なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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幕間・裁判の前に

 

 

 

幕間・裁判の前に

 

 

 

「速人さん、少し無茶が過ぎるんじゃないかしら?」

「リンディさんこそ、こっちが管理外世界だって事忘れてませんよね?唐突に病気が治るめどが立って唐突にいなくなって、しかも一般人ならともかく入院患者が。そんなんで周囲がホイホイ納得できる訳が無いでしょう。」

 

俺は今、はやてたちの裁判なんかのための出立を一日遅らせる交渉中だった。

 

何しろ、いきなり病院からいなくなるはしばらく戻れないわじゃ書類上の対応がいくら完璧にできた所で不安を残す事になるし、折角クリスマスなんだからパーティーやるくらいの時間は欲しい。

 

当然後者の理由など話す馬鹿はやらないが、話さなくてもリンディさん達は感づいているだろうから中々に難しい。

 

「うーん…確かに折角の翠屋さんのケーキがクリスマス当日にいただけないのは残念だけれど、ちょっとこの状況じゃあ…」

「ならば私の自宅を調査するといい。事情聴取含め一日位は使えるだろう。」

 

悟っているとは言え本命の内容を口に出さないでくれと思っていると、グレアムさんが現れた。

 

「あれ、それまだ済んでなかったの?」

「捕まっていただけで詳しい話は何もね。で、どうかな?」

「…分かりました、そう言うことであればはやてさんの方は明日の早朝からという事にしましょう。」

 

 

これで全て上手くいった。と思ったんだけど…

 

 

「ただし、各地で実際に戦闘を行っていた守護騎士達は自由にする訳には行かない。こればかりは君に何を言われても許可する事は出来ないぞ。」

「む…」

 

そこに関しては返す言葉が無い。

で、結局許可できるのははやてが戻ることだけという事になって、それを集まっていたはやて達に伝えに行った。

 

「ほんなら私も残るよ。マスターの私だけ降りてノンビリって言うのは」

「いえ、地球で過ごしてきてください主はやて。」

「裁判とかになったらぜってー簡単には戻ってこれねーからな。あたし等が暴れたのにはやてまで付き合うことはねー。」

 

拒否しようとしたはやてだったが、シグナムとヴィータに薦められる。

 

「俺としても病院の先生やすずかにはある程度話しておくべきだと思う。だからちょっと交渉したんだし。それに別に長い別れって訳でもないし、むしろこんなとこですし詰めになってる位なら土産話を拾ってくる位の感覚で下りたらどうだ?」

「そうね。私も海鳴の話は聞きたいわ。」

「主が我々のために友人と過ごす時間を裂かねばならぬ方が苦痛です。折角の機会なのですから降りてください。」

 

渋い顔をしていたはやてだったが、守護騎士が満場一致で降りることを薦めた為、はやては一度降りることにした。

と、なのはが少し辺りを見回した後、俺を見て問いかけてくる。

 

「ユーノ君は?」

「転送魔法の件で呼び出されて怒られた後、宵の巻物周辺の裁判と守護騎士の裁判どうにかするために無限書庫でひたすら情報収集。」

「クロノ…だよね。それ言ったの。」

 

俺の答えに苦笑するフェイト。

振った俺が言うのもなんだが、心労が一番でかいのはクロノの筈だからアイツに巻き込まれるのはしょうがない。

 

「どうしてユーノ君がとばっちり受けてるのにお兄ちゃんは平然とここにいるの?」

「キーコーエーナーイー。」

 

ジト目で俺を見ての妹の問いかけを宇宙人風にスルーする。

 

俺の方は管理外世界の住人ってのも理由の一つだが、何より大きいのは宵の巻物だ。

下手に出頭を強要されたり受け入れたりすれば、いつ何されてもおかしくない。

 

 

宵の騎士となった四人を護るつもりなら出来るだけ管理局は避けるが吉だ。

 

 

って事情があるが、話したところで空気が重くなるだけなので軽く装う。

なのはの反応もその方が面白いし二度お得だ。

 

と、なのはの反応を楽しんでいると軽い威圧感を感じる。

 

目を向けると、シグナムが少し難しい表情で俺を見据えていた。

 

 

 

「高町速人…お前は自分のした事がどういう事かは分かっているのか?」

 

 

 

