第二部最終話・新しい未来へ
Side~リライヴ
「ま、予想通りだったけどね。」
「ちっ、つくづく出来るじゃない…」
私は闇の書の本体を両断した直後に展開されたバインドを魔力刃で切り裂いた。
猫耳を生やした二人の女性。戦闘スタイルを見るに、恐らく…
「仮面の男の正体って所だね、犯罪者に犯罪者当てるなんてなかなか面白い事するよ管理局も。」
「アンタと同類呼ばわりされる気はない!」
格闘戦を挑んでくる猫耳さん相手に私は剣を振るうが…あんな大技を放って余裕なんてある訳がない。
おまけに、まだ彼女にやられたダメージが残っている。
「あんまり時間をかけてもしょうがない、引かせてもらうよ。」
私は元の服装に戻ると同時に胸元のビンを投げつける。
ビン同士が空中でぶつかって砕けた瞬間…
爆発が起きる。
爆発にまぎれて海に飛び込んだ私は、そのまま転移魔法を行使して海鳴を離れた。
Side~リインフォース
医務室にいた私達の元に、クロノ執務官が姿を見せた。
今後の話かと思っていたが、そちらは現場での事後処理がすんだ後になるらしい。
そうなると何があってきたのかと思ったが、単純に様子を見に来たわけでもなかった。
白い魔導師…リライヴを捕らえようとして逃げられた、その詳細を伝えられた。
「そうか、さすがはリライヴと言ったところか。」
「ああ、まったくいいようにやってくれたよ。」
将の言葉に対して、執務官が何処かすがすがしいように肩をすくめた。
立場がどうあれ、好ましい手段ではなかったのだろう。皆も何処となく安心したような表情を見せている。
犯罪者としてだが、主を救うために屈力してくれた者に対して、共闘終了直後に奇襲等といった騎士として恥ずべき行為を行ったのだ。それで捕らえられてはやはり喜べないだろう。
執務官は用が済んだのか戻ろうとする。ダメージもあるはずだが、仕事が多いのだろう。
だが、その前にやってもらう事がある。
「執務官、頼みがある。」
「ん?何だ?」
「私を…消滅させてくれ。」
その場にいた全員から、驚きと悲しみをたたえた表情を向けられる。
だが、これは成さねばならない事なのだ。
「暴走体そのものは切り離せたが、システムそのものは私のものだ。いずれそう遠くない未来に今回のような事が起こる。私と暴走の関係が切れていない事は彼女達の生存が証明済みだ、命がけで彼女達を救い出した彼には悪いが、私と彼女達は消滅するしかない。」
執務官は少しだけ表情を歪めると、騎士達を見回す。
「だが、そうなると守護騎士の彼女達も消えてしまうのではないのか?」
「そちらの心配はない。夜天の書の騎士として修復した際に既に既に守護騎士システムから独立させている。消えるのは私と、彼女達だけだ。」
私は普通に話しているつもりなのだが、周囲の雰囲気が重くなる。
…無理もないか、消えるのが騎士達や主なら、私もきっと笑顔ではいられない。
「主と騎士達を救ってくれて、私を無限の暴走から救ってくれた事、本当に感謝している。だから、何も後悔はない。」
「分かった。許可を取ってくるから準備をしておいてくれ。それと、はやてには?」
「伝えないでくれ。主の涙が最期と言うのは…少し寂しい。」
本当に心が軽い。
私はきっと自然な笑みを浮かべていたと思う。
Side~高町なのは
リインフォースさんが消えなくちゃならないのはとても悲しかった。
お兄ちゃんとリライヴちゃんが必死で救った三人を、勝手に消しちゃう事が許せなかった。
でも…抵抗も出来ないまま操られて、自分の大切な人を傷つける事が、どれだけ辛いかなんて私には分からない。
そんな苦痛を味わい続けたリインフォースさんが、また同じ事になるなんて、望むはずがない。
私だって、自分が誰かに操られて家族や友達を傷つけて…それを見続ける事になったらきっと堪えられない。
「ふん…仲間が命がけで繋いだ我らの命を、世界平和のために本人が眠っている間に奪おうとは、随分下衆なまねが得意だな貴様ら。」
「分かっているが、暴走を切り離し、葬る事を選んだのは私だ。責めるなら私だけにしてくれ。」
王さんが私達を睨んで告げた言葉が胸に痛い。
今から消えようとしているリインフォースさんに庇われてる事が、かえって辛い。
