なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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幕間・事後処理は地獄、頑張れクロノ執務官

 

 

 

幕間・事後処理は地獄、頑張れクロノ執務官

 

 

 

「宵の巻物はただの民間企業が製造したオーダーメイドのデバイスであり、闇の書とは一切の関係を持たず、危険物として没収すると言う意見は心外である。メーカーと製造年月日は記載の通りなので確認されたし…君は管理局を馬鹿にしてるのか?」

 

宵の巻物について説明しろと言うから説明文書を書いて提出したと言うのに、読み終えたクロノに一蹴された。

 

「とことん失礼な奴だなお前。三人とも何の罪状も無いけど、リライヴと転移したのを反省してこんな書類書いてんだからもう少しいい反応してくれよ。それともあれか?著作権…いや、肖像権か?なのはたちのコピーだし。」

 

俺が何か一言言う度にクロノの額がピクピクと動く。目茶苦茶堪えてるな、色々と。

 

「大体闇の書の騎士と同一人物だとしても罪状守護騎士より軽い筈だ。思いっきり人襲って回ってた皆を無罪にしろって言ってる訳じゃないんだから問題無いと思うが?」

「ああそうさ!全く君の言う通りだよ!」

 

素知らぬ顔して言うと、クロノがキレた。

 

「確かに大した罪状も無いし罪人としては彼女達自身は確保する理由も薄い!先に反省文書かせてるユーノからデバイスのメーカーを聞いてすぐに問い合わせたからロストロギアでも無い事も分かっている!だが先の戦闘の映像記録もあると言うのにこのまま報告に行っては確実に危険人物扱いされて最悪逮捕命令まで出る!君はそれでいいのか!?」

「あ、心配してくれてんの?クロノ君優しい。」

「冗談を言ってる場合か!アリシアの時だって君は」

 

続けて叫ぼうとするクロノの口元に人差し指を立てる。

 

「他の人の危機ならいざ知らず、俺が自分の危機の為に彼女達を処分すると思うのか?」

「…君は馬鹿だ。」

 

食ってかかって来ていたクロノだったが、それで力無く息を吐いた。

四六時中こんなんだと禿げそうな気がするなぁ…ご愁傷様。

 

「つーか闇の書事件について報告するなら別に個人の持ち物まで何か言う必要ないんじゃないのか?バレたらお前やリンディさん巻き込むって言うなら黙ってろとは言わないが…」

「君に頼まれたところで報告するときは報告するが、確かに個人の所有物まで報告する義務は無い。たがそれも闇の書と関係なければの話だ。」

 

…確かに姿形全く同じじゃ別物ですって言った所で無理があるか。

管理局への無償奉仕も多分俺との方針の違いとか三人の管理局への嫌悪とかで上手くいかないだろうし、やり合うしか無くなったかな?

 

と、思った所でクロノは小さく息を吐いた。

 

「君と戦うのもごめんだし、宵の騎士達の助力を得た君がリライヴの味方になったりしたら管理局最後の日にすらなりかねない。出来るならやめてくれ。」

「あれ?よく考えてる事分かったな?」

 

気配遮断を…心を殺す事を戦闘技法の常としている俺が大して長い付き合いじゃないクロノに感づかれるとは…何かちょっと悔しい。

 

「僕だってありもしない罪状を着せる趣味はない。だから出来る限りの事はするが…管理局として宵の巻物の回収が決定すれば覆す気はない。頼むからこれ以上何もしないで大人しくしててくれ…」

 

逮捕大好きだからこんな事言ってるわけじゃない事くらい重々承知している。

しかも今回は随分無茶苦茶やったし、オマケに危険物が大本の三人まで無罪放免にしろとか…正直組織説得するにはきつい筈だ。

 

だが、宵の巻物はあくまでデバイス。下手に手の届かないところに持っていかれたら無理やり所有権書き換えられたり初期化されてハイさようなら何て可能性もある。

そうなればフレイアを含め四人とも御陀仏決定。クロノやリンディさんが止めようとしてくれたとしても強硬派のおっさんとかもきっといるだろうし、そう簡単に渡すわけにはいかない。

