第二十一話・残された時間の中で
「は…はっ…」
『マスター、もう気配遮断は意味を成していません。通常の代謝と呼吸で動くべきです。』
「はぁっ!!はぁ…っそ!!」
一斉に喰らいついてくる獣の群れに二閃の風翔斬を放ち一度距離を取る。
呼吸器系を整えるのはいいんだが…
「っ…ぐ…くそ…」
下手に循環がいきなり良くなるせいで身体のダメージがより理解できる。
つまり、全身から痛みやら痺れやら苦しみやらが一気になだれ込んでくる。
敵にとってはそんな事かまったものでもないので、唐突に気配が明瞭になった俺に対して餌でも貰ったかのように飛び掛ってくる。
「っの…やかましいんだよ!!」
食いついてくるワームにカウンター気味の一閃を振るいその身体を両断する。
今いいの喰らったら間違いなくそのまま意識が切れる。
今まで一発も喰らってないとはいえ、それと重なった疲労とは別問題だ。
「さてと…あんまり頼るのも良くないとは思うが、何か魔法系で便利なのないか?」
正直そろそろこのままだとやばい。
気配遮断が使えない俺なんて遠当てが使えて空を走れるだけのる半人前剣士に過ぎない上、疲労困憊じゃそのうち何かミスる。
『ありますよ。』
「嘘!あんの!?」
学校で(授業そっちのけで)魔力制御トレーニングしてたけどそんな便利なもの聞いた覚えが無い。
…って言うかそう言えば、純粋な剣技の精度が落ちるからってナギハが魔法関係引き受けてくれてたんだった。教える訳無いか。
『ただ…魔法の制御が必要になってくるので高度な業は使えなくなると思いますが…』
「OK問題なし。」
ここまで疲れてて普通の業なんて使いこなせない。
けど、魔法で使用するのは魔力だし、俺の意識がつながってるうちはどうにかなる…筈。
『では魔法の情報を伝えますので上手く制御してください。』
「了解!」
素人補助用の機能なので本来戦闘中に使うはずも無いが、俺は魔法関係素人だし使えるものは使えるんだから問題ない。
「エア…ガイスト!!」
魔法を発動させると、風が身体を包み込む。
リライヴのバーストモードみたいなもんか?
『出力は大して変わりませんが、大半の斬撃に風の刃が付与しますので攻撃力は上がっています。飛行も出来ますが戦闘機動は練習無しだと少々難があるかと。』
「いや、十分使えそうだ。」
風翔斬は空気を刃状に磨ぐイメージを放って使ったのが最初で…高速移動したかったら…
「音速風『エアソニック』!!」
俺はブレスを放とうとしている飛竜に向かい…『飛ぶ』。
飛行魔法など使えない俺は飛行する事は出来ない。
なので…
竜巻を背中に乗せる感覚で、集束させた風に吹き飛ばしてもらった。
エアガイスト自体の効果として、空気抵抗を限りなく緩和してくれるため、自力じゃ不可能な領域の速度でも問題なく飛べて…
どうやって止まろう?
すれ違いざまに飛竜の片翼の骨を切って飛べなくしたが、高く飛びすぎて残っていた連中がリライヴに向かう。
「く…もう一回っ!!」
逆に地上に向かって高速移動する。
先頭にいたワームを両断した俺は、その肉塊をクッションに背中から突っ込んだ。
…どろどろするが何でかは考えないようにしよう。
「通すと…思うなよ!!」
俺はナギハを握り締めて、再度化物の群れにに突撃した。
Side~高町なのは
「っ…」
「遅いですね。」
私と同種の魔法を使う筈なのに物凄く接近してくる星光ちゃん。
デバイス同士がぶつかり合う音が響く。
確かに運動オンチで格闘戦なんて諦めたけど…
「接近戦でやれる事は残ってるんだから!!」
『ディバインバスター・インパルス。』
近接専用砲撃魔法。
格闘が下手だから身に着けたそれは、どんな体勢でも掌さえ相手に向けられれば放つ事ができる。
けど…障壁とぶつかった感触がしたと思ったら、背後に魔力を感じた。
「私は貴女の情報を得ています、連携ならともかく奇策で使用したところであたりはしません。」
高速移動で回避された!?
