なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十九話・目覚める夜天

 

第十九話・目覚める夜天

 

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

 

「…気合一つで勝てると思うのか?」

「膨大な魔力に蒐集、転生を重ねた豊富な知識。普通に考えればただの魔導師二人で勝てる筈も無い。だが…」

 

私は振るわれる拳を手に取った。

瞬間、闇の書の表情がわずかに歪む。

 

「っ…貴様も」

「強大な魔導師の戦い『しか』知らぬお前に、武芸者は相手が悪かったな。」

 

軽く腕を引いて向きを変え、槍をふるって羽を切り裂いた。

修復は簡単だろうが…

 

「シュート!!」

 

なのはから放たれた膨大な数のシューターが全方位から襲い掛かる。

私は少しだけ間を広げ、着弾を待つ。

あれだけの数を片翼ではかわせない、全方位防御を張るはず。

 

予測通り着弾した射撃を防ぐ闇の書。

 

「狙い通りだ!」

「っ!!」

 

私は全力で振り下ろした一閃にて残っていた片翼を防御ごと斬り落とした。

その後に柄でなのはの前に弾き飛ばす。

 

与えなければならないのは魔力ダメージ、ならば彼女に任せるのが賢明だ。

 

「レイジングハート!!エクセリオンバスター!!!」

「っ!!」

 

体勢を整えさせる事無く接近した彼女は、宣言通り零距離砲撃を叩き込んだ。

桜色の光に視界を奪われた後、離れてくるなのはが見える。

 

「ありがとうございますフレアさん、付き合ってくれて。」

「いらん心配だ。民間人が取り込まれている以上闇の書も無闇に破壊できる状態じゃないからな。」

 

あの馬鹿も一応は民間人に該当する。

心配するほどの雑魚ではないが…さすがに今書ごと破壊すれば死ぬだろう。

 

魔力の残滓が空気に溶けていき…

 

平然と浮かぶ闇の書の姿があった。

 

ご丁寧に魔力羽まで修復されている。

 

「ち…あれで駄目か。ならばスターライトブレイカーしかあるまい。拘束は得意ではないが…」

「お願いします…レイジングハート、もう少し頑張って。」

『了解です。』

 

私達は再び構えて中に舞う闇の書と向かい合った。

 

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

…ぼけた頭はもう完全に覚めていた。

それくらいにリライヴちゃんの夢が重くて仕方なかった。

 

「主…どうされました?」

 

少し心配そうな声が聞こえる。夢の中で何度か会った…会うたびに忘れていた娘。

この娘がこんな残酷な夢を見せているのだろうか…そんな筈が無いと思う自分とそうかもしれないと思う自分にはさまれながらどうにか出来ないか考えて…

 

『はやて!管制人格!聞こえる!?』

「っ…白い魔導師ですか!?何故貴女の声がここに…」

『取り込まれた内部世界からハッキング中!ってそんな事はどうでもいい!!はやて!!』

 

名指しで呼ばれてさすがに答えない訳には行かない。

 

「聞こえとるよ、でもなんでリライヴちゃんが…ってそれは後やゆうてたな。何?」

『面倒だから簡潔に言う!夜天の書を直して!具体的には面倒起こしてる呪い部分を切り捨てて!!』

「っ…無理だと言っている!そんな事…出来たらこんなに繰り返したりは」

『こっちからも足掻いてみるけど、基本的に全権を握ってるのははやてなんだ!だから後は任せたよ!!』

 

言うなり声が途切れて、意識が鮮明になってきた。

私にかかってた力をとめてくれているんだろう。

 

「聞いてたな?それじゃ頑張ろ。」

「この暴走は自分でもどうにも出来ません…もう…」

 

目を伏せた彼女に手を伸ばす。

夢の中だからなのか、足は自然に動いてくれた。

 

「…どうにもならん…私もずっとそう思って生きてきた。寂しくて悲しくて…辛かった。だから少しはシグナム達やあなたの気持ちも分かる。」

 

諦めていた、ずっと。このまま自由にならなくて、やがて終わってしまうんだって、その現実に抵抗は無かった。

けど…今は違う。

家族が出来た、友達が出来た。皆私に幸せをくれて、今まだとめようと頑張ってくれてる。

 