 

「分かってるって。三人も不満そうな顔しながらだけどアースラまで付いて来ただろ?管理局を信用してないなら俺かフレイアを信じてないと付いて来れる訳がない。だからまぁ警戒するなとは言わないが少しくらい認めてくれ。」

 

額を押さえて深く息を吐くクロノ。そうでもしないと落ち着けないんだろう。

自分でやっといてなんだがこれだけ問題山積みにすればさぞ管理する側としては胃が痛いだろう。中間管理職?も大変だなクロノ。

 

「知り合いから良い胃薬貰ってこようか?」

 

心配して言ってみたが、クロノの肩が震えだして眉間がピクピクと動き出したのを確認した俺はクロノが限界に達する前に静かに部屋を出た。

でもマジで胃薬はリンディさん辺りに渡しておこう。悪いけど頑張ってクロノ。

 

 

 

 

 

話してた部屋を出て、集まってるはずの食堂へ向かう。

 

「~よ!」

「~芥!」

 

と、件の食堂から何かやたらとでかい声がする。

って言うかこれ間違いなく喧嘩だろう。

 

問題起こすなって言われたばっか何だけどなー…

 

「あ、主…」

「とりあえず戦闘って感じじゃないが…どうした二人とも?」

 

俺が顔を出すと、子犬のような表情で俺を見てくるフレイアと、睨み合っているレヴィとディアーチェの姿があった。

声をかけた俺にすぐさま反応したレヴィが駆け寄ってくる。

 

「ディアーチェがボクの分のお菓子を取ったんだ!なのに」

「王たる我が食すに値するものと判断したのだ。喜び勇んで献上するのが下々の者の仕事だろうが。」

 

二人の話で事情は一発で分かった。

あーなんかいいなぁこう言うの。命の取り合いやってた娘がお菓子の取り合いで一喜一憂してくれるなんて。

 

と、とてつもなく微笑ましい光景で多少の喧嘩ならこのまま見てようかとも思ったが、生憎クロノの心労増やしたり、管理局の心象を悪くする訳には行かない。折角クロノが頑張ってくれるらしいし、ここはディアーチェに謝らせるべきだろう。

 

「言っておくが、我は謝らんぞ。」

「流石に察しがいいな。どうしてもか?」

「そこまで謝らせたければ強制すればよいだろう。」

 

あごでフレイアを指すディアーチェ。

確かに管制機能を持っているフレイアに無理やり謝るように命令することはできる。

けど、それは思いっきり違う。

 

「お願いするのと命令とは違う。俺はそうそう家族にそんなもん使う気は無い。」

 

しばらく俺と視線を交わしていたディアーチェだったが、飽きたかのように目線を逸らした。

 

「甘い奴だ…」

「とはいえ…まさかお咎め無しって訳にも行かないけどな。」

「は?」

 

ディアーチェの傍までよっていった俺は、その頭に『徹』込みの拳を叩き込んだ。

 

椅子から転げ落ちて頭を抑えてごろごろとのた打ち回るディアーチェ。

 

呆然とするフレイアとレヴィを横目に、俺は頭を抑えているディアーチェを抱き起こした。

所々に着いた汚れを叩き落としながら話しかける。

 

「床転がるなって、汚れるぞ?」

「あ…い…く…き、貴様が言うなっ!!」

「そんな痛かったか?ま、でもこれが嫌なら人の嫌がる事はしないように。楽しみにしてたもんとられるのは結構辛いぞ?俺もアニメの録画予約ミスって何度泣いた事か…」

 

思い出したら悲しくなってきた…まぁしばらくしてDVDが出たから問題は無かったけど。

 

「か、仮に悪かったとして絶対ここまでの事はしておらんわ!古代ベルカの拷問並みだぞ今のは!?」

「あれ?そんな酷かった?おかしいな、加減はしたんだが…兄さん達と訓練してる時は木刀とか蹴りで喰らうのに…」

「何故生きてる貴様!?」

 

