第五話・なのは的友達『後編』
Side~高町なのは
射撃を防いだ私に対して、女の子は黒い杖を構えて物凄いスピードで近付いて来た。
手に持つ杖から金色の刃が飛び出して、鎌の形を描いていた。
振り下ろされる一撃を何とか避ける。
「見切られた?」
女の子は鎌を避けた私を警戒する。お兄ちゃんと試合やったお陰で大きな鎌が見やすく感じる。後は攻撃するだけ…
攻撃?この子に?
「何で急にこんな!?」
「答えても多分意味はない。」
襲いかかって来たけど少し暗い顔をしているのは、きっと優しいからだろう。気付いてしまうと攻撃なんて出来なかった。
戦わないといけないのは判るけど、初めて会った上に、優しそうな彼女に攻撃魔法なんて撃てなかった。
「ジュエルシードはユーノ君のなの!勝手に持ってったら泥棒だよ!」
「それでも必要なんだ。」
雷のような音を立てながら飛んで来る速くて強い攻撃。空中で避けるのはあまり経験がないから、防御ばっかりになっちゃう。
「意味がないのが多分なら、話してみてよ!お手伝い出来るかもしれない!」
「必要ない!」
振るった鎌から放たれる刃は、防御ごと私を弾き飛ばした。
この子強い…
「にゃぁ…」
子猫の声に視線を逸らすと、何かが飛んで来るのが視界の端に映って…
回避し損ねて腕に直撃した。
「あぁっ!!」
レイジングハートを手にした腕から全身に痺れが広がる。魔法を維持できなくて空を飛べなくなって墜ちてしまった。
「なのは!」
ユーノ君の魔法に受け止められた私は女の子を探す。飛べなくなった私を横目にネコさんに向かって飛んでいってしまった。
止めようと思って身体を起こしても、上手く動かない。
私がもがいているうちにジュエルシードは回収されてしまう。
「ごめんね…」
と、寂しそうな声で言い残して女の子は飛び去って
「雷っ!!!!」
「ああああぁぁぁぁっ!!!!」
空が割れたような轟音と共に放たれた雷が、女の子を打ち抜いた。
「なのは!大丈夫!?」
言いながら現れたのは大人モードのくーちゃんだった。どうやら今のはくーちゃんの雷だったみたい。
くーちゃんの攻撃には非殺傷設定なんてない。
私は最悪の事態に顔から血が引いていくのを感じていた。
「フェイトォォッ!!」
女の人の声がして、オレンジ色の犬さんの背中に女の子が収まる。犬さんはこっちを睨んで飛んでいく。
「危ない青い石を、なのはを撃ってぬすむなんてゆるさない!!」
「待ってくーちゃ」
「久遠ストォップ!!頼む悪かったマジで止まってくれえぇっ!!!」
くーちゃんを止めようと悲鳴に近い声を張り上げた瞬間、この場に居ないはずのお兄ちゃんの声がした。
SIDE OUT
昼になって、家に誰も居ないからという理由で料理に手を出した姉さん。
俺は嫌な予感を感じて全身全霊を込めて逃げ出した。
格闘の師匠の所に行ってもいいが、十中八九用事だろう。二人揃ってなきゃ漫才が見られないし、折角ならちゃんとアポ取って教えて貰いたい。
体力強化にもなるしと、走って忍さん家に行く事にした。
もう少し…そう思った所でジュエルシードの反応を感じる。普段からボロクソ言われてる姉さんが料理に手を出した事といい、間違いなく何かヤバい事がある。
結界に入った俺は、見知らぬ女の子が雷撃に撃たれるのを見た。
なのはもユーノも雷撃なんて使えないし、二人は地面にいた。見た所外傷はない。で、傍らに本気モードの久遠の姿があって、ちょっと苦しそうななのは。
なんか久遠様は逃げようとする黒い娘と犬に向かって放電準備を始める。
食らったら…あの子死ぬんじゃないか?
もう既に意識は失ってる黒い娘は同じ雷撃受けたらアウトだろう。
「危ない青い石を、なのはを撃ってぬすむなんてゆるさない!!」
久遠のセリフが俺の耳に届く。
久遠がジュエルシードの事を知ってるのって…俺のせいじゃん!!