フェイトちゃんも同じ気持ちなのか、今にも涙が見えそうな表情で固まっていた。
「そんな事どうでもいい!君達は平気で残るくせにボク達には消えろって言うのか!そんなのずるいじゃないか!二対一といい何で」
「やめなさい!見苦しいですよ。」
そんな二人の抗議を止めたのは、同じく消される星光ちゃん。
「私達が勝てば彼等達が消えていたのです、ならば逆もまた然り。状況や手段はどうあれ私達は負けた。それに彼等の仲違い自体は私達には本来関係のない事柄です。」
一つも表情を変えない星光ちゃんだったけど、私とフレアさんを見て微笑む。
「決着がつく前に横槍が入りましたが…心躍る良い戦いでした。もし機会があれば、今度は決着がつくまで死合いましょう。」
「私もそこの二人ではなくお前と死合えた事は幸運だった。破壊されるより苦痛もないはずだ、安らかに眠ってくれ。」
フレアさんは礼儀正しく返したけど、私はすぐに返事をするのが躊躇われた。
申し訳なかったのもあるけど、試合の言葉に危ない雰囲気を感じたから。
そろそろ儀式を始めよう。
そうリインフォースさんに促されてレイジングハートを掲げ…
「リインフォース!!」
ようとした所で、はやてちゃんの声が聞こえた。
止めたいのも分かるけど、でも駄目だ。
私だって本当はすぐにでもやめたい。方法を探そうっていいたい。
だけどリインフォースさんは、きっとそれを望んでいないから。
車椅子で走ってくるはやてちゃん。
「あっ!!」
けど、小石で跳ね上がったのかバランスが崩れた車椅子からはやてちゃんが落ちる。
うつ伏せに崩れ落ちたはやてちゃんがその顔を上げて…
風を感じると同時、私の身体は宙を舞っていた。
SIDE OUT
「にゃぁぁぁぁっ!!」
「わあぁぁぁぁっ!!」
「わぷっ!?」
なのはとフェイトがはやての横を滑って盛大に雪を巻き上げる。頭からそれを被ったはやては首を振って目を瞬かせた。
なのはを投げ飛ばしたのは俺で、フェイトを投げ飛ばしたのは…
俺が念話で呼び出したリライヴだった。
もっとも念話が届く距離にいたって事は様子を伺っていたって事だが。
「リライヴ!?君はまだ」
「速人が呼ばなかったら別に普通に見送ってたけど、確かに命がけで助けたのを無視して消すって言うのはいただけないかな。」
クロノが即座に反応してデュランダルを手にする。
やっぱこのまま素直にはいかせてくれないか。
フレアも俺はともかくリライヴは捕らえる気満々みたいだし…
さて、どうすっかな…ここを抜ければ万事解決なんだが。
リライヴの手を借りる以上、素直に見逃してと言っても聞いてくれないだろうし。
『速人!目くらましをお願い!』
考えていると、唐突にユーノから念話が入る。
くーっ!ちくしょう本当にいいタイミングで来るなぁ!!
「風よ!!」
俺は軽く竜巻を起こして周囲の雪を巻き上げる。視界を奪われた状態でリライヴに向かうフレアだったが、気配遮断を使用して背後から鋼線で絡めとった後適当に投げる。
リライヴの方も接近してきていたクロノを吹き飛ばしたのか、魔法陣中央へ飛ぶ。
俺もすぐに近づいて…
ユーノの転移魔法で、別世界へ飛んだ。
行く先を眩ます為に何度か転移を繰り返した後、俺達は息を吐いた。
「ははははは!ユーノのお陰で楽勝だった…なぁ?」
余裕を装おうとしたが、身体に力が入らずふらついて座り込む。
「速人…またあの時の力を使ったの?本当無茶ばっかりするね君。」
リライヴの言うとおり、完全に限界を迎えてる身体で使用するには無理があるらしい。
正直歩くのも面倒だからな今は。
とはいえ、いつまでも座っているわけにも行かないから、俺はゆっくりと立ち上がる。
「で、デバイスを整備出来る所へ来て欲しいって言うから来たけど、どうするの?」
「ま、待ってくれ…私はもうこれ以上」
「迷惑かけたくないって言うのは無しね。そこのヒーローさんは暴走体と戦うより貴女に死なれる方が比べ物にならない位迷惑らしいから。」
正直リライヴの言う通りだ。美人で儚げな人なんて美人揃いの俺の周辺…って言うか兄さんの周辺でもそういない。そんな女性と女の子三人が救えるって言うんなら暴走体の百や二百、軽く相手になってやる。
…念のために言っとくけど、男の子だって救ったからな!ヒーローなんだから!