守護騎士一同が俺を見てくる。

シャマルとヴィータは少し悲しそうに、ザフィーラとシグナムが少し厳しい視線を向けてくる。

 

 

間違いなく、リインフォース・フレイアの事だろう。

 

 

互いにいるけどリンクが無いって状態ではやてとフレイアは過ごさなきゃならない。

 

「これが最善の状態って言うのが申し訳ないとは思うが、他は特に何も。」

「何だと…」

 

アッサリ言うとシグナムの顔が強張る。

や、気持ちは分かるが、代案が消滅以外に無い人から何を言われても謝罪は出来ない。

死なせたくないから気張ったのに、生かしてごめんなさいとか言う馬鹿はいない。

 

でもシグナムたちのほうが真っ当な気持ちだろうし、主人や友人の事で怒ってる人と喧嘩するのも…

 

「あの…シグナム、速人は…」

「ストップフェイト。クリスマス位楽しくやろうぜ。」

 

俺の話をすればなんで生かしたかなんてはっきり分かる事だが、死体山積みにした話なんてクリスマスにする話じゃない。ましてや大本がキリスト様の生誕祭らしいからな。

 

どうするか…と考えて、妙案を思いついた。

 

『フレア、ちょっと頼みがあるんだが。』

『鍛錬中だ、後にしろ。』

『後でいい。俺達アースラ降りるんだけど、フレアからちょっと俺周囲の関係者に俺の過去話しといてくれない?』

『な!?』

 

思いっきり驚くフレア。そんなに過去を喋るのが珍しいのか?

 

『自分で話すべきじゃないのか?』

『だから、俺これから降りるんだって。それに、御法度だから話すとまずいと思って話して無かっただけで別に話すのに抵抗ないし。お前だって無神経だから大丈夫だろ?』

『人を何だと思ってる…だが何故そんな事を?』

『リインフォースがリンク切れた状態で残ってるのが納得いかないらしくて、騎士として介錯してやりたそうにしてる奴がいて怒られてる。』

『なるほどな…』

 

フレアから若干呆れ気味な返答が帰ってくる。

別に本当に無理はしてないんだが…

 

『だが何故他の者にも?』

『ついでだついで。…記録に残ると俺の管理世界での行動がまずい事になりそうだし、一応世間話的な位置づけで頼む。』

『どんな世間話だ…』

『承諾してくれたら兄さんに試合してくれるように頼んでもいいが?』

『分かった、任せろ。』

 

散々渋っていたフレアだったが、兄さんとの試合を引き合いに出したらアッサリ承諾した。

完全生身での戦闘技法については俺より遥かに上だって知ってるもんなフレアも。

業を知りたいフレアにとっては願っても無い申し出なんだろう。

 

承諾が取れたところで周りを見回すと…

 

「お兄ちゃん…念話してたでしょ。」

「え、あぁ。」

 

…マルチタスクで無いと周囲に気を配る事ができなくなるんだった。

 

きっと無言で突っ立ってただろう俺を皆揃って妙な目で見ていた。

 

別に念話はそこまで難しい訳でもないんだからちゃんとマルチタスク…適当運用しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

アースラから降りた俺達は家に帰ることにしたが、はやてとフェイトは病院に向かった。

 

はやてを連れて行く人が必要になるし、何でもアリシアが起きそうな目処が立ったらしいから様子を見ておきたいとの事だ。

 

ついていけたら良かったが、翠屋が現在クリスマスフィーバーで大忙しだろうからなのはは手伝いにまわしたほうがいい。

俺の方は、これから一緒に暮らす四人にこっちの事を色々話しとかなきゃならない。

 

一応なのは達の情報持ってるから大丈夫とは思うが、色々と擦り合わせは必要になるだろう。

 

ちゃんと話しても今の所全部守ってくれそうなのがフレイアとシュテルぐらいなのが悲しいところだが…そこは連れて来た俺が気張るしかない。

 

フェイト達と別れてしばらくして、家も近くなった頃になのはが重々しい声を出す。

 

「あのねお兄ちゃん…」

「どした?」

 

言い辛そうに何か言おうとするなのはに、出来るだけ静かに聞き返す。

少しだけ間を置いて、なのはは続きを話出した。

 

 

 

「魔法の事…皆に話そうと思うんだ。」

 

 

 