気づいた時には遅く…
「ブラストファイアー・インパクト。」
「ああぁぁぁぁっ!!」
物理破壊の衝撃。
私に出来たのは即座に張れるけど弱い障壁を、魔法の直撃と同時にバーストさせる事でダメージを緩和させることだけだった。
それどころか、星光ちゃんは吹き飛ばされてよろめく私を二重のバインドで拘束する。
「私は『理』を司る者です、闇の書からの力の供給があり出力でも上回っている今の私に、理も力も劣る貴女では勝機はありません。」
砲撃の発射態勢に入っている星光ちゃん。
だめ…避けられない!
「ブラストファイアー!」
拘束されたままの私に向かって来る光の柱。
どうにかバインドを解こうとしていた私は…
何かに吹き飛ばされた。
そのまま海に落ちる私。何とか浮上して私を吹き飛ばした人を探す。
「フ、フレアさん!?」
「お前達それぞれの能力をベースに、膨大な記憶からの経験値と暴走体から供給される魔力。お前一人ではどうにもならないだろう。」
「でも…」
相手が私の姿だから、ここで人に頼って多人数で戦うのは何か違うと、そう思っていたけど…
「本題を勘違いするな、アレを放置する気か。」
フレアさんが指差した場所には、暴走体を引き付けて抑えてくれているユーノ君とアルフさんの姿があった。
一対一なんて、こんな状況で言う事じゃない。
「わかりました、お願いしますフレアさん。」
「ああ、行くぞ。」
構え直す私とフレアさんの前で、同じくデバイスを握り直す星光ちゃん。
「この身の魔導が何処まで通じるか…これで本格的に試せそうですね。」
相変わらず揺れない表情のまま、静かにそう言った。
Side~フェイト=テスタロッサ
「遅いっ!」
「くぅっ!!」
大剣の形態のデバイスを手に切りかかって来る雷神の襲撃者。
とにかく真正面から突っ込んで来て戦法も何もないんだけど、背後を取るにも向こうの方が速くて、絡め手を使おうにもそんな暇は殆どない。
何度かあったチャンスにバインドとかを使っては見たけど、勘なのか戦闘経験の名残なのか、かなりの速さで躱された。
この娘…強い。
「電刃衝!!」
「プラズマランサー、ファイア!!」
同数の射撃魔法を撃ち合うが、幾つか貫通された。
彼女の方が基礎能力は上なんだ、同種の魔法の撃ち合いは無駄に終わる。
「光翼斬!!」
ハーケンセイバーと同種の刃が、鎌状になったデバイスから放たれる。
「サンダースマッシャー!!」
砲撃魔法を放って刃ごと飲み込む。
と、直線上にいた筈の彼女はアッサリ砲撃を躱す。
っ…技直後にあんなデタラメな動きっ…
砲撃の真っ最中で動けない私に迫って来る彼女。
まずい…やられる!
