解決したら宴会だよな。」

「は、速人…クロノはグレアムさんの家に行ったんじゃ…」

 

躊躇いがちに突っ込むフェイト。

 

事実はその通りで、この後戻ったらはやて、守護騎士の裁判と宵の騎士についての対応についての会議があるはず。

あまりに惨いので軽く忘れてやりたかったんだが、アイツの心労並じゃないな。

やっぱ胃薬貰っといてよかった、後でクロノに届けておいて貰おう。

 

 

「さて、管理局の話だが…とりあえず、三人とも入るつもりだな?」

 

真面目な話に切り替えたのが分かったのか頷く三人。

 

「私は元闇の書の主として罪を背負って皆の役に立つために働くつもりや。」

「私は執務官を目指そうと思ってる。クロノでも試験に落ちてるくらいだから難しいのは分かってるけど、私も悲しい事件を解決する力になれるなら、そうして行きたいから。」

「私は教導隊かな?飛べるようになって空が気に入ったし、後はフェイトちゃんと同じ。こういう事件が少しでも無事に終わるなら私も力になりたいから。」

 

三人がそれぞれに答えを返す。

やっぱそうか…

 

むー…~隊とか~官とか、10に満たない小学生女子の夢かそれ?

 

まぁこの三人にそんな事言ってもしょうがないんだろうな。

 

 

「取りあえずなのは、お前は家族全員の承諾が得られなかったら却下な。駄々こねようが家出しようが叩き伏せてでも連れて帰る。」

「なんで…って言いたいけど、未成年だから?」

「それもあるが、戦闘があるからだ。今回程度に首突っ込むだけならともかく、こういうのに家族が関わるのは結構怖いしな。お前だって分かってるだろ?」

 

大怪我した父さんを知っているなのはは暗い表情で頷く。

家の全員から承諾されるってことは戦う者と待つ者両方に承諾されるって事だ、そうなればさすがにいいだろう。

 

「速人は…管理局に入るつもりは無いの?」

「ああ。入る訳には行かない。」

 

少しだけ躊躇いがちに尋ねて来るフェイトにきっぱりと答えると、その表情が曇る。

 

「その訳と、注意事項を話しておこうと思ってな。」

 

俺に集中する一同。

硬すぎる気もするが…ま、楽しい話じゃないしこれ位の雰囲気の方がいいか。

 

「まず一つ目、組織に入るなら望んでも無い悲劇の引き金を自分の手で引かなきゃいけなくなる。」

「それって…どういう事?」

 

疑問符を浮かべ首を傾げるフェイト。

 

「例えば今回の事件、一歩間違えば地上をアルカンシェルで砲撃しなきゃいけなかったかもしれない。その指示を出すのはリンディさん。ここで問題、リンディさんは日本吹っ飛ばして手を叩いて喜ぶような人?」

「そんな筈ないよ。」

 

なのはの言葉に頷くフェイトとはやて。

 

「そう、でも最悪撃たなきゃならない。んじゃ第二問。別に犠牲者の出ない方法があればそれをとる事が出来るかどうか。」

「そんな方法があるならやるよ。」

「はずれ。そうとは限らないんだなこれが。」

 

俺の答えに驚く一同。

無理もない。普通に考えたら誰だって取ると思う。

 

「二つ程とれない可能性がある。一つは確率。お前が一対一でリライヴに勝てば皆無事、負ければ地球が消し飛ぶ。あらかじめ諦めて降参すれば滅ぶのは日本だけ。さてどうする?」

「あ…」

 

何かに気付いたように俯くフェイト。

 

「そ、努力挑戦言ってらんないんだよ。そんな時は『大人の都合』で降参になる。ま、時と場合によるがな。」

「そんな…」

 

弱々しい声をあげるなのは。悲しい事を減らす為にって入ろうとしてるこいつらにはキツい話だろうな。

 

「もう一つは法律。その状況で100%子供が助けられるロストロギアがあるとする。でも勝手に使うと違法なので使えません。とか。」

「そんな事ない!命より決まりのが大事だなんて!!」

 

声を荒げるフェイト。

勿論それはそうなんだが、この場合なんでその法律があるのかって所が問題になってくる。

 

