なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十七話・夢の中で~『幻想』

 

 

 

第十七話・夢の中で~『幻想』

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

見た事もない程発展した世界の中、小さなドーム場の家の中にいた。

 

えっと…確か俺はリライヴの手を掴んで一緒に光になって…

 

「あら、速人君いらっしゃい。いつも娘が世話になってるわね。」

「へっ?あ、はい…」

 

と、いきなり知らないお姉さんに話しかけられ訳も分からず身構えて…

 

「悪夢がでしゃばるな!!!」

 

怒声が聞こえて来た瞬間お姉さんの上半身が消し飛んだ。

かなり生々しいスプラッターだなオイ…

 

今の声は…リライヴ?

 

「お、おいおい!いくらなんでもこれはいきなり過ぎないか?ここがお前の記憶とかだったらどうすんだよ?破壊はまずいだろ。」

「それはない、私にはあんな奴の笑顔なんか記憶にない。」

 

吐き捨てるように言うリライヴ。うっわぁこりゃ相当怒ってるなぁ…

 

「それにしたって落ち着けって。なんか見て欲しくない物があるなら見ないから。」

「…君なら…別にいい。」

 

少し寂しそうに言うとリライヴは腰を下ろす。

何かあるとは思ってたが…夢とは言え出会い頭に母親ぶっ飛ばす程とは…

 

「取りあえずどうする?」

 

疲れたように手を上げるリライヴ。

どうする…か、普通ならとっとと脱出方法考える所だが…

 

「今取り込まれてんだよな?だったらはやてを探したい。」

「はやてを?何でまた。」

 

そう言えばリライヴは管制人格とかに付いて知らないんだっけ?いや、シグナム達から聞いてるかも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく…全部話せって言うのに…」

 

話して見れば早いって事で手っ取り早く聞いてみたが、全く知らなかった。

シグナム達じゃしょうがないか、あくまでも主が一番で脅されてただけみたいなもんだしな。

 

「そうなると早くイノセントを見つけないと。さすがに技師は本職じゃないからはやての意識にアクセスするならデバイスがいる。」

「アレ?デバイスなくしたのか?」

『私はいますが?』

 

俺は起動中のナギハを見せる。合わせて声を掛けてくれるナギハ。

リライヴは数瞬硬直した後、少し困ったように辺りを見回した。

 

「…あの女が成長してる私を娘と呼んだ以上、この世界に来た『登場人物』はこの世界には居ないはず。」

「つまりこの世界のどっかにイノセントがある訳だな。」

 

なら話が早い。そう思った俺に対してリライヴは苦笑しながら立ち上がり、扉らしき場所へ向かう。

扉脇にあるボタンを押したリライヴ。すると、扉が消失するように開く。

リライヴは静かに外を指す。

 

軽く嫌な予感を感じつつ顔を出して見ると…

 

空中に張り巡らされた幾つもの半透明なホールの中を車が飛び交って居た。

見上げれば城のような物が浮いて居て、見下ろせば遥か遠くに地面が見える。

 

 

 

 

SFもビックリな超科学世界だなおい。

 

この中から…デバイス一個を探す?

 

「リライヴ…もうちょっと何とかならなかったのか?」

「私に言わないでよ…」

 

道理で何か滅入ってるとは思ったんだが…

これは面倒だなぁ。

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

 

「あ…くうっ…」

 

地上に向かって吹き飛ばされた私の回りから蔓のようなものが幾つも伸びて来て、私の全身に絡み付いた。

まるで身体を引き千切ろうとしているみたいなそれは、どうやっても外せそうになかった。

それだけなら何とか耐えられたんだけど…

 

「ブラッディダガー…」

 

静かに呟いた闇の書さんから幾つも赤いクナイが飛んで来る。

 

防げない。それがわかると同時に私を縛る蔓が切れた。

 

 

『フラッシュムーブ。』

 

 

高速移動魔法で離脱する。ある程度の距離で止まった私が見たのは、自分が元いた位置を包む爆煙だった。

 

さすがに直撃はまずかったし、どうにかなってよかった。

 

 

 

「ありがとうございますフレアさん。」

「いや、遅くなって済まない。」

 

 

 

私の横には、フレアさんがいた。

私が捕まっていた蔓を斬ってくれたみたい。

フレアさんがシューティングスターで受けた怪我は綺麗に治っている。

ユーノ君はすずかちゃんとアリサちゃんの避難をさせたりしてたから時間がかかったんだろう。

 

「現状は?」

 

真剣に聞いて来るフレアさん。

主にお兄ちゃんのせいでかなり情けない状況だけに説明するのが嫌だったけど、そうも言っていられないので素直に答える。

 

話を聞いたフレアさんは目を閉じて頭を抑えた。

 

「あの馬鹿…」

 

普段表情をあまり変えないフレアさんが何かに疲れたような表情を浮かべている。

本当何やってるのかお兄ちゃんは…

 

「奴等の事だ、無事ならば放っておいてもどうにかするだろうが…長い時間放っておける余裕もない。」

『方法はあります。』

 

と…手を考えているとレイジングハートから声を掛けられる。

 

『エクセリオンモードを起動して下さい。』

「えっ!?だ、ダメだよ!!あれはフレーム強化するまで使ったら」

 

止めようとした私の目の前に、遮るようにフレアさんの手が差し出された。

 

フルドライブ。フェイトちゃんのソニックフォームと同じだけど、レイジングハートの場合私の戦闘スタイルのせいもあって今の強度で使ったら壊れる可能性があるってエイミィさんに止められている。

 

「完全破壊でなければ修復は可能だ、だがお前達まで戦闘不能になれば生け捕りなどと言ってはいられないが?」

『ではそれ以外の作戦案を提示して下さい。』

「あ…」

 