「ブレイズキャノン。」
青い砲撃が彼女を飲み込んだ。
今のは…
「大丈夫か、フェイト。」
「クロノ!」
模擬戦で何度も見た、クロノの砲撃魔法だった。
でも、クロノはフレアと一緒に本体に向かってたんじゃ…
「本体は!?」
「あっちは使い魔二名が引き付けてくれてる。少なくともなのはとフェイトの手が開いてくれないと本体への攻撃の手が足りない。」
見ればアルフとユーノが本体相手に防御魔法とバインドを使って立ち回っていた。
暴走しているから作戦とかは無いけれど、出力は高いから大変そうだ。
早く…速人を助けないと。
「二人掛り!?ずるいぞ!正義の味方の癖に!!」
「生憎だが僕たちはそれほど綺麗な存在じゃない。時には護るべきものすら護り切れない普通の人間さ。だから、敵にまで正々堂々何て甘い事は言っていられない。」
クロノは言いながらデバイス、デュランダルを構える。
クロノがとても優しい事はよく知ってる。難しい顔や真面目な表情ばかりだから分かり難いけど。
護るべきものを護る為に…
「ごめん、私も…全力で行く。」
「むー…よし!そこまで言うなら来いっ!」
少し不機嫌な表情をしていた彼女だったが、何かを思いついたように笑ってデバイスを構える。
「…もしかして、二人纏めて相手にして勝ったほうがかっこいいから?」
「な、なんだって!!エスパーだったのか君は!?」
思いっきり間違った方に驚く彼女。
うぅ…何か本当に戦い辛い…
Side~シグナム
「得意の剣はどうした!?その鉄槌は飾りか!?何も出来ないまま退場するか!!?」
戦闘開始からしばらく絶つが、私達は未だに主の偽者に接近する事ができていなかった。
と言うのも、膨大な魔力を利用して接近しようとする道を次から次へと広範囲に塗りつぶしていくのだ。
幾つもの魔法陣から放たれる広範囲魔法で。
「魔法陣の複数展開、射撃。今回は塵芥なりに使えるものを用意してくれたらしいな。お陰で掃除が楽に出来る。それに、こんなものもあるしな。」
言うなり、無数の光弾が偽者の周りに生成される。
「やべぇ…これはっ…」
「シューティングスター!!!」
全方位に容赦なく放たれる魔力弾。私はシュランゲフォルムで付近の弾を片っ端から打ち落とす。
だが…
「バースト!!」
「な、ぐぁぁっ!!」
魔力弾が一斉に爆発した。
咄嗟にパンツァーガイストを展開したため即死は免れたものの、全方位から来る余波に包まれ、かなりのダメージを受けた。
ヴィータ達の様子を確認しようと見回すと、ヴィータもダメージは受けたものの凌いだらしく、問題はなさそうだった。だが…
「すまん…不覚を取った…」
ザフィーラが気絶したシャマルを抱えていた。
片腕が折れたか深手か…使い物にならないらしく、だらりと垂れ下がっている。
「下がっていろ、ここは私とヴィータが引き受ける。」
「そうしとけ、こんな奴すぐにぶっ飛ばしてやるよ。」
ザフィーラが戦線を離脱するのを見届けて、私はヴィータに念話を送る。
『…埒が明かん。どちらかがつぶれるのを覚悟で突撃し、奴を討つ。無事なほうはすぐに』
『それはあかんよ、二人とも。』
唐突に、主はやてから念話が届く。
「…何のつもりだ?自力で飛行も出来ん小烏が。」
「は、はやて!?何でこっちに」
「私は戦闘技術ないけど、折角出来る娘がおるんやから頑張ってもらわんと。こんな状況やし、四の五の言うんはなしや。」
驚くヴィータにかまわず私とヴィータの間まで来るリインフォースに抱えられた主はやて。
私は連れて来たリインフォースを睨むが…
直後、二人は途方もないことをしでかした。
「な…にっ!?」
憮然とした態度をとり続けていたあの偽者が狼狽する。
そこには、リインフォースだけの姿があった。
だが、闇の書を切り離し疲弊した力のない先までの状態と違い、明らかに全快の…それまでと異なる色のリインフォースが。
「融合機主体のユニゾンだと…小烏、貴様正気か?」
『私も出来ることはやらんとな。それに…無駄打ちしとった広範囲魔法が相殺されたらする事ないやろ。踏ん反りかえっとるだけの横着者には。』
「な、何だとっ!!」
激昂する偽者だったが、主の声はそこで途絶えた。姿がない以上文句も出てこないらしく歯軋りして我々を睨みつけてくる。
…何の威厳もないな。
「そう言う事だ。将、ヴィータ、危険は承知だが手伝わせてもらおう。」
「…前出んじゃねーぞ、オメーがダメージ受けたらはやてにも行くんだからな。」
「ああ、善処しよう。」
言いつつ距離を取って広域魔法を展開するリインフォース。
…主にここまでさせて、負けるわけには行かんな。
「是が非でも勝たせてもらうぞ。塵芥に負けることになるが詫びは言わん、早々に散れ。」
「ほざけ!!!」
SIDE OUT