なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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幕間・クリスマスパーティー

 

 

幕間・クリスマスパーティー

 

 

 

 

「それでは、月村家主催クリスマスパーティー、開催しまーす!」

「乾杯っ!!!!!」

 

 

次々とグラスを打ち合わせる音が聞こえる中、俺は…

 

 

「速人!ジュース持ってきてー!」

「こっちはワイン頼む!赤でな!」

 

 

 

給仕に勤しんでいた。

 

 

 

アリサから、『とりあえず散々心配賭けた罰』という事で給仕を命じられた。

忍さんが『執事服着せてみたい』という理由でノエルさんに頼んで、ノエルさんのほうも流石にこの人数の注文一人で捌くのは不可能なので承諾してくれた。

本来は忍さん周りの事やお客さんの事はメイドさんの誇りか何かで全部やろうとするんだが、こうひっきりなしにやる事がある上に調理までするとなると流石に手が回らない。

 

と言う訳で、料理に手を出す訳にも行かないのでひたすら注文聞いて往復してる。

とりあえず料理を作るだけ作ったら後はノエルさんが引き受けてくれるらしいのでそこまでは片っ端から出来たもの運ばなきゃならない。

 

 

のだが…

 

 

「服に皺も作らんとトレイ片手に走っとるんは凄いバランス感覚やな。あ、ウチ野菜炒め。」

「あ、俺は唐揚げ頼む。」

「それはテーブルにあるでしょうが!!」

「忍、確か十年物のア○ニチンがあったな?」

「あ、飲む?速人君、よろしくね。」

「そんなもん飲む奴がいるかー!!」

「あら知らないの?結構有名な」

「毒でしょうが!勘弁してくださいよ忍さん!!ってか俺がそのまんまノエルさんに言ったらどうする気だったんだ馬鹿兄!!」

 

 

 

 

誰か、俺の身内を止めてくれ……

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

 

 

「無敵のヒーローさんもああなると形無しやな。」

 

皆にからかわれる速人お兄ちゃんを見ながら楽しそうに笑うはやてちゃん。

守護騎士の皆の事もあるから最初は渋ってたんだけど、当の皆がいつの間にかアースラに届けられた翠屋のケーキを食べてるし、クロノ君がイギリス旅行に行ったらしく戻ってもしょうがないからって開き直る事にした見たい。

 

「速人お兄ちゃんの場合は常に色々台無しな気がするけど…」

「またまた…そんな心にも無い事言って。ちょっと速人が不評だと怒るじゃない。」

「やっぱり速人の事好きなんだねなのは。」

「だ、だから!違うってば!!」

 

アリサちゃんどころかフェイトちゃんまで何でか少し嬉しそうにしていて、否定すればするほど誤解が酷くなる気がする。

 

「おおぉぉぉ…凄いいっぱいだ。それも美味しい!」

「見苦しい食い方をするな下郎が、少しは落ちつけ。」

「言ってる貴女もですが…箸を握り締めて料理を串刺しにするのはやめてください。」

 

どうしようか考えていると、すぐ隣から宵の騎士になった三人の声がする。

見れば皿を抱えて料理に被り付いているレヴィちゃんと、それを横目にしながら怒っているディアーチェちゃんと、箸を握り締めて料理を刺している二人を見ながら溜息をついているシュテルちゃんがいた。

 

「そう言えば、三人とも紹介して貰ってないわね。」

「あ、えっと…」

 

アリサちゃんに気づかれて思わず口ごもる。

三人とは友達になれたとは言えないから、私から紹介は出来なかったんだ。

 

アースラにいた時に、話そうかと思ったんだけど…

 

 

 

 

ディアーチェちゃんからは『殺そうとしたくせに今更ふざけるなよ塵芥が。』と言われて、続けてレヴィちゃんから『しかも仲間のはずのマスターを裏切って!!』と怒鳴られて、シュテルちゃんから、『過ぎたことを言うつもりはありませんが、虫が良すぎるのは確かですね。』と注意された。

 

 

 

 

我侭とか話を聞いてくれないとかならともかく、私達の方が責められる位だったのに説得する事なんてできず、結局まともに取り合ってくれないままだった。

シュテルちゃんはリンディさんとお茶飲んでたみたいだけど、リンディさん達は宵の巻物をお兄ちゃんが持っていられるように頑張ってるから、何も出来てない私とは違う。

 