何故生きてるって…酷い言われようだが、毎朝痣だらけで登校してたしやっぱ異常なんだろうな。古代ベルカの拷問と同じ位ってのも酷い話だが。

 

俺は立たせたディアーチェの前でもう一度手を振り上げる。

 

「あ…ぁ…ご、ごめ…っ!!」

 

謝りかけたディアーチェがプライドなのか無理やり歯を食いしばったところで…

 

俺はディアーチェの頭を撫でた。

 

「拷問並みってのはやりすぎだったな、ごめん。痛かったろ?」

「ふ、ふん…」

 

ディアーチェが落ち着いたところで俺はレヴィに目を向ける。

 

「流石に食べたもん取り返すわけにも行かないから、家に行ったらシュークリーム奢ってやるよ。それでいいか?」

「あ、う、うん!それでいい!」

 

元気に返事を返してくれるレヴィ。これだけ喜んでくれると奢り甲斐もある。

 

「す、すみません…監督しきれずに…」

 

と、申し訳なさそうに謝ってくるフレイア。

二人を任せたのに喧嘩になったからか。

俺としてはこれ位なら微笑ましくていいんだが…多分今後も修行とかで家出てる時はフレイアに任せる事になるし、もうちょっと頑張ってもらうか。

 

「そだな、それじゃ第二ラウンド行ってみようか。」

「は?」

「シュテル探してくる。当てもなくさまようからしばらくよろしく。」

「な、あ、主!?」

 

慌てたフレイアの声を背に、俺は食堂を出た。

 

 

 

Side~クロノ=ハラオウン

 

 

 

「まったく、彼は何をやっているんだ…」

 

僕は呟きつつ食堂のモニターを閉じた。

魔法戦でも始めようとすれば管制担当のフレイアが強制的に止められるらしいから喧嘩以上になる事はないはずだが、それでもこの短時間で騒ぎを起こしかけるのはいただけない。

 

だが、監督役として力技が過ぎるが、彼女達のいさかいを止めた速人は多少なり認めなければならないだろう。

 

 

 

…家族…か。

 

 

 

速人が何の違和感も無く告げた台詞に心が痛む。

 

宵の巻物を没収、回収、処分する事になると言う事は、それがそのまま速人の言う家族を殺す事と同義になる。

速人の屁理屈だけでどうにかできるとは思えないが、それでも彼女達を死なせないためにも全力を尽くす他無い。

 

幸いにも資料集めが得意なフェレットが現在無償奉仕の真っ最中だし、死ぬ気で頑張ってもらう事にしよう。そうしないと割に合わない。

 

今後の事を話し合おうと母さんの下へ向かい…

 

 

「中々美味ですねリンディ。何事も試してみるものです。」

「気に入ってくれて嬉しいわシュテルさん。この後は彼と一緒に暮らすつもりなのでしょう?ぜひ薦めてみてくれないかしら?」

 

…シュテルと名づけられた少女といつものお茶を飲んでいる母さんの姿を見つけた。

 

「艦長…彼女がどういう立ち位置なのか分かっているのですか?」

「そうだったわね。折角の同士だもの、早く面倒ごとから開放してあげないとね。」

「か、艦長!?」

 

一応忠告のつもりだったのだが、ずれた返答をされた。

シュテルも少し驚いたのか滅多に変わらない表情が少しだけ動く。

 

「良いのですか?」

「あら、だって貴女無罪じゃない。今も暴れるでもなく普通に過ごしてるだけだし、文句は無いわよ。」

「そうですか…もしその通りになれば、管理局は嫌いですが貴女個人の願いは聞き届けましょう。」

「それは家のとっても優秀な執務官がバッチリ頑張ってくれるから心配しなくていいわよ。」

 

言いながら硬い握手を交わす二人。

いつの間にか傍にいたエイミィが僕の肩に手を置く。

 

「頑張れ男の子。」

 

あんまりな状況に、僕は胃を抑えて肩を落とす。

こんな事なら速人に胃薬を貰っておくべきだったかもしれないな…

 

 

 

SIDE OUT

 

 


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