「例えだが…その場で一回だけなら使っても問題ない物を管理局が持ってたとする。で、使った後他に同じような状況になった時に『どうして家の子には使えないの!?』ってなる訳だ。ロストロギアを管理する以上救えるから使いましょうって訳にはいかないだろう。もし贔屓に見えたりすれば暴動が起きたり鎮圧したりで被害はかえって増えるしな。」

 

フェイトは目に見えて頭を下げてしまった。無理もないが。

 

「んで…だ。さっき言った通りリンディさんは勿論、クロノもエイミィさんもいい人、優しい心の持ち主だ。だが、今説明したような悲劇を上司が出したら、嫌とは言えないんだ。たとえばお前らがまだやれるとか思っててもな。」

 

言葉もない。

泣かないだけましって程に意気消沈している。

だが、これだけは説明しとかないといけない、何よりなのはには。

 

「嫌なのを無理矢理やる。つまりは『心を殺して』被害や悲劇を容認する事になる。そして、これを俺が絶対にやる訳には行かないから迷惑にしかならない俺は管理局に入れないんだ。」

「あ…」

 

何かに気づいたような声を上げるなのは。

そう言えば、暗殺者云々の話はフェイトにもしたけど、俺の本気の説明はした事無かったな。

 

 

 

スイッチを切り替える。

 

 

別に脳内麻薬や心拍数の調整をしなくても、単純に心だけを殺しきることも可能。

 

俺は無言でフェイトの首に手をかけた。

 

「あ…は、速人?」

 

対象の急所に指を立てるように首を掴む。

このまま力を込めれば対象の殺害…

 

 

俺は目を閉じて頭を大きく揺さぶった。

 

 

っぶねー…たんに見せるだけで行き過ぎたらシャレにならん。

最近は調整可能になってきたとは言えまだ安易には使えないな。

 

「あー、はやてには言ってなかったが俺元暗殺者で、シグナム倒した時とかに使ってる今の完全気配遮断は、心拍数の低下や気配の排除、何より心の完全封殺で成り立ってる。」

「心の…封殺?」

「やめて!」

 

叫ぶなのは。聞きたい話じゃないよな。何しろ現場見てる訳だし。

 

俺はなのはの背に回って耳を塞いでやる。

 

「皆が学校でノートとる時と同じ位何も感じないで殺せるって事だ。」

「何も感じないで…って…」

 

信じられないと言った目で俺を見るフェイトとはやて。

そりゃそうだ。正気の沙汰じゃない。

一般人なら花を摘むのに躊躇いを感じるような人までいるのに、戦闘者の兄さんでも躊躇わないよう覚悟する程度が限界だろう。間違っても何も感じないなんてありえない。

 

そろそろいいかとなのはの耳を塞いだ手を離す。

 

「俺の事は今は置いておいて…だ。嫌な酷い命令を我慢して飲み込んでるうちに、知らず知らずの内に押さえ込んだ心が凍っていって、酷い事をするのを躊躇わなくなる可能性がある。なのはは言わなくてもわかってると思うが、怖いだろ?」

 

頷くフェイトとはやて。

 

「なので、救うって思って入った管理局で、いつの間にか戦闘兵器に成り下がらないようにちゃんと日頃から気をつけましょう。ってのが一つ。かと言って我慢しないで命令違反しても隊列乱れたりして被害がでかくなる可能性もあるからな、クロノは中々いい位置で折り合いつけてると思うぞ。あれだけ散々文句言ってたけど、全部上手くいくよう法の範囲内で足掻いてる訳だし。」

 

笑顔で締めくくったのだが、どうにも二人の緊張が解けないわなのはは泣き崩れているわでグダグダだな…

内容が内容だけにしょうがないが。

 

「怖かったら俺に二度と会わなくてもいいからこの話だけ聞いておいてくれ。俺としては、皆が驚く異常者の仲間入りして欲しくなくて話してるんだから、怖いと思ってくれて気をつけてくれるならそれでいいから。」

 

フェイトとはやては戸惑いの表情を引き締めてはっきりと頷く。

なのはも涙を拭いて俺に向き直った。

 

心強くて何よりだ。

 

「もう一つは、必ず悪人がいるって事だ。」

 

