第二十二話・夜の終わり
Side~高町なのは
「パイロシューター。」
「アクセルシューター!」
星光ちゃんの放ったシューターに当たらないようにシューターを操作する。
近付いて来ていた星光ちゃんのシューターはフレアさんの槍で消される。
私が相殺出来ればよかったんだけど、本体から力の供給がある上に私よりも強い星光ちゃんと撃ち合うと幾つか消し切れない。
下手に残っててもフレアさんが近付けないから、攻撃を通すために敢えて相殺させずに撃ったんだけど…
「無駄です。」
綺麗に障壁に防がれた。
まったく難なく防いだ様子を見ると、砲撃の直撃かフレアさんの槍じゃないと通らないかもしれない。
瞬間、バインドで拘束された。
「っ!」
「ブラストファイアー!!」
砲撃魔法が迫って来る中、バインドが破壊されるのを感じた瞬間に息が詰まる。
体勢を整えて何が起こったのか確認すると、すぐに状況はわかった。
「すみませんフレアさん。」
「いいから構えろ。」
私とは反対側で砲撃を避けていたフレアさん。
バインドを破壊して蹴り飛ばしてくれたんだろう。
「やはり二人相手は少々厳しいですね。時が経てば暴走が始まるでしょうが、出来る事ならそれまでに殺しきりたいのですが…」
静かに物騒な事を言う星光ちゃん。
魔法戦を、全力をぶつけ合うのを楽しんでいるのはシグナムさんやフェイトちゃんみたいだけど、大本のせいなのかどうしても話が破壊に向かうみたい。
「悪いけど…ここで殺されちゃう訳にはいかないんだ。」
「わかっています、さぁ続けましょう。」
再びシューターを生成する星光ちゃん。
私も合わせようとして…
『砲撃を撃て。』
そう一言だけ念話が来たと思ったら、フレアさんがいきなり突撃した。
「パイロシューター!」
「あ…」
一瞬反応が遅れたと思ったその瞬間、星光ちゃんからシューターが放たれた。
完全に避けられるタイミングじゃないそれを目の前に、フレアさんは『加速』した。
鈍い炸裂音とともに舞う赤い飛沫。
けど、フレアさんは止まらずに星光ちゃんの前まで辿り着いた。
障壁を展開する星光ちゃんに対して、フレアさんは何も言わずにグレイブを振り抜く。
私の防御は高い方だから、普通の攻撃なら防げると思うけど…
フレアさんの槍は防げない。
「っ!?」
先端が触れた瞬間にまるで何もなかったかのように掻き消える障壁。
何とか躱した星光ちゃんのリボンが宙を舞う。
砲撃を撃てって言ってはいたけど、巻き込めって意味じゃない筈。なら…チャージして機を待つ。
「シャドウムーブ。」
星光ちゃんが闇に溶けるように高速移動に入る。
捨て身で近付いたフレアさんからあっさり距離を取る星光ちゃん。
だけど…高速移動魔法には始めと終わりに停滞時間がある!!
「ディバイン…バスター!!!」
「く…!」
狙っていたからチャージは十分、後は当てるだけ。
私が元なら、フェイトちゃん程得意じゃない高速移動の終わり。
避けようのないタイミングで放った砲撃は、星光ちゃんを飲み込んだ。
Side~フェイト=テスタロッサ
「はっ!」
「っ、この!!」
速度を生かして擦れ違う瞬間に一閃。
防いだ彼女は私に向かって来ようとする。
けど…
「スナイプシューター!」
「うわっ!ま、また!?」
クロノのシューターがその進行を妨害する。
彼女も暴走体から生まれた以上、経験値となる情報量は私よりはるかに上の筈。
けど…幼稚だから必ず隙が出来る。
ってクロノは言っていた。
本当ならむしろ焦らなきゃ行けないのは速人が捕まってる私達の方なのに…
「なんで二人掛かりの癖にそんなちまちまと!!合体技とかないの!?」
「子供の遊びじゃない。そういう事は速人と余所でやってくれ。」
「子供だって?言ったな!!『力』を司るこのボクを馬鹿にした事…後悔させてやる!!電刃衝!!!」
六つの魔力弾が私とクロノに向かって三つずつ飛んで来る。
それ自体は普通に躱せたけど…
「くっ!?」
クロノにバインドがかかる。
幼稚とか言ってたのになんで!?
