なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十八話・夢の中で~『真実』

 

 

第十八話・夢の中で~『真実』

 

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

意識を落とす…深く深く…何も考えられなくなる位まで…

全てを夢に変えるために、過去だけを頭に叩き出す。

 

 

 

 

 

 

子供の頃…魔法と出会う前…

 

 

 

 

 

 

「なるほど…その子を売ると言うのですね。」

「はい…どうかお買い上げ願えないでしょうか?」

 

この世界には奴隷制度があった。

 

基本的に城に住む王の趣味なのだが、お金のない人や罪を犯した人が、王の趣味に当てはまる女性を売る制度。

基本的に自身の身売りが一般的なのだが、親権があれば子供を売る事もできた。

 

私はそうして、母親に売り渡された。

 

いい値を貰えたのか、カードを手に意気揚々と引き上げる母。

 

 

 

 

 

 

私はその日…汚された。

正確にはその日から汚され続けた。

 

 

 

 

 

皮肉な事に発展した科学の全てを使える王の下では、多少身体が壊れても関係なかった。

 

言う事を聞かなければ死なない程度の電流が首輪から流される上、自殺なんて出来るはずもない。

怪我位じゃ医療班があっさり治してしまうから。

 

心が壊れそうだったが、無反応だと激痛で起こされる。

怯えながら従い続けるしかなかった。

 

 

王が仕事の間はその小間使いをやらされていた。

 

そんな日々を送っていたある日…

 

 

 

時空管理局の一団が姿を見せた。

 

 

 

 

「魔法だかなんだか知らないけど…困るんだよねぇそんな事言われてもさ。次元航行装置は結構な開発費をかけて製作した僕らの夢なんだからさぁ。外部から来て使用をやめろ?何様だよ君達。」

「ですが環境汚染の危険性が高いテクノロジーが多過ぎます。それに我々がこの世界に来たのもこの世界からの化学兵器の流出が判明したからなのです。」

「んー…確かに外から来た連中に盗まれてくのは気分悪いね。でも、そっちで決めた法律はそっちでカバーしなよ。それとも何?死にたくなければ我々につけ?」

「そんな事は…」

「何だ残念、そんな事言う組織なら正義の味方として来訪して殲滅してあげたのに。ま、それが嫌なら不干渉が妥当じゃない?」

「ならばせめて対魔導師用の監視員在住の許可を…」

「冗談じゃない、科学無しでテレポートするような連中がいたんじゃそれこそ情報持ち出し放題だよ。これからは魔導師と思われる奴がいたら即刻処刑するようにするから来ないように徹底してよね。こっちだって技術持ってかれたい訳じゃないんだから。」

 

あくまで客側の管理局の代表さんが不利な会話が続く。

私はそんな中、飲み物を注いで回っていた。

 

「ところで彼女は…」

 

と、来ている局員で一番偉い人と思われるおじさんが私を見てそう問いかけた。

 

「うん?ああ、僕のペットさ。なんだったら使ってみるかい?」

 

心底楽しい事を思いついたかのように手を広げる王。

 

「ふざけるな!人を何だと思っている!!」

 

王の言葉に反応した若い女の人が立ち上がって叫ぶ。

 

助けてくれるつもりなのだろうか?

 

そんな希望を抱いて女の人を見て…

 

「やめないか空尉!」

「しかし!」

「そちらがどんな世界か知らないけど、おじさんのが分かってるね。ここではOKなのさ。とはいえ、そちらの法に触れる話を出したのは悪かったね。」

 

王がそう言うと、女の人は私を見ながら座りなおす。

 

「さて、管理世界と言うのについて教えてくれてありがとう皆さん。極力不干渉に努めようと思うので…違法魔導師とか言うのがこないよう頑張ってくださいね。」

 

最後にそう締めくくって、解散になった。

…結局、管理局の人達は私を見たけれど、救ってくれはしなかった。

 

 

 

数日後…

 