意を決したように告げるなのは。だが…

 

 

 

「とんだ阿呆だな。我等を連れて魔法の話無しにどう説明をつけると言うのだ。」

「にゃ!?」

 

 

 

後ろをついて来ていたディアーチェに一蹴されて面白いように顔を歪めた。

折角なので追撃しとくか。

 

「リンディさんには許可取ってある。実際管理外世界とはいえ魔導師引き抜いたりするのに話す例もあるんだと。大体父さん達が感付いて無い訳無いだろ。」

「ぅ…でもその…私がやって来た事をちゃんと話したくて…」

 

かなり意を決しての発言だったらしく、ボコボコに突っ込まれてとたんに歯切れが悪くなるなのは。

けど、そう言う事ならいいタイミングだな。どのみち宵の騎士一同の説明はしないといけないし、丁度いいと言えば丁度いい。

 

「いいんじゃないか?」

「そ、そんな簡単に言われると…」

「馬鹿言え、キツいのは俺なんだぞ?お前が骨折したとかリンカーコア抜かれてぶっ倒れたとか言う話する訳だから…」

 

アレ?なんだろう?真剣抜いて稽古をついやり過ぎちゃったって感じにぶった斬ってくれる兄さんの姿が浮かぶよ?

ははは…疲れてんのかな?

 

「私の怪我は私のせいだから…怒らないように言うから大丈夫。」

 

なのははそう言って笑いかけてくれる。優しいなぁ…

だがなのは、悲しいかなまだ戦闘者にカウントされて無いお前と俺じゃ対応違うんだよ。

とはいえ我が妹の心遣い。ありがたく受け取って頭を撫でる。

 

「ボクの事子供だなんだ言ってたくせに自分だって子供っぽいじゃないか!」

「あ…」

 

レヴィの不満下な声を聞いたなのはは慌てて俺から離れる。

む…これが兄離れなのか?

 

離れたの追っても仕方ないので不評だったレヴィの頭を撫でる。

 

「わ!わ!」

「そんな驚かなくても…気持ち良くないか?」

「え、おお!何かあったかい!」

「だろ?別に子供っぽいとか思う必要ないって。」

 

大人ぶると結構そういうこと気にするらしいが、殆ど殺人兵器と化していた俺でも美沙斗さんに助けられて頭撫でられた時に感じた温かさは覚えている。

『手当て』なんて言葉があるくらい、癒しや温かさが伝わるんだ。意地で拒むのはちょっと勿体無い。

 

「なのは!これ凄いな!何かこの辺まであったかい!!」

「…うん、私もそう。」

 

胸を抑えて手放しで褒めてくれるレヴィに対して、なのはも少し笑顔で答えてくれた。

あ、良かった。子ども扱いとかで不評だったら悪いし。

 

「良ければ私もお願いできますか?」

「へ?」

 

予想外のシュテルの名乗り。

流石に冷めた目で見てるんだろうなーと思ってたからちょっとビックリ。

 

「情報として様々な事が残っていますが、実際にどうかは試してみるまで分かりません。事実ありえない組み合わせとして登録されていたリンディの砂糖茶は悪くありませんでしたから。」

 

あれを飲んだのか。

 

なのはは日本人としての深層心理が納得して無いらしく、引きつった顔でそれを見てた。

俺もいい悪いは別として、組み合わせるなら端的に混ぜるよりもっと工夫とかあるだろと思って遠慮した。

食用ガエルと野良のカエル位、試行錯誤した料理か否かは違う気がする。

 

とはいえ、チャレンジ精神から頭撫でられるって言うのもシュテルらしい。

 

「分かった。それじゃ…」

 

目を閉じて待つシュテルの頭を撫でる。

 

「…特別何もない筈なのに安心できますね。温かいという表現も分かる気がします。」

 

言いつつ、僅かにだが微笑むシュテル。ウケが良くて何よりだ。

 

「は…揃いも揃って餓鬼か貴様らは…」

「ディアーチェにはそうそうやらないから安心しろって。王様として格好保つならちょっと方向性違うもんな。」

「む…ふん、知ったような事を…」

 

ぼやくディアーチェだったが俺の予想が当たりなのかバツが悪そうに他所を向く。

流れで残されたフレイアを見るが…

 