「名前をあげる。闇の書とか、呪いの魔導書とか、私が言わせへん。」

「無理です…もはや同化と言っていい状態の呪いはもう切り離すと言う話では…」

「そりゃ簡単にはやらせてくれんしきっと貴女や私だけじゃ無理や。けど…家族や友達がまっとるのに、何時までも諦めてられんやろ。」

「ですが…」

 

見た目物凄く大人の女性にしか見えんのに、ボロボロと大粒の涙を流して諦めを言い続ける。余程悲しかったんだと思う。だけど…

 

「今貴女のマスターは私や。ちゃんと言う事聞かなあかんよ。」

 

今までが今までだったわけやし、とびっきり素敵な名前を送ってあげたい…

 

「祝福の風…リインフォース。これが、貴女の名前…」

「あ…ぁ…」

 

動きが止まる。…リライヴちゃんがバックアップしてくれてるから、暴走状態のプログラムからこっちは完全に護られてる。

 

コレなら…切り離せる!

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

はやてへの伝言が終わり、私は書への干渉を続けていた。

と言うのも、防衛プログラムと言うが別に外からの攻撃に限った話じゃ無く、当然内部で自身に害を成す異物を排除しようとする為、少しでもその妨害をこっちに集中させる事ができるから。

 

 

だから…その証拠に…

 

 

 

速人が積んだ化物の死骸は既に百を超えていた。

 

 

 

シグナムですら十体相手に出来るかどうかと言ったサイズの化物を、速人はすれ違いざまの一撃で殺す。

硬い殻の隙間を縫い、丈夫な皮膚をバターでも斬るかのように裂いて、片っ端から致命の一撃を振るう。

目で見えない位置から飛び出して急所を裂く。

触覚を裂いて感覚を断つ。

 

それを考える様子も狙う様子も見せずに連続で繰り返している。

 

 

彼が始めに告げていた事がここまで見せられてようやく現実だと実感していた。

 

 

 

「最強の暗殺者…」

 

 

 

生き物の殺し方について彼ほど察しのいい人間はおそらく稀だろう。

どうやってかは知らないが、知らない筈の化物含めて初見で急所を認識している。

 

次から次へとでてくる化物を死骸に変えていく速人。

 

 

 

しばらくして…巨竜が現れた。

 

 

あれの相手は速人の攻撃力じゃ無理だ。

 

今までの相手は殻の隙間や皮膚の薄い部分をつく事で一撃で倒してきた。

 

けど、竜種は金属より硬い皮膚で全身が覆われている。いくら速人でも隙がなきゃ攻撃を通す事なんて出来ない。

 

竜が放ったブレスを避ける速人。

私がやるしかないか…そう思ってブレスの終わりを待って…

 

 

 

 

竜の口内に逆手の刀を突き入れる速人の姿を見た。

 

 

 

角度から言って間違いなく頭に突き刺さっているだろうそれを口が動く前に腕ごと引き抜いた速人は、落ちていく竜に目もくれず降りて来た。

 

 

 

 

 

 

次元が違う。

 

 

 

 

 

何しろ私は速人の攻撃力じゃ竜種は『倒せない』と諦めていた。事殺す事に関して次元が違いすぎる…

 

敵が出てくる気配が無くなって、速人は私の前まで来て刀をしまう。

 

俯いて膝に手を置いて動かない速人。

 

 

「速人…どうした…っ!?」

 

 

違和感を感じて様子を伺うと何故か大量の汗を流していた。

呼吸も荒いと言うよりは今にも途絶えそうに苦しそうなものになっている。

 

さっきまで汗一つ描いていなかったのに何で…

 

「あー気にするな…魔法とは別の力使ったから普通にヘトヘトなだけ。」

「別の力って…」

 

人間が魔力以外に持ってる通常の能力であんな真似ができる筈がない。

 

「っ…まさか…脳内麻薬!?」

 

だとしても異常ではあるが、一応人のまま常人を超える力を発揮する方法としては使える。

だが、決して体そのものが丈夫になる類のものじゃない、使い続ければ…

 