と、内心で言い訳まがいの事を済ませた後、俺は四人に向き直る。
「当然手段はあるから安心してくれリインフォース。って言いたいとこだけど、ちょっとお気に召さないかもな。」
「どういう事だ?」
もったいぶってる場合でもないので、俺はナギハに取っておきを出してもらう事にする。
「これが俺のとっておきにして今回のキーアイテム!その名も『宵の巻物』だぁっ!!」
宣言と同時、ナギハから一つのスクロールが飛び出す。装飾のない茶色系の様相は俺の好み。なんとなく古代の魔道書って感じがする。
「これは…デバイス?」
「そう!その通り!けど外装だけで中身は空っぽ。さて、じゃあどうしようかなーって思ったんだけど、何か凄く都合いいことに優秀な管制人格と守護騎士が三人も!これは貰うっきゃないね!!」
俺がそう締めくくると、合点が言ったのかリライヴは額を押さえて俺を見た。
これは以前、ユーノに話した守護騎士達の救済方法。
デバイスの方はユーノがスクライアの一族に資金その他もろもろ工面して準備してくれた。
中身からだからそんなに高価にならなかったとは言え、容量は入れる予定のものの関係上かなりでかいからきっとそんなに安くもなかったはず。
本気で感謝しないとな、逃げられたのもユーノのお陰だし。
「…つまり、身体が存在できない原因なら、皆纏めて引っ越せばいいって?君にしては随分荒い考えだね。それをやったらはやてとのリンクが切れた状態で生きてかなきゃならない。かえって辛いんじゃない?」
「あ…」
リライヴの言葉に俯いてしまうリインフォース。
俺がお気に召さないかもって言った理由はこれだ。そんな事ぐらいは承知しているが…『かえって辛い』か。
「はいここで今のリライヴの言葉に同意した奴手を上げろ。元暗殺者の俺が死と死者について如何に冷たく虚しく悲しく無意味で残酷な結果だって事を三日三晩かかってでも丁寧に教えてやる。」
口調は軽めにしたつもりだったが、俺が本気だったのが伝わったのかリインフォースとリライヴは顰めていた目を見開いて俺を見る。
っと、そう言えばさっきから思いっきり放置してたな。
「お前達はどうだ?抵抗あるか?」
「ない…と言えば嘘になりますが、所詮今の身も貴方の妹の虚像のようなもの。また彼女達と合間見える事ができるのなら、貴方の提案には充分に価値があります。」
「ボクだってこのまま消えるのなんて嫌だ!」
「同感だな、我がこのような所で終わるなどありえん。」
三者三様の同意が返ってくる。
うん、これくらい単純な気持ちで受け入れてもらえれば嬉しいもんだ。
「確かにリンクは切れるし、管理局から見ればレッドカードの三人も一緒に移る以上、このデバイスに移した後はやてと主従関係を結ぶ事もできない。けどな、別の寄代って言っても転生みたいなもんだろうが。それを言うと闇の書から都合よく切り離されるように弄られたヴィータ達も別人になるぞ?戻ったら初めましてとか言った方がいいのか?俺は嫌だ。」
「理屈が通ってるのか通ってないのか、本当に滅茶苦茶だよ君は。」
リライヴは納得してくれたのか諦めたのか、苦笑してリインフォースを見ていた。
当のリインフォースは複雑な表情のまま黙り込んでいる。
「すんなり何でもいいなんて言えるとも思わないし、俺もはやてに微妙な顔されたうえでシグナム辺りに殴られそうな気はしてる。だから、一つだけ約束する。」
俺はリインフォースに向かって手を伸ばす。
「『生きてて良かった』と、必ずそう思わせてやる。これだけは約束する。だからまぁ、色々不安かもしれないけど、俺と一緒に来てくれないか?」
リインフォースは未だに戸惑ったままだったが、暴走体の騎士である三人を見やった後に俺の手をとった。
そんな俺達を少し微笑ましげに見ているリライヴが次の問題を投げかけてくる。
「ラブシーン展開してるところ悪いんだけど名前はどうするの?」
「ラブシーンって何だよ。でも確かに考えないとなぁ…リインフォースがどうするかは別にして三人は絶対必要だし。」
言いつつ見ると、若干予想通りではあったが不思議そうな顔をしている三人がいた。
「名前ではありませんが星光の殲滅者と呼んでもらえれば別に問題はありません。」
「ボクも別にいいよ?」
「我を呼ぶに王の銘程ふさわしいものはない。」
ま、そうだよね。普通に暮らす方法なんてまったく考えてないだろう御三方がそれがどれほど致命的なことかなど分かる筈がない。
「お前らな…病院や迷子センターでそれ呼ばれてみろ?って言うか呼ぶほうにも怒られるし、殲滅者やら襲撃者やら一般人があからさまに不安になる事は避けろって。それと…リインフォースはどうする?」
こっちも問題だ。
そのままはやてから貰った名前で過ごすのもアリかもしれないが、それがはやてに不義理だと言うなら新しく名前が必要だろう。
「私も…新たな名を。」
リインフォースは少しだけ寂しそうにそう言った。
捨てたくはないけど、マスター変わって同じ名は名乗れないってとこか。
うーん、両立できるかな?