「それが無人世界で見つかった機械かい?」

「おそらくは。先日来訪した管理局の方々の装備と同じ反応です。」

「おやおや…たまたまとは言え無人世界で見つかるなんて、管理局とやらも管理が甘いなぁ…」

 

王はそう言って手にしたデバイスを玩んだ後、私に渡した。

 

「転移装置使ってもいいけど何が起こるかわからないものは出来るだけ人手で運ばないとね、よろしく。」

 

私はそのデバイスを手に歩き出す。

 

「…力…か。」

 

助けて欲しかった、でも誰も助けてくれなかった。

御伽噺の王子様なんて結局夢物語に過ぎなくて…もしいても、こんな所で穢れた私なんかのために来てくれる筈もなくて…

 

『…力が必要ですか?』

「え?」

 

不意に、頭の中に声が響いた。

 

『貴女は素晴らしい力を持っている。もし必要なら私が貴女の力になりましょう。』

「私の…力…」

 

家族に売られ、王子様も助けに来てくれなかった。

何処かから来た力を持った人達は、私を横目に去っていった。

 

 

 

 

…力があるのなら…助けてくれたって良かったじゃない…

 

 

 

管理局が去った日、久しぶりにそう思って泣いた。

 

 

 

…力があるのなら…助けて…見せる。

 

 

 

 

同じ境遇にあるのは私だけじゃない。私がここにいて、力を持っているのなら…!!

 

 

「…お願い。」

『了解しましたマスター。私の名はイノセント、名と共に叫んでください。セットアップと。』

 

私は手にしたデバイスを力いっぱい握り締める。

私は逃げない…逃げてたまるか!!!

 

「イノセント!!セットアップ!!!」

 

叫んだ瞬間、私の姿が変わる。

ごてごてとした装飾に塗れた重たい人形服から白一色の服に。

 

力が溢れる様に出てきていた。

 

戦った事なんてなかったけど、場所柄戦闘訓練は見たこともあるし、イノセントから魔法戦闘の情報が逐一受け取れる。

 

 

 

何より…

 

 

「何だこの反応は!?」

「お前達が…お前達が…お前達が!お前達がああぁぁっ!!!!!」

 

 

あんな王も、それを当たり前としているこいつらも許せなかった。

 

 

 

私はエネルギー炉を破壊するために、杖上にしたイノセントを振り上げて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ、もういいから起きろ。」

 

 

二対の剣を腰に下げた男の子に振り上げたイノセントを捕まれていた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

一回り幼くなったリライヴの腕を掴んで鼻先を指で弾く。

 

「っ…速人何を」

「その通り、ご存知高町速人さ。そしてコレはいくらか昔の終わった夢。もうデバイス持ってんだからさっさと起きろ。」

「あ…っ!?」

 

一瞬俯いたリライヴの身体が光り、サイズが元に戻っていく。同時に景色も元のドーム上の家になった。

 

 

…戻ってきた…か。

 

 

「よ、ちゃんと正気に戻ってるか?」

「…無理、しなくていいよ。」

 

元の姿に戻ったリライヴは、何処か冷めた反応を返してきた。

 

「無理?何で?」

「私穢れてるんだよ!?それだけじゃない!あの後私が何をしたか、君が想像つかない筈が無い!!そんな私にヒーローを目指してる君が何でそんな優しくできるんだ!!」

 

思い出したものが辛かったのか、リライヴは涙を流していた。

と言ってもなぁ…

 

「とりあえず、穢れてなかったぞ。綺麗だった。」

「っ…こ、この馬鹿っ!男なんてやっぱり皆そんなのな訳!?」

「少しは元気になったか?ちなみに男は殆どそうだと思うぜ。綺麗な可愛い女の子に心惹かれない男がいる筈が…男好き?」

 

いないと断言しようとして少し迷う。

そう言えばフレアも興味ないとか言ってたし…そんな馬鹿な…俺だけ異常なのか?