こっちも随分飛んだ話だが、今までが今までだけに誰も何も言わなかった。

 

「人手不足でスカウトされただけの呑気な奴もいるだろうし、真っ当にやるつもりで入ってさっき見たいな暗い事情に遇った時に歪む奴、デカい組織ならスパイが入り込んでるだろうし最悪元から権力の悪用目当ての人間だっているかもしれない。その全てを防ぐなんて仙人でも出来ないさ。悪人が百人に一人位としても何人が悪人になるか…」

 

実際今回もグレアムさんがギリギリ…って言うか組織的にはアウトな対処を取っている。

あれは根っこにあるのがクライドさんへの後悔と悲劇の連鎖を悼みすぎた結果だからまだましな方だが、極端に言えば管理局に潜伏して闇の書の暴走、世界の崩壊を狙うようなトンデモ野郎がいてもおかしくないって話だ。

 

「そう言うのが上司にいて、知らない間に悪事に荷担する事になったり、逆に指示した通りに動かない部下に悪事を働かれたりな。人の意思を読み切るなんて同じ人間には出来ないし、出来るからってしていい類いの事でもないしな。以上二つ、これだけ覚えておいてくれればいい。」

 

締めたつもりなのだが重い空気が一向に晴れない。

うーん…救う気で管理局に入るつもりの皆には酷すぎたかな?

実際問題間違ってるわけではないんだが。

 

「あー…別に管理局がろくでもないって言ってる訳じゃないぞ?情報網が広ければ広い範囲で活動出来るし、力量や情報が足りてれば今回みたいにかなりうまくやれる。ただ全部が全部優しい活動にはならないって覚えておいて欲しかっただけだ。後、だからと言って心を殺して『これ位は現実ですから』って感じで冷めすぎて俺みたいにならないように。」

 

暗い表情だったが、三人ともしっかり頷いてくれた。

 

と、はやてが車椅子をこいで俺に近づいてくる。

 

 

「速人君、しゃがんでくれる?」

「え?はいはい。」

 

 

何でかいきなりしゃがめと言われたが、特に断る理由も無いのではやてに目線を合わせるようにしゃがむ。

 

 

 

瞬間、平手打ちが飛んできた。

 

 

 

パチンと乾いた音が響いて少し顔が横にそれる。

 

「『怖かったら俺に二度と会わなくてもいいから』?怖い訳無いやろ!」

 

はやては断定するように言い切った。

 

…虚勢張ってくれるはやてには悪いが無理してるのが分かる。筋肉は萎縮してたし今もまだ緊張が残ってる。

 

それでも、はやては言葉を続ける。

 

「私と家族の命の恩人で、その怖い自分とずっと戦っとる速人君を怖がるはず無いやろ!なのにあんな悲しい事言ったらあかん!!」

「いやでも普通に考えて怖」

「怖ないったら怖ない!心の凍った暗殺者さんが怖くても、半人前ヒーローなんか怖ない!!」

 

振り払うように言い切った後、真っ直ぐに俺を見たはやては笑顔だった。

 

「半端なネガティブヒーローなんて半人前で十分や!レッテルに怯えとるくらいなら、思い出さないくらいにしっかりヒーローさんになってみせんか!!」

 

全部言い切った後、緊張も虚勢も消えていた。

 

「…そうだね、大体普通に考えてなんて速人らしくないし。」

 

同じく笑顔で失礼な事言ってくれるフェイト。

 

「私家族だよ?二度と会わないなんて言わないで。」

 

迷いも躊躇いもなくいってくれるなのは。

 

…すっごい小学生。

世間一般の方々から見たら、痣だらけで学校行った時とかそれだけで十分異常なのに、段違い所か桁違いの異常を前にまだ笑顔を見せてくれるなんて。

 

 

 

「ありがとな、皆。」

 

 

 

無理をさせてごめん。

それと…無理してまで俺から逃げる事を選ばないでくれて本当にありがとう。

 

 

 

冷え切った世界から拾い上げられて始めて出会う事が出来た温かい世界。

 

これを、まだ知らない人やなくしてしまった人に届けるために…

 

 

 

少なくとも、冷たいレッテルはさっさと剥がさないとな。

 

 

 

 


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