「捕らえたぞ、まずは君からだ!雷刃滅殺…」
大剣状になったデバイスを振り上げる雷刃の襲撃者。
名前は妙だけど、間違いなくジェットザンバー。
フォトンランサー・ファランクスシフトを除けば間違いなく最強の攻撃。
間に合うかわからないけど助けようと思った瞬間…
念話が聞こえた。
Side~クロノ=ハラオウン
「極光斬!!!」
振り下ろされる一撃に対してどうにかバインドの解除が間に合った僕は、全力で防御魔法を展開する。
さすがに半端じゃない威力で、終わる頃には僕は完全に戦闘不能と言った様相になっていた。
バリアジャケットも僕の身体もボロボロだったが、デュランダルは無傷だった。
このデバイスの性能がなければ僕は今頃墜ちていたかも知れないな。
「くっそー、まだ落ちないのか!ってうわっ!!」
僕を見て悔しがっていた彼女は金色のバインドに拘束される。
「ごめん、けど時間がないから。」
「な、なんで!?」
うろたえる彼女の背後で、フェイトはバルディッシュを振り上げた。
…二対一で一人相手に必殺の一撃なんて隙が出来るだけ。
だからフェイトには彼女を落としてもらう事にした。
拘束されて動けない彼女に向かって、バルディッシュを振り上げたまま、フェイトは空を駆けた。
Side~ヴィータ
「穿て…ブラッディダガー。」
「小賢しい!アロンダイト!!」
リインフォースが放ったダガーを飲み込む砲撃魔法。
けど、さっきまでと違ってこれなら近付ける!!
「ラケーテン…ハンマーッ!!」
「ち…いっ!」
偽はやてが張った障壁に、アイゼンがぶち当たる。
硬ぇが…鉄壁ってわけでもねーのか、最初襲った時の高町な…なんとかと同程度。
つまりこれなら…
「ぶち抜けえぇぇっ!!」
ぶっ壊す事が出来る。
障壁を抜いたアイゼンは、偽はやての甲冑を掠める。
「塵芥が!!」
「ぐ…」
振り抜いたところで頭を捕まれる。
「ディバインバスター・インパルス!!」
躱しようのないタイミングで放たれたゼロ距離砲撃は、アタシの左肩を打ち抜いた。
頭を捕まれてた筈…と偽はやてを見てみると、腕が裂けていた。
シグナムの空牙か…
助かったのはいいが、高速移動でも使ったのかまた距離を取っている。
「大丈夫かヴィータ?」
「問題ねー。って言いてーけど左腕はもう使い物にならねーな。」
「融合機主体のユニゾンにどんな悪影響があるかも分からん。長引かせられん以上次で決めるぞ。」
シグナムの言葉に頷いて、リインフォースを見る。
アイツと偽はやてが打ち合ってる隙に突撃する他にないから、アイツか偽はやてが動かないとあたしらも動けない。
「デアボリックエミッション。」
リインフォースによって展開される巨大な闇の球体。
それを見た偽はやてが…笑った。
「塵芥なぞ相手にせんでも…貴様が消えれば終わりだろう小烏!!」
偽はやての背中に広がる、巨大な魔法陣。
まずい…高範囲攻撃のデアボリックエミッションを撃ちぬく気だ…!
『ヴィータ、奴がアレを撃った隙に止めをさせ。主は私が。』
『っ…そ!しくじったらぶっ飛ばすじゃすまねーぞ!!』
念話で言うなり飛び立つシグナム。あたしは魔法の発動を待つ。
「消し飛べ!!エクスカリバー!!!」
禍々しい光を称えた砲撃が、デアボリックエミッションを消し飛ばした。
今しかねぇ!!