 

いや、違う!!どう見ても堅物にしか見えない兄さんだってしっかり恋人作ったんだ!!普通だ!本能だ!多分…

 

本気で考え込んでいると、リライヴから溜息が聞こえてきた。

 

「褒めてくれたとこだけ素直に聞いておく。とりあえず今ははやてにアクセスしないとね。内部から異物が弄くろうとする訳だから多分防衛機能が働くと思う…守りはよろしくね。」

「OK。」

 

リライヴは言いつつ魔法陣を展開する。

俺は承諾してそれを見守った。

 

「イノセント、お願い。間違っても防衛プログラムに侵食されたりしないでよ?」

『マスターなら大丈夫でしょう?』

「簡単に言ってくれるね…本職じゃないって言うのに。」

 

そうは言うものの、その辺の簡単な機械の扱いすら、魔法の扱いより遥かに知識が要りそうな世界で普通に暮らしてたリライヴなら大丈夫だろう。

魔力だけじゃなくてこんなところでも魔法に強い理由があったんだな…

 

 

呑気に感想を抱いていると、いきなり幾つもの化物が現れた。

 

体内の異常を駆逐するため抗体ってとこか。何か俺達がウイルスみたいだな…

 

「少しは回避とかもするけど…あんまりこっちに通さないでよ?」

 

そんな要らない心配をするリライヴ。

 

夢の中で出てくる防衛プログラムなら死ぬも何もない。

俺の本来の戦闘スタイルを何だと思っているのか。そこまで考えて…

 

 

リライヴには話していない事を思い出した。

 

 

「あー…悪いリライヴ。そっか、それであいつ等殺した事知られたら嫌われると思ってたのか。」

「っ…い、いきなり何を…」

 

自分から殺したと言わなかったリライヴに対してあえて明言する。

ま、これくらいショックあったほうがわかりやすいだろうしな。

 

「俺元最強の暗殺者。生け捕りにするならともかく殺していいなら普通に負けねぇよ。」

「は…?」

 

意外な声を背に、俺は久しぶりに暗殺者としての全開で眼前の化物の群れに飛び込んだ。

 

 

 

 

Side~フェイト=テスタロッサ

 

 

 

暖かい…夢だった。

 

母さんが生きている筈も無ければ、アリシアと共に私が並んだ事だって無い。

アリシアはまだ眠ったままだ、起きるまでちゃんと私が待っていないといけない。

 

「ごめん…だから、私はここにはいられない。」

 

雨の中、寄り添うアリシアの願いを私は断ち切った。

アリシアは少し固まった後、ポケットからバルディッシュを取り出した。

 

「…強いね、フェイトは…こんな幸せな夢の中なのに自分から出られるなんて。」

「私は…そんなに強くないよ。本当に強い友達が待ってる、それだけなんだ。」

 

私の答えに頷いたアリシアは、バルディッシュを私の手に乗せて空を見上げた。

 

「そうだよね…私もいい加減に起きてお礼を言わないとね、速人さんに。」

「え…アリシア…君は…」

 

驚いた私の顔を指差すアリシア。

 

「アリシアお姉ちゃん。はい復唱!」

「う…アリシア…お姉ちゃん。」

 

少し恥ずかしかったけどちょっと怒っていたアリシアに申し訳なかったから素直にそう答えた。お姉ちゃんはニッコリと微笑む。

 

「私はフェイトの中にいた一部。それは起きられないよ、全部いないんだもん。私の一部を使って、私の記憶を渡して、全部完璧って事にはならなかったけど、全部失敗って訳でもなかった。だから私は半端にここにいる。」

「…戻れるの?」

「フェイトが自分を見つけて、夢を振り切って進もうって言うのに、お姉ちゃんが寝てるわけにも行かないでしょ?」

 

涙を流しながら胸を張るアリシア。

アリシアは母さんをずっと一人で待ってたんだ。

私みたいに待ってる友達も、アリシアにとってはまだいない。

 

…強いな、お姉ちゃんは。

 

「…分かった、待ってるから。絶対待ってるから。」

「うん…それじゃあまた…」

 

光になって解けていくアリシアの姿。

 

…約束を嘘にしないためにも、私もこの夢から覚めないと。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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