「始めまして、私はアリサ=バニングス。貴女達は?」

 

止める間も無く自己紹介するアリサちゃん。

けど…三人は完全に無視した。

 

アリサちゃんの眉が吊りあがる。

 

「ちょっと!人が名乗ってるのに無視するってどういう事よ!」

「食事中に席を立つのは感心しませんね。」

 

シュテルちゃんが反応してくれたと思ったら、何故かアリサちゃんを注意し出す。

 

「完全無視した次に言う事がそれ!?パーティーだからいいのよ!」

「む、社交界のようなものでしたか…」

 

言いつつ、シュテルちゃんはディアーチェちゃんとレヴィちゃんを促す。

 

「シュテルです、以後お見知りおきを。」

「ディアーチェだ。」

「ボクはレヴィ。」

 

名乗るだけ名乗ると、また食べ始めるディアーチェちゃんとレヴィちゃん。

シュテルちゃんは二人の様子を少しだけ見ると、アリサちゃんを真っ直ぐに見る。

 

「質問は私が受けます。何かありますか?」

 

無表情で淡々と喋るのが普段のシュテルちゃんなんだけど、物凄く冷たい感じがする。

アリサちゃんは、私とシュテルちゃんを交互に見たあと、シュテルちゃんを怒ったまま見る。

 

「どー見てもなのはやフェイトの友達に見えないんだけど、どういう関係で来てるの?」

「確かに彼女達の友人ではありません。私達は…」

 

そこで区切った後、シュテルちゃんは少しだけ間を空けて、右手で口元を隠して左手で右腕を抱えた。

少し俯き加減になったシュテルちゃんは、そのままアリサちゃんを見る。

 

「マスター、高町速人の従者です。」

「んなっ!!?」

 

アリサちゃんが思いっきり驚いて後ずさる。

すずかちゃんも少し顔を赤くしてシュテルちゃんを見ていた。

 

「な、なのは!フェイト!今の本当なの!?」

「え、う、うん…」

「そうだよ。」

 

少し慌てた様なアリサちゃんに聞かれて頷く私とフェイトちゃん。

 

「じゅ、従者って具体的には何を…」

「特にどうと言う事はありませんよ。マスターがいないと生きて行けない身体と言うだけで。」

「っ!!」

 

ちょっと話しすぎじゃないかと思ったけど、魔法とかの話はしてないから別に止める事でもないかなと思って見てたんだけど、何でかアリサちゃんとすずかちゃんの様子がおかしい。

 

それに、さっきから混ざっていないはやてちゃんを見ると、何故か笑いをこらえていた。

 

『あのな二人とも、アリサちゃんとすずかちゃん、勘違いしとるんよ。』

『勘違い?』

『どういう事?はやて。』

『速人君と三人が、お子様禁止の恋人さんみたいな関係やと思っとるんや。』

『『えっ!?』』

 

言われて思いだす。

何かシュテルちゃんの言い方が少し変な気がしてたけど…

 

アリサちゃんとすずかちゃんの様子がおかしい理由が分かった所で、速人お兄ちゃんが戻ってきて…

 

「ふー…やっと出揃った。さて俺も食うか。」

「ななななな何してんのよ馬鹿ぁーっ!!!」

「へ?うわぁぁぁっ!!何で飛び蹴り!?」

 

なんだか恥ずかしくなってる間に、アリサちゃんがお兄ちゃんに蹴りかかっていた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

「アリサは面白いのですね、お陰で楽しめました。」

 

俺に蹴りかかるアリサを見ながら、シュテルがそう言って薄く笑う。

 

「だ、騙したの!?」

「特に嘘は言っていませんよ?」

 

怒るアリサをなんでもない風にあしらうシュテル。

コイツも兄さんみたいに人をからかうタイプか…比較的問題ない娘かと思ってたけどやっぱクセあるのな。

 

「とりあえずシュテル、お前何言った?」

「マスターの従者だと自己紹介しただけです。」

 

 

しれっと言うシュテル。だけど真っ赤になってたアリサの様子から見て大体想像はついた。

 

 

「アリサ、三人とはそういう契約を結んだだけで本当に特別何かあった訳じゃないぞ。」

「アンタが言っても信じられないでしょ。女湯覗こうとしてたくせに。」

「ああ、その事か。そりゃそうだろ。」

 

不審がるアリサに向かって堂々と宣言して胸を張る。

 

 

 

「忍さんや晶さんにレンさん、姉さんがいたから向かっただけだから、対象外の子供に何かする筈がない!」

「胸張って言う台詞かぁー!!!」

 

 

 

安心させてやるつもりだったのに思いっきり脛を蹴られた。

 

「…とんだ正義の味方だったな。それでいいのか貴様?」

「正直で悪いか!」

「開き直るのもここまでくれば清清しいですね。」

 

ジト目で見てくるディアーチェに何故か笑っているシュテル。

なのはも浮かない表情してるし、何でこんな四面楚歌?