「他にもあるが正解…やってるのは気配遮断と動作強化。ナギハに見てもらったところ、さっきの状態だと半仮死状態…四分の一死んでる状態らしいな。まぁ心拍数とかは落ちてるし、あながち間違いじゃないかも。」

「っ、ば、馬鹿な!そんな事すれば…」

 

無酸素運動どころの騒ぎじゃない。

 

けど納得できる事もあった。

フェイトどころか魔導師全般でも速いとはいえないスピードを、視覚に頼らない魔物でさえ捉える事ができていなかった。

 

これが速人の本来の戦闘スタイル…

 

「お、俺の事はともかく…はやての方はどうなった?」

「え、ああ…はやては起こしてきたし闇の妨害もこっちに集中させたからそろそろ切り離せるはず。そのタイミングで脱出しよう。」

「そっか…何とかなったかぁ…」

 

座り込んだ速人は私を見て微笑んだ。

 

「サンキューリライヴ。」

 

…本当に、さっきの話をまるで気にしていないようないつも通りの笑み。

でもそれも分かる。だって…あんな技術を身につけるのに一体どれだけの経験を…

 

 

 

 

殺しを積めばいいのか。

 

 

 

 

速人はそれをやってきたんだ。幸不幸どころの騒ぎじゃない、死ぬか生きるか。

 

死人を出すのに尊敬も何もない。けど…

そんな世界にいたはずなのにヒーローを選んだ事が、本当に凄いと思った。

 

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

「我等、夜天の主の下に集いし騎士。」

「主ある限り、我等の魂尽きる事無し。」

「この身に命ある限り、我等は御身の下にあり。」

「我等が主、夜天の王、八神はやての名の下に。」

 

リインに抱えられた状態でちょっとかっこ悪かったけど、そんな事はお構い無しに迫ってくるヴィータ。

 

ああ…本当に戻ってきたんやなぁ…

 

皆の顔を眺めていると本当に頑張ってよかったと思う。

って言っても戦っとったなのはちゃん達と違ってそんなにたいした事はできてないけど。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、ありがとう。それからえっと…」

 

傍にいたなのはちゃんとフェイトちゃんにお礼を言って、他の知らない人に目を向ける。

 

「アルフ、フェイトの使い魔さ。」

「ユーノ=スクライア、よろしく。」

「フレアだ。」

「クロノ=ハラオウンだ。これ以上の自己紹介は問題が片付いてからにさせてもらおう。」

 

最後に名乗った黒い服の男の子が色々とバッサリ切ってしまった。

さすがに状況はわかっとるからノンビリ話す気は無いけど、それでも聞いとかなあかんことがある。

 

「リライヴちゃんと…速人君は?」

 

聞いたとたん皆の表情が曇った。そんな中でクロノ君が私に向かって静かに口を開く。

 

「まずそのことについて君達に聞きたいんだが、まだ取り込んでいるわけじゃないのか?」

「はい、夜天の書内に異物の反応はありません。」

 

クロノ君の質問にすぐに答えてくれるリイン。

けど今の質問が出てくるって事は、リライヴちゃん達がどこにいるか皆も知らんって事?

 

「こちらの現状を説明させてもらう。君達が分離させたあの暴走体は、15分もすれば本格的な活動を始める。そうなれば周囲を喰らい無限に被害を拡大させていく。そうなる前に破壊、封印しなければならない。」

 

言いつつクロノ君が指差した方向には、見てすぐ分かる位暴走体って感じの子の姿があった。下手な家より大きいんじゃないだろうか?

 

「問題点は二つ、アルカンシェルという砲撃を使用すれば完全に消し去る事が可能だが、それを地表に打てば地球…少なくとも日本に関してはかなりの被害が出る事。もう一つは…君の聞いた二人が暴走体の中にいる可能性が高い事だ。」

「な…っ!!」

 

ヴィータから悲鳴に近い声が漏れる。

私は助かったけど、状況はまだまだ絶望的なままだった。

 

 

けど…もう諦めん。

 

 

今の私にできる事が多いとは思えんけど、それでも諦めるつもりは無かった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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