「ラケーテン…ハンマー!!!」
「何だと…っ!?」
魔法を放っている真っ最中の偽はやての元へ、あたしはアイゼンを手に突撃した。
SIDE OUT
黄金色の閃光が青い少女に、
赤い閃光が白い少女に、
それぞれ伸びて行くのが見える。
喰らえば文字通り消滅するだろう攻撃を躊躇いなく振るうつもりの二人。
それを視認した段階で、俺はすぐさま限定解除する。
通常の身体能力を無理やり引き出すための脳内麻薬などの自力調整。
もちろん一瞬でやって負荷がないはずがないが、コレで最後だろうから気にする事もない。
「二連、風翔斬『ウィンドスラッシャー』!!」
納めた両の刀を連続で抜き放ち、二閃の風の刃を放つ。
放たれた風の刃は、それぞれ光と少女の間を抜け、光が一瞬停滞する。
「ふうっ…間一髪!!!」
俺は刀をしまってその場の全員に聞こえるように大声で言い切った。
「速人!自力で出られたの!?でもなんで」
「そうだよ!何でとめやがった!」
フェイトとヴィータそれぞれから非難の声が届く。
何でって本当にこいつらは…
「んなもん三人になんの罪も無いからに決まってるだろうが。」
「は…ぁ!?」
俺の言葉に目をむくヴィータ。
ま、この辺はクロノかフレアに聞かなきゃ分からないがな。
「クロノ、管理局法に詳しいわけじゃないから聞くが、三人の罪状ってせいぜい公務執行妨害と傷害罪位だろ?実際に人襲って魔力まで奪って回ってたヴィータ達より罪状軽いんじゃねぇの?」
「…ふっ。貴様、どこまでも馬鹿だな。」
皆が揃いも揃って呆然とする中、全身を血に染めたフレアが楽しそうに笑う。
それに対して、冷たい声が聞こえてきた。
「黙れ下郎めが。」
「大体本体壊されたらリンクしてるボク達だって消えるんだぞ!?」
何でか高笑いが似合いそうな雰囲気のはやての姿をした娘と、物凄く元気になったフェイトの姿をした娘が俺に文句を投げかける。
そんな中で、魔力の残滓の中から姿を見せたなのはの姿をした娘が自分の身体の異変に気づく。
「これは…リンクが…貴方はまさか」
「とりあえず捕まっておいて。後から速人が何とかしてくれるから。」
「っ!?」
不可視のバインドが、なのは似の娘を拘束する。
俺の後から脱出したリライヴだった。
…魔法制御関係あんま詳しくないからリライヴに頼りきりだったな。
「く…我はそう簡単に」
「リインフォース、三人の戦闘能力を奪って。薄いリンクがあるでしょ?」
「…ああ。」
抵抗しようと魔法陣を展開したはやて似の娘だったが、リインフォースが働きかけると魔法陣が消える。
完全にリインフォースとのリンクが切断されている状態で暴走体を破壊した場合、媒体がない以上消滅するしかないが、どうやらそうはなっていなかったらしく生成した暴走体が消えた今、薄いが残っていた関係を使用してその力を封じたわけだ。
「何…っ!?」
「な、なんで!?力がでない!」
原因が分かっていない二人だったが、クロノとフレアがきっちり無傷で拘束してくれたので置いておこう。フレアはともかくクロノは無害な相手には優しいから信用できる。
「後は…あれだな。」
ユーノとアルフがひきつけている本体を見る。
アイツを宇宙へ転送して砲撃…っと。
そう言えばアレを消せるだけの砲撃搭載してるか聞いてなかったな。
「…ここまでだ、アルカンシェルを放つ前にアースラに転送する。」
「そんな!!」
「まともに動けるのがなのはとフェイトだけじゃもうどうしようもない。そもそも後数分しか残っていない。」
聞いてみようと思ったクロノはなのはと喧嘩中だった。
クロノとフレアは全身ズタボロ、シグナムとヴィータはそれぞれ腕を負傷しているようだった。
シグナムの傍にいるリインフォースは、はやてを抱えて力なく浮かんでいる。
リライヴが数に入ってないのは犯罪者だからだろうな。
「執務官、その砲撃って宇宙に暴走体を転移させてからじゃ無理なの?」
「君は僕たちによく普通に話しかけられるな…確かにその方法なら被害は出ないが、いくらあの二人でもあんな巨大なものを宇宙まで転送する事は不可能だ。核となる部分を露出させてからなら可能だが、そんな事を出来る戦力も時間も無い。」
犯罪者の身で呑気に話しかけてきたリライヴ相手に呆れたクロノだったが、状況が状況だけに素直に説明する。
リライヴの方はそれを聞いて頷くと、町に向かって飛び立っていった。
「っ!ま、待て!!」
『焦らないで。私が本体を両断する、危ないから皆直線状から外れて。』
逃げるのかと焦るクロノだったが、俺達全員に向かって念話が届く。
クロノは知らないが、リライヴが切り捨てられそうな町を見捨てて逃げるわけ無いって。
『それとなのは、フェイト。後一回大きいの撃てる?真っ二つにはできるけどどれだけ隙間が出来るかわからないから、開いたところに砲撃を叩き込んで隙間を広げて欲しいんだけど。』
『出来る!出来るよ!クロノ君、お願いやらせて!!』
『私も大丈夫!クロノ、お願い!』
リライヴの声に元気になったなのはとフェイトがクロノに向かって許可をこう。