小四の俺とシグナムとそう変わらん身長のフレイアとじゃ俺が頭撫でても変だな。背伸びして届くって位だし。

とは言え仲間はずれも変だし…と、考え込んでいると…

 

 

 

頭に手を置かれた。

 

 

 

「私は大丈夫ですから、どうか気に病まないでください。」

 

 

当のフレイアに笑みを向けられつつ頭を撫でられていた。

 

…主って言ってもまだまだ子供か。

 

はやての事で無理してる筈だろうフレイアにも幸せを分けてやれるくらいに強くなろうと、頭から感じる温かさに身を委ねて改めて決意した。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

ライトから語られた、始めての邂逅の時いきなり豹変した高町速人の真実。

 

 

 

返す言葉が無かった。

確かに悪いとも何とも思わないわけだとはっきりと理解できた。

殺さない事が苦しめる場合もあるなどと、言える筈も無かった。

 

「確かにありえねーな…はやてがやばかった時はあたしらでも思う事あったってのに、殺意も敵意も無いまま必殺の一撃を放てるなんて。」

 

一番懸念すべき点はそこにある。

自動機械ですらする攻撃の際の反応。それが奴からはまったく感じられなかった。

魔力反応を殺す等の技術もそうだが、何より機械と同じかそれ以上に殺す事に対して何も思っていない者でなければ不可能だ。

 

仕方ないとか、戦いだとかそんな問題じゃない。

まるで作業のように…意識しなくても勝手に呼吸しているように何も考えずに殺せる。

 

プログラム体の我々とて無理な話だ。戦乱の時代を生きた我らでも、僅かとは言え敵を倒す明確な意思を持って戦っていた。

 

速人のそれは最早異常以外の何者でもない。

 

「僕の私的な意見になるが、僕達が仕方なく非情になるのに対して、彼は放って置いたらどこまでも非情になる自分と戦うために全てを救おうとしているように思える。死者を目の当たりにしてああも切り替えの早い人間は見た事がない。今回彼がその…暗殺者時代のまま事件に望んでいたならば、恐らくリーゼ達も君達も殺されているだろう。」

「初めに我々が地球に下りたときもそうだったな。私は映像記録を見ただけだが…これほどわかりやすい物はないだろう。」

 

ライトは言いつつ一つの映像を流す。

それは魔法を行使していない速人によってライトが倒され、執務官が肩を貫かれる様子だった。

返り血を浴びているというのに怒るでも躊躇うでもなく完全な無表情で執務官の首に刀を添える。

 

「しかし…こうまで冷酷な人間が一体何故あのように…」

 

ザフィーラが呟いた所で、映像の中の高町が泣き叫んでいる妹に目を向ける。

 

しばらく硬直した高町は、自身の額を全力で殴りつけた。

 

深呼吸をしてからはいつもの軽い笑顔を浮かべている。

それを見たシャマルが小さく笑った。

 

「きっと…大切なものが出来て変わった…変わりたいと思ったのよ。」

 

シャマルは映像の中で目元を拭っている高町なのはを見ている。

 

「そうか…ならば尚更無下には出来んな。」

 

何しろそれは、我々が主はやてと出会い、騎士の誇りよりも優先すべき心が芽生えたのと同様だ。

罪状については責められれば謝るほかないが、抱いた気持ちは否定されたところで変わるはずもない。

 

「出来れば…彼がリインフォースを幸せにする事を投げない間はあまり責めないで欲しい。破天荒で異常としか言いようは無いが、命に関しては彼から教わった事の重さを否定できないからな。」

「クロノも真摯な子に育ってくれて母さんは嬉しいわ。」

「やめてください!まったく、恥ずかしい…」

 

執務官の様子に軽い笑みを漏らす一同。

 

 

そんな中、私は一人軽く拳を握っていた。

 

 

 

 

 

全てを救う事は不可能。

 

 

 

だが奴はそれを目指さなければ心の凍った殺戮兵器に成り下がる可能性がある。

救い手として、切り捨てた管理局と敵対した結果主はやての敵に回るならばともかく、もし夢破れて殺戮兵器になったならその時は…

 

 

 

悲劇を積む前に私がお前を殺してやる。

それが、戦う事しか能のない私がお前にしてやれる唯一の礼だ。

 

 

 

私は決意して、妹に泣きつかれている速人の姿を見ていた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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