 

「どっちが主か分からんなー。速人君らしいと言えばらしいけど。」

「もうちょっと師匠見習った方がいいんじゃないのか?」

「あ、レンさん、晶さん。」

 

馬鹿な事をやってると、レンさんと晶さんがやってきた。

レンさんは俺の回りにいる皆を見て回った後、嫌な笑いを浮かべながら俺の頭を肘で小突いてきた。

 

「しかし速人君もすみに置けんなぁ…ちょう目を離した隙にこんな可愛い子三人も連れとるなんて。」

「可愛いのは認めますけど連れてるって…」

「案外速人も師匠みたくなったりしてな。」

「いや、俺は兄さんみたいに朴念仁のまま擬似ハーレム満喫するような真似はしない!」

「おい。」

 

 

ふと、俺達のやり取りを見ていたディアーチェが声をかけてくる。

そして、レンさんと晶さんを見た後、首を傾げる。

 

 

「こいつらにお前の師をやれる腕があるとは思えないが?」

「こらこら!確かに競技の修行だけど実戦でも俺や兄さんのレベルに片足突っ込む位には」

「おいおい速人、片足なのはこっちの亀だけだろ。」

「そやなぁ…どっかのおサルは専門分野でも速人君に負けた訳だし片足すら怪しいな。」

 

 

ディアーチェが疑うので二人の事を説明しようかと思ったのだが、返って墓穴を掘ってしまったらしい。

 

何かいつもの展開になりそうな気がする。

 

恐る恐る振り返り…

 

 

「ほいっ!!」

「だあぁぁ!」

 

 

飛雲天砲。

 

 

両掌による突き上げを直撃して吹き飛ぶ晶さん。

天井近くまで吹っ飛んだ晶さんは体勢を整えて落下しながら蹴りかかる。

 

…何であんな空中戦じみた動きが出来るのか。なのはは多分魔法で飛んでても同じ事出来ないぞ。

 

蹴りを腕で受けたレンさん。しっかり衝撃を殺している辺りは凄い。

何しろ蹴り受けて一歩もずれてないんだし。

 

着地した晶さんとレンさんは互いに構える。

 

 

 

 

静まり返る一同。

 

 

 

二人の試合ってそこらの格闘技の試合よりはレベル高いからな。

そりゃいきなりあんなもん見られたら呆然とするほか無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…見慣れてる人以外。

 

 

 

 

 

 

俺はそっとその場を離れる。

 

 

 

「二人とも!!」

「「あ…」」

 

まったくようやく気づいたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはの目の前で喧嘩してただで済む訳ないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

下手すると開始前に止めなかったって俺まで怒られる可能性があるのでさっさと離れる事にしたのだ。

 

 

「折角パーティーの最中なのに喧嘩するってどういう事!?」

「や、やだなぁ…俺達こんなに仲いいぜ。」

「そ、そやよ。気になっとったみたいやからちょう演舞して見せただけや。」

 

 

完全にお怒りのなのは様を前に晶さんとレンさんは肩を組んで無理矢理笑う。

 

 

「こんな所でいきなり始める理由は?」

「「ありません…」」

 

 

揃ってうな垂れる我が格闘の師匠達。

悪い二人とも。説教を避けられたのは危険回避能力の違いだと思ってくれ。

 

 

 

 

と、内心安心していたのだが…

 

 

 

 

 

「で、誰が朴念仁で擬似ハーレムを形成していたと?」

「あ…」

 

 

 

 

背後からかけられた声に振り向くと…

 

尊敬すべきお兄様がその拳を振り上げておりました。

 

…回避できてねー!!

 

「と、徹を全力で叩き込むのは勘弁しでぇっ!!!」

 

頭を叩かれた衝撃で目の前に火花が散った。

な、なるほど…ディアーチェが泣いて怯えるわけだ…

 

 

 


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