Side~八神はやて
速人君がいなくなってしばらくしてから、私はリインフォースとの繋がりが消えたのを感じ取った。
泣き崩れた私をなのはちゃんとフェイトちゃんが両脇から抱きしめてくれて、シグナムは自分のコートを私達にかけてくれて、ヴィータも一緒に泣いて、ザフィーラもシャマルも寒い中待ってくれて…
そんな所に、速人君が一人で現れた。
来るかもしれないと思っていた皆の姿はなく、リライヴちゃんはそのまま逃げたのだろう。
どれだけ頑張ったんか、命がけで戦ってくれたんかはよく知っとる。
だけど…
「何で…どうして…」
言わずにはいられなかった。
私の前で同じように座り込んでいたヴィータが勢いよく立ち上がって速人君の襟首を掴む。
「テメェ…っ!最期の別れのタイミングで問答無用で誘拐しておいて!何素知らぬ顔して返って来てんだよ!!」
握り拳で殴りかかろうとするヴィータ。
本当は私が止めなアカンかった筈やけど、泣いてた私はまともに止める事も出来ないままそれを見ていた。
速人君は顔に向かって来る拳を避けると、いつの間にはずしたのか襟首の手も外れた状態のヴィータを抱えあげて地面に立たせる。
ヴィータはそれ以上何もしないで、力なく地面をたたく。
そんな中で、速人君は懐から巻物を取り出した。
「えーと…宵の騎士システム及び騎士管制システム、起動。」
速人君が呟いた次の瞬間、四つの魔法陣が浮かび上がり…
暴走体の騎士三人と、リインフォースの姿が現れた。
「…始めまして皆様、私は宵の騎士シュテル=ザ=デストラクターと申します、以後お見知りおきを。」
「ボクは宵の騎士、レヴィ=ザ=スラッシャー!」
「ロード=ディアーチェだ、一応名乗るが気安く呼ぶな。」
暴走体の騎士三人は、それぞれまったく関係のない名を名乗る。
そして…
「宵の騎士統括、リインフォース・フレイアと申します。よろしくお願いします。」
一歩歩みでたリインフォースが、そう言って深く頭を下げた。
呆然と、本当に何が起こったのかまったくわからないまま私達は硬直していた。
私だけじゃない。抱きしめてくれていた二人はもちろん、ヴィータもシグナムもシャマルもザフィーラも呆然とたたずんでいる。
速人君は、四人に囲まれた状態で、両手を腰に当ててふんぞり返ると私を見る。
「すまんはやて!これが限界だった!!!」
私達が呆然とする中、なのはちゃんがゆっくりと私から離れて雪を握り締める。
黙々と、氷の塊でも作るかのように力を込めるなのはちゃん。
「…連れて来れたなら…最初から皆で来てよーっ!!!!」
言いながらなのはちゃんが全力投球した雪球が速人君の頭に直撃したのを皮切りに…
フェイトちゃんとヴィータが雪を握り投げ始める。
色々聞かなきゃならない事はあるんだけどとりあえず…
「いらん心配さすなこの馬鹿ヒーロー!!!!!」
私も全力で雪球を投げる事にした。
きっと元の関係に戻る事はできないんだろう。でも、それでも生きてて、無事に来てくれた。
このままだったら、何もできないままだったら消えてた筈のリインフォースとまた話すことができる。
それがとても嬉しくて…大事な事に思えて…ありったけの感謝を込めて私は雪球を投げ続けた。
SIDE OUT
本日はここまでです。
紫天組についてはGOD前に出していた為三人の関係等色々と差異が出ています。