「久遠ストォップ!!頼む悪かったマジで止まってくれえぇっ!!!」
全力で叫んだ結果、何とか久遠は止まってくれました。
「…………お兄ちゃんにくーちゃん、反省した?」
「「ごめん……」」
俺と久遠は、物凄いお怒りのなのはに、森の中で正座させられていた(久遠は子供形態)。
途中で庇おうとしたユーノは、まったく折れないなのはに、ついに諦めて俺たちを申し訳なさそうに見つめていた。
罪状は、俺が久遠と話したことをなのはに教えていなかった事に始まり、一緒に探すと言ってるのに守らせようとしたこと、久遠が非常時とは言え誰にも言わずに人様に対して本気を出した事など、徹底的に詰められた。
私はブラコンじゃないんだからそこまで気を配るのはやめて欲しいとまで言われる始末。
や、俺だってなのはだからって訳じゃなく、一番危ない家族だから気を使ってるだけなんだぞ?母さんは父さんがベッタリ付いてるし、兄さんも姉さんも俺と同等以上だし、何より全員事件に首突っ込んでるわけじゃない。
なんて、余計な反論したせいで説教が更に伸びた。
久遠が恨めしげに俺を見て、しょんぼりと俯いてしまったのをみて、今回はさすがに俺が悪かったと反省した。
その後、ブラコン云々の原因がわかったので格ゲーでアリサを処刑した。
ヒーロー目指す俺にとって熱いゲームは教本の一つだからな、負けられないぜ。
その後、帰路についたんだが…
『なのは、考え事か?』
『えっ?』
バスの中、兄さんがいる為念話で話しかけた。
『なんでもないよ。』
『判った。何があったんだ?』
『え?いやだから』
『判ったから。あの子の事か?』
こいつのなんでもないなんて誰が信用するか。特にこんな状況では。
カマをかけてみたら当たりだったらしく、表情が動いた。
『…何も聞けなかったし、ジュエルシード取られちゃった。』
『気にすんなって、お前の戦闘訓練の期間考えたら三流にだって勝てないのは普通だ。』
ましておそらく相手は一流だろう。でなければ正体不明の世界で一人二人で動くなんて事はしない筈だ。
『違うの!』
『何が?』
『近づいた後はお兄ちゃんより遅かったし、ちゃんと見えてはいたの。だけど、攻撃できなくって…』
合点がいった。全うにやってきたある程度良心のある人間なら、あからさまに兵器と判るもので人を撃つなんて行為が簡単に出来るはずがない。
『私が真面目にやってれば、少しは違ったのかなって思うと…』
『バカアホマヌケ。武器なんて振り回すのが当たり前にならないほうがいいに決まってんだろ。』
『ムッ…ヒーロー何て言ってるお兄ちゃんにだけは言われたくないの。』
むくれたなのはの反応に、普通に聞いたら当然かと苦笑する。
『なのは、やりやすくするんだったら決めておけ。それでずいぶん違う。』
『決める?』
『たとえばあの娘に対して。戦わないでどこまでいっても話し続けるのか、徹底的にぶっ飛ばしてひっ捕らえた後今日みたいに恐ろしいお説教かますのか。』
『にゃ…ちょっと怒り過ぎたのは反省してるからもう言わないで欲しいの…』
スイッチが入ると容赦がなくなるらしく、元に戻って落ち着いてから振り返って反省する。
その可愛い仕草を十分堪能してから(シスコン言うな)俺は続けた。
『アリサん時はノリで飛び込んだから何にもまとまってなかったけど、久遠の所に通いつめてた時は根気いるだろうにキチンと続けてたろ?』
『うん。』
『なのはにとって、あの娘が泥棒なのか、敵なのか、ネコ愛好家なのかストーカーなのか…』
『後の二つはまったく関係ないけど…私はそれすら教えてもらえてない。』
『じゃあ二択だな、それを聞きたいか聞きたくないか。決めちまえばあの娘の意思に関係なくストーカーかますだろお前は。』
『す、ストーカーって酷い!!』
酷い…確かにそうかもしれないが、俺は客観的に見たら否定できないんだ妹よ。怯えてびくびくしている子の所に雨の日も風の日も足蹴無く通い続けて。久遠がなついてくれなかったらお前は逮捕されててもおかしくないぞ?
『でも…そうだよね、まずはあの娘の話を聞いてみたい、あの娘の事が知りたい。』
決まったようで安心と同時に同情した。彼女はこれからこの海鳴を離れるまで延々とストーカーに追われる事になるだろう、なのはが友達認定されるまで。
と、そこまでは良かったんだ。次の一言が無ければ。
『ユーノ君、それでいいかな?ジュエルシードユーノ君のものなのに悪いけど…』
あー…やっちゃった…ごめんユーノ、マジで忘れてたわ。
俺はユーノに謝罪しつつ、一つの懸念事項を思う。
……死んで無いよな彼女?
見直しつつ進めていますが、今となっては固定で必ず決めてやっていた事(「」前後の行空け等)をやってなかったりして少し新鮮にも感じています。
…本当は、その辺の事をちゃんと決めてから始めるべきなんでしょうけど(汗)
さすが初作(笑)
とりあえず本日はこの辺で!