クロノは軽く息を吐いて開いたモニターを見る。
「現在敵対中の犯罪者の力まで借りるのは非常に遺憾だが、そんな事を言っている場合でもないな。艦長、許可を。」
「ええ。ただしそれが最後よ。時間はもう無いのだから。」
許可がでたらしく、なのはとフェイトはそれぞれ丁度いい射程に移動し、他のメンバーは離れる。
「肩を貸そう、お前もそろそろ限界だろう?」
「へ?あ、ああ…フレアか。」
と、フレアは俺の状態に気づいていたのか、いつの間にか傍にいた。
あ、こんな近づかれるまで接近に気づかないようじゃもうやばいな。
「大方あの全力状態で戦い通したのだろう?意図的に代謝を落とした状態での全力越えの戦闘など長時間続ければどうなるかなど自分が一番分かっているだろうに。」
フレアの言うとおり、限界なんて当に通り越していた。
全力ではなく、全力越え。
脳内麻薬の分泌で強制的に身体能力を引き上げているのだから限界程度ではすまない。
オマケに今回は限界迎えた状態から魔力を使った戦闘に切り替えて、魔力まですっからかん。
本当ヒーローって苦労するな。けど…
「あー…やっぱ俺馬鹿なんだろうな。死にそうな位ばててんのに何か嬉しいし。」
これが俺の本音だった。
なるほど、子供が夢見る訳だ。かっこいい、強い、そんな事は当然として…
全てが救える光景って、本当に綺麗だ。
地球規模で見ても日本の一部だけ、更には次元世界まであるとなっては本当に悲劇の一欠けらでしかないのだろう。
それを全てというのも大げさかもしれないが…
それでも本当に綺麗だ。心から素直にそう思えた。
「これだけ大きな事件で第一級捜索指定ロストロギア相手に本当に犠牲者を一人も出さなかったんだ、誇っていい、ゆっくり休め。」
珍しく優しいフレアの声を子守唄に、俺の意識はゆっくりと落ちていった。
Side~リライヴ
「あれ?民間人?」
『そのようですね。』
道路に下りると駆け寄ってくる綺麗な金髪の女の子が見えた。
「あ、あの…なのはと一緒に戦っている方…ですか?」
どうやら、なのはの知り合いで巻き込まれたみたい。でも完全に魔法行使不可能な一般人。
しかも少しはなれたところを見れば、紫色の髪の少女が地面に腰掛けていた。
まったく…こんな娘達まで巻き込むなんて、油断しすぎだ管理局。
「ちょっと離れてて。危ないし時間が無いから。」
「あ、は、はい。」
金髪の少女が紫色の髪の少女の下に向かうのを確認したところで、私は全力を解放する。
バーストモード。
全身に魔力を纏った状態で、それをそのまま攻撃、防御、機動に即変換させる私の全開。
そのまま圧縮刃に上乗せしてもかなりの…それこそ恐らく私と互角の集束刃を持つフレア相手でも打ち勝てるほどには強い。
けど、全身に纏うために放出しているそれ全てを剣に乗せて振るえば、文字通り一撃必殺と化す。
多分、単純な威力で言ったらジュエルシードの暴走を上回ってると思う。次元に干渉しないから次元震や次元断層は起きないけど。
『なのは、フェイト、準備はいい?』
『うん!』
『いつでも。』
だから…空から地上に振るう訳には行かなかった。それこそ問答無用で星を断ち切りかねないから。
無色透明なはずの魔力刃が、あまりの密度に白く見える。
これが私の切り札…
「バースト…セイバー!!!!」
私が放った一閃は、文字通り海を割り、遥か先にいる闇の書の暴走体を両断した。
Side~高町なのは
リライヴちゃんが放った光は、海を二つに割りながら暴走体を真っ二つに割った。
本当に一発で斬っちゃった…と、驚いてる場合じゃない。
「行くよ、フェイトちゃん!はやてちゃん!」
「うん!」
「了解!」
私が呼んだとおり、今はやてちゃんも魔法の発射態勢に入っていた。
無理はしないで欲しかったけど、こんな状況で見ているだけなんてもっと辛いって言うのも分かるし、さっきまでと違ってちゃんとユニゾンしてるから平気って言ってた。
私やフェイトちゃんは消しちゃうつもりだった闇の書の守護騎士さんを救うために本当に頑張ったお兄ちゃんに、自分達のお家が護れなかったなんて悲しい事伝えられるはずが無い。
だから…いつも通り全力全開でいく。
「スターライト…」
「プラズマザンバー…」
「ラグナロク…」
二つに分かれた部分が、闇の書の力なのか勝手に元に戻ろうとしている。
けど、それをさせる訳には行かない。
「「「ブレイカー!!!!!」」」
ありったけの想いと力を込めて放った三つの砲撃は、裂けた隙間に吸い込まれて炸裂した。
完全に二つに裂けた闇の書の暴走体から、緑色に光る塊が見える。
「長距離転送!!」
「目標軌道上!!」
ユーノ君とアルフさんの転送魔法で光る塊が空に消えていく。
しばらくして…
アースラと通信しているクロノ君から、闇の書のコアの完全消滅を告げられた。
SIDE OUT
えー…ミスにより一話抜けてしまっていました。
本ッ当にすみませんでした!!
自分でも何で抜けたのかよく分かっていなくて(汗)
再確認など含めて今後は気をつけます!