そこまで言われてようやく気付く。

 

 

手なんてないんだ。リライヴちゃんまで来て捌かれた相手に二人でどうにかなる都合のいい方法がある筈がない。

 

 

レイジングハートが全てをかけてくれるなら、私の全てで答えるだけ。

 

 

「レイジングハート・エクセリオンモード!ドライブ!!」

『イグニッション。』

 

杖の形から少し変わって大きな槍のような先端になる。

 

 

「お前は下がれ、私が前に」

「広域型の闇の書さんに遠距離戦は勝てません!零距離最大出力砲撃かスターライトブレイカーで決めます!!」

 

言い切った私を暫く見たフレアさんは、静かに闇の書さんに視線を移し…

 

「味方を巻き込むなよ。」

 

それだけ言って飛んで行った。

…なんだか最近皆に怖い子扱いされてる気がするけど、挫けないで頑張ろう。うん。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「さて…何言ってもこの世界からデバイス一個探し出すしかない訳だが…心当たりは?」

 

世界の事を知って居るリライヴ本人に聞くしかない。だが、当のリライヴは首を横に振った。

 

「そもそも今この夢の中にないんだ、だってまだ管理局来てないし。」

「へ?管理外世界?」

 

言われて辺りを見回して見れば何処を見ても魔法陣がない。魔力も感じないから誰一人魔法を使っていないんだろう。

アレ?じゃああの浮いてる城は?

 

「城や車は反重力装置で浮いてる。」

「うわぁ超科学!?」

 

本局ですら見た事ない技術をサラリと上げるリライヴ。

…恐ろしいなおい。

 

「…ある筈のないものを展開している以上私の意識が関わってるんだと思う。」

「夢って事か?んじゃ起きればいいんじゃないのか?」

「簡単に言わないで。こうやって普通に話してるのに寝てるんだからどうやって起きればいいのよ。」

 

言われて思う。確かにさっきの怒り様で起きられないんだから自力で起きるのはキツいだろうな。

打開策を考えていると、リライヴは何かを諦めたように頭を振った。

 

「…私がイノセントと出会う所を夢に映して見る。」

「出来るのか?」

「深く瞑想すれば多分…映してるのは心情風景だし。じゃなかったら上半身吹き飛んだ遺体があって誰も来ないなんてありえない。」

 

お前がやったんだろうが。

内心でそう思いつつも言うのはためらわれた。

尋常じゃないくらいの過敏反応。しかも、あの母親の笑顔を思い出す限りでは幸せな夢の中にいる筈なのに…

 

「そうなるとお前の過去を覗く事になるんだが…」

「そうだね、しかも上手くタイミングを合わせられるかわからないからいくつも見る事になるかも。」

「いいのか?」

 

絶対ろくな事じゃない昔話をこんな形で見ていいのか疑問に思う。

が、リライヴは溜息を吐いた後、凄く空恐ろしい笑顔で俺を見た。

 

「そうしなかったらこの中からデバイス一個探す事になるんだけど、もちろん私の心配してくれた優しいヒーローさんは一人で全部見て来てくれるよね?」

 

…あ、なるほど…この中を一人で…

 

俺は空から地面まで立体的に広がる町並みを見回して頬を張る。

 

「わかった!やってやる!!」

「え?」

『さすがマスター、万人の予想を素で軽く上回りますね。』

 

そうと決まれば時間が惜しい。身体強化全開で―

 

「ちょっ…ちょっと待って!冗談だから!待ってってば!!待て馬鹿ぁっ!!!」

 

駆け出した俺はバインドで拘束されて頭をグーで叩かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはといい速人といい、どうしてこうも予想の斜め上を突っ走るのかな…」

「戦闘中は便利だぜ?」

 

呆れた様に呟くリライヴに自信満々に答えを返す。

リライヴは俺を真っ直ぐに見ると、悲しげな笑みを浮かべた。

 

「…君になら…いい。」

「へ?」

「君になら過去を見せてもいい。」

 

リライヴはそう言って頷く。

…相当覚悟がいる過去なんだな。

 

「うし、それじゃ頑張って行って来い。」

「気持ち良く送り出してくれるね全く。」

 

リライヴはそう言って座り込むと、瞑想をするように目を閉じた。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

…何の冗談かと思った。

 

なのはちゃんとフェイトちゃんが笑いながら動かなくなったザフィーラとヴィータを見てて、病気が治らないって私を笑う。

 

そんな事はもう分かってた。とっくの昔に諦めてた。

けど、時々いなくなってた皆が実は私の為に頑張ってた事を知って、それを無駄って言い切った二人が悲しくて、残ってたヴィータとザフィーラが消えた時…

 

 

こんなの…出来が悪い夢だと本気でそう思った。

 

 

そして今…何か暖かい闇の中でまどろんでいる。

 

 

 

あー…意識が重たくてなんにも考えられん…

 

 

鈍い頭でどうにか思考を巡らせようとしているうちになんだか寝てしまってもいいような気がして…

 

 

幸せそうな景色が見えた。

 

 

一つはフェイトちゃん。家族に囲まれて楽しそうに食事している。

もう一つはリライヴちゃん。お母さんに起こされて…

 

 

 

起こしたお母さんの身体を消し飛ばした。

 

 

 

……………え?

 

「主…ゆっくりとお休みください…幸せな夢の中で、心静かに…」

 

声をかけられてまた意識が沈んでいく。

頭が重くて何にも考えられないけど…一つだけ分かる事がある。

 

 

 

…コレ…幸せや無いやろ絶対…

 

 

 

そうは思ったもののまた抵抗できずに意識が落ちて…

 

 

 

夢の続きが始まった。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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